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37 復興への費用


 宴会の翌日。女性や子供は焼け残った集会所で雑魚寝をして夜を過ごしたけれど、男達はずっと外で飲んでいた様だ。夏だから問題ないとばかりに、広場でゴロゴロしていた。


 今日からビレスト村では復興に向けての仕事が始まる。作業台が修繕にしか使えないから、薪や素材集めがメインになるんだろう。

 俺たちはどうするかな。村の作業台を借りて家を作るつもりだったのに、当てが外れてしまった。このまま村を手伝うか、拠点に戻って地道に家作りに励むか。悩み所だな。


「イソカが望むようにするのが一番ですよ」

「私は美味しいパンが食べられれば何でも良いわ」


 仲間の2人に相談してみたら、こんな答えだった。因みに、今日も『美味しいパン』は交易ボックスに並んでいた。このままレギュラーメニューになると嬉しいな。

 2人とも俺の決断に沿ってくれるみたいだから、お言葉に甘えようかね。


 今一番欲しいのは家だ。雨風を凌げて、ゆっくり休める家が欲しい。そして、その家を入手するのに、手っ取り早い案が1つある。

 村で焼け残った家を修繕して、そこに住まわせてもらう事だ。俺達は村を救った英雄だし何かと役立つ能力もあるから、頼めば家の1軒くらいはくれるんじゃないかな? って思う。


 でも、それはしたくない。だって、折角のスローライフゲームなんだから、中古物件とかじゃなくて、自分で手に入れたいよね。

 かといって、今の状態でビレスト村を去るのもなんだか忍びないから、ある程度の所までは復興の手伝いをしようと思う。もし、俺達の拠点がのっぴきならない状況になった時に、助けてくれたら嬉しいなって打算も込みだ。情けは人の為ならず、だね。


「そうですね。困っている人達の為に何かするのは良い事だと思います」

「うん、マイホームが遠のくけど、良いよな?」

「はい! かまいません。地道にゆきましょう!」


 今後の方針を話すと、クロ―シアは喜んでくれた。彼女自身もそうしたかったんだろう。それが俺と一緒で嬉しいみたいだ。エルフ耳がピョコピョコ動いて、肩とお尻をズンズン揺らして喜んでいる。

 その姿が可愛らしいから、俺も一緒にズンズンお尻を揺らして躍った。するとそれを見た村の子供達が集まって、皆でヘンテコな踊りを披露する場になってしまった。皆が笑顔だ。子供達の笑顔は良いね。プライスレスだ。

 って、いつまでも遊んでいる場合じゃ無いや。


 俺たちの方針が決まったので、その旨を村長に話す事にした。


「……よろしいのですか? これ以上のご厚意に甘えるのは何だか申し訳なく思いますじゃ」

「まあ、気にすんなよ。こういう時は助け合いだからさ。もし、俺達が困った事になったら、その時は頼りにするよ」

「いやはや、敵いませんな。その様な事態にワシ等の出番があるかどうかわかりませんが、このご恩には必ずお応えする事を誓いますじゃ」

「相変わらず固いね。もっと簡単に考えて良いよ。それじゃ、ぐずぐずしてたら日が暮れるし、さっそく始めようか」


 昨日確認した倉庫の修繕だけで、薪が7千束必要になる。これは先日の防火帯を作った際に確保した薪の残りで一気に賄う事ができた。


 壊れた作業台に手を添えメニューを開く。『修繕』のアイコンをタップして、薪を納める。作業開始の確認が出たので、そのボタンをタップした。

 村長やファルゴといった村の代表者が見守る中で様子をみると、ピカッと強い光が一面を覆った。その後は何やら虹色に煌く光が倉庫を包む。その煌きは暫くするとスーっと治まった。


「あれ? 終わり?」

「う~ん、やっぱり壊れてしまった作業台で修繕は無理だったんでしょうか?」

「いや、まだだぜ。イソカさんもクロ―シアさんも見ててくれよ」


 ファルゴの言う通り、まだ終わっていなかった。煌きが治まったら、倉庫の残った壁や柱が淡く光る。するとまるで映像を逆再生しているかの様に、倉庫が元の姿へと戻っていった。にゅーっと生えてくる壁だの屋根だのは、珍妙だけれど感動的でもあった。まるで雪の結晶が出来る様子を眺めた様な、そんな神秘性もある。


