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星に願いを~ものぐさ勇者の異世界冒険譚~  作者: 葉月幸村
第一章 転生、そして旅立ち
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1-7 100の星屑

 ゆっくりと立ち上がり、視線を上げると、美しい金髪をオールバックにし、立派な口ひげを蓄えた男性が、玉座からこちらを眺めていた。

 年はおそらく50代前半といったところだろうか。精悍な顔つきで、だらしない部分が一切ない引き締まった体つきが、衣服の上からでもわかる。


 国王とふと目があった。真っ先に立ち上がったからだろう。

 目を逸らすのは失礼かもしれない、と下手な気を回してしまい、しばし視線が交わる。

 すると、国王は満足げな笑みを浮かべて視線を外し、おもむろに口を開いた。


「ようこそ我が国へ参られた。遠い異国の方々よ。

 わが名はバリオス・ミルロード。これから魔王と相見え、その野望を打ち砕くその日まで、我が国を第二の故郷と思って暮らしてもらえたら嬉しく思う。

 この美しき国を守るため、余の持てるあらゆる物を提供するつもりだ。なのでどうか、ともに安寧を世にもたらすことができるよう、力を貸してほしい」


 イメージの中の王様像と大きくかけ離れた物腰の柔らかさだ。

 もっと威張り散らした感じで当然のごとく圧倒的上からな物言いが飛んでくるものと

ばかり思っていた。エリィの言うとおり、穏やかな人柄で間違いないようだ。


「どうやら緊張しておいでのようだが、いきなり宮廷作法を咎めるようなことはせぬゆえ、ご安心めされよ。

 先ほども申した通り、余は魔王から我が国を守るため、いかなる協力も惜しまぬし、諸君らのことは国を挙げて盛り立てる。だから変に気を張るようなことはなく、気楽に過ごしてくれればよい」


 そういって穏やかな笑みを浮かべる。

 緊張をほぐそうと気をまわしてくれたようだが、どう返事をしたものかと沈黙が続いてしまう。


 気まずい静寂が流れるが、バリオスが急に疑問を口にする。


「ところで、そこの可愛らしい少女は......? 見るからに諸君らと年齢が違うようだが......」


 視線の先にあるのはどうやら愛姫のようだ。愛姫は緊張でカチコチに固まってしまっていて、とても受け答えはできそうにない。こうなると俺が答えるしかないか......。


「この子は俺......私の妹です。私たちが先にまとめて召喚されたのですが、発現した恩寵の力で私がこちらに転移させました」


 すると、王の間がにわかにざわめく。


「恩寵に目覚めた直後に魔法を行使したと!?」

「しかも引き寄せの転移とは......」

「さすがは異国の民ということでしょうか」


 バリオスも同様に驚いた様子で


「恩寵に目覚めてすぐにそれほどの魔法を使いこなすとは......。どうやらエリシア以上の転移魔法の素質をお持ちのようだ」

「エリシア?」

「私ですよ。ワ・タ・シ」


 国王の脇から声がする。声の方に目をやると、これまた美しく着飾ったエリィが立っていた。

 緊張のせいか全く気付かなかったので少し驚いてしまう。しずしずとバリオスの横にやってきたエリィは、艶やかな髪をゆるく内巻きにさせ、先ほどよりも大人びて見える。


「やっぱり王女様だったか」

「あら、気づいてらしたんですか?」

「姓が国の名前の時点で大体の察しはつくさ」

「残念です。ここでびっくりしていただこうと思ったんですが」


 そういってペロっと舌を出す。男を転がす小悪魔がそこにいた。あぁいうことをする女に気を許してはならない。断じてならない。

 俺は肩をすくめるが、何人かは察していなかったらしく、初めて知った!! というような顔をしていた。いや、国王の姓も同じなんだから気づけよ!と心の中でツッコんでおく。


