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10 サンダルを作って生活の足しにする計画


 俺が帽子を作ってクロ―シアがロープを作った翌朝。彼女は不機嫌だった。食事も今まで以上に一心不乱と食べている。

 リスとかハムスターが頬袋をイッパイに貯めこむみたいにすると、一気に水で流し込む。可愛らしいなとも思うんだけど、また喉につまらせやしないか、心配もしてしまう。


「食べますよ! パンをもりもり食べます。沢山食べれば大きくなるかもしれませんからね!」


 テンションがおかしい。言っている事もだ。言葉の意味はよくわからんが、とにかく不機嫌だとは感じた。


「大きくなるって、身長は伸びるのか? 成人してるんだろ?」

「分かりませんよ! そんな事。何ができるのかわかりません。だから試してみるんじゃないですか。なんで試さないんですか……」


 うむ、俺が昨晩何の反応も示さなかったから怒っていると。だったら全力で難聴能力を発動だ。


 だってさ、甘い蜜の味を覚えたら、そればっかりしか吸わなくなると思うんだよね。だってやりたいもの。可愛い女の子が毎日朝から晩まで一緒に生活していてそう思わない訳が無い。生活から性活にライフチェンジだ。朝から晩まで繋がっていたくなる。

 そうなる自信がある。自信っていうのは変か。でも、生活するのに最低限必要な事まで疎かになってしまうほど、夢中になってしまう。断言できる。


 まったりライフでも、それなりにノルマがあったりするのよ。世知辛いね。今の所は1日最低でも薪210束は欲しい。木を42本倒す必要がある。鉄の斧でも3時間以上かかるし、石の斧だと5時間はかかる。

 それに今後どうなるか分からない。今の所は水薬ポーションは毎日数本交易ボックスに並んでいる。けれど、明日は無いかもしれない。イレギュラーなイベントが起こる可能性もある。だったら備蓄もしておきたい。

 その辺をクリアして、野宿セットに頼らない生活にしたい。最低限は家が必要だと思う。けど、そんなのまだまだ先の話で検討もつかないや。


 そんな訳だから、暫くは安定した生活の確保を最優先にしたいんだよ。甲斐性無しかもしれないけど、これが事実だ。男として情けない? ああ、そうともさ! 堂々と胸を張って言うね。俺は情けない男さ! だけど、今にみていろ。俺はビックな男になってやる! 気分的には後ろに『ドン』って効果音的文字が出る位に気合いを入れるのさ!


「……分かりました。それじゃあ、家を建てるのを目標にしましょう! 安定した生活は大切ですからね。それなら問題ないですもんね!

 それとビックになるってどういう事ですか? そっちは分かりません。身長差がありすぎると生活環境を合わせるのが大変なので、今のままで充分と思います!」


 バッチリ声に出していた様だった。まだVRギア特有の感覚に慣れていないって事か。

 クロ―シアはぷりぷりと怒りながらも、口元はにへらぁとだらしない笑みを浮かべ、耳がピコピコと小刻みに動いて上機嫌な様子だった。器用だと思う。

 口調も何となくだけれど落ち着いてきた感じかな。フランクって訳じゃないけれど、以前の様な壁は全く無い。だから、それが自然体で良いのだと思う。


 この日からは俺はいつも通りに伐採作業だが、クロ―シアの方は新たにする事が増えた。ロープと寝袋でツェルトを作り、その下でロープをまたうってもらう。ロープはいくらあっても困らない筈だから。

 お昼ご飯の1~2時間前には帽子を被って日の下で作業をしてもらう。昼食の後に日課の水薬を手塗りするから、ダメージの蓄積とかの影響が一番少ないタイミングだと思ったからだ。


「今日は1時間だけど、日の下に出てみてどうだった?」

「う~ん、あまり違いが分かりません。ひょっとしたら、これくらいなら大丈夫なのかもしれませんね」

「そうかもしれないけど、慎重にだぞ」

「はい。でも、また具合が悪くなったら優しく看病して下さいね」

「それは心からしてやるけど、だからって無茶するなよ」

「はい。無茶する時はイソカに一言断ってからにします」


 食後は15時位まで俺は伐採、クロ―シアはロープ作りをして、その後は昨日発見したつたの取れる場所へと採集に向かった。こんな感じを当面の間こなすつもりだ。


「今日も蔦が沢山採れましたね。ロープや帽子以外にも作れたりする物はあるんですか?」

「そうだな、カゴや手提げ式のバッグ、大きいのだとムシロ――草の敷物な。この辺は欲しいかな」

「色々と使いでがありそうですね。腕がなります!」


 クロ―シアは気力充分だ。俺は、後は何が必要かな……と頭を捻っていると気が付いた。いや、むしろ何で今まで気が付かなかったんだろうか。自分の気の回らなさに自己嫌悪してしまう。


