26 ユニークスキルを獲得する
ピシィッ! 大きく響く鞭の音。
「あ、あひん♪!」
何これ? 大きな音にびっくりしたけど、その割には痛くない。いや、実際には痛いんだけど、直ぐにそれが収まって心地よくなってしまう。これが愛の成せる技なのだろうか?
「ど、どうですか? イソカ。その、これで満足してもらえるでしょうか?」
「痛いけど、その後は気持ち良いな。その、クロ―シアこそ、これで満足できるかな?」
「私はできれば普通が良いです。けど、イソカがそれを望むなら、頑張ります」
そうかそうか、頑張ってくれるか。嬉しいね。けど、ちょっと待て。俺をいきなり鞭で叩いたのはクロ―シアのS的嗜好に火がついたんじゃないの? 黒髪赤目のロリっ娘エルフ小麦色系に調教して頂けるなんて望むところだけれど、当の本人が乗り気で無いなら軌道修正は必要だよな。
「クロ―シアがSっ娘なんじゃ無いのか? 俺は受け入れる所存だが……」
「んな!? 違いますよ! 私はノーマルです。イソカがこんな鞭をくれるから、そんな趣味なんだなって思ったんじゃないですか!」
ふむ、俺が渡した鞭が原因とな? そう言えば、今回は試作で機能性を重視していなかったから、詳しい説明とかを見ていなかった。どれどれ……。
『癒し手による蔦の鞭』
手をかざす事で治癒を行う癒し手が拵えた愛の鞭。打撃と回復のバランスが取れており、結果ダメージを受ける事が無い。叩けば叩く程に、対象は快楽を得る。
だからいきなり叩かれても心地よくなったのか。こいつは何ともアブノーマルだ。
「クロ―シア。言っておくが今の所、俺はそんな趣味は無い。それと癒し手って何だ?」
「……趣味については保留します。非常に嬉しそうな顔でした。癒し手については私にも情報がありません。きっとディープモードのスキルではないでしょうか?」
なるほどな。趣味については拒否しないか。1撃でもちょっと気持ち良かったから、今後開発してみても良いかな。俺はSっ娘を育てるM男になるんだ!
そして、癒し手はこのモード固有のスキルなのかもしれないとな。早速実績の画面を見てみよう。
『癒し手』
クロ―シアの治療の為に、毎日水薬を手に付けた事で至った治癒の手。優しく擦ると水薬と同等の効果があり、その手によって作られた物は、微量な治癒効果や抗アンデッドの効果を持つ。
どうやらユニークスキルを入手したみたいだ。
「納得がいきません! 何で私が付与をするのにはおしっこが必要なのに、イソカの場合は手で作るだけで良いんですか!? 私も水薬を手に付けたらできるっていうんですか? これでも毎日擦り込んでもらってるんですよ!」
「落ち着けよクロ―シア。テキストには『クロ―シアの治療の為に』ってあるだろ? きっと打算的な事じゃダメだ。イルメスの場合を見てみろよ。あいつは9割パンの事しか考えてないから、何か呪いになっただろ」
「確かに、そうかもしれません。でも……」
「それと、よく考えてくれ。これは、俺がクロ―シアの事を本気で想ったからこそ至った物みたいだ。言わば俺とクロ―シアの想いの結晶なんだぞ!」
「そう言われると、そうかもしれません。けど、まだもやもやします。だから、その癒し手の効果を改めて私に見せてください」
「良いよ。抱っこして撫でてやるから、こっちに来な」
「そうですね。それがイソカの義務ですよ~」
だらしないヘラヘラ顔になっちゃってクロ―シアは機嫌を直した。でれでれ可愛い。全身全霊の気持ちを込めて撫でてやるともさ!
たき火の灯りに揺られながら、俺たちがいちゃこらしていると、ふらっと散歩に出ていたイルメスが帰ってきた。
「あら、何だか一段と仲良しじゃない。良い事だわ。だからその理由を教えなさいな」
まあ、隠す事でも無いので、癒し手の事を彼女に話してやる。
「へえ、そういう事もできるのね。イソカ、見直したわ。けど、だからって驕らない事ね。私はそれを超えてみせるんだから!」
「超えるってどうするんだよ。言っておくけど、クロ―シアの治療は今後も俺がするからな」
「同じことをしたって、後追いにしかならないじゃない。私は私のやり方を試すわ。まあ、見てなさい。きっと凄い事になるんだからね!」
「あ、あの、イルメス? 無茶はしないで下さいね?」
クロ―シア。イルメスはきっと変な方向に全力を出しちゃうよ? たぶん、ろくでも無い事をし出すんじゃないかなぁ。
翌朝。そのイルメスは朝からおかしかった。朝食にパンを1つしか食べなかったのだ。配給はクロ―シアからの分も合わせて1食12個に増えているのにも関わらずだ。
食後はたいがいゴロゴロしているのに、今日はふらっと何処かへ出かけた。
午前中はいつもの様に、俺は伐採。クロ―シアはサンダル作りをしていた。イルメスが帰って来たのは昼だった。
「イルメス、本当に何やってんだ!?」
「ダメですよ、イルメス。お家には入れられません」
「何よ! それじゃ、パンは外で食べるわ。それなら文句ないでしょ?」
戻ってきたイルメスは、左手にスライムを絡みつかせていた。核を掴んでそれは抜かずに、じっくりと手を消化させている様だ。
いくらゆっくりの消化でも、ダメージは洒落にならないだろ? イルメスこそMに目覚めたの?