「エリシアとは打ち解けているようでなによりだ。年のほども近いようだし、仲良くしてやってほしい。年頃の多感な時期ゆえ、節度はもってもらいたいが」

「もう、お父様、そのような恥ずかしいことをおっしゃらないでくださいませ」

「はっはっは。いやすまぬ、父親というものはどうしても娘の色恋が気になってしまうものなのだ」

「もう、知りません」


 そういって拗ねたようにプイッと顔をそらす。大人びた顔立ちとギャップのある仕草に数人の男子が顔を赤くしていた。 ......お前らチョロすぎるだろ。


「この際だ。余の家族を紹介しておこう。第一王子のレグルスは遠征に出ておるので

戻ったら改めて紹介するとして...... ルミア、こちらにおいで」


 バリオスがそう言うと、エリシアが先ほど立っていたあたりから、一人の少女が歩いてくる。年はおそらく愛姫と同じくらいだろうか。エリィと同じきれいな金髪で、幼いながらも凛とした雰囲気をたたえていた。


「お初にお目にかかります。ミルロード王国第二王女、ルミアナ・ミルロードと申します。どうぞよろしくお願いいたします」


 そういって丁寧にお辞儀する。見た目はチビっ子ながら、さすがは王族と感心させられてしまった。


「エリシアともども仲良くしてくれたまえ。あとは妻のマリアナなのだが、妻は病弱ゆえ自室にて静養している。これもまたの機会に紹介しよう。

 さて、我が家族の紹介も終わったところで、諸君のこれからの生活についての話に移ろう」


「君たちには今後、我が国で何不自由なく生活できるよう取り計らうのは先ほど申したとおりだ。

 まず、君たちには今この場で貴族としての地位を授けようと思う。今後修練のなかで実績を積めばさらなる恩賞も都度図る故、励みにしてもらいたい」


 貴族。四民平等になって100年を超える日本ではまったく縁のない話だ。皇族の方々はいらっしゃるとはいうものの、普段接する機会もないため、自分たちがそういう身分になるなど夢にも思っていなかった。


「また、しばらくはこの王城で生活してもらうことになるが、君たちにはそれぞれ専属の使用人をつかわせる故、なんでも申しつけてくれたまえ」


 本当に至れり尽せりだな。彼らが俺たちを切り札として大切に扱おうとしているのは間違いないようだ。


「さて、余から伝えたいことは以上だ。昨日の今日で不安に思うことも多いであろう。家臣や君たちに魔法や戦闘技能を授ける者たちの紹介はおいおいやっていくとしよう。

 なにかこの場で質問があれば聞くが、何かあるかな?」


 そういってこちらに目を向けるが、まだ国王に話しかけるのには気おくれしてしまうのか、だれも言葉を発しはしない。

 バリオスはそれを見届けると、


「それでは以上としよう。緊張させてしまってすまなかったな。ではエリシア、これより先はそなたに任せるぞ」

「かしこまりましたわ、お父様。それでは、これより皆様の恩寵を確認しに参りましょう。私について来てくださいませ」


 エリィがバリオスに会釈して、こちらの方へ歩いてくる。

 エリィについてみんなで連れだって王の間を出ると、門の前で誰からともなく立ち止まり、一斉に盛大なため息がこぼれた。


「「はあぁぁぁぁ~」」

「皆様!? いかがされたのですか?」


 エリィが突然のことに目を白黒させて慌てる。


「いや、いきなり王様はハードルが高すぎるわ」

「周りには偉そうな人たちがズラリだし」

「怖かったぁ~」


 皆、極度の緊張から解放されたことで一気に気が緩んだようだった。

 俺も緊張してたし。まぁカチコチの愛姫を見たおかげで解けたけど。


「たしかに初めてお父様...... 陛下に会うのは緊張して当然ですね。まぁこういう事は数を重ねていけば自然に慣れるかと思いますよ」


 まぁそんなもんか。会うたびに極度の緊張状態にさらされるなんてこちらとしても勘弁願いたいし。

 それに国王は気さくな人のようだし、あと何回か会って話せば慣れるだろ。


 そんなことを思いながら、さっきまでカチコチだった愛姫を見てみると、俺の服の袖をこれでもかと握りしめたまま、一点を見つめていた。どうやらまだ緊張から解放されていないらしい。


