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2-43 真相

本日最初の更新です。所用で更新が遅れてしまい申し訳ございません。

第2章は本日で完結となります。

どのような結末を迎えるか、お楽しみいただけましたら幸いです。

 とある洞窟の内部。蝋燭の明かりがともされた空間の中で、二人の男が焦った様子で会話を交わしていた。


「くそ、だめです! ゴラムがいくら呼びかけても応答しません。恐らく気を失ったのかと」

「ちくしょう! なんだってんだ! あと少しで金狼のガキが手に入ったってのに、下手に煽って暴走させやがって! お蔭で大損こいちまったじゃねぇか」

「ゴラムたちはどうしますか?」

「知るか! どうせ全員お縄だろうよ。手勢も増やした魔獣どもも根こそぎやられちまった! くそ! なんなんだあのガキどもはぁ!!」


 ガシャアン


 持っていたグラスを放り投げ、グラスは壁にぶつかって粉々になる。


「とにかく、いったんずらかるぞ! 近くの盗賊を吸収して数を増やして、俺の邪眼で魔獣どもをもう一度手なずけていかねぇと」

「ちょっと待ってもらえるか?」


 そんな二人しかいないはずの空間に、突然聞いたことのない声が響く。

 すると次の瞬間、輝く円盤が浮かび上がったかと思うと、そこから2人の男女が姿を現した。


「何者だてめぇら、いったいどこから現れた」


 剣を抜いて威嚇する男、しかし、突然現れた二人のうち、男の方が飄々とした様子で口を開く。


「あんたがビルスか?」

「!!......どうして俺の名前を知ってる」


 名前を言い当てられた男は、動揺を必死に押し殺し、低い声で質問を返す。


「なに、あの盗賊たちに残った魔力の痕跡をたどってきたわけだし、その先にいるのは親玉のあんたじゃないかと予想しただけさ」

「魔法の痕跡?」

「あぁ、ゴラムだっけ? あいつに接続されたテレパスの痕跡さ」


 ビルスは傍らの男をキッと睨むが、睨まれた男はなんのことか分からず首を振るばかり。


「そいつは何もしちゃいない。俺が探知の魔法を発動して、その痕跡をたどって転移魔法でここまで来たんだから」

「なんだと?」

「お察しのとおり、俺は複数持ちってやつらしくてな」


 複数持ちという言葉を聞いて、ビルスとテレパス使いの男は驚愕を浮かべる。


「......何が狙いだ? 俺たちを捕まえに来たってところか?」

「違う違う。むしろ逆だ。あんたたち面白いことやってるなと思ってな。俺たちも噛ませてもらえないかと思ってはるばるやってきたって訳さ」

「どういうことだ?」


 色濃い疑いを浮かべて、ビルスは続きを促す。


「いやなに、あんたは”邪眼”とかいう恩寵で魔獣を操れるらしいじゃないか。俺の転移魔法と組み合わせれば、どんなところでも俺たちは安全なところから襲い放題、奪い放題じゃないか。俺は転移魔法で魔獣を運ぶ。あんたは魔獣を手なずける。この役回りなら今よりもっと稼げるんじゃないかと思わないか?」


 俺の言葉にビルスは耳を傾けるが、そんな上手い話があるのかと信じられない様子だ。


「たしかに今より楽に稼げそうだ。だけど、そんな話をはいそうですかと信じるほど俺はできてねぇんでな」

「別に信じなくてもいい。そのときは、あんたを突き出してその首にかけられた賞金をもらうだけだ」


 ビルスの顔に、動揺がありありと浮かび上がる。

 ここにきてまっすぐな脅しを突き付けられ、思考がうまく働かなくなったようだ。


「俺たちはアンタらを今すぐにでも捕まえることができる。だけど、捕まえるよりも手を組んだ方が稼げそうだからこうして話を持ちかけてるんだ。分かるだろ?」


 たしかに、賞金がほしいのならこんな会話をすることなく、即座に捕まえればいいだけのこと。

 ビルスは自分が交渉できる立場にないということを次第に感じ始めていた。


「ちなみにこんな道具を持っててな?」


 俺は懐から魔込めの腕輪を掲げてビルスたちに見せる。


「なんだそりゃ?」


 俺は言霊を唱え、魔込めの腕輪に魔法を保存させる。


『音を記録し、再生せよ』


 俺の言霊を腕輪が吸収したのを確認して、俺は改めて発動する。


『レコード』


 カチっと音がし、ビルス達は腕輪を警戒しながら見つめる。


「なに、そんなに警戒することはないよ。『ストップ』


 再びカチッという音がして、俺は次いで言霊を唱える。


『プレイ』


 すると、ジーっという音がして、やがて腕輪から先ほど俺が発した声が再生された。

 

「なに、そんなに警戒することはないよ」


 録音・再生の魔法にビルス達は再度驚愕の表情を浮かべる。


「とまぁ、俺はこういう魔法も持っててさ、やろうと思えばいつでもあんたらの会話を録音して証拠として役人に提出することもできるって訳だ」

「......」


 当然のごとく、ビルスは口をつぐんで押し黙る。

 

「こんな恩寵を持っているのを隠さずに教えているってとこでも、俺がアンタと組みたいって気持ちをくみ取ってほしいんだけどな」

「......」

「そろそろ結論を聞かせてほしいんだが? 俺の提案に乗って一緒にこれからも稼ぐか、俺の提案を蹴って俺にその首の賞金を渡すか。アンタやそこのヤツが戦闘向きの恩寵を持ってないってのは分かってるんだ。こっちは俺はもちろんのこと、俺の連れもバリバリの戦闘職だぞ」


 俺がそういうと、エルザは無言で剣に手を伸ばし、いつでも抜けるぞという態度を示す。

 すでに議論の余地はない。そう悟ったビルスは、苦りきった表情で口を開く。


「分かった。その提案にのろう」

「話が分かる人で良かったよ。じゃあ俺の録音能力にビクビクされちゃあ話もまともに進まない。ここはあんたもよく知ってる方法で今後の相談といこう。『テレパス』」


 俺はこの場の人間を一筆書きに魔力の糸でつなぐ。遥か彼方へと続く魔力の糸を使って。


(さぁ、これで俺たちの会話は録音のしようもないし、安心して会話ができるだろ?)

