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2-44 種明かし

本日2話目の更新です。

残すところあと1話で第2章は完結です。

16時過ぎの投稿を予定しております。

(はい。しっかりとこの耳で聞き、脳に焼き付けましたわ)

(!! 誰だ!?)

 

 ビルスは俺の傍らに控えているエルザを見やるが、目を閉じたまま微動だにしていない。

 もっとも、事が思い通りに進んだことで、口元がうっすらと笑みを浮かべてはいるが。


(悪い、実はもう一人この話を聞いてもらってたんだ。エリィ、自己紹介でもしてやったらどうだ?)

(そうですね。ここまで詳らかに真相を明かしてもらっておきながら、名乗らないのもアレというものですね。初めまして、邪眼使いのビルスさん。

 私はエリシア・ミルロード。ミルロード王国第1王女でございます。以後お見知りおきを)


 ビルスは引き攣った顔で口をパクパクさせている。


(まさか領主まで絡んでたとはな)

(本当に、驚きですね)

(まぁこれで黒幕の正体も分かったわけだし、あとは一網打尽にするだけか?)

(そうですね。後顧の憂いを断つためにも、徹底的に調べ上げます)

(よろしく頼むよ。近々王城にも顔を出すから、その時に話を聞かせてくれ)

(分かりました。早速捕縛部隊を編制して調査にあたらせます)

(あぁ。遅くに呼び出して悪かったな。ありがとう)

(お気になさらず。不二さんのおかげで巨悪を暴くことができたのですから。そうそう、ビルスさんたちは今後の捜査で重要な参考人になりますので、どうか生け捕りでお願いしますね)

(了解)

(では、おやすみなさい)


 こうしてエリィはテレパスの会話から離脱する。

 あとに残されたのは、放心状態のビルスとその腹心。


「騙したのか」

「騙したな」


 俺は涼しい顔でそう答える。

 ビルスはみるみるうちにその顔を紅潮させ、怒りに任せて俺に切りかかる


「くっそがあぁぁぁぁぁ」


 シュンっ


 俺の横を一陣の風が吹き抜け、次の瞬間、ビルスの剣を握る右腕が肩から分かたれ宙を舞う。

 ビルスはそれを呆けた顔で眺め、腕がドサリと地に落ちると、先ほどまで腕があったはずの空間に目をやる。噴水のごとく噴き出す鮮血を見たところで、ようやく痛みに気付いたのか、肩を押さえてその場にうずくまった。