「愛姫、もう終わったから気を緩めていいんだぞ」

「はい。大丈夫でございます」

「ほら、深呼吸しな」

「う、うん。ヒッヒッフ~、ヒッヒッフ~」

「何を産むんだアホチン」


 どうやら平常運転にはもう少しかかりそうだな。まぁ時間がたてば勝手に落ち着くだろ。しばらく放置しておこう。


「フフフ、それではそろそろ参りましょう。こちらです」


 エリィが軽く笑ったあと、再び歩き出したので、皆もそれについて行動を再開する。



ーーーー歩きはじめて5分ほど。

 とある一室にエリィとともに入る。室内には大きな机が置かれており、その上に水晶玉

を乗せた鼎と、真ん中にくぼみのある50cm四方くらいの立方体が置かれていた。


「皆様にはこちらの道具を使って恩寵を確認していただきます。

 その前に、こちらを一人1枚ずつお受け取りください」


 そう言って、俺たち全員に1枚ずつ、白い金属製のプレートを手渡す。

 

 大きさは某リンゴのマークのスマホ7代目くらいか。

 表裏を見返すが、特に文字も模様もなく、現時点ではただの金属板としか感じられない。


「今お渡ししたのはギフトプレートと呼ばれる物でございます。

 鑑定魔法と親和性の高い鉱物を混ぜ合わせた合金で造られており、そちらにこの道具を使うことで、恩寵の内容を転写することができるのです。


 また、皆様が経験を積むなかで技能・能力が向上していきますが、それもこの道具を使うことでプレートに転写して確認することが可能です。

 加えて、実績や能力に応じてプレートの色が変化いたします。今皆様の手元にあるのは真っ白な色ですが、これが成長に応じて青・緑・黄・赤・紫・黒・銅・銀・金と変化していきます」


 そういってエリィはポケットから赤いプレートを取り出す。


「たとえば私はこのようにレッドプレートです。私は恩寵の能力には恵まれているものの、

戦闘経験が浅いためにまだまだ実績に乏しく、なかなか色がランクアップしてくれ

ません。

 逆に、恩寵に恵まれていなくても、それを補うほどの実戦経験や技能があればランクアップは可能です」


 そこまで説明すると、エリィはプレートをしまって水晶玉の前に移動する。


「そしてこちらが恩寵を鑑定するオーブでございます。このオーブに手をかざすと、鑑定魔法が自動で発動して、皆様の恩寵を記憶します。

 そして、その隣にある箱型の転写装置にプレートを差し込み、上部のくぼみにオーブをはめ込みます。

 最後に、はめ込んだオーブに自らの血液を数滴たらすことで自動的にプレートに

転写されます」


 室内の謎の装置についての説明も終わり、いよいよ実践となる。

 誰から始めるか少しの相談ののち、出席番号順にやっていくことになる。もちろん俺は

その議論には参加せず、流れるままに身を任せていた。


 そんなわけで出席番号1番、クラスの代表格である朝倉が先陣をきることとなった。

 朝倉はオーブの前に立つと、緊張した面持ちで手をかざす。すると、オーブが輝きだすと同時に、朝倉の足元にギフト発現時に出現したものと似た魔法陣が浮かび上がる。


 魔法陣が回転しながら徐々に小さくなると、それに応じてオーブは輝きを増していく。

 10秒ほどで足元の魔法陣は消えたが、オーブは輝きを維持したままだ。


 そして転写装置の前にそのオーブを持って移動し、装置にプレートを差し込んでオーブをはめ込む。エリィから小さな針を受け取り、指に小さく傷をつけて血をたらすと、数本の筋がオーブを伝って転写装置に流れ込んだ。


 すると、転写装置がジイィィっと音を立て、細かく振動し始める。すると、次第にオーブから先ほど蓄えられた輝きが失われ、もとの無職透明の水晶に戻ると同時に転写装置の振動が止み、プレートが装置から吐き出された。


