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28 スキルの確認


「ちょ、ちょっと!? ほら、ここよ! イソカもクロ―シアもわかるでしょ!?」


 そう言うイルメスは依然と自身の左下辺りに手を這わせ、わさわさしている。何だって言うんだ?


「イルメス、落ち着いて下さい。どんな形の物が見えますか?」

「し、四角いの。それでいて、斜めに2本線が走ってるわ。こんなの見た事無いわよ!」


 四角くて、斜めに2本の線がある。はてな? と一瞬戸惑うが、俺にも想い当たる事が1つあった。視界の左下に表示されるメッセージアイコンがそんな感じなのだ。四角い縁取りにVの字な線が入っている封筒型なのだから。そして、今の俺にもそれが表示されている。


「イルメス。手で触ろうとしないで、頭の中で触ろうとしてみて下さい。きっと変化がありますよ」


 クロ―シアも俺と同じ考えに至った様だ。


「そ、そうなの? クロ―シアがそう言うならやってみるわ……っ!ひぃ!」

「大丈夫です、イルメス。何て文章が出ましたか?」

「……えっと『実績:初心者ハンターを獲得』と『実績:ボスモンスター討伐1体目を獲得』って読めるけど、何なの? 私は大丈夫なの!?」


 何だかもう、この世の終わりみたいな表情でイルメスは狼狽している。その実績は俺にも同じ物が出ていた。


 実績:初心者ハンター 敵対生物を100体討伐しました。行動系スキルが解放されます。

 実績:ボスモンスター討伐1体目 おめでとうございます。これで一端いっぱしのハンターです。


 どうやら、初心者から一人前に一気にランクアップしたみたいだ。前者の称号は、たぶん群れを屠っている間に獲得したのだろう。実績の討伐数もそんな感じだ。

 行動系スキルには何種類かあって、移動速度を上げる物やジャンプ力を上げる物、回避能力を上げる物や状況認識力を向上させる物等があった。俺は少しだけPに余裕があったから、状況認識力を上げる『初心者の把握術』を取得する。これで冷静な戦闘をこなせるようになると良いな。

 ってか、初心者ハンターの実績解除をイルメスも今のタイミングで達成したって事は、実績は俺たちと大差無いって事じゃないか。経験豊富とか言って、どんだけ見栄っ張りなんだよ。


「問題無いですよ、イルメス。普通の事です。どうやらインターフェイスを理解していなかったんですね」

「ふえぇ~ん。こ、怖かったわ……ビックリしたの。どうにかなっちゃったんだと思ったのよ……」

「そうですか。今まで見た事無い物が突然現れたら、驚きますよね。よしよし……」


 イルメスはクロ―シアに泣きつき、頭をよしよしと撫でられていた。

 2人がやり取りするのを聞くかぎりだと、NPCも俺と同じ様なインターフェイスが視界に広がっているらしい。クロ―シアはそれを自覚的に捉えられていたけど、イルメスは無自覚だったみたいだ。右下のメニューアイコンも使った事が無いそうだ。だから、今までに無かったメッセージアイコンが表示されて戸惑ったという訳だ。


 例えば外で自分の影を見てもおかしいとも何とも思わない。普通なら気にせずその存在はスルーするだろう。けれど、それが突然勝手に動き出したら驚いてしまうのも仕方ない。そんな事が今のイルメスに起こったんだな。


「それで結局イルメスの討伐数は幾つなんだ? 今なら分かるだろ」

「ええ、それね。……132万だわ!」


 嘘だ。俺の討伐数は133。イルメスと出会う前に1匹倒している。なら、彼女の討伐数は132なのだろう。1万倍にして言うって大阪のおばちゃんか! 50円のお釣りは50万円か!

 となるとだ。討伐の方の実績Pはどうなんだろう?


「画面の上の方に実績Pってあるだろ? 幾つになってる?」

「そっちは、そうね。141だわ」

「討伐数と合わないな。クロ―シアは?」

「私は142です。たぶん、大森スライムのPが10Pだったのかもしれません」


 なるほど、ボスにはボーナスが付くのか。モンスターでそうなら、凄い木を伐採しても実績の上乗せはあるかもしれないな。

 それはまだ不明だけど、分かった事は、討伐の実績はパーティー内で同じだけ加算されるって事だ。そうなると、効率の良いポイントでイルメス頼りのパワーレベリングみたいな事もできそうだ。


