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星に願いを~ものぐさ勇者の異世界冒険譚~  作者: 葉月幸村
第3章 いざ! ダンジョン!
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3-14 ささくれだった違和感

 2戦を終えて、この日の訓練は終了となった。

 その場で解散の号令が出されるが、どのパーティも反省会のようなものを個別に始めだしたので、全員がその場に残っていた。

 ガロンから受けた講評をもとに、自分たちが感じたことなどを交わしながら振り返っているらしい。


 俺達も自然とそれに倣い、訓練スペースの一角に腰を降ろして反省会をすることになった。


「まずは、お疲れ」

「おつかれ~」

「お疲れ様」

「楽しかった~」


 それぞれ俺の呼びかけに応じる。アルは初めての対人戦ながら持ち前の能力をいかんなく発揮してくれた。

 内容を見ても、今後の旅のなかで大いに頼りになるということが再確認できたといえるだろう。


「今日の収穫はなんといってもアルだな」

「そうね」

「確かに」

「えへへ~、ありがとう」


 アルは耳をピョコらせて嬉しそうだ。

 実際、初戦で俺の指示に即座に合わせたことで幸先よく一人を退場させたし、2戦目もしっかりと一人を受け持って持ちこたえていた。

 類まれな恩寵持ち相手に素晴らしい活躍だったといえるだろう。頼もしい限りだ。


「とはいえ、無理はするなよ? 今日はあくまで模擬戦だったから大怪我の危険性は少なかったけど、いつもそういう訳にはいかない。俺達だって少しの油断で窮地に追い込まれる可能性だって十分あるんだから、危ないと思ったら下がることも立派な判断だ」

「うん! 分かったよイオリ兄ぃ」


 素直に頷くアルの頭を一撫でして、俺は白石とエルザに視線を向ける。


「二人に関してはこれまで通り息もあってたと思うし、特に言うことはないかな」

「そうね。それにしても、やっぱりあなた達のお仲間もかなりの使い手ばかりね。シルフの力を借りないと到底持ちこたえられなかったわ」


 エルザは先ほどの戦闘を思い出しているのか、心なしかうっとりとした様子だ。

 よほど剣聖持ちとの戦いがお気に召したと見える。


「楽しそうだったもんね」

「えぇ。イオリ達が合流してきてからはさすがに戦力差ですぐに終わってしまったけれど、また是非再戦したいわね」

「そんなにか?」

「えぇ。まだ始めたばかりであれほどの鋭い剣戟を放てるなんて普通はありえないもの。あなた達の規格外っぷりを見ていなければ到底信じないでしょうね」


 エルザがここまで手放しに褒めるということは、他の連中も間違いなく一級品の素材を持っているということだ。俺は剣については完全に門外漢の状態なので相対しても実力を測ることはできないのでふ~んという感じでしか聞けないのだが。


 ともあれ、手短に細部について意見を交わしてこうして俺達の反省会は終了。

 俺達は自室に戻ろうと立ち上がる。すると、


「陽和」


 佐伯が白石に声を掛けてきた。


「梓、どうしたの?」

「よかったら、今日は一緒に夕食を食べない?」

「えっ?」


 佐伯の後ろには数人のクラスメイトの女子がいた。

 俺達は佐伯の意図をすぐに察して白石に声を掛ける。


「行って来いよ」

「......うん。ありがと」


 佐伯以外の女子はまだ固い雰囲気が感じられたが、白石は俺達に明るく微笑んでそちらの方へと歩いていった。広間で夕食をとるのか、どこか店に行くのかは分からないが、佐伯も白石がもう一度クラスメイトとなじめるように気を遣ってくれているらしい。

