23 クロ―シアの剥ぎ取り講座
スライム大量討伐の翌日。シェルターにぎゅうぎゅうになって3人で寝ていた。『川の字』ってやつだ。左から、俺・クロ―シア・イルメスって順番だ。こういった場合って身長的に俺が真ん中かな? って思ったけど、女達が並んで寝たいって事でそうなった。
おそらくだけれど、2人にとっては初めて会う同性って事で何か感じ合う物があったんじゃないかと思う。システム的な何かがって話じゃ無くて、AIが新たな刺激を受けて自律的に判断したって考えたい。それが結果的に良い結果を持つ様になったら嬉しいなって俺が思うからだ。
いずれにしても、現実的な問題として、もっと大きな屋根付き住居を作る必要があるな。今のままだと、寝返りがうてるかどうかって感じだから、全員が『大の字』になって寝られる位の広さは欲しい。
この日は、俺とクロ―シアは同じ位のタイミングで目が覚めた。イルメスは豪快に涎を垂らして寝たままだった。30分位待ってみたけれど、全然起きる気配が無かったから、鼻先にパンをちぎって近づけたら、やっと目を覚ました。
俺の腕を掴んで手ごと食べようとされたのにはかなり焦った。クロ―シアからは『自業自得です。程々にしてあげてください』なんて小言をもらったりもする。
昨日にしても、今日にしてもイルメスは寝起きが悪い。今までもそうだったのかと聞いてみた。そしたら、そんな事は無かったと言う。けれど、俺たちから泉の箱を(イルメスは頑なに『パンドラの箱』改め『ドラの箱』と言っていたが)強奪されてからは、3日間不眠不休で森をさ迷っていたそうだ。そのせいで、昨日今日はやたらと眠いんじゃないかって話だった。
クロ―シアはちょっと苦い顔をしたが、俺は弱肉強食の一環だと思う。イルメスにしても、パンが美味しいって事を認知できた事の方が価値があるって感じてカラっとしたものだった。
きっと、雨の晩に怨念じみた行動をとっていたのは、それこそシステム的なイベントをこなせる様に、何らかの強制力が働いていたんじゃないかなって俺は思う。
AIが勝手な判断をして、ゲーム的な要因を放棄しない様にって感じの強制力があるのかなって考えだ。
そう考えると、イルメスがクロ―シアを怖がらせて泣かせた事も、水に流せる気がした。実際に、ホラーに見える行動を取っていただけで、敵対行動では無かったのだから。罪を憎んで人を憎まずってやつだ。……自己弁護もかなり含んでいるけどね。
俺にしては小難しい事を考えたけど、今後もやる事は変わらない。このゲームがAI開発の一環だとは頭の隅におきつつも、現実生活の延長として生きてゆく。穏やかな生活と表裏一体で、敵対する物は排除しなければならない厳しさもある世界だって心に刻んで生きるのだ。
生きてゆくのには糧が必要だ。そういった事で、朝食の後はクロ―シアに説明を受けて『剥ぎ取り』を行う。
「剥ぎ取りの仕方は、まず対象の物を使用するイメージを持って下さい。実際に手に持っても、クイックアイテムに登録しても、アイテムインベントリで選択してでも、どれでも構いません。すると、剥ぎ取りナイフが腰の辺りに出現します」
その説明を受けて、俺は実際に手に持ってイメージを想起する。すると、確かに腰あたりにナイフが現れた。
「そのナイフでもって、対象の皮を剥く感じで中身を取り出してください。そうすると『命の元』が手に入ります。これは薬の材料になるとの事で重宝されている様です」
そういった事なので、中身を傷つけない様に丁寧に剥ぎ取ってゆく。リンゴの皮を剥く様な感じだった。すると綺麗に輝く発光体を入手出来た。
「ねえクロ―シア。さっきから頑張ってるけど、ナイフが出てこないわ。この核って壊れてるのかしら?」
イルメスがさっきから、やたらとうんうん唸っていたと思ったら、そういう理由らしい。
「おかしいですね。私がやってみますので、貸して下さい」
受け取りクロ―シアも剥ぎ取りにチャレンジしようとするが、こちらもナイフは出現しない。
実際に壊れた核なのかなと思って俺が試すと、問題無くナイフが出現して、剥ぎ取りも無事にできた。
「何故なんでしょう? 悪い原因でなければ良いのですが……」
「不安に思うのはわかるけど、俺だけができるって事は、種族的な要因が絡んでるんじゃ無いか? 注意は必要だけど、それに囚われちゃったら良くないよ」
「そうよ、クロ―シア。女神もエルフもこんな地味な事をしなくて良いのよ!」
種族は俺が『木こり』クロ―シアが『ナビゲーター』イルメスが『女神』だ。このゲームは木こりが生活する為に用意されている世界でもあるから、木こり以外にはできない事が沢山あるのかもしれない。先日の斧モーションの問題の事を思うとかなり信ぴょう性が高い気がする。
あとやっぱりイルメスは細かい事が嫌いな様だ。戦う手つきや飛び込みの綺麗さとかは繊細な動きを見せたのにな。
結局は俺しか剥ぎ取りができないので、きれいな核62個と、昨日と以前に仕留めた割れた核2個を1人で処理した。
その間にクロ―シアはサンダル作りで、イルメスはやる事が無いのでゴロゴロしていてもらう。ロープ作り位は覚えてもらおうと思ったけど、綯うよりも千切る方が得意みたいだ。手にする傍からブチブチやっていた。
口数も少なくチマチマと作業をしていたら、ある事に気が付く。
実績の項目がおかしい。俺は昨日を含めて2匹しかスライムを仕留めていない。けれど、そこの討伐数が65となっていた。それと、実績Pが増えてる。
「クロ―シア。敵対生物って仲間が倒しても実績にカウントされるのか?」
「そんなはずはないですよ。仲間システムは護衛を雇うといった感じですから」
「でも、イルメスが倒した分が入ってるぞ」
「そうなのですか? ……本当ですね。私の方にも入っています」
クロ―シアは耳を下げ気味にピョコピョコさせて、首をかしげている。
というと何か? イルメスに行く分の実績がこっちに来ているって事か?
「イルメス。お前の実績はどうなってる?」
「何? 私は経験豊富よ!」
「そうじゃ無いですよ。敵対生物の討伐数は幾つになっていますか?」
「その事ね。屠った敵の数は山程よ!」
「と言う事は、イルメスから見ると誤差の様な数で判断できそうに無いですね」
そうだよな。俺とクロ―シアは1から65だから分かるけど、それがもし数千を超える様な数なら、違いに気が付かないだろう。いつもキリのいい数では無いのだから。
「それじゃさ、伐採数の方はどうなんだろう? クロ―シアのは幾つになってる?」
「こちらは0のままです」
なるほど、伐採の実績は仲間に加算されないのか。
あ、でもイルメスが丸太でなぎ倒した分は、俺の方に加算されていたぞ。益々もって謎だ。
これは悩んで解決する事じゃ無さそうだな。数をこなして確認しよう。
そんなこんなで、午前中いっぱいを使って命の元59個と割れた命の元5個を取り出した。3つ程剥ぎ取りに失敗して、割れていた核2個からはそのまま割れた命の元が出てきた。
交易ボックスに入れて値段を確認すると、命の元は1つ10束、割れた方は1つ5束だ。合計615束の稼ぎとなる。今の俺が半日伐採を行っても450束位が限界だから、かなり良い稼ぎだ。
昨晩イルメスからあった様に、これは貯蓄にまわそう。そう思って画面を切り替えようとしたら、目に着いた物があった。
新しい武器が並んでるぞ!