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19 リサイクルって大切だと思うんだ


「この箱は壊れているんです。こんなバカ箱は解体するんですぅ!」


 カタカタと震えながらクロ―シアは石の斧を持って、泉の箱を破壊せんと振りかぶった。

 その斧は何処から出した? あ、イルメスが持っていたヤツか。先日俺が泉に投げ捨てた物だ。


「まてクロ―シア。早まるな。泉の箱は壊れていない。正常だ」

「だったら何で状態がリセットされないんですか!? しかも強力になってるんですか!? こんなのおかしいですよ」

「分かったから、その斧は仕舞え。な? まだ売って無いサンダルがあっただろ。それで試してみようぜ」


 なんとかクロ―シアを宥めて、今度はサンダルを泉の箱に入れる。

 入れたサンダルに『抽選』を行うと、やはりそこにあるのは変化の無いサンダルだった。クロ―シア自身の手でさせたから、彼女も泉の箱が壊れていない事には納得がいった様だ。けれど俺の服には、納得するわけにはいかないらしい。複雑な乙女心だ。

 俺は全裸のままは流石にナニなので、『妖精の洗礼を受けし一見普通の服』を装備している。たいへん力がみなぎってくる。これは良いものだ。


「へえ、大当たりが出るなんて凄いじゃない。それに妖精の洗礼ってのも強そうね。ねえクロ―シア。私にも洗礼をかけてよ」

「っ! 知りません!」


 最大に最悪なタイミングでイルメスが出てきた。クロ―シアは入れ替わりでシェルターに籠ってしまう。


「もう、『お小水』っていう妖精の聖水をかければできるんでしょ? だったら、それくらい良いじゃない。ねえイソカもそう思わない?」

「それとこれとは話が別だろうよ。イルメス! 後でじっくり話があるからな!」


 いや、本当にイルメスはどうにかせんといかんかもしれん。でも奴の事は後だ。俺はクロ―シアを追ってシェルターに入った。

 クロ―シアは膝を抱えて小さくなってしまっている。両ひざの中に顔がすっぽりと収まっているから、髪が体全体を隠してしまって、黒い絹布をかけたみたいだ。


 体の前に流れている髪をき、頭を撫でる様にして背中側へと戻してやる。


「……防御力が上がれば、イソカが怪我する事が減るのはわかります。けど、やっぱり納得ができません」

「そうだよな。クロ―シアの気持ちは分かるよ。だけどさ、クロ―シア。日本での話だけれど、堆肥たいひって知ってるか?」


「分かりません。何なのでしょうか?」

「昔は何処の農地でも使ってたらしいんだけどな。便や尿を溜めて、それを発酵させるんだ。そして他のもみ殻だとか生ごみとかを更に混ぜて肥料にしてたんだってさ」


「え? そんなの使えるんですか?」

「ああ。しかもな、その便や尿は、牛や鶏なんかの家畜よりも人間の物を使った方がより優秀な物が出来たんだってさ。場合によったら何年も残っちゃうもみ殻が、1年で分解されたりってな」


「人体には不思議な力があるんですね」

「だろ? だから、人から出た物もきちんと処置したら、とっても優秀な肥料になるんだ。それを撒いて作った野菜を食べるのは良い事だろ。なら、今回分かった妖精の洗礼も同じ事なんじゃないかな?」


「そんな物なのでしょうか……」

「そうだって。街の人間が出した物を田舎に運んで肥料にする。それで育った野菜をまた街に運んで食べられる。他の所では普通なんだから、ここでそうなっても普通だよ。妖精の洗礼がきっとこの先の助けになってくれると俺は思うな」


「……そうですね。それが有効で優れた効果のある物なら、使わないとですよね」

「うん、有難うな。もしまた必要な時はよろしく頼むな」

「もう、するならコッソリですよ」


 こうしてクロ―シアは納得してくれた。しかも今後もコッソリとなら妖精の洗礼を行ってくれると言う。やったね。

 ちょっと茶化して言ったけど、実際は大切な話だよね。本来なら捨てる物を創意工夫でもって有効な物に変える。サバイバル生活にもきっと応用できると思う。その1つ目が妖精の洗礼だったんだ。また別の形で新たな発見があるのかもしれない。


「ねえ、イソカ! 『パンドラの箱』をもっと使いたいからお金を頂戴な!」


 イルメスが何か変な事を言っている。このゲームは物々交換が基本で、その単位として便利なのが薪1束ってだけだ。紙幣や硬貨は無いという話だ。しかも泉の箱をもっと使いたい? ひょっとして勝手に『抽選』をしたのか?


