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星に願いを~ものぐさ勇者の異世界冒険譚~  作者: 葉月幸村
第3章 いざ! ダンジョン!
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3-4 式典

 俺たちに対しての褒賞の発表が終わってからは、場所を変えての立食パーティが催された。

 国王以下、王国の重鎮もこぞって参加しているらしい。

 それだけ、今回俺たちが挙げた功績が王国を助けたということなのだろう。


 ここ最近、王国は領土の拡大を行っていない。

 しかし、貴族の数は世代を経るごとに増えていく。

 増える貴族に対して国土および役職が追い付いて行かないのだ。

 

 鎌倉幕府の衰退の原因を例に挙げるのが分かりやすいだろう。

 幕府と御家人の間にあった”御恩と奉公”という絶対の信頼関係。

 幕府は御家人に対して領地の支配を認め、手柄を立てれば恩賞を出す。

 御家人は幕府に何かあったときは命がけで働く。

 この関係ははるか江戸時代まで続く支配者と武士の主従関係だ。

 

 しかし、その関係がとある事件で揺らいでしまう。”元寇”だ。

 御家人たちは国の危機に対して命の限り戦い、2度の侵略を食い止めた。

 しかし、この戦いは他国の侵略者を追い返したものであり、幕府には恩賞として御家人たちに差し出せる新たな領地がなかったのだ。


 これによって鎌倉幕府と御家人たちの信頼関係は大きく揺らぎ、その権威を失墜させることとなる。


 ほかにも、分割相続によって世代交代ごとに領地が細分化されたことなども大きな原因として挙げられるのだが、要するに、今この王国も、当時の鎌倉幕府に近い状態という訳だ。


 どれだけ貴族の世襲の規則を厳しくしたりしようと、何がしかの手柄で貴族の地位を得る者は現れる。

 いくら領地をもたず、法衣貴族にとどめたとしても、その俸給の支払いもバカにはならないのだ。


 そんなとき、2つの大都市の領主が不正により一族ごと”改易”となった。

 領主以外にも携わった貴族は改易となったため、かなりのポストが空席になったことで、新たに多くの貴族をその空いたポストにつけることができるようになったという訳だ。


 国王や中枢のお偉方にとっては、不正を暴いたということよりも、そちらの方が有難かったのだろう。

 加えて財産を没収して国庫も潤ったとなれば、このような大仰なセレモニーも頷けるというものだった。


 ともあれ、そんな小難しいことはさておいて、とにかく食事だ。

 すでに愛姫とアルはお皿に色んな食べ物を山盛りにしておいしそうに食べている。

 みれば、第2王女のルミアナも近くにいる。

 まだ幼いので獣人に対しての偏見もないのだろう。3人で楽しそうに食事を取っていた。


 俺が皿を取って食事を取りに行こうとすると、背後から見知った声がかかる。


「イオリ様、本日はお招きいただき誠にありがとうございました」


 見れば、ロイとオーウェンがきっちりとした正装で立っていた。

 この式典に招待したい人がいるかとエリィに聞かれたときに、俺が指名したのがこの2人だ。


「とんでもない。二人には頑張ってもらわないとだから。よろしく頼むよ」

「お任せください」


 ドンっと胸を叩いて見せるロイに心強さを感じながら、俺たちは連れだって食事を取りに行く。

 いざ料理を盛り付けようとしたその時、


「いやはや、あなた様が本日の主役の不二様ですかな。お初にお目にかかります。私はバウル・サルザードと申します。王都にて内務官に就いておりまして、以後お見知りおきを」

「は、はぁ。初めまして」

「いやぁこうしてお話しできて光栄至極。どうですかな、あちらのほうでぜひ今回の武勇伝をご披露いただきたいのですが」

「おぉ、是非某も窺わせていただきたいですな。申し遅れました、某は......」

「私は......」


 とまぁ、気づけばあっという間に囲まれてしまったわけだ。

 今回の一件で、俺たちのパーティがかなりの強さを誇るということ、加えて俺が複数持ちであるという噂が露見してしまった。

 俺の転移魔法が持つ有用性は計り知れない。長距離を一瞬で移動することのできる力は、巨万の富を生み出すことも容易だ。それ故に、こうして俺に近づいて利用しようという輩がわんさかと殺到することがあらかじめ予想されていた。


