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2章幕間-3 決着

 先ほどのお返しとばかりに、俺は自分の周囲に水の塊を浮かべてエルザを見ていた。

 エルザは驚愕の顔色を浮かべたあと、フッと苦笑を浮かべて語りかける。


「つくづく呆れるわ。まさか水の属性も足してたなんて」

「まぁこれは一言で済む願いだからな。『全属性を使えるようにしろ』って」

「......はい?」


 時間は遡ることほんの僅か。

 俺は自由落下の最中に、こんな会話を内なる存在と交わしていた。


(願いを使いたいんだけど、用意はいいか?)

(ムロンダ。 イッテミルガイイ)

(まずは飛行魔法が使いたい。具体的には俺のイメージどおりに空中での移動を可能にする能力だ。消費する魔力に応じて速度も出せるようにしてほしいんだけど)

(ナルホド。アイワカッタ。ホカニハナイカ?)

(ある。火以外の属性も全部使えるようにしてくれ。ちなみにこれは願い一つ分ってことd......)

(ウツケメ。カクゾクセイニツキ ヒトツダ)

(ですよね~。まぁいいや、とりあえず頼む)

(アイワカッタ)


 こうして、数度の転移魔法での上下動ののちに俺はエルザの前に降り立ち、再び戦闘を再開したというわけだ。ちなみに、火以外には水・土・風・雷・光・闇の属性があると以前王都での座学で習っており、この短時間で俺は都合6つの願いを消費したということになる。


 大盤振る舞いだが、今後を考えても飛行魔法も全属性の適性を得ることは何らもったいないことではないだろう。俺はそう考えて願いを使った。

 エルザという強者との実戦のなかで見つけた自分の弱みになりうる部分を埋めながら強化を図るのは、非常に効率のいいことだろう?


 そういうわけで先ほどの俺のセリフとエルザの素っ頓狂な声に戻るわけだ。

 エルザは俺の言葉をすぐに呑み込めないような様子だ。

 俺は水の球を維持しつつ、さらなる言霊を紡ぐ。


『風を纏え 風弾』


 唱え終わると、数個の魔力の球が、キューンという小さな風切音をたてながら俺の周囲に現れた。

 エルザはいよいよ気味の悪いものでも見ているかのようにこめかみを押さえ、


「火以外の属性も手に入れた......と?」

「そういうこと」

「これだから......」


 エルザはそう小さく呟いてしばし俯く。

 諦めたか? と思った矢先、小さく肩を震わせはじめ、とうとうあの一面が姿を現した。


「あっはははははは!! これよこれ! 勝てると思った次の瞬間にはさっきより遥かに力を増して立ちはだかる! イオリ、やっぱりあなたって最っっっ高だわぁ!!」


 見れば、エルザの頬は赤く上気し、目は興奮のあまり若干潤んでいるようにすら見える。

 荒い吐息を漏らしながらまくしたてるエルザを見て、俺はやれやれとため息を付きながら、


「出たな戦闘狂。まぁよくここまで我慢した方か?」

「そうね。ここまで予想の上をいかれて興奮せずにいられるものですか!