「そう言えば、実績の解除で行動系スキルが解放されるってありましたね。どうやら私にも覚えられる様です。イルメスはどうですか?」

「何か黒っぽい文字が多いわね。1つだけ灰色だわ。これが覚えられるスキルって訳なのね。あ! 既に白いのが1つあるわ! 見て見て!」


 他人のインターフェイスは覗けないので見られないのだが、彼女の説明によると新たなユニークスキルを会得していた様だ。


『酸手』

 スライムの溶解液に絶え間なく100時間浸した酸の手。任意に酸を噴出させ対象の耐久力を下げる。その手によって作られた物は使用者を蝕む恐れがあるので注意。最も、耐酸性の素材でないと製造過程で破損してしまうのだが……。


 三点リーダーがつけられるフレーバーテキスト、おぞましいね。今現在で入手出来る耐酸性の素材ってスライムの革だから、それで何か作らせろって言ってる。けど、無理だから。イルメスに生産とか無理だから!

 とは言え、この能力だと知性が高くて武器や防具を使う敵対生物程、効果を発揮しそうだ。祟り女神の執念はハンパ無い。


「どう? これで泉の女神の格って物も上がるわよね!」

「毒沼じゃねえか! より戦力アップだな! 凄いぞイルメス!」


 突っ込みを入れつつ褒めておく。クロ―シアが何とも微妙な表情をしている。良いか!? イルメスは褒めて伸びる女神だぞ! だったら減る物じゃ無しどんどん褒めたって良いじゃないか。

 その後、酸手の能力を確認させてもらった所、精神力を消費して酸を噴出し、その時でもイルメスの腕にはダメージを受ける様な問題は無かった。今後も活用してもらおう。


 その日の晩は、早速入手した『大森スライムの核』をはぎ取ってみた。それで入手した『命の元』を交易ボックスに入れると、値段は薪100束。水薬を使ったから、赤字になってしまったな。

 けど、ボス討伐は目出度い事だ。食料はパンと水しか無いけれど、テンションをあげて宴会をした。お宝を手に入れたとか儲けたとかじゃないけれど、仲間と1つの壁を超えた事が何よりも嬉しかったんだ。その夜はきっと忘れられない思い出になったと思う。


 寝る前にクロ―シアといちゃこらしながら今日の事を話し合う。


「今日はボスも出てきて色々あった1日だったな。アタッカーの仕事は大変だったろ? お疲れだなクロ―シア」

「イソカに比べたら重荷はずっと少なかったですよ。イソカこそ、壁役ご苦労様でした。労いたいので、今日は私が抱っこしちゃいますね」


 1つに繋げた寝袋の中でクロ―シアは更に身を近づけさせて俺の首に腕を這わせた。これは、逆にちょっとしたおねだりで、彼女こそがギュッとして欲しい事なんだ。だから、俺は腰に手を回して引き寄せる。

 イルメス? 彼女なら、外のシェルターで大の字になって寝てるんじゃないかな? かなり気に入ってるみたいだったし。


「結果は赤字だったけどさ、あんなボスは偶にしか出てこないよな。きっとバランス的に伐採で稼いで、それを使って敵対生物を討伐するって感じなんだろうな」

「そうですね。そんなシビアなバランス調整は運営が喜んでやってそうです」

「ありえそうだ」


 俺たちはくすぐったい感じで笑いあう。クロ―シアの表情はトロンとした穏やかなものだった。きっと俺も似た様な感じかもしれない。


「最近は根を詰めてたから、明日はちょっと遊ぶか? 午前は働いて午後から水浴びにでも行こうぜ。イルメスのいた泉は、水だけなら文句なしに綺麗だったから、きっと気持ち良いぞ」

「うふふ、良いですね。そうしましょう」


 このまま2人で手を繋いでまったりと就寝した。その夜はきっといい夢をみられたんだと思う。



 ▽▼▽



 翌日。この日は交易ボックスに初めて『鋼の斧』が並んだ。値段も40束だったので予備も含めて全部購入する。効率も4時間で杉を100本伐採できるので、鉄の斧と比べると倍のスピードだ。耐久も薪1千束分もあるので、かなりの高性能な斧だった。


 嬉しい誤算があったから、午後に遊ぶ余裕が充分に整った。働いて働いて遊ぶ。そのバランスって大切だと思うんだよね。だから俺たちは泉に行くのさ。クロ―シアの濡れ鼠姿を、思う存分に堪能してやるのだ。イルメスのイルカショーばりな泳ぎを見せてもらっても良いかな。


 そうして久しぶりに訪れた女神の泉。その桟橋で女性っぽいシルエットの人がうずくまって何やらしていた。


「いるないるな、はすとぅーら。へーるめーすとるーく。澄んだ水底より生まれし深き水神よ。この体をにえとし我が願いを叶えたまえ……」


 こ、これは、関わっちゃダメなヤツなんじゃね???





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