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星に願いを~ものぐさ勇者の異世界冒険譚~  作者: 葉月幸村
第一章 転生、そして旅立ち
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1-6 謁見

ーーーー朝


 太陽の日差しを感じ、緩やかに意識が覚醒する。

 ゆっくりと目を開けると、目の前にすやすやと寝息を立てる妹。どうやらまだぐっすりと寝入っているようで、お目覚めの兆しはない。


 俺は起こさないように慎重にベッドを出て、窓を開けて外の風を浴びる。

 外は春先ぐらいの気温のようで、涼やかな風が気持ちよく頬をなでる。

 心地よい風を浴びていると、コンコンとドアをノックする音がして、ドアが静かに開いた。


「おはようございます。不二様。まもなく朝食の準備が整いますので、ご準備をお願いいたします」

「あぁはい。分かりました」

「お着替えはクローゼットの中にございますので、準備がお済みになられましたら声をおかけくださいませ」


 そういって一礼すると、使用人はそそくさと扉を閉める。 


 クローゼットを開けると、シンプルだがそれでいて高貴さがしっかりと感じられるローブが2着入っていた。それを持ってベッドまでいき、愛姫を起こしにかかる。


「愛姫、朝だぞ~。起きろ~」

「......うにゃ。まだ寝るぅ~」


 寝ぼけながらシーツの中に潜り込んで逃げようとする。もぞもぞ動いている小動物みたいでなんとも可愛らしい。いつまでも眺めていたいが、そうもいっていられないので魔法の言葉を使う。


「朝ごはんだぞ~」


 ピクっ

 かかった。


「昨日の晩飯うまかったな~。これは朝飯もさぞ期待できることだろう


 ピクピクっ

 あとはしっかり針をくいこませ、一気に引き上げる。


「あ~、でもまだ眠いんじゃ仕方ない。俺が愛姫のぶんも食べてきてやろう。なに、心配するな。ちゃんと兄ちゃんがお前のぶんも味わって食べてきてやるから。じゃあ、いい子にして寝ててくれ」

「起きたであります! 食べたいであります! おはようであります!」


 瞬時に脳は覚醒したようだ。頭はすでに食事でいっぱいになっているらしく、口からは涎がこぼれている。


「よろしい、愛姫三等兵! それでは顔を洗ってこの服に着替えたまえ」

「サー、イエッサー」


 バビューーーーーーン


 浴室の洗面台に疾風のごとく駆けていき、数秒後にタオルで顔を拭きながら戻ってきて、俺の手からローブをひったくって着替える。

 

「終わったであります!」

「よろしい!それではついてきたまえ」

「アイアイサー」


 ビシッと敬礼ポーズをとり合って軍隊ごっこを済ませた後、部屋の外にいる使用人に声をかける。


「お待たせしました」

「それでは会場へご案内いたします。どうぞこちらへ」


 そういって先導する後ろをついて歩き、しばらくすると、豪華な扉の前に到着する。


「こちらが朝食の会場でございます」


 扉の前には二人の武装した兵士が立っており、俺たちを見ると礼儀正しく一礼して

扉を開ける。すると、広々とした空間が広がっており、その中央に長大なテーブルがデンと構えていた。


 机の左右には椅子がズラリと並んでおり、すでに半分くらいの生徒が席についていて、給仕が始められている。俺たちも中へと進み、使用人に椅子を引かれて席に着く。


「ありがとうございます」


 と小声でお礼を言うと、


「滅相もございません」


 と目を伏せて返事を返してくる。


 ここまで何から何までしてもらうという経験がないため、むず痒さを感じて気遅れしてしまう。愛姫もはしゃぐようなことはせず、きちんとお礼を言って席に着き、早く食べたいという気持ちを抑えて大人しくしていた。本当に偉いぞ。


 しばらくすると、他の席も埋まり、クラスメイト全員に配膳が行き渡ったようだった。


 ほぼそれと同時に、奥の扉がガチャリと開き、数人の侍従を引き連れてエリィが入ってくる。


「皆様おはようございます。昨晩はゆっくりお休みいただけましたでしょうか?」


 そういってにこりと微笑むエリィの姿は、まさにファンタジーのお姫様というやつだった。

 昨日のシンプルな造りのローブでもその美しさは十分に伝わってきていたが、今のエリィは白いドレスローブを身に纏い、薄めだがしっかりと美しさを際立たせるようにメイクが施されている。

 

 クラスの視線が釘付けになり、ため息やら、口をポケ~っと広げるやら、それぞれが思い思いのリアクションを取っていた。


「そんなにまじまじと見られては恥ずかしゅうございます」


 と言って、ほんのりと頬を染めると、何人かの男子はそれでハートを打ち抜かれてしまったようだ。  まぁ無理もない。俺だって普通に見とれてしまった。惚れた腫れたに関心があれば今頃同じ穴のムジナだっただろう。

 

「さ、さぁ、皆様もお待ちでしょうし、朝食と参りましょう」


 エリィがそういって食器を手に取ると、皆もそれにならって食事が始まった。


 昨晩の夕食同様、味は抜群。ズシリと朝から重くなることのないようシンプルな味付け、しかしそれでいて、薄味という訳でもなくしっかりと旨味を感じさせられる。素人でもわかるプロの仕事だった。