「装備のおかげてパンを食べれば回復するわ! だから、お昼の分を頂戴な」
なるほど。イルメスの装備『欠食の飢餓たる女神服』は、パンを食べると3パラメータ(スタミナ・体力・精神力)が回復する。とってもコスパの良い装備だ。
この為に、朝食は1個しか食べずに、午前中の時間を使って小分けに残りを食べていたんだな。
でも、そもそもスライムに手を突っ込んで何しようってんだ?
「ほら、お昼の分もちゃんとやるよ。それで、何でそんな事してんの?」
「聞いて驚きなさい! スライムは食事をするのに、体の中で溶かす液体を出してるでしょ? だから、ずっとそれに触っていたら、私の手もそれを出せる様になるって寸法よ」
「イルメス、その理屈はおかしいです」
「きっとできるわクロ―シア。イソカの手だって水薬から癒し手になったんでしょ?だったらこれもできる道理だわ」
ふむ、一理あるな。
俺の『癒し手』はクロ―シアに治ってほしい一心で身に着いた。クロ―シアの『妖精の洗礼』はきっと俺の役にたつ存在になりたいって気持ちか結果に繋がったんだと思う。俺達は、相手の事を考えていたから、プラスの効果を発揮した。その所為で、俺の作った鞭にまで回復効果が付いたのだ。
となると、イルメスのただ凄い能力が欲しいって我欲は、ダメージを与えるマイナス方向の力になるのかもしれない。
ならないかもしれないけど、もし可能なら、想いの力のいかんによって新しい能力が身に着くって説が成り立つんじゃ無いかな。
AIを開発する過程で、心とか感情の強さってのをどうにかするのに、そんな仕様を取り入れたのかもしれない。
結果がどうなるか楽しみだから、拠点のすぐ近くに角材で広めの縁台っぽい物を作ってゴロゴロできる様にしてやった。システム的な工作スキルはまだ取得して無いけれど、俺自身の技能は上がっている気がする。拠点の緑魔法陣をすっぽり覆える屋根が完成するのも、もうそろそろだ。
それで、ゴロゴロしているイルメスなんだけど、絵面がまずい事になっている。
彼女は色々残念だが美人だ。大人しくしていたら、黄金比を体現した様な目鼻は男の視線を釘付けにする程だし、身体もグラマラスで肉感的だ。出るところは大変出ていて、引っ込むところもしっかりと引っ込んでいる。
立てばお尻を隠せる位に長い金髪は太陽の光を反射していっそう神々しさも感じられるし、赤い女神服も合わさってより情熱的なエロスを感じさせる。
そんな彼女がゴロゴロする左手にはスライム。スライムはイルメスを取り込んだら良いのか、排斥したいのか判断が付かない様で、やたらめったらと触手を蠢かせている。
そうすると、どうなるか? 左手の近くにある物、それは左胸。右の胸もお隣さんだ。その両者が、ぶるんばいんと触手によって柔軟体操をしてしまっている。ぶつかる触手、揺れる胸。弾力と弾力の胸演により、胸密度は千%を超えている。
目と心を奪われポ~っとしていたら、クロ―シアに耳を引っ張られた。
「違うんだ、クロ―シア。不可抗力だ」
「違う事ありません。えっちな目でした」
「そうじゃ無い。あれだ、波を見ている感じなんだ。寄せては返す波の動きは、同じ事が2つと無い。それに感心するみたいに、肉の動きを見ていたんだ。そう、胸じゃない。肉の動きだ! だから、エロい目ってのは誤解だ」
「波はみた事が無いから、分かりません」
「よし、それじゃ、いつか行こうな。今はまだ無理だけど、生活が落ち着いたら、海を探そう。きっと楽しいぞ」
「……分かりました。きっとですよ」
嫉妬するクロ―シアは耳がピンピンと強張って動いていた。今まで見ない動きだったから、可愛くてまた見たくなっちゃうけど、だからって煽るのは良く無いね。イルメスへの視線は気を付けよう。
あ、とうとう、イルメスの胸がはだけてポロンと出ちゃった。
い、いや、違うんですクロ―シアさん、その鞭をしまって下さい……。