「うおぉ。一気に直ったな。なんか奇跡を見た気がする」

「そうですね。とても綺麗でした」

「だろ? こんなのは見る機会が無いに越した事は無いんだけどよ、やっぱり感動するよな」


 どうやらファルゴは以前に作業台による修繕を見た事があるらしい。

 倉庫は以前の状態を取り戻した様で、まるで新築同様だった。けれど、その収納物までは修繕されるわけではない。綺麗な倉庫の中に灰だの消し炭だのが散乱している。


「掃除は他が落ち着いてからで良いじゃろう。早速、集会所の修繕に取り掛かるとするかの」

「あ、村長。ちょっと考えが有るんだけどさ――」


 俺は『泉の箱』の修理機能で、壊れた作業台を直せるかも? って事を村長に伝える。


「なんと! その様な事までできるのですか! イソカ殿には驚かされてばかりですじゃ」

「それで、どうする? ひょっとしたら直るかもしれないし、試してみるか?」

「……有り難い申し出ですが、ここは慎重を期したい所ですじゃ。まずは全ての建物の修繕を済ませてから、是非とも試させて頂きたく思いますじゃ」


 泉の箱は低い確率で良いものに変わる。けれど、その結果で必要な機能が無くなってしまう事も有りうる。例えば、超すごい作業台になって、未来建物は作れるけれどコストがバカ高かったり、簡素な家が作れなくなったりとか。

 それを考えると、まずは安全策をとってからって事は理にかなってるかな。村長は村全体の事を考えないとならないから、大変だね。


 壊れた作業台を慎重に運び出し、集会所の中に設置する。そしてメニューを開き修繕に必要なコストを確認した。


 そのコスト、薪30万束。杉6万本分だ。


 これはハードだね。薪以外でも修繕材料になるのだけれど、それは作業台で加工する事が前提になっている物ばかりだ。今は薪のみで物納するしか無い。この事実に、村人達がおののいている。

 それもそうだろう。村の木こりであるファルゴとベルジは、昨日と一昨日の動きを見るに伐採系のスキルを習得していない。そうなると、2人で1日千束を確保するのがやっとだ。以前の俺も日中には水薬2本分の300束を得るのが関の山で、夜まで残業をしてゆとりを作っていたから、この見立てはあながち的外れじゃ無いと思う。


 そこから更に消耗品や食料品も交易したら、いつまでたっても集会所の修繕に回せない。下手に時間が過ぎると集会所が自壊してしまい、修繕不可能なんて事までありそうだ。


「お、おい、薪30万とか……。や、やりがいがあるぜ……」

「ファルゴさん、30万っすよ? こりゃ無理だよ」

「うるせぇ! 良いか、ベルジ。無理かな? じゃねぇんだ。やるんだよ」

「そうね、ここで私の出番って訳ね!」

「「イルメスさん!?」」


 そう、イルメスが丸太で立木をなぎ倒せば大幅なスピードアップが見込める。1日4千本位なら無理なくなぎ倒せるだろう。そうすれば15日で目標に届く。その間に当然俺も伐採をするから、もう少し速く終わるだろう。

 イルメスがメインで木を倒し、村の木こり2人がそれを薪にする。クロ―シアは泉の箱に薪を回収しつつ、周囲の索敵。そして、俺がサブで伐採って感じが安定したメンバーになるだろう。


 そうなると、残りの村人達はどうするか?

 訊くと今まで村人達の仕事といったら、森での簡単な採集で木の実なんかを交易していた程度とか。それでよく今まで生活できていたなと思う。この辺はゲーム的な何かがあるんだろうね。

 なので、ここはサンダル作りを覚えてもらって、生活の足しにしてもらおうと思う。今の状況だと、薪の1束も無駄にできないから、最低限の自分の食い扶持は稼いでもらいたい。更に斧の補充分まで賄ってくれるようになれば、より復興作業が捗るね。


 サンダルの作り方は夜にでも教えるとして、その材料確保は日中に終らせておきたい。だから、村人達には蔦を集めてもらう事になった。

 こうして、伐採チームと蔦採取チームに別れて復興作業は開始された。





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