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星に願いを~ものぐさ勇者の異世界冒険譚~  作者: 葉月幸村
第3章 いざ! ダンジョン!
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3-3 褒賞

 扉があくと、中から割れんばかりの拍手が俺たちを出迎えた。

 広々とした空間の左右両側にたくさんの人が立ち、俺たちをにこやかに出迎えている。

 

 俺たちはその中をまっすぐに歩いて奥へと進んでいく。

 俺はさらし者の気分で今すぐにでも逃げ出したい衝動に駆られながら、必死に気にしないように努めて歩いていた。

 

 さきほどまで俺にドレスを自慢していた愛姫は以前同様ガチガチに固まって動きがギクシャクしていた。 アルもこんなにたくさんの人に注目を浴びたことがないのか、耳が完全にヘタって下を向いている。

 エルザはさすがの豪胆さというかなんというか、堂々と観衆の中を風を切るかのようにあるいていた。

 白石は......どうやら俺の気分と大差ないらしい。必死に平静を装っている感じだ。


 俺たちはしばらくまっすぐに歩いて、衛兵の人たちが立ち止まるとそれにならって歩みを止める。

 すると拍手が次第に収まり、静寂が空間を支配したところでおもむろに国王が口を開く。


「此度は目覚ましい活躍をなさったようだな。お蔭で秘匿されていたダンジョンの発見、それに伴う大物賞金首の捕縛、領主の不正の露見などなど。この国にとって非常に助かる働きをしてもらった。

 一同を代表して礼を言うぞ」

「お褒めに預かり光栄です」


 自分に考えられる一番丁寧な言葉で返す。

 国王は満足そうな笑みを浮かべて俺の後ろに控える面々を見渡して言葉を次いだ。


「そこの獣人の娘はアルトリアと申したか?」

「は、はひ!」


 アルは緊張ここに極まれりといった様子でぺこりと国王に頭を下げる。

 俺は国王の様子を油断なく窺う。もし差別的な扱いをうけるようならば、俺たちはアルを庇うということを予め決めていたし、エリィにもそう伝えていた。

 しかし、国王は意外にもその頭をアルへと下げたのだ。


「エリィから話は聞いておる。なんでも我が国において苦難の日々だったとか。

 許せとは言えぬが、済まなかった。

 この国の獣人への差別は根深い。過去の戦いでの結果、多くの獣人を奴隷として使役している以上、我が国からそういった意識を取り除くのは生半なことではないのだ。だが、お主に対しては友好的であることをこの場で約束しよう」

「はい」


 一言そう言ってアルはまたペコリと頭を下げた。

 国王の言葉はこれでも十分異例のことなんだろう。差別対象である獣人に対し、並み居る臣下の前で頭を垂れて詫びを述べる。しかし、さっきの言葉を簡単に言えば、差別を禁止したりするのはできないから、お前だけで我慢してくれってことだ。


 だからアルは一言しか返さなかった。

 ”ありがとうございます” これを言ってはダメなのだ。それを言うと、自分以外の獣人への差別を認めたことになる。アルはそれを理解して、失礼にならぬようにと考えて最善の行動をとったのだ。


 当然、それでもアルの振舞いや返答に反感を持った貴族は多いだろう。

 だけど、もしそれを表だって示せば、国王の言葉に反することになるのでこの場でアルの所作を咎めるようなバカはいなかった。


 国王もアルの意思を感じたのか、


「うむ、まだ幼いと思っていたが、そなたは聡明なようだ。

 扱いに差をつけるようなことはせぬゆえ、安心するがよい。

 さて、それでは論功行賞といこうか。財務卿」

「はい」


 国王が傍らに控える男性に声をかけると、一人の細面の初老の男性が進み出た。

 財務卿ということは、もとの世界でいう財務大臣とか、財務事務次官ってところか?

 見た目はいかにも上級貴族という感じで、威厳に満ちている感じだ。


 財務卿は国王に一礼してから、巻紙をクルクルと広げて大きな声で読み上げる。


「不二伊織伯爵一行! 大物賞金首ビルスの捕縛および盗賊団の一網打尽、ビルスの操る200を超える魔獣の掃討、最大手商会”黄昏の秋風”の不正取引および、ゴア・オラクルの領主の不正の告発。

 これらの功により、全員に聖金貨100枚、不二伊織および白石陽和の両名には毎月の俸給に聖金貨1枚を追加。不二愛姫、アルトリア、エルザ・リーゼマインの3名には準男爵の爵位および俸給を授けるものとする」


 財務卿が一気に述べ終わると、わ~っという歓声と、割れんばかりの拍手がまた沸き起こった。

 俺はそのなかで算盤を弾く。えっと、聖金貨1枚が2000万円相当だから、100枚で......20億!? しかもしれっと毎月の俸給も倍にされてたよな?

