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15 泉の箱の隠された効果


 『女神の泉』は拠点から徒歩15分って所だ。前回に行った時があまりに種撃的だったので、正直また行きたくは無い。けれど、虎穴に入らざれば虎子を得ずだ。俺は単身そこへ向かう。

 そう、1人でだ。クロ―シアには別の事をやってもらう予定だ。彼女の隠密能力を活かして、やってもらいたい事がある。サンダル作りとかには全然活かせない事だからね。やっと日の目をみるって感じだ。影に潜む隠密能力だけど。


 泉に着いて桟橋で暫く待つと、にわかに水面が盛り上がる。


「『ザッパァ!』遅かったじゃないの! 『クルン』何時まで待たせるのよ! 『ズボシュ』」


 勢いよく飛び出して来たと思ったら上空で一回転して、水しぶきを上げる事なく綺麗に入水した。見事なもんだ。というか、普通に出て来れないのだろうか? できないんだろうな。なんか残念な感じだもの。変な方向に全力出しちゃうタイプみたいだし。


 もう暫く様子をみていたら、今度はすう~っと大人しく水面に現れた。やればできるんじゃないか。って、胸の前で腕を組みながら浮上してきている。なんかバスタービームを放ちそうな程に気合いが入っているぞ。勇ましいBGMを幻聴させるいでたちだ。


「さぁ! やってもらおうじゃないの! 泉にする蓋ってやつをね! 言っとくけど、金の蓋も銀の蓋もあげないからね! 残念だったわね!」

「一々怒鳴るな。聞こえてる。それじゃ、これから始めるから、お前も泉から出て来い」

「お前じゃ無いわ! 麗しい泉の女神様イルメスよ!」

「わかったよ、イルメス。どうやるかの手順もみせるから、こっちに来てくれ」

「良いでしょう。見せてもらおうか、人間の蓋の性能とやらを!」


 ビッショビショな身体のままで水面を歩き、イルメスは泉のほとりから上がってきた。ぶるんぶるんと胸が揺れるし、色々透けてたりするんだけれど、何だろう。全然嬉しく無い。反応したら負けだと身体と心が告げている。


 まずは一番重要な地点にやぐらの様な物を2つ組んで、横に棒を渡す。その棒にはハンドルが付いていて、クルクルと回せる様になっている。そこへ一時的にリュックも置いて、他の地点に移動する。


「ねえ、何か地味じゃない? 私、もっと派手なの期待してたんですけど?」

「うるせぇな。物事は地味な事が集まって大きな物になるんだよ」

「そんな事言ったって、コツコツするのも面倒だからって一発逆転を狙って女神の泉に来たんでしょ? この麗しくも可憐なイルメス様の力を頼ってね!」


 とてもウザい金色昆布だった。まあ、今の俺はイルメスの注意を惹くのが仕事だ。話にも乗ってやる。その間にクロ―シアが上手い事をやってくれるはずだ。俺はカモフラージュ的に斧を振るって木を伐採し始めた。


「あんたがもっと普通の女神様なら頼りたかったんだけどね。期待値と気苦労を天秤にかけたら、頼りたく無くなってきたよ」

「ちょっとちょっと、何言ってるのよ。ノーリスクで美味しい思いができるかもしれないってお得な存在なのよ? 使わない手は無いじゃない」

「いやさ、もし、良いものに交換してもらったら、感謝しろとか褒め称えろとか言うだろ? あんたは」

「当たり前じゃない。私が居なければできない事なんだから。その偉業を末代まで語って、山には泉の女神像を建てても良い位よ。それに、あんたじゃなくてイルメスよ」


 なんか嫌だなぁ。山の上で腕組みしてドヤ顔で仁王立ちしてる女神像があるなんて。たぶん大きさも数十メートル規模を要求するんだろうな。


「へいへい、イルメスさま」

「宜しい。でも次からは頭に『天上の神秘たる』を付けなさいね。それで、貴方の名前は?」

「俺か? 俺はイソカだ。最近近くにやってきた木こりだよ」

「イソカね。分かったわ。良い名前じゃない。私の次に良い名前だわ。祝福をあげたって良いと思うの。だからここはその斧を泉に投げ込んでみたらどうかしら」


 俺は、なるべく大きな音が立つ様に斧を振るっている。泉の対岸、視界の隅っこでは小さな女の子が『うんしょ、よいしょ』と動いている。がんばってクロ―シア! 天井の侵泌(あまもり)たる女神様はまだ気が付いて無いよ。


「つうかさ、俺が泉を使わなかったら、イルメスの仕事って無くなるんじゃないか?」

「失礼ね! 有るわよ! 今日も私の華麗な登場シーンを見たでしょ。一朝一夕では成し遂げられない見事なパフォーマンスよ。私はこれで天界を獲ったんだから!」

「つまり、練習が仕事ってことか?」

「そうよ!」


 まあ、災害対策とか治安を守る人とかは、待つのも仕事って面があるだろうけど、イルメスはそんな感じじゃ無くて、単に暇を持て余してたって様子だよな。


「他には?」

「他? 他は、え~っと、そう! 泉に投げ入れられた物をパンドラの箱へ入れて、すかさず希望を取り出す鍛錬を積んでいるわ。熟練工の手並みよ!」


 いや、パンドラの箱って。本当にそんな名前なのか? そして、やっぱりクロ―シアの推察通りだ。おそらくイルメス自身にはアイテムをどうにかする力は無い。


 このイルメスが言う箱こそが今回の狙いだった。前回に桟橋から泉を覗いた時に、箱っぽいものが見えた。これがイベントオブジェクトだと俺は予想をつけていた。

 それを引きずり出す為に、2日かけて底引きの網を作っていた。さっき設置していた櫓や棒は、それを巻き取る為の物だ。非力なクロ―シアでも網を引ける様にしてある。


 俺がコンコンと木こっているのを、イルメスは何やかんやと話しかけて時間は過ぎる。

 すると、リュックを背負ったクロ―シアが大きくこちらに手を振っていた。成功したらしい。櫓はそのままだが、網やロープも回収している。クロ―シア、抜かりない可愛い。それじゃ、俺も退散するか。