 プレートを手に取ると、朝倉はプレートをしげしげと眺める。


「いかがでしたか? 朝倉さん」


 エリィが尋ねると、朝倉はプレートを見ながら


「えっと、この恩寵ってとこだよな......剣聖って書いてある」

「け、剣聖ですって!? 本当でございますか?」

「あぁ...... 戦う力が欲しいって考えて、武器はシンプルに刀剣でって願ったはずだし」

「剣聖の恩寵は建国以来3名しか発現した者のいない超強力なものです。......本当に桁外れな潜在能力という訳ですね」

「そっか。そんなにいい恩寵なら戦闘でも上手く立ち回れそうだし一安心だ」


 ほっとした表情で胸を撫で下ろし、プレートを眺めながら生徒の輪の中に戻っていく。

 朝倉の周りにほかのクラスメイトがあつまり、どんなものかとプレートを覗き込もうとしていた。


 それから、順繰りに他の生徒もプレートに恩寵の転写を行っていく。どうやら異界の住人である俺たちの恩寵の力が強力ってのは間違いないらしい。他のやつの恩寵もかなり稀有なもののようだった。エリィがその都度目を白黒させてるし。


 あと二人で俺の番になる。そろそろだなと判断し、目を閉じて内なる声で体内の存在に声をかける。


(待たせたな。準備はできてるか?)

(ムロン。イツデモヨイゾ。デ、テハズハドノヨウニ?)

(あの転写装置で恩寵の名前がプレートに刻まれるらしい。そこで、刻まれるギフトの名前を、転移系魔法に優れた恩寵の名前に偽装してほしい。できそうか?)


(モンダイナイ。イツワリノナマエヲニンシキサセル、デヨイカ?)

(あぁ。ただし、今回限りではなく、継続的に偽装してくれ。いちいち願いを使ってちゃ、あっという間に使い切っちまう)

(フム、ドウヤラオロカモノデハナイラシイ。ヨカロウ、ワレノネガイヲカナエヨウ)


(助かる。じゃああのオーブに手をかざしたときに魔法陣が広がるから、それと同時に

実行してくれ)

(アイワカッタ)


 やりとりを終えて目を開けると、ちょうど俺の番になった。俺はオーブの前にいき、これまでの者と同じように手をかざす。

 鑑定魔法が発動し、足元に魔法陣ができると、その魔法陣の下に隠れるようにもう一つの魔法陣が展開される。輝きを蓄えたオーブを転写装置に持っていき、手順通りに転写を終えた。


 吐き出されたプレートを確認する。


 名前:不二 伊織

 性別:男

 種族:人間

 年齢:17

 ランク:ホワイト

 恩寵:ゲートルーラー

 属性:無

 役割:遊撃 支援

 実績:D C B A S SS SSS


 といった項目が書かれていた。恩寵の項目には”ゲートルーラー”とある。門の支配者と訳せるが、転移先を繋ぐ魔法陣を門と捉えるなら偽装としては悪くないな。


 次に装置を譲り、脇に移動して目を閉じる。


(上手くいった。ありがとな)

(レイニハオヨバヌ)

(そういえば、俺の本来の恩寵の名前ってなんていうんだ?)

(フム、キニナルカ?)


(まぁな、今後この世界で生きていくんだし、ちゃんと本来の力のことも知っとかないと)

(ヨイココロガケダ。デハオシエヨウ。ソナタノギフトノシンノナハ...... 

スィエン・ステラ。100ノホシクズヲイミスルナダ)


 ”100の星屑”

 その言葉を聞いたとき、恩寵が発現した時にふと思い出した記憶が脳裏に蘇る。

 楽しそうに微笑みかけていた両親が俺にくれた力のように思え、俺の胸は、言いようのない暖かさに満たされるのだった。

活動報告を更新しました。

引き続き読んでもいいかなと思っていただけた方は、今後ともよろしくお願いいたします。

ブックマークなどしていただけましたら幸いです。

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