 愛姫たちも白石の背中を嬉しそうに見つめていた。


「さて、俺達も帰って夕食にするか」

「そうね」

「ボク、お腹ペコペコだぁ」

「愛姫も~!」


 こうして、俺達は揃って訓練施設をあとにし、夕食を摂ってから一日を終えたのだった。


 翌日。

 朝食で白石と顔を合わせて話を聞くと、昨日一緒に食事を食べた女子たちとは楽しく過ごせたらしかった。

 まずは白石が詫びを入れ、佐伯の援護もあって徐々に打ち解けたんだとか。

 ただ、佐伯が声を掛けたものの断った女子も何人かいたらしい。だが、


「それは仕方ないわよ。でも、今はダメでもいずれまた話せるようになるかもしれない。

 ひょっとしたら、あたしも相手のことを嫌いになるかもしれないし。好き嫌いなんて誰にでもあると思って深く考えずにやっていくわ」


 朗らかに俺達に宣言した白石の表情からは、もう微塵の迷いも感じられなかった。

 万人に好かれようと手を尽くし、自分をひたすらに追い詰めていた白石はもういない。

 嫌われることを受け入れ、妥協し、割り切って人付き合いをしていく。

 それはある種の諦めなのかもしれないが、畢竟人間とはそういう生き物なのではないだろうか。


 生理的に嫌い。なんとなく気に入らない。運命の赤い糸。一目ぼれ。

 論理的に説明の出来ない好き嫌いというものは誰しも少なからず存在する訳で、誰しもそれらと自分のなかである程度の折り合いをつけて生きている。


 白石もようやくそれらの仲間入りをしたに過ぎないのだ。

 これまでが周囲にそうさせてもらえなかったし、自分でやろうとしたときは完璧にやろうとし過ぎたのだ。

 ようこそ人間の世界へ。

 まぁ、そもそも人付き合いをほとんどしない俺に語られたくもないだろうから偉そうに口に出したりはしないけどね。


 朝食を終え、俺達はダンジョンに向けての準備を開始した。

 とはいっても、特に大きな荷物があるわけではないし、諸々の物資はオラクルで夕暮れの鐘に行って調達する予定なのでさほど時間はかからない。

 

 礼服などを持って行っても仕方ないので、着替えとして持っていくものと、王都に置いていくものの選別を手短に終えると俺はふぅっと一息。

 一応前に軽く伝えてはいたが、一応一言挨拶しておこうと思って俺はお付きのメイドさんにエリィにアポを取ってもらえないかと相談する。


 すぐに確認にいってくれ、10分ほどで戻ってくると、今なら時間が取れるということだった。

 俺は指定の広間に足を運ぶ。

 ノックしてどうぞという返答のあとに扉を開けると、エリィが微笑みながら椅子に腰かけていた。


「悪いな。急に」

「お気になさらないでください。ちょうど予定が空いていて読書をしていただけですので」


 エリィに促されて向かい側の椅子に腰を降ろす。


「ご用件というのは?」

「前に軽く伝えてたと思うんだけど、明日オラクルに発つから挨拶しとこうと思ってさ」

「そうでしたか。いよいよダンジョンに挑まれるんですのね」

「そうだな。初めてのダンジョンだし、無理はしないようにするつもりだ。先遣隊ってことだから、できる限り奥まで潜るつもりだけどな」

「不二さんたちのお力であれば5層のダンジョンの攻略など造作もないと思いますが」

「万が一があるからな。経験としては願ってもないけど、それで死んだら元も子もないし」

「おっしゃる通りですね」


 そんなとりとめのない話をしているうちに、お付きのメイドさんから俺にも飲み物が出されて口をつける。

 味わいに舌鼓を打っていると、


「不二さんには本当に驚かされてばかりですね」

「ん?」


 エリィが不意に口を開いた。


「昨日の試合、不二さんの戦い方は本当に素晴らしかったです。複数の恩寵を使いこなしているのはもちろんですが、転移魔法にあんな強力な使い方があるだなんて」

「あぁ、プリズンゲートか」

「えぇ。昨日あれから私も見よう見まねでやってみようとしたのですが、とても戦闘中に発動できるような速度では構築できませんでした」

「まぁ、俺も結構練習したからなぁ」


 俺は地道な練習の日々を振り返る。

 プリズンゲートの着想自体は旅に出る前から思いついていたものの、実戦で使えるレベルに到達したのは結構最近のことだった。

 エリィも同じ転移魔法の使い手として思うところがあったのだろう。


「そういえば、不二さんは人の心理を読むのがお上手なのですか? 配置や対応がとても素早かったので」

「どうだかな。裏をかくとか、嵌めるとかなら割と考えられるけど、気持ちとか心情になるとさっぱりだ」

「あらあら、白石さんも苦労されることでしょうね」

「エリィまでそんなこと言うのかよ」


 俺がげんなりとした顔を見せると、エリィはクスクスと小さく笑い声をあげる。


「すみません、でもやっぱり気になるじゃないですか」

「いずれ答えはだすさ......出来るだけ早く」

「そうですか。幸せな答えになるといいですね」

「幸せねぇ」


 エリィの優しい言葉に俺は曖昧な答えしか返せなかった。

 適当にそうだなと返しておけばいいはずだ。なのに、このときの俺には、エリィの言葉がどうにもすんなりと心に入ってこず、どこかささくれだった部分に引っかかったような感覚がして仕方がなかった。

 どうしてこんな感覚を覚えるのか、それすらも分からぬまま、気づけばカップの中身は空になっていた。

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