 さぁ、もう言葉はいらないわ。決着をつけましょう。

 サラマンダー、ノーム!! 出し惜しみはなしよ。私たちの全力を彼にぶつけてあげましょう!!」


 エルザの周囲に4大精霊が姿を現す。

 見れば、心なしかエルザの様子を見て精霊たちもテンションが高くなっているらしい。

 空中戦は俺の方が上。複数属性の同時使用による魔法の展開はエルザが上だ。

 俺は戦略を構築し、空中で先ほどまで周囲に漂わせていた弾丸を一斉にエルザに放つ。


 水と風の弾丸は、同属性の魔法で見事に相殺された。

 俺は空中を曲芸飛行のようにトリッキーに動いてエルザの狙いを攪乱する。

 避けては放ちを繰り返し、時折転移魔法での移動やカウンターも織り交ぜながら。


「くっ」


 俺がゲートでエルザの魔法を打ち返し、一瞬エルザの動きが鈍る。

 俺はそれを見逃さなかった。

 魔力を圧縮した魔力球を生み出し、言霊を唱える。


『水を纏え 弾けて広がれ ミスト』


 その瞬間、圧縮された球がはじけ、周囲を濃い霧が包み込む。

 俺とエルザは一瞬にして呑み込まれ、お互いの姿が完全に見えなくなった。

 しかし、エルザは動揺を浮かべることなく適切に対処する。


「シルフ! 霧を払うわよ」


 ゴウっ


 周囲を風が吹きすさび、立ち込めていた霧が一瞬にして掃われた。

 たちまち濃霧が消し飛ばされ、エルザは俺の姿を見つける。霧が立ち込めてから消え去るまで時間にして10秒ほど。しかし、そのわずかな時間で事態は劇的に変化していた。


『プリズンゲート』


 俺の言霊でエルザの周囲に張り巡らされたゲートが一斉に起動する。

 ホトリ村での襲撃のときのように、囲む対象は魔物100体という大軍勢ではなくエルザただ一人。

 周囲を囲むのに必要なゲートの数は圧倒的に少ないのだ。


 自分がゲートに囲まれ劣性を悟ったエルザは即座の判断で空中へと逃れようとする。

 当然の選択。このまま地にいれば自分の魔法のカウンターに加え、四方八方から魔法が殺到してエルザの敗北は濃厚だ。しかし、当然の選択だからこそ、エルザが射線から逃れるために地を蹴り空中へ逃れるという行為は俺の思惑通りでもある。


 俺はニヤリと笑みを浮かべ、次なる一手に着手した。

 対角線上にあるゲートを繋ぐ魔力の糸それぞれの中心となる位置をエルザに集中させる。そして次の瞬間、地面にそびえたっていたゲートが浮き上がり、エルザを中心座標とした3次元的なゲートの包囲が出来上がった。


「......なによこれ」

「プリズンゲート”スフィア”ってところだな。さぁ、決着といこう」

「シルフ!!」


 エルザは事態を打開するため、攻撃をかなぐり捨てて包囲からの脱出を図った。

 しかし、不規則に動くゲートが断続的に位置を変えてエルザの眼前に立ちはだかりそれを許さない。

 そして、エルザが脱出に専念するということは、俺に攻撃の魔力を構築する時間が生まれるということ。


『風を纏え 風弾』


 威力を抑え、数を重視して生み出された風の弾丸が俺の眼前のゲートを伝い、エルザを包囲するゲートから一斉に放たれる。


「きゃあぁぁぁ」


 数発をしのいだエルザだったが、上下左右から殺到するすべての弾丸を処理することはできず、背中と横腹にまともに被弾して大きく体勢を崩す。


「終わりだ」


 エルザが体勢を立て直して俺の姿を確認しようとしたその刹那。

 俺はすでにエルザの背後に転移し、その背に手をかざしていた。

 

 俺の言葉にビクリと肩を震わせたあと、エルザはゆっくりとこちらへと振り返る。

 俺が手をかざしているのを見て、いつでも追撃ができたということを悟ったエルザは、一度空を仰ぎいでから口を開いた。


「私の負けね」


 こうして激しい模擬戦は決着をむかえた。

 俺はフッと力を抜いて展開していた魔法を解除してゆっくりと地に降り立つ。

 エルザも俺に続いて地に戻り、すっきりとした様子でぐーっと伸びをしながら


「あ~負けちゃったかぁ。勝てるかもって思ってたけど甘かったわね」

「そうでもないさ。途中で力を追加しなきゃ負けてたかもしれない」

「そこで負けてたって言いきらないあたり、意地悪ね」

「さんざん俺をからかってくれたからな。少しは悔しい思いでもしてくれなきゃ割にあわないだろ?」


 俺の返答に可笑しそうに笑ったあと、エルザは獰猛な笑みを浮かべて語りかける。


「たしかに、今回は私の負けよ。でもね、今回の戦いで私も自分の課題が見えた。次はこうはいかないわよ?」

「ちょっと待て! 模擬戦は今回だけのはずだろ?」

「あら、私は一回だけなんて言った覚えはないのだけれど?」

「んなっ!」


 俺がエルザの爆弾発言に戦慄を覚えていると、


「にいちゃ~ん!」

「エルザ姉ぇ~!」


 戦いを見ていた3人がこちらへと近づいてきて口々に感想を述べる。


「二人ともすごいね! 見とってめっちゃ面白かった!」

「うんうん! 二人ともやっぱりすっごく強いんだね!」

「あんた、どんどん化け物になっていくわね......」


 思い思いの感想を聞きながら、俺は遠い目で虚空を見つめながら、”ダラダラさせてくれ”って願おうかな......そんなことを考えるのだった。

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