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星に願いを~ものぐさ勇者の異世界冒険譚~  作者: 葉月幸村
第3章 いざ! ダンジョン!
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3-2 式典の始まり

「あんたねぇ! よくもいきなりあんな真似してくれたわね! ちょっとこっち来なさいよ!

 ぶっ飛ばしてやるから!!」

「悪かったよ......ブフっ」

「殺す!! あんたを殺すと今決めたわ!! さぁ、大人しくあたしに殺されなさい!!」


 俺の魔法を全身に浴びた白石は、髪の毛はボサボサで土埃を全身に浴びていた。

 その目は怒りで爛々と輝いており、まさに怒髪天を衝くといった様子だ。

 威力は抑えていたので痛みはなかっただろうが、突然の俺の全方位同時攻撃を食らったことで完全にブチ切れていた。


 さすがにやりすぎたと思って謝ったものの、あまりに白石の姿が可笑しくてつい吹き出してしまった。

 それが完全に白石の最後の理性をプッツンさせたらしい。

 俺はしばらく白石から逃げ回り、ほとぼりが冷めるのを待つ。


 割と執念深く追いかけてきたが、俺が転移魔法まで使って逃げるので捕まえられないと思ったのか、10分ほどで鬼ごっこは終わりを迎えた。


「はぁ、はぁ、はぁ......。あんた、ホントに覚えてなさい。うら若き乙女にあんな容赦ない攻撃使うなんて、どうかしてるんじゃないの?」

「悪かったって。ひょっとしたら白石なら捌けるかもって思ったんだけど、まだ早かったみたいだな」

「くっ......。見てなさい、今に余裕で躱してやるから」

「楽しみにしてるよ。まぁあのエルザでも避けきれなかったんだし、それができるころには相当強くなってるんだろうな」

「......そうね」


 白石はしばし真剣に考える素振りを見せ、グッと握りこぶしを作ったが、ハッと我に返ったようにこちらを向き、


「って、あやうくはぐらかされるところだったわ! 訓練とはいえ、いきなりあんな魔法使うんじゃないわよ! やるならやるって言ってくれないとこっちにだって覚悟とかいろいろあるんだからね!」


 バシっと背中を思いっきり叩かれた。

 例のごとく、音のあまり出ない体の内側に突き刺すような掌底だ。

 俺が背中を押さえて呻く様子を見て溜飲が下がったのか、白石はざまぁみろとでもいうかのような顔でこちらを見ている。


「ってぇ......。これでチャラな。さて、気分転換も出来たし部屋に戻るか」

「......。そうね。あたしもお風呂を浴びたいわ。どっかの誰かさんのせいで体中埃まみれだし」

「訓練なんだから汚れて当たり前だろ?」

「微塵も汚れてないあんたに言われると無性に腹が立つわね」


 そんなたわいもないやり取りをしながら訓練施設をあとにする。


 しばらく連れだって歩いていると、向こうの方から話し声が聞こえてきて次第に近づいてくる。

 見てみれば、クラスメイトだった女子数人がこちらに向けて歩いて来ていた。


「あっ」


 白石がそいつらに気づき、一瞬立ち止まる。

 向こうも気づいたのか、会話が止んだ。


 廊下にきまずい空気が流れる。

 俺たちが王都を出る前に起きたすったもんだで、白石は自分の隠してきた素をさらけ出した。

 これまでは猫を被って接してきたと堂々とカミングアウトしたようなものだ。


 それからはバタバタと準備をするや旅に出たので、白石がクラスメイトと相対するのはあの一件以来これが初めて。どう接したらいいか困惑しているのだろう。

 それは向こうも同じことのようだ。


 お互いに無言のまま歩を進め、やがてすれ違う。

 角を曲がってクラスメイトの姿が見えなくなってから白石に目をやると、かなり気にしているようだった。目を伏せ、うつむいている白石に、俺は語りかける。


「後悔してるか?」

「えっ?」

「自分の素をさらけ出したこと」

「......してない。だけど、なんでかな、あの子たち見ると、なんか急に後ろめたい気持ちが沸いてきちゃった。ずっと嘘ついてたみたいな......」


 別にあいつらと喧嘩をしたわけじゃない。白石や俺がもめたのは朝倉だ。

 だけど、これまで白石とうまくやっていた女子達も、あの白石を見て驚いたであろうことは容易に想像できる。その驚きが、少なくともポジティブに働くことはないであろうことも。


