2章幕間-2 模擬戦
10mほどの距離をとって俺とエルザは相対していた。
俺は先ほどまでのイライラを押し殺しながら、内なる声に語りかける。
(なぁ、聞こえるか?)
(アァ。ナニヤラ ユカイナコトニ ナッテイルヨウダナ)
(他人事みたいに言いやがって! せっかくいい天気を楽しんでたのになんだってこんな激しい運動をしなきゃいけないんだよ)
(ソウイウナ。ソモソモ ソンナヤクソクヲ カワシタノハ ワレダロウ?)
(反論の余地のない正論どうも。で、ひょっとしたら途中で頼むかもしれないからいつでも応えられるようにしておいてくれ)
(アイワカッタ。ホドホドニナ)
俺は会話を切って再びエルザに視線を向ける。
エルザは喜色満面といった様子で木剣を構え、いつでもいいわよ? とでも言いたげな視線を向けていた。
「準備はオッケーみたいだな」
「当然。そっちも準備はいいかしら?」
「あぁ、さっきの茶番の借りをきっちり返させてもらうからな」
「あら怖い。今度は逃げないで......ね!!」
言い終わるや否や、エルザは地を蹴りこちらへと疾走する。
聞こえないが、口が動いているあたり、おそらくシルフの力を借りたのだろう。
俺は即座に転移魔法を発動して回避に回る。
『ゲート』
ブゥン
俺のいた空間をエルザの木剣が横凪に一閃した。
エルザは空振りに終わったとみるや、即座にクルリと振り返る。
俺の姿を見つけると、さらに先ほどよりも早く地を駆けて俺に一撃を食らわせんと向かってきた。
「くっ、『ゲート』」
たまらず俺はもう一度ゲートで逃げるが、このままだとジリ貧になるのは目に見えている。
俺はゲートから出ると同時にいったん間をとるために防壁を展開する。
『炎を纏え、逆巻き阻め 炎壁』
ゴウっ
という音とともに、俺の眼前に高さ5m程の炎の壁が立ちはだかった。
飛び込もうとしていたエルザはそれを見て接近をいったんやめ、楽しそうに口を開く。
「危ない危ない。あのまま突っ込んだら消し炭になるところだわ。模擬戦にしてはかなり本気みたいだけれど?」
「お前こそ、あんな横薙ぎまともに食らったら骨がへし折れるだろ。もう少し加減したらどうだ?」
「冗談。あんなのを食らうあなたじゃないでしょう? ほら、体もほぐれてきたことだし、続きといきましょう」
エルザが回り込んでの接近を試みる。
しかし、それを予見していた俺は、姿を現したところに火球を放つ。
「くっ」
たまらずエルザは回避するが、俺も立て続けに火球を作っては放ち、エルザに接近を許さない。
攻撃の手番はこちらに移っていた。
しかし、相手はエルザ。弾幕が厚くて近づけないとみるや、接近を諦め次なる手段に打って出る。
「ウンディーネ。あなたの力も貸してちょうだい」
たちまち、エルザの周囲にどこからともなく水が現れる。
現れた水は、渦を巻いたかとおもうと無数の球体へと変化した。
「おいおいマジか」
「忘れたの? 私は4大精霊すべてと契約を交わしてるのよ? さぁ、炎でどうやってこれを攻略するのか、見ものだわ」
エルザが手を一振りすると、エルザの周囲を漂っていた水球が俺目掛けて殺到する。
俺も火球を放つが、ぶつかった瞬間に霧散してしまい、残った水球がそのまま俺に襲い掛かってきた。
「くそっ『ゲート』」
たまらず俺はゲートで回避。
俺はいったん時間を取るために遥か上空に転移する。当然垂直落下になるわけだが、俺は内なる存在に語りかけ、願いを告げた。
地面が近くなると、自分の真下と真上にゲートを展開して時間を稼ぎ、新たな能力を得て地に降りる。
「どこに隠れたかと思ったら空にいたのね。30秒くらい姿を見せなかったけど、何してたのかしら?」
エルザは楽しげに俺に語りかけるが、その雰囲気から油断は微塵も感じられない。
むしろ、俺が確実になにか仕掛けてくると踏んでいるのか強い警戒が感じられた。
「別に何も。さすがに相性最悪だから困ったなと思ってさ。ちょっと作戦タイムをもらったまでさ」
