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21 スライムと再戦


 『頭がもっと残念になっても良いならOK』そんな声を聞いた気がした。

 無暗にチートをねだるものじゃない。これ以上頭が残念になってしまったら……それはそれで幸せそうかもね。なんかイルメスは全力で幸せそうだもの。


 午後一でなぎ倒した木で作った薪250束の内、150束分をお小遣いとして使って良いよと言ったら、イルメスはいたく上機嫌になった。パンと水は毎回無限に買えるから、彼女は全部パンにしてしまうかもしれない。


「採集なんてさっさと終わらせて、拠点に帰って夏のパン祭よ!」

「皿の代わりにコップでも貰えるのか?」

「何よ? 私のパンはあげないわよ!?」

「2人とも真面目に採取してください!」


 そうだった。久しぶりに行う蔦の採取だ。これの充実度によって、クロ―シアの生活の質が変わると言っても過言じゃ無い。ちゃんと真面目にしないとな。イルメスの能天気さに引っ張られ過ぎても良く無いな。


 ブチリガサリと蔦を取ってはリュックに詰める。重量は軽いが、かさばるので纏めるのが大変だ。けれど反面、リュックに収納したのなら重量の方しか判定されないので、いくらでも詰め込める。この性質を利用して相性の良い商材の運び屋をしたら、大変な稼ぎになるだろうな。


「クロ―シア。敵の反応はあるか?」

「今の所はありません。私は索敵と採取に集中するので、イソカは収納量と時間の判断に注意して下さい」


 了解だな。敵が近くに居ないなら、今の内にもっと採取を行いたい。まだまだリュックに入る。森の中で作業をしていると、明るいつもりが一気に暗くなる事もあるから用心は必要だ。

 俺とクロ―シアは互いの仕事を確認しあって採取を進める。イルメス? 奴なら寝てるよ。でかい胸の谷間に滝の様な涎を垂らしてグースカ言っている。帰りに起きなきゃ置いて行くぞ。


「イソカ! 敵性反応がありました。撤退しましょう」

「分かった。もっとリュックに余裕は有るが仕方ないな。おいイルメス! 帰るぞ」

「え~まだ食べられるよ~……ムニャムニャ」


 女神はダメだ。引きずって移動する。


「イソカ、不味いです。四方から押し寄せて来ています。包囲されそうです」

「穴はありそうか?」

「微妙な所ですが、今の移動スピードではその内に包囲が固まってしまうでしょう」

「分かった。俺はポーションと斧をクイックアイテムに登録してイルメスを背負って移動しながらで対処する。リュックはクロ―シアに任せる。隠密状態で潜行しろ」


「それではイソカが危険です」

「死ぬリスクではクロ―シアの方が未知数だ。たぶん軽く無い。もし良いタイミングがあったら、リュックの中の物でも敵にぶつけて注意をそらしてくれ」

「わかりました。くれぐれもポーションの使い惜しみはしないで下さいね」


 クロ―シアの気配が希薄になって、視認もしずらくなる。隠密の効果はかなり高い。

 俺はイルメスを背負いながらすりすりと進んで行く。この速さだと、先日のスライムよりも遅い位だ。普通に歩く時の半分程度の速さしか出せない。

 今の防具は熱と斬撃に強いんだけど、打撃に効果は無いんだよな。そしてスライムの得意技は打撲を与える攻撃だ。結構相性の悪い装備だと思う。もう少し時間があれば盾を作って用意できたんだけどね。


 もし、イルメスを置いて走れば包囲網なんて楽に突破できたんだろうし、彼女をリュックに入れる事もできたと思う。冷徹にゲームと割り切ればそうするべきだろう。プレイ上のリスクが大幅に減る。でも、それは何か嫌だった。クロ―シアもそう言わなかったから、俺と同じ考えだと思う。

 ただ、そんな感傷に囚われて大切な事を見誤らない様にはしたい。一番大切なのはクロ―シアの事。きちんと死に戻りができる俺の優先度は、時には下げて良い。


 必死になってイルメスを運んでいると、次第に、まるで虫の知らせだと言わんばかりに緊張感が高まってきた。そろそろ敵とぶつかりそうだ。イルメスを地面に寝かせ、俺は周囲に気を配る。


 のそりとヤツが現れた。スライムだ。まだ1匹しかいない。チャンスだ。

 前回は互いに一打ずつを殴り合う泥仕合だった。俺は勝手がわからず、右手に斧を持っていても、左手をフリーにしてしまっていた。だから、今日は両手に斧を装備する。


 のそり、じわりとスライムは距離を測りながら近寄ってくる。けれどそれに付き合ってやる必要は無い。相手は遅い動きを高い耐久力で補っているのだ。だったら俺は足を止めずに手数で勝負だ。

 俺の服は妖精の洗礼を受けていて、一日中でも全力で斧が振るえる様になっている。クロ―シアの加護が俺に活路を与えてくれるんだ。


 スライムにとってはあと3つの間合いの距離で、俺は一気に飛びかかる。その勢いのままに斧を連続で振るう。3撃! 続けて叩きつければ、そこで相手からの反撃がやって来た。重みはあるが、全然致命傷には至らない。

 タイミングは早すぎてもダメだ。1撃見舞ったら、反撃が来るタイミングに合わせてもう1撃。本振りと切り流しを交互に行う。


 バシャッ! ベシュ! ビシャッ! ボシュ!


 じわりじわりとスライムを切りつける。対して俺には有効打は届いていない。

 イケる。全然息が上がらない。全く疲れない。けど、焦るな。でも、萎縮するな。水薬のストックだって充分にあるから、ミスを許容できるゆとりだってあるんだ。

 淡々とした作業を繰り返す様にして、流す汗と引き換えにスライムを叩いて行く。次第に奴の身体が小さくなって、核が露わになり出した。


――今だ!


 ここで渾身の力を込めて斧を核へと叩きつけた!

 パキリというガラス質な音を立てて、それからスライムはでろんと力が無くなり動かなくなった。


 たぶん、これで終わりだ。前回とは全く違い、今回は安定した勝利となった。装備の違いと僅かな工夫でこれ程までに結果が変わるのは正直ビックリだ。

 ここで前回も剥ぎ取りをしていなかった事を思い出した。スライムって何が取れるんだろう? 目立って残っているのは核だけだ。クロ―シアにリュックを渡したから、これを回収しようと思ったら荷物になってしまう。


 クイックアイテムの欄にはまだまだ空きがあるから、ひょっとしたら収納できるかな?

 試しに核を持って、インベントリを開いてみる。そしたら無事に核がクイックアイテムに登録された。手からは消えちゃったけど、何処に行ったんだろうね? それと使ったらどうなるんだろうか? まあ、今やる事じゃ無いや。

 俺はイルメスを背負い直して歩き始める。早く移動しなければ。敵はまだまだ近くに居る!





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