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18 泉の箱で装備強化!


「私のお腹にはまだまだ余裕があるわ! 貴方のパンが勝つか? 私のお腹が勝つか? 勝負よ!」


 ズバァン! と仁王立ちを決めてイルメスが叫んだ。さっき1つ食べたじゃないか。


「1食で1個って約束だろ。良い娘にしないとパンはあげないぞ」

「それは朝の分でしょ? もう朝は終わったわ。だったらお昼で良いじゃない」

「今は10時位だぞ。昼はまだだ」


 腕組みしながらイルメスは唸る。どうにかして俺からパンを引き出したいらしい。そんなに、あのもそもそしたパンが美味かったんだな。


「何よ! 良いわ。もう、お昼まではイソカに頼まないから!」


 今後じゃ無いのね、お昼までの限定なのね。


「それなら、そこの貴方! 貴方で良いの。私にパンをお供えすると幸福が訪れると天界ではブームになっているのよ! 貴方も流行に乗り遅れないで! 流行を先取りしてあの子に差をつけるのよ! そして私は天上の神秘たる泉の女神イルメス。貴方のお名前は?」


 イルメスはクロ―シアに両手を広げて何かこう、宗教家が神の啓示を話すかの様な恰好をとった。口から涎が垂れていなければ画になるのにな。


「あ、えっと、私はクロ―シアです。幸せは間に合ってますから大丈夫ですよ。その分ほかの人にわけてあげて下さいね」

「そういう切り返しで来るなんて、中々やるわねクロ―シア。気に入ったわ。それなら賭けをしましょう。私が勝ったらパンを食べる。貴方が勝ったら私に力いっぱいパンをぶつけて良いわ! 内容は何にしようかしら……」


 何だ? その勝利報酬は。どの道イルメスにパンが行くって話じゃないか。かなり疲れるわ。これはもう、物を与えて大人しくさせるしかないかな。でも、甘やかすとつけあがりそうだからなぁ。


「おい、イルメス。クロ―シアにもパンを強請ねだるのをやめろ。働かざる者食うべからずだ。仕事をしたら俺が代わりにパンを買ってやるから」

「何よ! 仕事はイソカが私から奪ったんじゃないの! だからイソカは私を養う義務があるわ!」

「それは1日3個までで果たせるよ。もっと欲しいなら別な仕事をしろって話だ」

「じゃあ、何をすれば良いの? やってやろうじゃない!」


 さて、イルメスには何ができるのかな? がさつな感じだから手先の事は無理そうだし、肉体労働かな?

 そう悩んでいると、ちょんちょんと俺の服をクロ―シアが引っ張った。


「イソカ。取りあえず何個かパンを先に渡して借金扱いにしませんか? それでその後でも働いてもらいましょう。こうしている時間が勿体ないですよ。イソカの服も綺麗にしないといけませんし」

「あ~、そうだな。そういう予定だったよな」


 しれっと無知な女に負債を課せようとするクロ―シア。腹黒可愛い。


 そうそう、勿体ないがクロ―シアの成分がしみ込んだ俺の服を、泉の箱でリセットするって話だった。

 そうなったら、イルメスに今日配給する分の残り2個を渡して口を塞ぐ事にする。何かと五月蠅いからね。


「イルメス、今日は特別に前借りを許してやるから、これを大人しく食べていろ。俺たちはやる事があるから」

「分かったわ! イソカもこうやって素直になれば良い男になるのね。今後も期待するわ」

「いいから黙って食ってろ」


 さて、イルメスを黙らせた所で、泉の箱だ。取りあえずチノパンを入れてみる。すると『ベッ』というビープ音がして、弾かれてしまった。


「あれ? 服って個別の扱いだよな? クロ―シア、何かおかしな状態になってるのかな?」

「そのはずなんですけど、何でしょうかね? ひょっとしたら、またイレギュラーが起こってるのかもしれません」


 悪い事態に繋がらなければ良いけどな。そう思ってインベントリを見ていると、ある事に気が付く。装備中の物を示す部分に、何も載っていないのだ。ポロシャツとアンダーウェアはまだ着ているのに。

 もう一度チノパンを着直し安全靴を履いてみると、今度は装備中のアイテムとして名前が出てきた。


『妖精の洗礼を受けし普通の服』


 どうやら、一式装備として新たに生まれ変わっていたらしい。説明は『クロ―シアのお小水がかかった普通の服。スタミナ低下を抑える』とあった。だから徹夜しても何となく活力が沸いていたのか。