「そう。でも次はなしにしてもらってもいいかしら? いちいち戦闘が途切れると興ざめだもの」
「それは失礼。まぁ次はないようにするよ。必要ないと思うしな」
俺の挑発を聞いたエルザはニヤリと笑みを深くして小声でつぶやく。
「そう......。いいわ、行くわよ!!」
エルザの周囲を先ほどよりも多くの水球が漂い俺へと放たれる。
俺はゲートでそれをそっくりエルザにお返しするが、エルザも予想していたのかシルフの力を借りて軽やかに躱した。
俺が魔法攻撃に対して転移魔法でのカウンターを狙っていると見るや、エルザは即座に接近戦へと切り替え再び俺の懐目掛けて疾駆する。
しばし俺は転移魔法での回避に専念するが、エルザの速度だとこのままでは危ないと判断し、先ほど手に入れた新たな力を解き放つ。
『フライ』
「えっ?」
攻撃を躱されたエルザだけでなく、戦いを観戦していた3人も驚愕に目を見開く。
「にいちゃん、浮いてる!!」
「イオリ兄ぃが空飛んでる!」
そう。俺が先ほど手に入れたのは飛行魔法だ。
他の魔法と同様に、俺のイメージに則って発動されるように条件付けしたことで、その場に浮遊することも、空を飛ぶことも可能になったのだ。
速度としても、普通に走るよりもはるかに早く移動ができる。
転移魔法の回避に加えて、立体的な機動を可能にする飛行魔法を得ることで、より行動の幅を広げようと思っての判断だった。
「さっきの間にそんな力を手に入れてたのね」
「あぁ。これで空中も自在に動けるようになった。さて、第2ラウンドといこうか」
俺は空中に浮かんだままエルザの様子をうかがう。
そんな俺に、エルザは挑発的な言葉をかける。
「イオリ、やっぱりあなたは面白いわ。だけど、一つ思い違いをしているわ」
「なんのことだ?」
「空を飛べれば私の機動力の上を行けるという考えよ!!」
そういうと、エルザは風を纏いながら地を蹴り、俺と同じ高さまで上昇してピタリと静止した。
「んなっ!」
「シルフの力はこんな風にも使えるのよ? さぁ、第2回戦だったかしら?」
俺の動揺を嬉しそうに眺めた後、エルザが再び俺に切りかかる。
先ほどとは打って変わっての空中戦。俺は飛行魔法になれるためにも、できる限り転移魔法を使わないように心掛けながら回避した。
エルザも空中を動けることに驚いた俺だったが、次第に彼我の違いが分かってきて、俺は優位を感じ始める。同時に、エルザは先ほどまで見せていた余裕が消え、焦燥の表情を浮かべていた。
というのも、俺はこの能力を得るときに、自分のイメージをそのまま実現できるように飛行魔法を取得したが、エルザの能力はシルフの力を借りてのもの。
直線的な移動は容易にできても、曲線的な移動になるとかなりスピードが落ちるのだ。
さらに、俺はどんどんとコツを掴んで空中での移動を上達させていく。
次第にエルザは空中で俺の動きを捉えることができなくなっていた。
「......ちょこまかと!!」
「おっと危ない」
力任せの上段からの一振りを俺はヒラリと躱す。
エルザは立て続けの移動と攻撃で体力を結構しようしたのか、息が上がって来ていた。
「こんなに厄介だとは思わなかったわ。空中戦ならあなたの方がすでに上ね。こんなことならもっとシルフと空中戦の訓練をしておくんだったわ」
「俺も使い勝手のいい力を手に入れられてよかったよ。さて、そろそろ攻撃のターンを俺に渡してもらおうか」
俺がそういうと、エルザは挑発的な表情で俺に返す。
「あら、忘れたのかしら? あなたの魔法の属性は火。ウンディーネの力に歯が立たない以上、あなたに私を倒す手段があるとは思えないのだけれど?」
そう。俺の火の魔法はエルザには通用しない。どれだけ放ったところで、たちまち消火されておしまいだろう。火の魔法なら。
俺はスゥっと高度を少し上げてエルザと距離を離し、言霊を唱える。
その言葉を聞いて、エルザの表情は驚きに支配されるのだった。
『水を纏え 水弾』
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