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星に願いを~ものぐさ勇者の異世界冒険譚~  作者: 葉月幸村
第3章 いざ! ダンジョン!
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3-13 2戦目

 2Fスペースに戻ってベンチに腰を降ろす。

 白石たちも俺にならって席に座って、ふぅっと一息。

 そこまで激しく消耗したわけではないが、不測の事態などが起きてもいいようにきちんと集中していたため、それなりの疲労感を感じてはいた。


 白石が俺のとなりに腰掛けて話しかけてくる。


「相変わらずキツイこと言うわね」

「ん?」

「さっきの」

「あぁ」


 朝倉とのやり取りを言っているらしい。とはいえ、白石の口調や雰囲気からも非難めいたものは感じられない。白石も、俺たちとの旅の中で命のやり取りを経験している。それは朝倉たちも同じかもしれないが、人間相手に戦闘をした経験はまだないみたいだし、俺達の方が場数を踏んでいるといえるだろう。

 だからこそ、俺の言ったこと自体に異論があるわけではなく、言い方に対して苦言を呈しているのだろうと推察した。


「喧嘩腰で来る相手にいちいち配慮なんてしてたら割に合わないからな。

 オブラートになんか包まずに、真正面から全否定くらいでちょうどいいだろ」

「あんたいつか刺されるわよ」

「常時背中にゲートを展開しとこうかな」


 俺の返しに白石は処置なしといった感じでため息をついた。

 白石の配慮なんだろうが、敵対的に来る相手にわざわざ気を使うほどの器量を俺は持ち合わせちゃいない。

 そんなことに思考のエネルギーを使うくらいなら、効率的にそれを排除する方向に回した方がよほどマシだと思えた。


 さて、各パーティそれぞれが1戦終えたわけだが、まだ魔力には十分余裕があるということで、もう一戦が行われることになった。


 こんどは俺達は2戦目だ。1戦目は朝倉という読みやすい存在がいたので作戦を立てやすかったが、次はそうもいかないだろう。おそらく何らかの変化を与えてくるはずだ。


 どんなパターンで来るかを脳内で考え、俺達は先ほどの戦闘から変更を加えて望むことにした。

 前の試合が終わり、俺達は再び訓練スペースへと降りる。


 対戦相手のパーティは油断なくこちらを見ており、先ほどのようにアルを幼子だからと甘くみるようなことはしなさそうだった。


「準備はいいかな?」

 

 ガロンが問いかけ、俺達がそれぞれ首肯すると、開始の合図がかかる。


「それでは、始め!」


 開始の合図とともに、相手の前衛二人が一斉に駆け出す。

 狙いは......俺だ。


 なるほど。たしかにこのパーティの要は俺だ。俺を倒せば一気に形勢が傾くと判断したのだろう。

 攻撃魔法も俺目掛けて放たれていた。


 しかし、俺への集中砲火は想定されうる最も大きな可能性でもある。

 俺は落ち着いてゲートを発動し、空中へと逃れる。

 攻撃がかわされた剣聖持ちの男子は、俺が地面に降り立つ瞬間を狙っていたようだが、俺はその想定を裏切るように次の魔法を発動した。


『フライ』

「えっ」

「はぁ!?」


 相手パーティの面々が呆気にとられる。

 飛行魔法はどうやらお目にかかったことがなかったらしい。王都なら使い手がいてもおかしくないと思ってたけど、案外いないもんだな。


 こうして相手の初手が空振りに終わったことで、攻撃の手番はこちらへと移った。


「獣覚」


 アルが金狼の力を解き放ち、相手の盾職へと飛びかかった。


「くっ」

 

 アルがその持前のスピードを生かして縦横無尽に駆け回って隙をうかがうが、さすがは防御系最強の恩寵だ。

 先ほどのような不意打ちでない限り、その耐久を崩すことは獣覚したアルでも難しいらしい。

 とはいえ、アルの攻撃を弾き返し、なおかつ攻撃に転じるほどの余裕はないのか、剣聖の援護を待っているようだった。


 その剣聖持ちはというと、


「さぁ、近接戦闘最強の恩寵の力、私に見せてちょうだい!」


 あちゃ~、これもうエルザさんスイッチ入っちゃってますね。

 頬を上気させ、興奮した様子のエルザと激しい戦闘に突入しており、とてもではないが援護に回れるような状態ではなさそうだった。


『瞬光』

「まぁ、なんて鋭い踏み込みなのかしら」


 以前朝倉が俺に放った高速の踏み込みからの突き。しかし、エルザはそれを同速で下がることで回避するという芸当を見せていた。傍目には理解しがたい動きだが、シルフの加護を発動しているのだろう。