(お前......テレパスまで使えるってのか!?)

(あぁ。本当に運が良かったよ。こんな使える能力ばかり発現してくれるんだから)

(とんだ化け物もいたもんだな)

(ひどい言い草だな。それで、今後の話だけど、これから手を組んでやっていくんだ。俺の手の内はさらしてるんだし、アンタの邪眼の秘密について教えてもらってもいいか?)

(秘密ってのは?)

(あぁ、噂で聞いた話だと、アンタが操ってる魔獣のなかに、この辺りには出現しない魔獣がいるって話でな。実際、さっき村で魔獣と戦ったけど、確かにまだ見たことのない魔獣の姿があった。

 どこでそんな魔獣を仕入れてるんだ?)

(......)


 さすがに迷っているのか、ビルスが返答をためらっている。

 俺はなんとかなだめすかそうと試みる。


(おいおい、別に俺に魔獣を操る能力なんてないんだ。それはアンタの専売特許さ。だけど、今後魔獣の調達に関しても手伝えると思うし、そういう時のために教えてほしいだけなんだけどな)


 ビルスはなおもしばらく逡巡するが、やがてその重い口を開いて、隠された真相を語り始めた。


(......ダンジョンだ)

(ダンジョン?)

(あぁ、ゴアとスルムの中ほどにある林の中に、最近ダンジョンが生まれたんだ。俺はそこで発生する魔獣を邪眼で操ってる)

(ちょっと待ってくれ、そんなところにダンジョンがあるなんて聞いたことないぞ?)

(当たり前だ。ゴアの領主がダンジョンの存在を公開してないんだから)

(なっ......。もしそんなことが明るみになれば大事じゃないのか?)


 俺の驚いた顔に少し胸がすいたのか、ビルスは小さく笑みを浮かべながら得意げに語り始めた。


(まぁバレりゃ大問題だろうな。だけど、俺はゴアの領主と裏で取引をしてるのさ)

(取引?)

(あぁ。俺がダンジョンの魔獣どもを手なずけて外にあふれないようにする。その代わりに、俺が率いる盗賊団がお縄にならねぇように警備隊たちの情報を流すって話だ。

 おかげで俺たちは事前に情報を得て、警備隊が来るころには元いた場所はもぬけの空って訳よ)

(なるほどな。だけど、それだけじゃないんだろ?)

(あぁ。当然領主だけで情報を隠し通すのは難しい。だから、他にもう一つの勢力を抱き込んでるのさ)

(もう一つの勢力?)

(あぁ、”黄昏の秋風”って商会さ)


 その名前を聞いたとき、俺はオラクルでロイと交わした会話を思い出す。

 たしか、ここ数年で急激に成長した商会だけど、やりかたが強引で、危ない橋にも手を付けてるんじゃないかって噂が絶えないとか......。グレーだとは思ってたが、まさかの漆黒だったってわけか。


(なるほど。あの商会が急激に成長したのにはこんな事情があったのか)

(おう。奴らは俺たちがダンジョンで手に入れた魔石を割高で買い取る。その代わりに、奴らの商会や、ゴアの領主にとって邪魔になる商会の馬車を俺たちが襲うって取り決めをしてたのさ)


 俺のなかで一気に点と点がつながっていく。

 おそらく、オーウェンたちの商隊が襲われていたのは、黄昏の秋風の差し金だったのだろう。

 

 ビルスたちはダンジョンの管理と商隊の襲撃をこなす代わりに、ダンジョンに巣食う魔獣を手なずけることと、その過程で入手した魔石の高価買取および捕縛情報の提供。

 黄昏の秋風は魔石を高額で買い取ることと、ビルス達の情報をゴアの領主に流す代わりに、ビルス達の襲撃による、商売敵たちへの妨害。

 ゴアの領主は、ビルスたちへ情報の提供とダンジョンの使用許可の代わりに、莫大な利権を生み出す可能性のあるダンジョンの情報の秘匿および独占。


 それぞれがメリットを分かち合う構図が出来上がっていた。

 おそらく、黄昏の秋風からゴアの領主の元へ、結構な額の賄賂が送られているであろうことも容易に想像できた。


(なるほどな......)

(な? 上手くできてるだろう?)

(あぁ。まさかここまで大事になってるとは思わなかったよ)

(だろ? まぁ、お前の能力には驚かされたが、たしかに転移魔法がありゃあ、ゴラムたちがいなくてもがっぽりと儲けられそうだぜ)


 ビルスは将来の皮算用をしているのか、ニタリといやらしい笑みを浮かべていた。

 俺は聞き出すべき情報はすべて得たと考え、そんなビルスの笑みを凍りつかせる一言を放つ。


(だそうだ。聞こえたか......エリィ?)

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