2-42 落とし前をつけに
本日最期の更新です。
明日の更新で第2章は完結となります。
投稿時間は少し早めの10時、13時、16時過ぎに変更いたします。
それでは引き続き拙作をお楽しみくださいませ。
『ゲート』
俺たちはゲートに飛び込んで瞬時に逃げる盗賊たちの眼前へと転移する。
突然現れた俺たちに、盗賊たちは面食らって立ち止まる。
「ひぃっ」
「誰が逃がすかよ。お前らは一人残らずこれから地獄を見てもらう。これはもう確定事項だ」
俺は冷たい目で怯える盗賊たちを見据える。
盗賊たちは顔を寄せ合い、どうするかと視線を交わすが、答えはでないようだ。
「今すぐにでも全員八つ裂きにしてやりたいところだが、俺たちが殺してもしょうがない。
お前らの処遇は村のみんなに決めてもらう。そのうえで、お前らを殺すという結論になったんなら、俺もぜひとも仲間に入れてもらうがな」
「あら、奇遇ね。私も同じことを考えてたわ。因果応報というけれど、さすがにあなたたちはやりすぎね。
普段は温厚な私でも、さすがに今回ばかりは許せないわ」
「あたしもよ。今なら躊躇なんてしないでしょうね」
「クルアァ」
俺たち3人と1匹は、殺気を体から迸らせながら一歩、また一歩と距離を詰める。
見れば、60を超す大人数だが、すでに戦意はへし折られ、またぞろ腰が引けていた。
「て、てめぇら、ひるむんじゃねぇ! 相手はたった3人だ! まとめてかかりゃあわけねぇだろうが!!」
ゴラムがそう発破をかけるが、アルの威圧感を受け、俺たちが地上の魔獣を殲滅した様を見ていたであろう盗賊たちの士気は上がらない。
「このまま大人しくして立って殺されるだけだ! いくぞてめぇら! こいつらを殺してお頭のところへ帰るんd」
『炎を纏え 敵を貫け 炎槍』
「がぎゃああぁぁぁあああ」
ゴラムが言い終わるのを待たず、俺は魔法で盗賊どもの足を穿つ。
太ももを焼き貫かれた盗賊たちがもんどりうって倒れ、痛みに悶絶し、または気絶する。
「別に、殺さないってだけだ。ベンたちは怒りのあまり殺してしまうかもしれないから連れてこなかったけど、俺たちは死なない程度にお前らを痛めつけるなんて訳ないんだぞ?」
「ひっ、ひぃぃぃぃ」
数人の盗賊が腰を抜かしてへたり込む。
俺はそんな連中をゴミを見るかのような目つきで眺める。
「大人しく投降するってやつは武器を捨てろ。捨てないやつは好きにしていい。腕や足を死なない程度に炭にしてやるから、順番に並べ」
俺の言葉が脅しではなく、まごうことなく本気であると悟ったのか、盗賊たちはあっけなく武器を捨て始めた。
所詮、魔獣の暴れた後に漁夫の利とばかりに盗みを働いていた連中だ。
俺たちの圧倒的な力を前にして、死ぬ危険を冒したくはなかったのだろう。
「お前は?」
「ぐっ」
まだ剣を捨てていないのはゴラム一人だ。握りしめる大剣はブルブルと震えている。
別に答えを待つ義理もないので、俺は即座に魔法を構築する。
「焼き加減はどれくらいがいい? レアか?ミディアム、それともウェルダン?」
「ま、待ってくれ。悪かった。降参するから」
俺の周囲を炎槍が埋め尽くすのを見ると、ゴラムもついに観念したのか大剣を捨てて地に付した。
俺は舌打ちしながら魔法を解除し、武器を捨てて降伏を示す盗賊たちを睥睨する。
俺は抵抗の意思がないのを確認して、テレパスを繋いでベンに語りかける。
(ベンさん、聞こえますか?)
(あぁ、聞こえるよ。イオリさん、物音がしないが無事なのか?)
(えぇ。盗賊たちは全員降伏しました。これからそちらに連れて行こうと思いますが、手が足りないので、自警団のみんなを連れてきてくれますか? こいつらを縛りあげる縄も一緒に)
(あぁ......分かった。すぐに行く)
(それと、俺はこれからこいつらの親玉のところへ行ってきます。ひょっとしたらまだ使い道があるかもしれないので、できれば殺さずにどこかに逃げられないようにぶち込んでおいてもらえますか?)