「イソカ、これは様子を見に行くべきですね」

「そうだな。変な事してたら、しっかり躾けないといけないな」


 俺とクロ―シアは連れ立ってシェルターから出ると、そこには女神が全裸で箱を叩いていた。

 尻を長い髪が隠しているが、しきりに体を動かすので、形のいいそれがふるんふるんと弾んでいる。くいっと押すと程よい弾力で揉み応えがありそうな尻だ。その上の腰から背中は無駄な肉が無く、ウエストもしっかりとくびれて細みがある。

 さらに箱を叩こうと腕を振る度に背中側から、ちらりちらりと胸が見える。相当にばいんばいんと暴れん坊の様だ。うん、身体は良いと思うの。あと黙っていれば顔も。もう、こんな突飛な事するから本当に残念さんだ。


「イルメス! そんな恰好で何してんだよ?」

「え? 私も服を強くしたくて挑戦してみたのよ。さっき10回目で小当たりを引いたの! これは流れが来ているわ! さらに回して大当たりを引くべき時なのよ!」


 は!? やっぱり10回全部『抽選』したのか! 他の消耗品の分はまだしてないんだぞ!


「ふざけんな! お前何を勝手な事をしてるんだよ!」

「もう、怒鳴らないでよ。良いじゃない。私が自分で、私の今日の分を回してるんだから」


 ん? 今日の自分の分だとな?


「ちょっとまて、話がおかしい。イルメス。泉の箱は1日10回しか使えないんだよな?」

「そうよ。1人1日10回までは無料よ」

「あ! そうなんですね! ゲームはシングルプレイ専用なのでわざわざ『1人につき』って注釈がなかったんですね! 盲点でした」


 クロ―シアが、ポンッと手を叩き、合点がいったとニッコリ笑う。勘違いは誰にだってある。その笑顔で更に俺は幸せだ。

 つまり通常の場合は、ゲーム的にプレイヤーが箱を使っていたわけでは無くて、イルメスが代わりに使っていたのに、さもプレイヤーが使っていたと勘違いさせられていたという事か。ちょっとややこしいけど。


「それは分かった。じゃあ、お金だとか無料だとかは?」

「……それなのですが、イソカ。実は1回300円で11回目以降も使えるんです。しかも、なんと! 20回目以降は当たりの確率が上がります。でも、イソカは課金装備や拡張パックに難色を示していたので、私が説明を省いてしまっていました。ごめんなさい」


 さっきの笑顔から一転してクロ―シアはしゅんとしてしまう。確かにゲーム開始前のチャージしていたお金はほぼ無くなっていたから意味の無い情報かもしれない。けれど、ひょっとしたら何かのきっかけにもなるかもしれない。だから、そういった事で省かれるのは不本意だな。


「クロ―シア。そういう情報は必要がなさそうでもきちんと教えてくれ。ひょっとしたら他の判断材料に繋がるかもしれないから。だから次からは宜しく頼むな」

「……はい、わかりました」


 こういうちょっと上手くいかなかった、食い違ったって時の落しどころって難しいよね。俺は、クロ―シアの頭をポンポンと軽く撫でると軽く頭を抱き寄せた。彼女は、おでこをグリグリってしてきて、きゅっと俺の服の端を握りしめる。ここで突っぱねたりしなければ、また笑顔を見せてくれるだろう。


「それで結局、イルメスの服はどうなったんだ? ってか早く着ろよ」

「そう! 普通の女神の服から1ランクアップしたのよ! もっと強くなったら装備するわ! だからイソカ。お金を頂戴な!」

「無えよ! 1ランクでも強くなってんならそれで納得しとけよ。あと、クロ―シアも無いからな。たかるんじゃないぞ」

「チッ! わかりました。だったら私の代わりにイソカが回してよ。まだ今日の分は残ってるのよね?」

「お前、どんだけ浅ましいんだよ。それなら、俺の言う事を何でも1つきくって言うなら『抽選』を代理するぞ」

「う……、やっぱり止めておくわ。どんな事言われるか分かった物じゃないもの。ほんとうにイソカは強欲ね」

「お前が言うなよ!」


 非常に渋々といった様子でイルメスは『抽選』を諦めた。目の毒以上に心が削れるから早く服を着て欲しい。それなのに、やっぱり服の性能が1ランクアップした事が嬉しいらしく一遍見てみろと俺やクロ―シアを促した。

 その肝心な女神の服とは


『欠食の飢餓たる女神服』

 食欲を知り、1つ堕落した女神が纏う服。その更なる食欲亢進の為に色は赤く染まる。中華料理店が赤いのと同じ理由。パンを食べれば食べるほどに3パラメータ(スタミナ・体力・精神力)が回復する。


 何か呪いの装備っぽい感じの名前だった。これから更にランクが上がると、どうなるんだ?


 今日は午後につたの採取に行きたいのに、この面子で、というかイルメスを入れてスライムと戦えるのだろうか? これは、場合のよったら命に関わるかもしれない。相当に気を引き締めないとな。





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