 

「うまい」

「おいしぃ~」


 と自然にクラスメイトの声も弾んでいる。俺もつい夢中になってしまい、気づけばきれいに平らげていた。


「お替りはいかがですか?」


 とタイミングを見計らったかのように給仕の人が声をかけてくる。あまりに自然なタイミングで驚いてしまうが、十分に堪能したので丁寧に辞去することにする。


「いえ、もう結構ですよ。あ、飲み物だけお願いします」

「愛姫はこのデザートもう一つほしい!......です」

「はい。かしこまりました。少々お待ちくださいませ」


 愛姫はどうやらデザートがいたく気に入ったようでお替りを注文した。給仕の人は愛姫にやさしく会釈して、デザートをもう一つ持ってきてくれる。

 途端に目を輝かせてそれにぱくつき、幸せそうに味わう。うん、かわいい。


 程なくして全員の手が止まり、食事が終わる。すると、エリィがそのタイミングを待っていたかのように口を開いた。


「皆様、お食事にご満足いただけておりましたら幸いでございます。城の料理人が腕によりをかけて作った品々でございますので」

「とってもおいしかったです」

「ごちそうさまでした」


 と口々に絶賛を口にすると、エリィも満足げに頷く。


「料理人たちもさぞ喜ぶことでしょう。それでは朝食も終わりましたので、皆様に本日の流れについてご説明させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」


 そういって一同を見渡す。生徒たちも特に異存はないので、口を閉ざして室内に静寂が訪れる。


「ありがとうございます。まず、これより国王陛下に謁見していただきたいと考えております。国王陛下も皆様に会うのを心待ちにしておいでですので」

「国王......」

「そんな偉い人に会うって......。なんか変なことしたら不味いよね」


 にわかにざわつく室内。たしかにいきなり国のトップと会うと言われても、こちらには

そんな殿上人に対しての礼儀作法など習ってはいないのだ。不安が芽生えるのも仕方ない。

 

「ご安心ください。皆様は我々の救世主となられる方々です。こちらの宮廷作法がお分かりにならないのも当然でございますので、ご心配なさらず謁見されてくださいませ。

 それに、国王陛下は心の広い方でございますので、いきなり手打ちのようなことにはなりえません」


 エリィのフォローを聞いて、ホッと胸を撫で下ろす。どうやら無礼打ちの心配はなさそうだ。


「謁見の後、皆様には城内の施設にてそれぞれの恩寵を確認していただきます。

 専用の道具で皆様の恩寵がいかなるものかを鑑定し、それを専用のプレートに記憶させます。詳しいことは改めてご説明いたしますので、ご安心くださいませ」


 これを聞いて、生徒は嬉しさと不安の入り混じった表情を浮かべる。自分の能力が確認できるのは楽しみだが、それがどんな力かまだ分からないのだ。

 俺はすでに自分の力に目星はついているが、それとは別の懸念が浮かんできたので、思案顔になる。


「それでは謁見のための準備に移らせていただきますね。礼服に着替えて王の間へと向かいますので、ベリエッタについていってくださいませ」

「それでは皆様、ご案内いたしますのでどうぞこちらへ」


 エリィの目配せに丁寧に一礼し、ベリエッタが食堂の入口に向かって歩き始める。

 俺たちもそれにならって立ち上がり、静かに後に続いた。


 しばらく歩いてとある通路にでると、


「こちらで皆様には謁見用の礼服にお召し換えいただきます。室内にて使用人が待機しておりますので、その者らがお着替えをお手伝いいたします。それでは男性はこちら、女性はこちらのお部屋にてお願いいたします」


 そう言って通路の端に移動し、一同は男女に分かれ、それぞれ室内に入っていく。中では使用人が10人ほどが出迎え、一人ひとりに礼服を渡していった。


 白を基調とし、細部にこだわった仕事のされた一品だった。手に持つとなかなかの重量を感じたが、着てみるとびっくりするほど着心地がよく、通気性もいいようでまったく暑苦しく感じない。


 馬子にも衣装というやつか、鏡を覗いてみると、ちゃんと異世界の貴族っぽくなれていた。コスプレみたいだと感じてしまうが、ここまでしっかりしていると、衣装の方から着こなさせてくれていると思えるくらいだ。


 その後、鏡台の前に移動して髪を整えてもらい、薄く化粧をされる。男なのに化粧というのには抵抗を禁じ得なかったが、芸能人は男でもメイクすると聞いたことがあるし、これから王様に会うということなので、大人しくされるがままにしていた。


 他の男子も準備が終わったようだが、女子がもう少しかかるようなので、女子の準備が整うまでそのまま部屋で待つ。


 手持無沙汰なので、目を閉じて意識を体内へと向ける。

 体のなかを穏やかに流れる力を感じ、声をかける。


(なぁ、聞こえるか?)