「別にいいじゃないか。嫌われたって」

「......」

「お前の素を知って、気に入らないやつは近づいてこないし、それでもいいってやつとはこれからまたもう一度うまくやっていけるさ」

「でも......」

「今のお前はあの手帳しか頼れないわけじゃないだろ?」

「......ありがと」


 そういって、白石は俺のローブの裾をきゅっと握る。

 俺なりに精一杯の励ましのつもりだった。一緒に旅をして、苦楽を共にした白石を、他の連中といっしょくたに他人と切って捨てることはさすがの俺でもできなかった。


 それはこの間の買い物の帰り道でも感じたことだ。

 白石、エルザ、アル。

 この3人は俺の中で、これまでの人間関係よりも確実に近い存在といえる距離感になっている。

 

 だが、俺はそれを感じると同時に、これまでに経験したことのない感覚に襲われていた。

 俺の中には線があるのだ。

 自分と愛姫、それ以外を隔てる線。


 線の外側の人間がどうなろうと知ったことではない。

 俺は自分の線の内側にいる愛姫と自分のためだけに行動する。

 それを邪魔するなら容赦はしない。


 それが俺の絶対普遍の行動原理だった。

 だけど、ここ最近、そんな線にどんどんと近づいてくる存在が現れた。


 アルはまぁ、自分と重ね合わせている部分もあったと思う。

 勝手に同情して、勝手に放っておけなくなった。そうしているうちに、自分と違うアルのひたむきさにあてられてしまったのだろう。


 エルザはまだよくわからないというのが正直なところだ。

 グイグイ来られて、気づけば一緒に旅をするようになった。ギブアンドテイクの関係でしかないと思っていたが、その実力もあいまって、いつの間にかかなり頼っている部分が大きいと思う。

 大人びている分、一行の頭脳としての役割も担ってもらってるし。


 そして白石。

 自分にあからさまな好意を向けてくる同年代の異性。

 自分とまるで正反対の性格。

 対極だからこそ、俺には白石の抱えていた苦悩が理解できたし、そこから踏み出すきっかけになったのかもしれない。

 だけど、俺にはその好意に対してどう応えればいいのかが分からない。


 ただ、確実に他の他人とは違う。

 いつか答えを出さなければいけないんだと思う。思うのだが、どうしたらいいか分からないから、とりあえず今の距離感を保ったままでいたいというのが俺の正直なところだ。

 白石もそれで今は満足してるっぽいし。

 

「ほら、もうじき夕食の時間だろ? 式典まではエリィも気を効かせて俺たちパーティだけで過ごさせてくれるんだ。アルや愛姫が駄々をこねる前に浴びてこいよ」

「そうね。そうするわ」


 こうして俺たちは別れ、その後夕食を5人で食べて眠りについた。



 翌日。

 俺は謁見の間の前で他の4人の到着を待っていた。


 俺は男なので、メイクもそんなに時間はかからない。一足はやく準備を終えて待っていたのだ。

 待つこと20分、


「お待たせ~!」


 愛姫の元気のいい声とともに4人が姿を現した。


「おぉ」


 俺は思わず声を上げる。


 愛姫はピンクのフリフリとした飾りのついた可愛らしいドレス。

 アルも黄色のドレスを身に纏い、頭に可愛い花の髪飾り。

 エルザは大胆なスリットの入った蠱惑的な黒いドレス。

 白石は俺と一緒に買ったドレスを身に纏い、髪をゆるふわウェーブ?にしてやってきた。


「にいちゃん、どう? どう?」

「あぁ、バッチリだ。どこぞの馬の骨が近づかないようにしっかりと見張っとかないとな」


 愛姫は俺に満面の笑みを浮かべてその場で一回転して自分の姿を見せびらかす。

 これは本当にきちんと見張っとかないと汚い虫がわきそうだ。心しておこう。


「ボ、ボク......緊張する」

「アル、あなたは今回の式典のある意味主役よ。堂々としていなさい」


 緊張でドレスをこれでもかと握りしめているアルを、エルザがなだめている。

 さすがはエルフ。露出度の高い衣装も完璧に着こなしていた。

 アルは深呼吸を数度して、覚悟を決める。


「ど、どうかしら?」

「あ、あぁ」


 白石が俺に上目使いで聞いてくる。

 こいつのたまに見せる不安気な表情がどうにも苦手だ。いつもの白石とのギャップがありすぎてどうにもドギマギしてしまう。

 いつもの軽口を言う雰囲気でもないので、俺は抱いたまんまの感想をそのまま伝えた。


「よく似合ってる。綺麗だと思う」

「そ、そう......よかった」


 そう言って頬を赤らめて笑顔を見せる白石に若干キョドりながら、俺たちは門の前で一列になる。

 衛兵の人たちは俺たちの準備が整ったのを見計らい、


「「不二伊織様ご一行、ご入来ーーーー!!!!」」


 太く遠くまで響く声がとどろき、大きな門がごごごっと開いたのだった。

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