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2章幕間-5 レッツショッピング

 ブラック企業改め漆黒(ダークネス)商会を後にした俺たちは、オラクルの市街をぶらつく。

 今俺たちが通っているのはブランド街らしく、数多くの高そうなブティックが軒を連ねていた。


 俺はファッションに興味がないので、以前アルと出会った日に買ったローブを着まわしている。

 洗濯などは基本的に宿屋の人にお願いすればやってくれるので、面倒な作業をする必要はなかった。


 何の気なしに通りを歩いていたのだが、白石と不意に目が合う。

 すると、白石は急に顔を背けたと思ったらまた一瞬こちらをチラ見してまた顔をそらす。

 なんだ? と不信に思うが、俺はそこで以前白石と交わした約束を思い出した。


 ホトリ村への道中、俺の不用意な発言で白石を怒らせてしまい、お詫びの印に服をプレゼントするという約束だ。そういえばアルの一件が片付いてからってことで落ち着いてたんだったな。

 俺は白石の視線の意味を察して、ポリポリと頭をかく。


 こういうとき、どう話を切り出したものなのか、とんと分からない。

 そうだ、テレパスでこっそり伝えてはどうか? という考えが脳裏をよぎるが、なんかコソコソしてるみたいで気が引ける。

 

 別にみんな知ってる約束だし、慣れない気を回してもしょうがない。

 俺はそう判断して、いたって自然に白石に話しかけた。


「なぁ、ちょうど服の店がたくさんあるし、見ていかないか?」


 俺がそう切り出すと、白石はパァっと顔を輝かせたかと思うと、我に返ったのか一瞬でいつものつっけんどんな雰囲気を身に纏い、


「や、やっと思い出したのね。このまま宿屋に戻ったら蹴り飛ばしてやろうと思ってたのに」


 などと物騒な返事を返してきた。まぁ照れ隠しなのは分かっているので、俺は逆撫でしないように気を付けながら会話を続ける。


「悪かったよ。で、どうする? 王都での式典もあるし、それ用の服も買った方がいいんじゃないか?」

「そうね。戻ればメイドさんたちが用意してくれてるんでしょうけど、せっかくこれだけお店があるんだから、自分たちで選んだもので出席したいし」

「じゃあ決まりだな。てなわけなんだけど、他のみんなはどうする?」


 俺は振り返って愛姫たちの方を振り向く。

 すると、3人ともが俺にゴミ屑でも見ているかのようなジト目を向けてきた。


「にいちゃん、最低」

「うん、イオリ兄ぃ。それはないよ」

「ゴミ屑ね」


 ひでぇ。というかエルザにいたってはマジでゴミ屑として見てやがった。

 慌てて白石の方を見ると、怒っているかと思いきやただしょんぼりとしている。あの白石がだ。

 まずい、また頓死級のミスを犯したらしい。


 言い訳をさせてもらうと、二人で行った方がいいのかとも当然考えたさ。

 だけど、他の3人も仲間として式典には出るわけだし、式典用の衣装を買うなら一緒に行った方が効率がいいに決まっている。だから念のために聞いてみて、みんなが断れば白石と二人で買い物に出るつもりだったのだ。


 俺は脳内でそんな言い訳をするが、口に出したところで事態が改善するようにも思えないのでとにかく必死に白石の機嫌をなおそうと試みる。


「わ、悪い白石、別に深い意味はなかったんだ」

「えぇ、でしょうね。深い意味なんてないわよね。ただの買い物だしね。

 気にしないで。勝手にあたしが舞い上がってただけだから」


 憎まれ口が全くこない。まずいまずいまずい!!

 これは本意気に凹ませたらしい。というかまた言葉選びを誤ったか?