 それに、愛姫たちにも貴族の位とそれに対する俸給が付くって!?


 いかんいかん!! そんな大金、愛姫に持たせるのはまだ早い!!

 見れば、とりあえずお金がもらえると分かったのか、愛姫の両目が$マークになっているような気がした。きっと何を買うか皮算用でもしているのだろう。


「あの、すみません」

「ん? いかがなさった?」


 俺はたまらず財務卿に声を上げる。

 財務卿はこちらに顔を向けて俺の言葉を待っていた。


「いくらなんでももらいすぎな気が......」

「いえいえ、今回の咎でゴアとオラクルの領主の家は改易(かいえき)

 よって、これまで彼らが裏でため込んでいた財貨を根こそぎ没収したのです。さすがは商業都市の領主だけあって、その額はすごいものでしてな。

 皆様にお支払した金額はそのうちの2割といったところです。国の財政にも寄与していただいたということで、その金額はなんら不思議ではありませぬぞ」

「な、なるほど......」


 どうやら領主ってのは様々な利権からそうとう稼げるらしい。ていうか、そこで引き下がったらダメなんだった。


「あの、すみません」

「他に何か?」

「いえ、金額については分かりました。ですが、それだけの大金をまだ幼い妹に持たせるのは教育上あまりよくないと思いまして......」

「なるほど。その齢にしてなかなかに堅実なお考えをお持ちのようですな。

 であれば、不二殿を後見人として、妹御の資産を一任するという形にいたしましょうか」

「はい。あ、アル......アルトリアについては白石を後見人ということでお願いします」

「ではそのように」


 後ろから俺のローブをぐんぐんと引っ張って愛姫が不満を表明しているが、俺は毅然と無視する。

 小学生に20億? バカ言え! 2000円で十分です!!


 こうして金銭での褒賞がまとまったところで、財務卿に代わって再び国王が口を開く。


「さて、あらかたの褒賞が決まったところで、不二殿。貴殿らにもう一つ褒賞を取らせたいと考えておるのだ」

「もう一つ......ですか?」

「左様。此度の件で明るみになったダンジョンについてだ。彼のダンジョンを発見できたのは、一重にそなたらの功績によるものだ。

 本来ダンジョンが発見されればギルドが中心となって調査部隊を派遣し、内部の構造や危険度を調査して保全利用するか、攻略してしまうかを決めるのが通例となっておる。

 しかし、領主や盗賊からの調査で、内部の情報に関してはかなり詳らかに分かってきており、その情報をもとにすると、保全よりも攻略してしまった方がよいという結論に至っておるのだ」

「はぁ」


「保全しようにもちょうど都市の中間地点ということで場所が悪い。要するに、危険を冒してダンジョンを管理するよりも、攻略してしまったほうが国庫を痛めることもなく、交通の安全も担保できるという訳だ」

「なるほど」

「そこで、今回のダンジョン攻略にあたり、その先遣部隊に貴殿らを任じたいと考えているのだ」


 おぉっとどよめきが起こるが、俺にはその意味があまり理解できずに呆けてしまう。

 国王は俺の様子にすこしおかしそうに笑みをこぼした後、会話を次ぐ。


「もちろん、ダンジョンを攻略する過程で得た魔石は自由に扱ってもよいし、途中見つけた魔道具や、もし最下層を攻略した際に得られるダンジョンの核などもそなたらの物だ。つまり、ダンジョンの先遣部隊とは、誰よりも富を独占する可能性が高いということだ」

「なるほど。しかし、すでに盗賊たちにあらかた盗まれているのではありませんか?」


 俺が抱いた疑問を口にするが、


「確かに上層については盗賊がすでに取得していたそうだが、彼らの力もそこまで強くはなかったのでな、2層までしか踏破していないそうだ。生まれてからまだ2年とたっておらぬし、あって5層。ならばそなたらの力であれば問題ないであろうと判断したのだ。

 聞くところによれば、魔物100体を殲滅する魔法を行使できるようだしな」


 耳が早いことで。恐らく盗賊が吐いたのだろう。

 できるだけ表ざたにしたくはなかったが、バレてしまっては仕方がない。

 どよめく観衆が後々俺に近づいて来ないことを願いながら、俺は国王の言葉を吟味する。


 たしかに、盗賊団で2層まで行けるなら、5層のダンジョンに俺たちが挑んでも勝算は十分にありそうだ。

 なにより、その過程で便利な道具が手に入る可能性や、ダンジョンでの戦闘の経験を得られるというのは今後を考えれば悪い話ではない。


 唯一の問題は、面倒くさい。これだけだ。

 しかし、今回の手間と天秤にかけてみても、俺の最終目標に対しては必要だろう。

 俺は振り返ってみんなと視線を交わし、了解を得てから国王に返答した。


「分かりました。ありがたく先遣部隊の役目、果たさせていただきます」

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