30 消火活動
太陽が登り切っていない朝。俺たちはウィンディの村、ビレスト村へと向かって拠点から出発した。まずは泉へ向かい、そこからひたすら西へと進む。途中目印代わりに西方向へ向けて何本も木を伐採した。薪にはしない。その度に足を止める事になるけど、もし死に戻りをしてしまった場合に、迷わず村へ行けるようにする道しるべだ。
緊張感からか、一行の口数は少ない。あのイルメスだって大人しい。パンを食べる量もひどく少ない。
「だってこの後、炎の中に行くんでしょ? なら、回復手段は取っておかなきゃ」
「そうだな。頼りにしてるぜイルメス」
「そうね! どんどん頼ると良いわ。だからもっとパンを頂戴な」
ひょっとしたらこれが生命線になるかもしれないから、俺はイルメスに持ってきたパンの大半を渡した。
各々ができる事を頭で整理して、現地でどう行動したら良いのかを考える。その中で不確定なのはウィンディの能力だった。
「ウィンディさんは魔法が使えるって言ってたけど、それってどんな物なんだ?」
「私が使えるは風の魔法であります。それゆえ状況次第では、かえって煽ってしまって火勢が強くなるかと……」
期待はしていなかったけど、やっぱり魔法はあてにならないか。移動しながら声をかける俺に、しょんぼりしながら彼女は答える。
一晩経って身なりが再び整ったウィンディは良い所のお嬢さんって感じだ。ちょっと変なしゃべり方をするけど。
身長は155センチ位だと思う。体つきはほっそりしてるけど、胸はささやかながらに自己主張をして、黒いローブを盛り上げている。おそらく手にすっぽりと収まる揉みやすい大きさだろう。尻も何とも撫でやすい様な隆起があった。黒いローブっていうのが、余計にシルエットを強調しているもかもしれない。派手な体型では無いのに、何故だかエロく感じてしまう。男って悲しい性だね。
髪は顎にかかるくらいのおかっぱで、色は瞳と同じ明るく紅みのある茶色だ。何年か前に飲んだ記憶のある、美味しい紅茶の色に似ていた。
そんな彼女が伏し目がちになると、何とも嗜虐心をそそられてしまう。ただ、悲しい気持ちでそうさせるのもアレだから、ビレスト村は無事でいて欲しい。
時間は15時。そろそろ夕刻が始まろうとする頃に、夕焼けとは違う赤さが空を染めていた。それはまるで空が燃えている様だった。
▽▼▽
「こちらに少し開けた場所が。ともすれば村の皆は避難している可能性があります」
「それじゃ、一旦そっちをまわるか。避難がまだなら、拠点として整理する必要がありそうだしな」
流石に熱気が襲ってくる様な事は無いけど、風に運ばれる煙や樹脂が燃えた臭いが、嫌でも緊張感を高める。軽い気持ちのつもりは無かったけど、かなりの大事だぞ。
その開けた場所に到着すると、沢山の人が着の身着のままといった様子で集まっていた。
「村長! 皆! 助けになってくれる人達がおこしくださったのであります!」
集団を見ると、ウィンディが偉い感じの老人に駆け寄った。
「おお! ウィンディ! 無事だったか。それで、水の力とやらはどうじゃった?」
「村長。それが、伝承は誤りでありました……」
「何と! それではワシらは村を捨てるしかないのか……」
「けれど、水も大量に運んでくださいました。これで火が消せるかもしれません」
「して、その水はどこじゃ?」
そんなやり取りを横目で見つつ、リュックの中から泉の箱を取り出していた。水入りスライム革袋はイルメスにしか持てないので、彼女に取り出してもらう。
「これと同じのが、全部で34個有るわよ」
「それは有り難い。しかし、火の勢いは強い。まだここいら一帯で留まっておるが、それでもそれらの水が10倍があっても消しきれんじゃんろう」
そうか。まあ、全部を消すってのは無理だよな。となると、延焼を食い止めるって方向のが良さそうだ。プランBの防火帯作戦を検討しよう。
「村長さん、火の範囲はどれ位なんだ?」
「南北に凡そ3kmといった所じゃ。西は2km程じゃろうか。ついさっき村にまで火が着いた」
「西が狭い理由は分かるか? あと、ここから村までの距離は?」
「西は大きな川がある。そちらへの火は川を越せないじゃろう。ここから村までは1km程じゃ。ワシらは一旦ここへ集まり、東へ行くか迂回して川を渡るか話し合っていた所なのじゃが……」
つまり西から、川→火事→村→避難場所って感じか。防火帯を作るのに、イルメスと分担すれば何とかなるって感じだな。
「俺たちはこれから延焼を食い止める。ビレスト村の人達がどう避難するかは口を出さないが、良かったら協力してくれ」
ここで俺は防火帯をつくる案を村長始め村人に聞かせた。燃える物があるから火事になる。だったらその前に木を切り倒してしまえば良い。イルメスなら、丸太で立木をがんがんなぎ倒せる。そして、その倒した木の処理を村人にしてもらいたい。村人には倒した木を薪にしてもらって、それを運んでもらいたいのだ。倒木を放置してそっちが燃えちゃったら本末転倒だからね。
「協力したいのはやまやまじゃが、要の木こりが2人とも酷い火傷で身動きが取れん。休ませてやって見守る事しかできんのが歯がゆいのう……」
おお、ゲーム的展開でなんか感動だ。いや状況は甘く無いんだから、気を引き締めないとだな。