「おっと、そろそろ暗くなってきたし、今日の所は帰るよ」

「え!? 何で? まだ全然何もしてないじゃない。帰っちゃダメよ」

「でも、日が暮れると危ないだろ? また今度な」

「何よ。つれないわね。どうしてもって言うなら、斧を泉に入れてからにしなさい」


 仕方が無いので、今持っている石の斧をその場から泉に放り投げた。


「そう! それで良いのよ! これからイソカに、私かそんじょそこらの泉の女神じゃ無いって事を見せてやるんだからね!」


 イルメスはそう叫びながらシュタタ! と全力疾走をし、高々と飛び上がると綺麗に宙返り3回転半ひねりをしてから入水していった。やはり水しぶきは上がっていない。

 まあ、そんな事はどうでも良いや。この隙に俺も急いで拠点へと帰っていった。



 ▽▼▽



「上手く行きましたね、イソカ!」

「そうだなクロ―シア。早速試してみるか」


 リュックから取り出してみるとそれは、交易ボックスの半分位の大きさな箱だった。因みにリュックのインベントリに表示されていたのは『泉の箱』だった。パンドラどこ行った?

 とりあえず効果を試すのに、あと1本分の伐採を行うと耐久値が限界になる鉄の斧を入れてみる。すると画面に『抽選』というアイコンが出た。それを押しても変化は別段見られなかった。たぶん、当たりは出なかったってだけかな?

 確認の為に取り出して森の木を何本か切ってみる。すると斧は破壊される事は無かった。修理機能は働いているらしい。


「大丈夫そうだな。これでかなり経費節約ができるな」

「イソカ! イソカ! 私も抽選をやってみたいです! 良いですよね?」


 今回の事はクロ―シアが居なければ成功しなかった。もちろん、好きなだけ使っちゃって良いんだよ! あと9回だけど。


「おう、何を試すんだ?」

「はい、水薬ポーションを試そうと思います」


 すると、クロ―シアはまだ半分残っている水薬を泉の箱へと入れてみた。


「どうなるんでしょうね? ワクワクしますね!」

「そうだな。当たるといいなぁ」


 クロ―シアが取り出したのは変哲の無い水薬だった。けど、さっきと違う。満タンだったのだ。


「思った通りです!」


 クロ―シアはピョンピョンと跳ねて喜んでいる。俺も一緒になって手を繋いで飛び跳ねた。こいつは凄い。未来が開きそうだ。

 けど、使って大丈夫なんだろうか? あれ? ちょっと冷静になると不安にもなってきたぞ。


「なあ、クロ―シア。これって、飲んだり塗ったりとかしても大丈夫なのか?」

「おそらく大丈夫ですよ。その根拠を今から説明するんでみて下さいね」


 そう言うとクロ―シアはまだ使っていない鉄の斧を持ちだし、別の斧でグリグリっと柄を削った。手を怪我しないかちょっと焦ってしまった。そして泉の箱に入れる。すぐさま『抽選』のボタンを押したらしい。


「今度はイソカが取り出して下さい」


 うん分かった。別に何が変わったかわからんけれど取り出した。すると、それは綺麗な柄の斧だった。インベントリにはこんな機能は無い。正直驚いた。


「何でだ?」

「それはですね、全てのアイテムは種類を表すIDと状態を表す個別の番号も割り振られます。石の斧(1)石の斧(2)みたいな感じです。IDが石の斧で、個別番号は括弧の中ですね。

 普通は括弧の中は見えませんが、耐久値や状態が変動するとそれが割り当てられるんです。そして、この泉の箱は個別の番号を一旦消去して、全ての数値を初期化してしまう事で耐久値を回復していたんですよ。耐久値の数値だけじゃ無く、状態の数値も初期化していたんですね」


 ゲームはつまるところ数値の羅列だ。ポーションが見た目には減っていたのは、実を言うと『減っている』という情報を付加された状態だったのだ。


「そうか、水薬はそうやって減っている状態が初期化されて新品に戻ったんだな」

「はい。だから、普通に使って大丈夫ですよ」


 こんなゲーム的な事を新ためて説明されると、ここが仮想世界だって事を忘れていたんだなって思い知らされる。でも、そう意識してないってのは別に悪く無いかな。クロ―シアが可愛い。彼女が喜んでいる。それだけで良い気がしてきたよ。


 その後も、残りの7回抽選をしたけれど、当たりは全く出なかった。次は当たる。大丈夫、次は……。

 まあ、ひょっとしたら、もっと別の使い方なんかもあるかもしれない。それはこれから調べるのが楽しみになってきた。





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