 俺は冷や汗が垂れるのを感じながらどうすればいいのかと必死に頭を捻る。


「深い意味がないってのはそういう意味じゃなくてだな、その......」

「いいの、分かってるから。みんなで行った方が効率的だもんね。あたしもそう思うわ。行きましょ」


 そういってトボトボと歩き出してしまった。

 俺はもはやどうすればいいのか分からず、3人に駆け寄りヒソヒソ声で助けを求める。


「なぁ、どうしたらいい?」

「ちょっと私たちにそれを聞くの? 自分で撒いた種なんだから自分で何とかしなさいな」

「そうっちゃ! にいちゃんのボケナス!」

「ヒナ姉ぇ、可哀想」

「悪かったって」

「私たちに謝ってどうするのよ」

「ボケ!」

「イオリ兄ぃのバカ!」


 3人の言葉のナイフが俺の心をえぐっていく。

 とはいえ、反論の余地もないので俺はひたすらに助けを請い続ける。


「頼むよ。式典の服以外にも好きなだけ服買っていいから!」


 そう言った瞬間、エルザと愛姫の目がきらりと光ったような気がした。


「「本当に?」」

「あっ、あぁ」

「じゃあ、ハイ」


 そういってエルザが掌を差し出してくる。俺は懐から財布を取り出し、所持金の中から王金貨3枚(600万円)を手渡した。


「これだけあれば足りるだろ?」

「そうね。助けてあげましょう。アキ、さすがの演技よ!」

「いやいや~、エルザお姉ちゃんこそ~」

「へ?」


 エルザの言葉に俺はきょとんとしてしまうが、そんな俺をしりめに愛姫とエルザはハイタッチを交わす。

 こいつらぁ......。俺から多めの予算をふんだくるために咄嗟に手を組みやがったのか!! 汚ぇ!!

 まさかと思いアルを見ると、頭に?マークを浮かべて二人を眺めていた。

 アル......お前はどうかそのまま成長していってくれ......。


 俺は詐欺師コンビにジト目を向けながら、


「さぁ、ちゃんと予算は渡したんだ。ちゃんと助けてくれるんだろうな?」

「任せなさい。アル、ちょっとヒナをここまで連れ戻してきてちょうだい」

「うん、分かった」


 アルがてててーっと駆けて、とぼとぼと先を行く白石に話しかけている。

 エルザはそれを見てから、


「イオリ、テレパスを発動して。あなたは私が伝えたとおりに話しなさい。いいわね?」

「変なこといわせるつもr」

「いいわね?」

「はい」

「愛姫にもつないどき!」

「はい」


 俺は有無を言わせぬ圧力に屈し、テレパスを発動して白石が戻ってくるのを待ち構える。

 白石は死んだ魚のような目でこちらに戻ってきた。


「ヒナ、イオリは別にあなたが考えたような意味であんなことを言ったんじゃないのよ?」

「そうだよ陽和お姉ちゃん!」

「そう? 別に気を遣わないでいいのよ? あたしはみんなと一緒でも全然構わないし」

「まぁそう言わないで。ほらイオリ、私たちに言ったことをそのままヒナに伝えて誤解をときなさい」


 エルザがそういって俺に振ると同時に、テレパスで指示が飛んできた。

 俺はどうにでもなれという気持ちでエルザの言葉をそのまま反唱することしかできなかった。


「白石、その、さっきはごめん。これまでデートに誘ったことなんてなかったから......恥ずかしくて」

「えっ」


 白石の目に光が灯り、頬がほんのりと赤くなる。

 おいおいおいとエルザにテレパスでツッコみを送るが、エルザは完全に無視して更なる指令を送ってくる。


「つい照れ隠しのつもりであんなこと言っちゃったんだよ。ごめんな」

「そ、そう。照れ隠しで......」

「あぁ。だから、改めて言うけど、これから服を買いにいかないか?」


 自分で言いながら歯が浮きそうになる。普段の俺が絶対に言わないような台詞を次々に放り込んでくるエルザに恨みを抱く反面、俺がどうやっても無理だと思った白石の機嫌が劇的に改善していることに驚いていた。


「あ、あたしはいいんだけど......」


 そういって、白石はちらりとエルザ達の方へと視線を向ける。

 エルザは即座に俺に次なる指令を送り込む。


「それなら大丈夫。エルザにお金も渡して任せたから。3人で買いに行くってさ」


 俺がそういうと、エルザ達がすぐさま合いの手を入れる。


「そうよ! だから私たちのことは気にしないで二人で行ってらっしゃい」

「愛姫たちはエルザお姉ちゃんと行ってくるね~」

「うん、ボクたちのことは気にしないで大丈夫だよ!」

「でも......」


 白石はまだ踏ん切りがつかないらしい。それを見て取ったエルザが俺に最終指令を送ってきた。


(手を握って無理やり連れて行きなさい)

「んなっ」

「? 急にどうしたのよ」

「い、いや、なんでもない」


 俺は必死にごまかしながらエルザに抗議する。


(何言ってんだよ!)

(何って、こういうときは男が潔くスパッと引っ張っていくものでしょう? 何を気にしているのやら)

(だからっt)

(うっさい! 早よ行け!)


 愛姫がそういうや否や、白石の死角から俺の尻に蹴りを叩き込む。

 俺は前につんのめり、その勢いで白石の手を握る。


「えっ」


 白石がビックリ仰天して固まるが、すでに賽は投げられたのだ。もうどうにでもなれ!

 

「「「行ってらっしゃ~い」」」


 ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべたエルザと愛姫、心からの笑顔で手を振ってくれるアルに見送られ、俺と白石はショッピングへと旅立つのだった。


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