(......ワレカ。イカガイタシタ。)

(今すぐってわけじゃないんだが、後で頼みたいことがあって、それが可能なのかどうか確かめときたいんだ)

(リョウカイシタ。モウシテミヨ)


(............ってことなんだが、どうだ?)

(フム、ソンナコトナドゾウサモナイゾ)

(そうか、よかった。ならその時になったら声をかけるからよろしく頼む)

(アイワカッタ)


 やり取りを終えて目を開けると、ちょうど女子も準備が終わったようだった。

 他の男子について外にでると、女子も同じくして外に出てくる。

 普段の制服姿からうって変わって、落ち着いた雰囲気を感じさせる気品のあるローブをまとっていた。


 全員薄いメイクを施しているようで、普段よりも大人びたように感じる。控えめにいっても3割増しで可愛くなった、もしくは綺麗になったと言えるだろう。

 

 男女ともにがらりと雰囲気が変わったせいで、なにやらクラス替え直後のようなよそよそしい雰囲気が周囲に漂う。

 俺はというと、たしかにかわいくなったとは感じたが、すぐに妹をさがして視線を泳がせていた。すると、後ろの方からたどたどしい足取りで愛姫が出てくる。


 なんてこった。超かわいい。

 七五三を迎えた娘を見るお父さんってこんな気持ちなんだろうか?

 女子たちのきている礼服のキッズサイズを着て、恥ずかしそうにモジモジしながらも、俺を見つけて駆け寄ってくる。


「にいちゃん、こんな立派な服初めて着るけん恥ずかしいっちゃね......」

「大丈夫。めちゃくちゃ似合ってるから。後で写真撮らせてくれ! 待ち受けにする」

「ふふふ~、兄ちゃんも似合っちょるよ♪」


「お、そっか。じゃあ後で二人でも撮るか! 電波はなくてもカメラとしてならスマホも使えるだろ」

「帰ったら愛姫も待ち受けにしよ~♪」


 クラスメイトそっちのけで兄妹トークに花を咲かせていたが、背後からベリエッタが軽く咳払いをして意識を向けて欲しそうにしている。


 確かにはしゃぎすぎたな、と思って俺と愛姫は隣り合うようにしてベリエッタの方を向く。


「すみません、騒いでしまって」

「いえいえ、こちらの衣服がお気に召していただけて嬉しゅうございます。それに、他の皆様も大変よくお似合いでございます。どこから見ても、立派な貴族のご子息・ご令嬢といったいでたちでございます」


 そういって微笑むと、ほかのクラスメイトたちも満更でもないように照れ笑いを浮かべた。


「それでは、これより王の間へと移動いたします。王の間の前で近衛の方々に引き継ぎますので、その後は近衛の方々についてご入室なさってくださいませ」


 どうやらベリエッタさんといえど、王の間に入るのは許されないようだ。

 この世界では身分や階級が厳格に制度化されているのだろう。そんなことを考えながらついていき、ひときわ大きく、豪華絢爛な造りの扉の前で立ち止まる。


 ベリエッタがその扉の前にいる、鎧兜で武装した兵士に小声で話をしている。

 兵士二人がそれに頷きで返すと、こちらに向けて歩を進めてくる。


「これより我々が国賓の皆様を王の間へとご案内させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします」


 そういってバッと敬礼のポーズをとる。

 これが本物の敬礼か。と思ってみていると、愛姫は無意識に真剣な表情で敬礼を返していた。あとでこのポーズもスマホで撮っとこう。


 その後、近衛兵は敬礼を解き、扉に相対して直立する。そして、


「国賓のお歴々、ご入来~!!」


 臍下丹田から打ち鳴らしたかのような声が廊下に響き渡る。

 すると、扉がギギィっと音を立ててゆっくりと開き、それとともに荘厳な音楽が鳴り響いた。


 近衛兵がゆっくりと歩を進め、小声で


 「我々の後ろを同じ速度でついて来てくださいませ」


 とアドバイスしてくれた。

 それを聞いた先頭の朝倉や数人の男子が、言われた通り同じ速さで歩を進める。

 ただひたすら無心で歩いていると、いつの間にか玉座の前までたどり着いていた。


 近衛が歩みを止め、その場に膝まずく。

 いきなりの事態に面食らってしまうが、無意識に見よう見まねで全員同様に膝をついた。


 こういう時は許可を得ずに勝手に視線を上げると無礼にあたると、どこかの本で読んだような気がしたので、とりあえず上を見ないようにして大人しくしておこう。

 どうやら他の連中も考えていることは似たり寄ったりのようだった。

 しかし、ほどなくして。


「大義であった。お前たちは下がってよいぞ」

「はは、失礼いたします陛下」


 そういって近衛兵が立ち上がって下がっていってしまう。

 これで完全に立ち居振る舞いをコピーする相手がいなくなってしまった。

 どうしたものか......と考えていると、


「よくぞ遠い異国からお越しくだされた。さぁ。どうぞお立ち下され。お客人の方々」


 穏やかな声が頭上から降ってくる。

 どうやら無礼打ちの心配はなさそうだ、と判断し、俺はゆっくりと顔を上げる。

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