「……こんな感じで装備が変化していたみたいだぞ。これは性能も良さそうだし、状態リセットしなくても良いんじゃないか?」

「だ、ダメですよ。私のお小水とか書かれてるじゃないですか! こんな恥ずかしい物をイソカに着させられません」


 クロ―シアはそう言うと、俺からポロシャツと安全靴、チノパンをはぎ取って泉の箱に入れてしまった。女の子にズボンを下されるって、トキメキの瞬間だ。クロ―シアさん大胆です。


「あれ? まだ足りないみたいです。イソカ、下着も脱いでください」

「え~、俺はこのままでも良いんだし、自分で脱ぐのも嫌だなぁ。クロ―シアがリセットしたいって言ってるんだから、クロ―シアが脱がせてよ」

「な、何言ってるんですか!? そんな事、こんな明るいのに、……できません」


 ここは調子に乗らせてもらおう。耳まで真っ赤になってクロ―シアはもじもじしている。最後の『……できません』が消え入りそうな声だったのも、恥じらいがたっぷりでとても可愛い。


「え? 何? 脱ぐの? だったら私が脱がせてあげるわよ! それが仕事って事で良いわよね!」


 イルメスはもう食べ終わったらしい。そして良く無いよ。邪魔するな。俺はパンを更に5個取り出すとシェルターの中に押し込んだ。


「っ! これはイソカからのプレゼントだからね! 配給分とは数えないんだからね!」

「ああ、わかったから、それ食べて暫く大人しくしてろ!」


 シェルターを壊しかねない勢いでイルメスは飛び込んでいった。女神って何だろう? パンを食べるのがお仕事らしい。


「イソカ。他の女の人にプレゼントするなら、私にもしてくれないとダメです」

「そうだね。後でちゃんと用意する。けど、あれはプレゼントじゃ無いから勘違いするなよ。下着を脱がせるとか、こういう事を許すのはクロ―シアだけなんだから、分かるよね?」


 そうダメ押しすると、クロ―シアはおずおずと上のシャツを脱がしにかかる。ぎこちない手でまくり上げてきて、背伸びしても届かない高さまできたので、俺は膝を折って身体を下げた。

 するりと腕からシャツが引き抜かれると、一気に俺たちの顔が近くなる。見つめるクロ―シアの瞳は憂いをおびるかの様に、ほんのりとだが涙目だ。相当恥ずかしいんだろうね。


 だからといって、中止は無しだ。あと1枚残っている。俺は立ち上がり、ぐいっと腰を強調してみた。


「やっぱり、これも必要なんですよね」

「そうだね。全部まとめて一式の装備扱いになってるからね。あくまで装備をリセットするだけだから、何もやましい事は無いから大丈夫だよ」

「でも、恥ずかしいです」


 プイと視線を外してしまうクロ―シア。長い睫毛が赤い瞳を隠すみたいに下をむいている。そうやって、意識しちゃうから余計に恥ずかしいんだと思うぞ。もっと恥じらってくれ。でも、やり過ぎは注意だな。やり過ぎると関係が変にこじれるかもしれないから、調子に乗るのはちょっとだけだ。


「クロ―シアだって、俺が水薬ポーションを手塗りする時に必要だから裸になるだろ? その時にやましい事なんて無いよな? それと同じだって」

「……そうですね。わかりました」


 クロ―シアは何でか薄目になってパンツに手を掛ける。目を反らしたいけど、見なければ脱がせられないという事からの薄目なのかな? ゆっくりと下していって、とうとう全部を脱がす事ができた。やったよ! 俺は得も言われぬ達成感に包まれた!


 急いでクロ―シアが泉の箱へ俺の下着を突っ込んだ。そして『抽選』のアイコンを押したみたいで、中を見ている。けど、何か様子がおかしい。


「え? 何で? こんなのおかしいです」

「どうした? クロ―シア」

「見て下さいイソカ。もう、この箱は壊れています」


 どれどれと泉の箱を覗きこむと、そこには新たな装備が表示されていた。



『妖精の洗礼を受けし一見普通の服』

 クロ―シアのお小水がかかった一見普通の服。だが、防刃性の高いセラミックファイバーで出来ている。打撃は通してしまうが熱と斬撃に対して非常に強い耐性を持つ。スタミナは常時回復し斧なら1日中全力で振るえる。夏涼しく、冬暖かい。バナナで釘が打てる? 気合いで乗り切れ!



 すごくパワーアップしてる! これ、大当たりだ!





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