「ぐああぁぁぁ、腕が、腕があぁぁぁあぁ」


 痛みに悶絶するビルスを、エルザが凍てつく視線で眺めながら一言つぶやく。


「あの子が......アルが受けた苦しみはこんなものじゃない。少しはその痛みで自分の行いを悔いることね」


 エリィが情報をつかんだことで、おそらく明日には各都市の警備隊が踏み込んで証拠を発見するだろう。

 王城にはテレパス持ちくらいいるはずだ。


 俺はビルスの腕に回復魔法を施し、失血死などしてしまわないように止血する。

 まだ痛みは残っているのか、ビルスは涙やよだれを垂れ流しながら荒い息を繰り返す。

 腹心の男は、もはやすべてを諦めたのか、うつろな目で虚空を眺めていた。


「終わったわね」

「あぁ......これで終わる」


 ただの盗賊団の退治のはずが、気づけば領主の捕縛という大問題にまで発展してしまった。

 俺とエルザはビルスと腹心の男を縛り上げ、身動きをとれないようにしてからゲートでホトリ村へと帰還した。



「帰ってきた!」

「にいちゃあぁ~ん!」


 俺とエルザが村の入口に現われると、待ち構えていたのか、白石と愛姫が駆け寄ってくる。

 愛姫はまた勢いそのままに俺に体当たりをかましてきそうだったので、ぴょーんと飛びついてきたところを両手で抱きかかえてクルクルと1回転して地面に降ろす。


「おかえり!」

「ただいま」


 満面の笑みで俺に抱きつき、しばらくは離さないぞ!と意思表示を示す愛姫に苦笑をこぼしながら、俺たちは連れだって村へと足を踏み入れる。


 村に入ると、自警団の一人が俺とエルザが帰ってきたのに気付いて、大声で村人に帰還を知らせる。


「おぉ~い! イオリさんとエルザさんが帰ってきたぞぉ!」


 その声を聴きつけて、どやどやと村人たちが集まり、気づけば俺たちを中心に人だかりができていた。

 俺は縄で簀巻きにしたビルスと腹心を見せ、


「盗賊たちの親玉だ。こいつもまとめて放りこんどきたいんだけど、盗賊たちはどこにやったんだ?」


 俺が聞くと、ベンが返事を返す。


「あいつらなら集会所に全員まとめてふん縛ってるよ。両手両足の動きを一切できないようにしてあるから、どうあがいても逃げることは出来ないと思う」

「分かった。ひょっとしたら軽い魔法が使えるやつがいるかもしれないから、口も縛り上げて喋れないようにしておこう」

「了解だ! いくぞ!」


 そう言って、自警団の面々はずんずんとビルスたちを連れて集会所の方へと向かっていく。

 これでやつらが逃げ出す心配はないだろう。


「アルは?」


 俺は懸念していたことを村人に尋ねる。

 ひょっとしたら、俺とエルザがいない間に再び暴走したりしてしまわないかと一抹の不安を抱えていたのだ。

 しかし、それは杞憂だったようで、村人たちは笑顔で俺の心配を打ち消す。


「アルはメリルの家でぐっすりと眠っていますよ。きっと疲れたんでしょう。今日はそっとしておいてあげようと思います」

「そうですか。分かりました。ビルス......盗賊の親玉は、この一連の事件の真相を暴く上で必要になるということですので、まだ殺すわけにはいかないんです。他の残党についてはみなさんの判断に任せてもいいとは思うんですけど」


 俺の言葉に、村人たちは渋面を浮かべる。

 ここしばらく受けた艱難辛苦を思い出してのことか、それとも人間への恨みを思ってのことか。

 俺にそれを聞くことはできなかった。ただ、盗賊たちへのけじめは、村人たちにつける権利があると思う。俺が口出しすることじゃないと思った。


「今日はみな疲れ切っています。残りのことは、明日また集まって考えましょう」

「分かりました」


 こうして、話し合いは翌日に持ち越しとなり、俺たちは三々五々に解散する。

 俺たちも、メリルの家に戻り、ゆっくりと扉を開ける。

 すると、ぐっすりと眠るアルの傍らで、メリルが横になってアルの頭を撫でていた。


「アル」


 俺たちも家に上がり、アルを囲むようにして座り込む。

 眠っているその顔は、いつもの優しいアルそのもので、俺たちはその顔を見てようやく安堵の息をつく。


「皆さん」


 メリルが起き上がって居住まいをただし、俺たちに深々と頭を下げる。


「村を、アルを助けていただいて、本当にありがとうございました......。

 この子がこうして眠っているのも、皆さんのおかげです......」


「違いますよ」


 俺は無意識のうちにそう返していた。

 確かに俺たちはアルをここまで連れてきた。道中もアルを守り続け、村についてからも魔獣を掃討し、盗賊を捕え、黒幕の正体まで突き止めた。


 しかし、全て俺たちのおかげのように言われては、どうしても素直に受け取ることができなかったのだ。


「確かに俺たちはアルと一緒にここまで来て、戦いました。

 だけど、俺たちだけじゃない。俺たちがつくまで必死に村を守り、一緒に戦ってくれた自警団のみんな。そして何より、アル自身が頑張ったんです。

 アルは人間の国で地獄を見たと思います。だけど、諦めなかった。俺たちと出会ったとき、アルはきっと絶望の底にいたと思います。そんなとき、自分が一番つらいはずなのに、人間が嫌いなはずなのに、アルは俺たちの心配をしたんです。

 そんな優しい子だから。俺たちは助けたいって思ったんです」

「......」


「そんな優しいアルの心が俺たちの心を動かし、ここまで連れてきたんです。

 そして、金狼が暴走したときも、そんな優しいアルだからこそ、お父さんの......ロランさんが遺した力を受け継いで、還ってくることができたんだと思います。

 だから、明日アルが目覚めたら、これでもかってくらいに褒めてあげてください。

 自慢の娘だって」

「はい......はい」


 メリルは両目に涙をため、何度も頷く。

 俺たちの周囲には甘やかな雰囲気が立ち込め、すやすやと寝息を立てる小さな勇者を、全員が慈しみと誇らしさを含んだ視線で、いつまでも、眠りに落ちるまで眺めているのだった。


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