「分かった。木こりの治療をしてやるから、治ったら手助けを頼むよ」
そうして俺はイルメスに立木のなぎ倒しを頼んで、クロ―シアをその監督にした。クロ―シアが居れば方向を見失う事が無いから、適切な指示をしてくれると思う。
「ここから北西方向に川を目指して防火帯を作ります。それで良いですか? イソカ?」
「ああ、イルメスが変な方向に暴走しない様にサポートを頼む。それと、クロ―シアは火に近づかない様に注意してくれよ」
彼女には念のためスライム革を水に浸して作った簡単なポンチョを着せる。これで多少火の粉がかかった所で火傷にはならないはずだ。
彼女達を送り出すと、俺は木こりの治療にうつる。2人とも酷い火傷だ。皮がベロンとめくれてしまっている。俺が考えた事と同様に、なるべく村に火が入らない様にと、ギリギリまで周囲の伐採して延焼を食い止めようと活動していたらしい。
火傷の状態異常を治すには、水をかけて1晩寝れば回復する。けれど、今はその時間が惜しい。幸か不幸か俺はクロ―シアの治療で別の方法を編み出した。たぶん2人の火傷も大丈夫なはずだ。
周りの女性たちに2人の服を脱がしてもらおう。しかし、それは拒否された。
「そんな事したら、余計に皮膚がダメになっちまうだろ!?」
「直接手で触れる必要があるんだ。見てろ!」
確かに実際の火傷だと、無闇に服を脱がさないでそのまま冷やした方が良い場合がある。けど、今回は別だ。論より証拠と、顔や腕の露出している部分に水をかけてから手をあてると、徐々に皮膚が健康で綺麗な状態に戻る。癒し手の効果はマジ水薬並だ!
「分かってくれた? 治すのに直接手で触れる必要があるんだ」
「……あ、ああ、分かったよ! ウチの旦那を宜しくお願いします。ほら! あんた達も手伝って!」
どうやらこの女性はどちらかの嫁さんだったらしい。周りの女性の手もかりて、全裸にしてもらう。おっちゃんの裸体を触るのは何ともモヤモヤするが、これは治療行為だから、余計な考えをしちゃいけない。
集中力を高めてじっくりと手を動かす。全身くまなく行うと、木こりのおっちゃんは目が覚めた。
「……痛みが無いぞ? 朝になったのか? 火は?」
「起きた所に直ぐで悪いんだけど、防火帯を作るのに協力して欲しい。詳しくは村長に聞いてくれ。それと、斧はあるか?」
「……どうして治ったか分からねえけど、あんちゃんがしてくれたんだな。だったら協力するよ。斧は木こりの生命線だ、持てるだけ持って来ているさ」
おっちゃんを送り出して、もう1人の治療にもとりかかる。こちらは20代くらいの男だ。
手をあてている最中に周りの人から話を訊くと、村人も木こりでないと木を切れないそうだ。クロ―シア達にやらせてみた時と同じで、普通の村人が斧をふるうと上手くいかないのだとか。そういった情報も仕入れつつ、もうの1人も問題無く治療できた。
遠くではドコン! ドカン! メキメキバキリと音がする。あっちも順調に進んでいるみたいだ。木こりじゃないイルメスが木をなぎ倒した分の実績Pは俺に入って来る。さっきからガンガンと実績Pが増えていた。
このPを使って、俺は南西方向へ防火帯を作りに向かう。伐採した木がリポップしない様にする設定は、立木に対しても有効だ。また立木の状態で行うと、立木自体を消去する効果もあった。勿体ない気がするけれど、森全体が焼失してしまったら今後の森ライフがままならなくなる。そうなったら元も子もない。
防火帯を作る作業は夜半まで続いた。土地勘のある村の人達に先導してもらって、やっと川まで伸ばす事ができた。おそらくだけれど、4kmに及ぶ距離だったと思う。クロ―シアとイルメスも作業を終えて、避難所と川を結んで三角形を作った感じだ。
凄く疲れた。防火帯ができた後は、要所でスライム水筒を設置して、もしもの時の消火槽にする。
この後はもし延焼した場合に備えてビレスト村の人達に巡回をお願いした。大人が50人以上居るのだから、うまい具合にローテーションを組めるだろう。
今日はもう何もしたくない。イルメスは大の字になってイビキをかいている。ほんと美女が台無しだ。けど、それが彼女らしくて良いと思う。今回はかなりイルメスには負担をかけた。もうちょっと1日のパンの配給数を増やしてやっても良い位だ。
俺はクロ―シアと寝袋を1繋ぎにして、それに包まりながら体をさすって日課の治療をしていた。日中はできなかったから、念入りにだ。
「イソカ。有難う。そして、お疲れ様」
「クロ―シアもお疲れ。火傷をしなくてよかったよ」
「私が怪我をするとイソカに負担をかけてしまいますからね。気を付けました」
「負担は気にしなくて良いよ。でも、これからも気を付けるのは忘れないでね?」
「はい。そうします……」
流石に寝袋の中と言っても、彼女をこの場で裸にするのは憚られたから、着衣のままで素肌を弄る様に癒し手を這わせた。クロ―シアの肌に触れていると安心する。ずっとこうしていたい。治療は終わっているけど、それでも気持ちが赴くままに、俺はクロ―シアの体を触れていた。彼女はそんな俺の頭を撫でて受け入れてくれる。
そのままゆったりと俺たちは眠りに落ちていった。