「クロ―シア、今更で申し訳無いんだけどさ、裸足で痛くないか?」

「足ですか? 大丈夫ですよ。この辺りは小石なんて全然落ちて無いですからね」


 そうか。痛くないのか良かった。良かったけど、良く無い。女の子を裸足で歩かせちゃダメだろうよ。ホント何で最初の外観設定の時に、靴まで気が向かなかったんだろう。

 本当に今更なんだけど、気持ちの問題もあって拠点まではクロ―シアを背負って帰る事にする。前の様にリュックに体を入れて頭だけ出した形だ。


「リュックの中に体を入れてるとさ、他のアイテムと体がぶつかったりはするのか?」

「そうですね、そんな感じは無いですね」

「そうか。それとさ、これも今思いついたんだけど、日中に日よけで今みたいな感じで過ごすってのはどうだ?」

「……イソカがどうしても、と言うのならそうします。むしろそうすべきでしたね。水薬の消費が押さえられますから……」


 クロ―シアの声が一気にしぼんだ感じになる。これは失言だ。そうだよ。これじゃ何もできないじゃないか。せっかく今日から新しい作業を始めたのに。

 それに、これはゲームだけどそれだけじゃ無くて、AI開発も兼ねている。つまりは、クロ―シアとのかかわり方をどうするかってのは大切にするべきなんだと思う。だから俺は彼女を単なるゲームのキャラクターとしては扱いたく無い。


「いや、忘れてくれ。ごめんなクロ―シア。君は物じゃ無い。本来ならこんな感じで背負うのも間違いだ」


 一旦リュックを降ろしてから、クロ―シアに出てもらって、直に背負い直した。リュックはクロ―シアに背負ってもらっている。


「……イソカ。有難うございます」


 拠点に戻ってから俺は、急いで草履ぞうりを作った。鼻緒はなおだけでは動くとずれるかと思って、踵や足首に回すストラップもつけてサンダルにする。


「凄いです! イソカ! 飛び跳ねても足が痛くありませんよ!」


 クロ―シアは文字通り飛び跳ねて喜んでくれた。何だよ。やっぱり足が痛い時があったんじゃないか。ピョンピョンと何度もしていて、その度にスカートがふぁさ! ふぁさ! っと翻る。ぱ、パンツが見えそうになるから、もうちょっとお淑やかにね。目のやり場に困るよ。

 暫く繰り返していると、クロ―シアは何を思ったか、いそいそとサンダルを脱ぎ始めた。


「イソカ! 1つ閃いたんですけど、いいですか?」


 彼女は俺を交易ボックスに促す。


「ひょとしたらこのサンダルは売り物になりそうです。箱に入れたら値段が判定されるので、試してみてください」

「入れてみるけど、売らないぞ」

「もちろん、イソカが私に作ってくれた物なんですから、そんな事言いません。ただ、良い値段が付けば、私も作って売れる様になりたいんです」


 なるほど。納得だ。そうしてサンダルを交易ボックスに入れてみると、値段は薪20束相当に算出された。内職にしたらちょっとした物かもしれない。因みに、帽子は10束、ロープは20メートルで1束だったので、売り物にはサンダルが一番効率も良いだろう。


「これで、私も自活できそうですね!」


 その後は遅くまでかかってサンダルの作り方をクロ―シアに教えた。彼女は、これを覚えれば直接生活に繋がるとあって、真剣だ。でもとっても楽しそうだった。

 クロ―シアは感情が豊かだし、さっきみたいに閃きを得たりする。もう、AIとしてかなり高い完成度なんじゃないだろうか? こういうのは全然詳しくないけれど、AI開発ってもっと先があるのかな。未来はもっと凄い事になっていそうだね。


「イソカ。明日から目指せマイホームです」

「そうだな。頑張ろうぜ。それじゃ、お休みな」

「はい、お休みなさい」


 朝は機嫌が悪くても、夜は心地良く寝られたら、きっとその日は良い一日になるのだろうな。そう思うと、昨晩の俺の行動はクロ―シアにとって辛い事だったんだろうと、今になって思い至る。これから先は、すれ違っても話し合い、喧嘩しても仲直りして寝られるようになりたいなと心に思い、俺は眠りに落ちていった。





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