(分かった。他のみんなにもこらえるように念入りに言って聞かせる)
(ありがとうございます)
俺はベンとの念話を切り、再び盗賊たちに視線を向ける。
「さて」
俺の言葉に盗賊たちがビクリと震える。
「これからお前らの親玉のことを吐いてもらうわけだが、親玉と接触手段を持ってるのはどいつだ?」
俺の質問に、盗賊たちは顔をキョロキョロとさせたり、俺じゃないと首を横に振るばかり。
しかし、俺はこいつらを率いるゴラムが怪しいと初めから踏んでいるので、名乗り出ようが出まいが別にどうでもいいことだった。
「そうか、出てこないなら、勝手に突き止めさせてもらうまでだ。『残滓を探れ ソナー』」
俺は言霊を唱え、以前手に入れた探知用の魔法を発動する。
探すのは、この中の誰かに付着する魔法の痕跡。
初めて使う魔法だったので、ひょっとしたら上手くいかないかも知れないと思っていたが、以外にもあっさりと俺は魔法の痕跡を発見する。
「やっぱりお前か」
俺はゴラムを見据えてそう呟くと、ゴラムはなぜ分かったのか理解できないといった表情で俺の顔を見つめていた。
探知の魔法を使うと、視界がモノクロに切り替わり、魔力の痕跡がある場所だけがほんのりと色彩を持って光るように感じられた。
もちろん、俺や白石やエルザは魔法を使うので、その全身がほんのりと光って見えるのだが、盗賊たちはそのほとんどが魔法を使わぬ近接戦闘職らしく、ゴラムの頭に接続され、遥か彼方へと続いている魔力の糸が俺にははっきりと確認することができたのだ。
「とりあえずお前には寝ててもらう」
「ぐあっ」
俺はゴラムを殴って無理やり気絶させ、白石とエルザの方へ向き直る。
「俺はこれから痕跡をたどって親玉のところに行く。ベンたちがこいつらの捕縛に向かってるから、合流してこいつらを村まで運んでくれ。怒りのあまり殺そうとする人も出てくるかもしれないから、もしそうなったら抑えてほしい」
「待って、あんた一人で行くつもり?」
「そうだけど」
「そうだけどって......危険よ。どんな奴らがいるか分からないじゃない」
「そうね。だから、私がついていくわ。ヒナ、あとは頼めるかしら?」
「エルザ......分かった」
驚くほど素直に引き下がる白石。強くなったとはいえ、まだ自分を守ることで精一杯ということを自覚し、エルザに任せるべきだと判断したのかと思うと、素直に感嘆してしまう。
自分の力量を正確に見極め、我を押さえて振舞う。
それはすなわち自分の実力不足を素直に認めるということだ。きっと悔しいことだろう。
だけど、俺の身を案じながら素直に自分より優れた者に後を託せるのはすごいことだと思った。
「イオリもいいわね?」
「分かった。エルザも来てくれ」
「任せなさい。といっても、これからは戦うんじゃなくて一芝居打つんでしょう?」
「そうだな。戦いはこいつらが担ってたんだろうし、おそらく派手な戦いにはならないと思う」
俺は探知魔法で発見したテレパスの痕跡に魔力の糸を絡ませる。
絡んだ糸は痕跡を伝ってぐんぐんと伸長し、やがて止まる。
「見つけた!!」
俺は魔力の円盤をその糸へと接続して一気に突き進ませる。
出口を設定し終えたところで入口も構築し、言霊を唱える。
『ゲート』
転移魔法が発動し、テレパスの発動者の元へと通じる門が開かれた。
俺が飛び込もうとすると、
「ねぇ」
白石に呼び止められて振り返る
「どうした?」
「......気を付けてね」
白石がたまに見せる表情。普段は俺に対して過剰に反応し、つっけんどんなあたりをしてくるはずなのに、たまにこんな風にひたすらに俺のことを心配した様子を見せてくるのだ。そんなまっすぐな気持ちをぶつけられ、俺は少し気恥ずかしさを覚えながらその頭を一撫でして答える。
「任せろ」
俺とエルザはゲートに飛び込み、盗賊団の親玉の元へと向かうのだった。