35 焼け落ちた村の現状把握
フレイムアヴィを討伐した俺達。クロ―シアの索敵では他に敵を感知しなかったから、警戒を解いて休憩を取る事にした。
ごくごくと水を飲みながら、今の内に討伐結果を確認する。
まず、フレイムアヴィを討伐した実績Pは30Pだった。大森スライムの3倍なので、かなりの高得点だ。
けれどボスキャラでは無かった様で、そちらの方の実績に変化は無かった。序盤のイベント強キャラが中盤のザコとかよくある話だよね。あれがザコ敵で出て来るとか、なかなかハードだと思う。
次に、イルメスから受け取った、強奪アイテム。
『フレイムアヴィのレオタード』
決して燃えない炎精霊の戦闘服。丈夫が取柄のシンプルなレオタード。これ自身が熱を発したりはしていないので、男女問わず誰でも装備できる。
かなり優秀な物だ。そのまま着ても有効そうだし、加工して新しい装備にしても良さそうだ。今回の戦いでイルメスに耐火性能が無いって判明したし、火傷注意のクロ―シアにもと、防御力の向上が見込める。
……男女問わず装備できるってのは、反応したら負けなのかもしれない。
まあ、このレオタードが10枚手に入った。
そして、更に重要な事。今回の戦闘でユニークスキルを獲得していた。
『心頭滅却』
火もまた涼し。千の命を落とす高熱を受けた事により獲得した、決して焼けぬ身体。精神力が続く限り体力も回復する。
大火炎弾を身体で受け止めた時に起こったおかしな事象はこれが原因だった様だ。
着弾によるダメージはあったけど、精神力を消費して体力を回復。そして、装備の効果で熱に強い俺は、地獄の業火を耐えきって、心頭滅却のスキルを獲得したのだ。
決して焼けぬ身体とあるから、これでもしまたフレイムアヴィと戦う事があっても、カウンターを警戒せずに近接戦闘ができるって事だ。今度はもっと上手く戦えるだろう。
ってか、大火炎弾は千人を焼き殺す程の熱量を持っていたのね。建物や村人に当たらなくて本当に良かったよ。
休憩して人心地ついた所で、改めて焼け残った建物を確認する事にした。
「結局、焼け残った建物が4棟で、そのどれもが酷い状況だな」
「そうですね。一番大きな建物なら雨風は凌げそうですけど、他はとても……」
クロ―シアの耳がしゅなんと下がる。俺達にしてみれば思い入れのない場所だけれど、衰退した、荒れた場所を見るというのは精神的にくるものがある。
俺達ですらそうなのだから、村人達は気落ちする様は、心中察して余りある。言葉にならない表情だ。
「……俺の爺さん達はここに入植して1から村を興したんだ。俺が木を切る。だから皆でまた1からやり直そうぜ」
木こりのファルゴが力強く言う。拳は震える程強く握り締めていた。
「……ああ、そうだ。ここでやらなきゃ、先祖に会わせる顔がねぇな」
「ファルゴの言う通りだ。やろうぜ、皆!」
「「「おう!」」」
男達は声を上げて気持ちを切り替えたみたいだ。開拓民はタフだな。
気持ちを新たにした皆は、建物の確認をする。
残っているのは4棟。一番大きな物は2階建ての木造校舎の様な造りだ。これには俺達が到着する前にフレイムアヴィの火炎弾を受けたのか、半分近くが燃え、所々に穴もある。
けれど、それが一番マシな物で、他の3棟は辛うじて壁が残っていたり、雨が凌げる屋根が残っているだけだったりといった酷い有様だ。
「食糧庫もやられちまったな」
「倉庫の中も酷いもんだ」
「集会所が残っただけでも、幸運かもしれねぇな」
村人達は淡々と現状を確認してゆく。
一番大きな建物が集会所で、入植してきた当初に建てられた物だとか。村が大きくなるにつれて、個々人の家を持つ様になったが、昔は集合住宅として村人全員が住んでいたのだとか。その広さは結構な物で、100人近くは住めるんじゃないだろうか。
他に残っているのが、元倉庫と元民家らしい。焦げたり煤けたりしているから、外見では何の建物かよく分からなかった。
「おーい、ファルゴ。作業台があったぞ。確認してくれ」
焼け残った倉庫の中に1台だけ作業台を見つけた様だ。俺も見に行く。
「……こいつはひでぇな。焼けて割れちまってる」
作業台の足は炭化し、天板は大きくヒビが入って割れていた。他の元作業台は完全に炭になっていたり、半分灰になっていたりと形をなしていない。だから、残った作業台は、これでもマシな状態だった。
「こんな状態でも使えるのか?」
「そいつは分からねぇな。ちょっと確認してみるぜ」
そう言うとファルゴは作業台にそっと手を添えて俯き加減になる。暫くすると顔を上げるも、伏し目がちになり首を左右に振った。