 もちろん、白石やエルザも俺のパーティの一員だが、リーダーが俺である以上、メンバーといくら親密になろうとも旨味は少ないということで、二人は気ままに食事を楽しんでいた。うらやましい。


 俺は小声でテレパスを発動し、エリィとロイたちにSOSを送る。

 すると、一瞬の目くばせでロイたちが人ごみをかき分けて俺の腕をつかみ、


「イオリ様。エリシア王女殿下がお話しされたいことがおありです。恐らく、我等の専属契約の......」

「それはそれは。皆さんすみません。王女殿下のお召しですので一旦失礼させていただきます」


 舌が浮きそうな台詞を吐きながらその場を後にし、エリィの元へ向かう。

 俺を取り逃がした貴族連中は悔しそうな表情を浮かべたり、ロイたちを睨み付けていた。


 彼らからすると、俺たちと仮にお近づきになれたとしても、夕暮れの鐘と俺たちの間にある専属契約が邪魔で邪魔で仕方がないのだ。そんな専属契約の契約先であるロイたちに話の腰を折られて、不快な様子を隠すことが出来なかったらしい。


 俺の転移魔法を利用しようとしたとしても、専属契約があるので、夕暮れの鐘を通さずに依頼をするというのはルール違反になる。それで、せめて俺と個人的に関係値を築いておこうと、この場の貴族の多くが虎視眈々とその機会をうかがっているのだ。


 まぁ俺としては、こういう面倒から逃げるためというのがロイたちと専属契約を結んだ最大の理由といってもいいのだ。ここはロイたちにフル回転してもらわないと専属契約を結んだ意味がないというものだ


 ともあれ、ロイたちのおかげで面倒な貴族との接触を回避した俺は、エリィに早速話しかける。


「エリィ、話が違うぞ。式典に参加する条件は俺にできるだけ貴族を接触させないことも含めといたはずだけど?」

「すみません。ですが、あの程度はかわいいものですよ? 普通はあそこから少なくとも1時間は身動きが取れないでしょうから」

「......嘘だろ?」

「もちろん本当ですよ。それに、おそらくこれからお近づきの印として不二さんのところに凄まじい量の贈り物が届くと思います」

「待て、まだ一言も挨拶してないぞ」

「そんなことは関係ないのです。話しかけてしまえば、先日お話しさせていただきましたという名目でおそらく何がしかを送ってくる筈ですよ。もちろん、お返しは必須です」

「面倒くせぇ!!」


 俺は小声で血を吐くように呻く。

 どんだけ面の皮が厚い連中なんだ! 頼んでもない贈り物へのお返し? ふざけんな!!

 あまりの面倒くささに俺は対策を考えることすら放棄し、殿上人の力を頼ることにする。


「面倒くさいです。助けてください。エリシア様」

「清々しいまでにストレートに王女の地位を利用しに来ましたね。とはいえ、このままでは私も不二さんに嘘をついたことになってしまいます。それではこうしましょう」


 エリィの案は、

 俺たちは明日にも王都を経つことになった。

 しばらくは夕暮れの鐘のあるオラクルを拠点とし、いずれはその近辺で居を構える予定である。

 それまでは宿屋も転々とするため、どこにいるかは定かではない。という設定にしてしまおうというものだ。


 こう言っておけば、少なくともプレゼント攻勢をかけようにも送り先が分からないから打つ手がないということらしい。

 ロイ達も賛同してくれたので、俺はこの筋書きを採用することにする。


 それから、俺とお近づきになりたい貴族連中をひたすらに躱し、時にロイたちに押し付け、時にエリィに泣きつきながらなんとかやり過ごした。


 パーティが終わるころには、俺は絶対に貴族と仲良くなんかならないと心に深く誓い、一刻も早くこのしがらみから逃れるためにも王都を出たいと考えるようになっていたのだった。

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