 エルザの周囲にはひゅんひゅんと風が巻き起こっており、通常では予測できない動きで相手を翻弄しながら、戦闘を楽しんでいるようだった。


 これで相手の前衛は抑えた。

 俺は相手の後衛魔法職を標的に定める。白石にスペルマスター持ちの女子を任せ、俺はアークロード持ちを相手にすべく移動を開始した。


『全ての加護を ブースト』


 相手の支援魔法が発動するが、俺はお構いなしに接近。

 すると、


『燃え盛る炎蛇よ 相手を食らうまで這い回れ』

「おぉ」


 俺は思わず感心の声を上げる。

 目の前に炎でできた巨大な蛇が現れ、俺を食らおうとその大口を開けて突っ込んできたのだ。

 見たところ、威力自体は抑えられているのが分かる。炎とはいえ、通常の無属性の魔力に微量に火の属性を混ぜただけの代物だ。とはいえ、食らう訳にはいかないので身をよじって躱す。


 反撃に出ようとしたところで、俺はこれまでに経験したことのないことを目の当たりにする。なんと、躱したはずの蛇がこちらへと向き直って再度向かってきたのだ。

 俺は発動時に唱えられた言霊を思い出す。

 そうか、あれは追尾機能を付与しているのか。うまいこと考えたもんだ。俺は魔法を放った相手の女子に視線をやると、真剣な目で魔法を操っているのが見て取れた。

 

 おそらく、かなり緻密な魔力のコントロールが求められるはずだ。

 同じ魔法使いとしてその難易度が想定でき、俺は素直に内心で称賛を送っていた。しかし、


「相性をもう少し考えるべきだったな。『ゲート』」

「えっ」


 まさに炎蛇が俺を呑み込もうとしたその瞬間、俺の姿は地面に沈み込むようにして消失する。


「どこに」


 首を振って俺の居所を探すが、俺の姿を捉えたときには時すでに遅し。


『風弾』


 俺は背後に転移して数発の魔法を放った。

 ここですぐさま炎蛇の魔法を解除して最速で攻撃ないしは防御の魔法を発動していれば防げたかもしれないが、発動したまま炎蛇を俺まで向かわせようとしたことが裏目に出てしまったのだ。

 炎蛇が再び俺めがけて動き出すころには、魔法が着弾して数メートル吹き飛ばされる。


「死亡判定だよ。速やかに下がってね」


 ガロンの判定もあり、俺達は数的優位に立つことに成功した。

 あとは白石に合流して手早く支援職の生徒を無力化し、残すは剣聖とイージス持ちの前衛男子のみ。 

 後方からの魔法による援護もなくなり、数的にも不利に立たされたことで大勢は決していた。


 まずはアルに合流して3対1で退場させ、残り一人になったところでガロンが試合終了を告げる。


「お疲れ様。今回もイオリたちは危なげなかったのかな?」

「そうですね。俺に攻撃が集中することは結構想定しやすいので、そうなったときにどう躱すか、相手の意表をつくかというところまでは考えてました」

「うん、さすがだね。それにしても飛行魔法まで使えるなんて、まずは君のことを調べさせてほしいくらいだよ」

「勘弁してください」


 俺のうんざりしたような返答にガロンは楽しそうに笑みを浮かべる。


「ところで、イオリは相手にしてみてどう感じたかな?」

「そうですね。作戦自体は悪くないと思います。相手の要を潰すのは戦闘における基本でしょうし。

 ただ、それはさっきも言った通り当然仕掛けられる側も想定している訳で、初手が防がれた場合の2の矢、3の矢を用意しておく必要があるでしょうね」


「うん、他にあるかな?」

「そうですね。あとは、魔法の相性ですかね。さっき俺に放たれた魔法は正直驚きました。追尾機能ってのはこれまで考えてなかったので。ただ、俺は転移魔法の使い手です。瞬間的に移動する相手に使う技としては向かないような気がします。とはいえ、自分の周囲の殲滅とかには使えるでしょうし、参考になりましたね」


 俺の言葉に相手パーティのアークロード持ちの女子は驚いたような顔をしていた。

 まさか俺がいきなり褒めるなんて考えてもみなかったんだろう。

 失礼な。と内心で不服に思っていたが、ガロンが話し出したので口に出すことは出来なかった。


「うん、イオリはさすがよく見ているね。確かに、イオリが転移魔法を発動したときは、即座に自分の周囲に防御魔法を展開した方がよかっただろうね。当然イオリも対処してくるだろうけど、あそこですんなりと死亡判定を食らったりはせずにもう少し粘って戦えたはずだよ。他にも......」


 ガロンの講評があとしばらく続き、俺達のこの日の訓練は終了となるのだった。


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