「……ダメだ。建物の修繕は機能しそうだが、新築はできそうにない」
なんと。それは困る。この後、作業台を借りて拠点づくりを計画していたのに。
「俺が触って確認しても良いか?」
「ああ、イソカさんなら嫌は無ぇよ。どうぞ」
ファルゴが触っていたのを真似て、俺も作業台に手を添えた。
すると、アイテムインベントリを開いた時みたく、視界いっぱいにクラフトメニューが広がる。
その中には『加工』『建築』『修繕』『撤去』等のアイコンがあるけれど、修繕しか反応しない。
その修繕をタップしてみると、倉庫の見取り図みたいな物が現れる。そこに修繕に必要な資材の一覧表も現れた。
多くは木材から加工しないと手に入らない物ばかりみたいだ。けれど救済措置なのか、薪だけでも修繕できる様だ。その場合は当然高い。この倉庫の場合は7千束だ。
「修繕だけはできるみたいだな。作業台は持ち運びができるんだよね? 他の建物に持って行っても機能するか試してみるか」
「ま、待ってくれイソカさん。今でもボロボロなんだ。下手に動かして壊れちまったら目もあてられねぇ。取りあえずは倉庫の修繕を優先して、その後どうするかは村長と話させてもらえねぇか?」
それもそうだ。急いては事を仕損じるってなったらダメだね。作業台はそのまま安置させておくとして、他の確認に移る。
元倉庫や元民家の中には他に目ぼしい物は残っていなかった。けれど、集会所はそれらに比べたら損傷が軽かったから、中の物も無事な物が多い。
村人達が新居に移動する際に置いて行った寝具や生活道具が沢山あった。
そして一番の朗報は、交易ボックスが無事に残っていた事だ。これで食料の心配がなくなる。
「イソカ殿があの巨大な火炎弾を身体を張って止めてくれなければ、交易ボックスは失われていたのであります。心から感謝を。ええ、心から……」
「たまたまなんだけどな」
「結果が大事なのであります! 私は望んだ結果を得られませんでした。けれどイソカ殿は、意図せずにも村の生活を守ってくれたのです。これで村の再建の目途がたつのでありますから……」
「俺の拠点から食料を運ぶってのも手間だもんな。それなら移住した方が良いって事にもなりそうだし。これだけでも無事で良かったよ」
寝起きするには充分なスペースがあって、食料確保の手段が確立されたら生活もできるだろう。村人たちの暮らしが、今すぐひっ迫する様な事態にならなくて良かったよ。
俺とウィンディがこんな話しをしていたら、何やら交易ボックスを覗いていた周りが騒がしくなった。
「イソカ! ちょっと見てみなさい!」
「新商品が並んでいるんですよ!」
イルメスとクロ―シアがはしゃいでいる。さて、何が並んでいるのだろうか? 覗いてみるとそこには
『美味しいパン:5束』
『ほわほわ水:3束』
『ポカポカ水:2束』
『ヒンヤリ水:2束』
食料品が増えていた。割合にお手頃価格だ。
「このパンは『美味しい』とあるわ! 今すぐ食べるべしと天啓が下った所よ! さあ、交易なさいな!」
「もう、イルメスはがっつき過ぎです。でも、美味しいパンだなんて、どんな味がするんでしょうね? 数も沢山並んでいるから、皆で食べましょう!」
「そうだな。折角だし、他の村人達も一緒に打ち上げするか」
俺達で勝手に話しを進めちゃったけど、ファルゴやウィンディ達も『是非やるべきだ』ってのってきた。村が壊滅的になってしまったから、空元気でも元気を出したいんだろうな。その気持ちは何となくだけれどわかる。
村の状態を確認した俺たちは、避難場所へと一旦戻る。そこで村長に状況を説明し、宴会を開く事を提案した。
「その様な強大なモンスターがおったとは……。討伐して下さり、痛み入ります。この度の災害は、皆の心に影を落とす物になるのは不本意ですじゃ。確かな明日を見据える為にも、村の中で行いましょう」
村長は焼け落ちた村の中で宴会を開くのを望んだ。それはテンションを下げちゃわないの? って思ったけれど、今のタイミングで目を反らしてしまうと次の1歩が踏み出せずらくなるとかで、あえて焼け野原でする意味があるらしい。
つくづく開拓民はタフだなと思う。
そうと決まったので、皆で村へ移動し宴会だ。
その為の資金は昨日防火帯を作った時に出た薪で賄う事にする。大量の薪があったけど、泉の箱に収納すれば手軽に運ぶ事ができた。
物資があり、食い物があり、人々の気力がある。そうなれば、後は騒ぐだけだ。俺たちは、生きている悦びを思う存分謳歌する事にした。




