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2-37 新技

本日も拙作をご覧いただきましてありがとうございます。

本日より3日間、13,16,20時過ぎの1日3回更新を実施します。

また、この合計9話の更新にて、2章は完結となりますので、お楽しみいただけましたら幸いです。

それでは今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

 初手の攻撃は見事に成功。

 ティナとエルザによる魔法攻撃、獣覚を発動して敵の後方から突っ込んだ自警団の面々の攻撃を受け、魔獣の群れは大混乱に陥った。


 先ほどまで自分たちが目指していた標的が、いつの間にか自分たちの背後から襲い掛かってきたのだ。理解できなくて当然だろう。


 ただ、こちらとしてはこれまでと変わらない戦闘形態の人数を増やしたに過ぎない。

 俺の転移魔法を使った奇襲が奏功することは特に驚くようなことでもなかった。


 俺は地上を駆ける魔獣たちに目をやる。

 ホブゴブリン、ゴブリンリーダーなどのゴブリンの上位種、2足歩行の狼のような姿をしたコボルトの上位種であるハイコボルト、これまた2足歩行のトカゲのような姿のリザードマン。

 これらが軍勢の大半を占めていた。体長は俺たちと変わらないか少し大きい。

 鳥形の魔獣であるスカイイーターの背にまたがって来ていたが、スカイイーターの運べる魔獣の大きさの限界がこのくらいの大きさということだろうか。


 とはいえ、どれも上位種、ないしはそれに準ずる力を持った魔獣たちだ。

 個別に撃破するならば難しくはないが、こうも数が多いとさすがに脅威になりうる。

 俺は戦況の把握に努めながら次の手を思案していた。


「ゲギャギャギャギャ」

「ギャシャアァァァァァ」


 先頭の魔獣たちが後方の襲撃を無視して再度突撃を開始する。

 転移魔法で他の全員を奇襲に割いたため、村の入口を守るのは俺しか残されていない。


 魔獣どもは、一気呵成に俺を殺して村へ突入する腹積もりのようだ。

 

(イオリ! 敵がそっちに向かってるわよ)

(分かってる! 一匹も通しやしないさ)


 俺は練り上げていた魔力を後方に広く展開する。

 渦巻く魔力の柱を横一列に多重展開するイメージで、俺は言霊を紡ぐ。


『炎を纏え、逆巻き阻め 炎壁』


 ゴオゥッ


 轟音が鳴り響き、村の入口をふさぐように、鷹さ5m、横幅20m程の炎でできた壁が立ち上った。

 俺の背後に突然現れた炎の壁に思わず歩を止める魔獣たち。

 村の入口は塞がれ、無理に越えようとすればたちまち消し炭になることを理解したらしい。


 魔獣たちは俺を忌々しそうに睨み付け、まずは俺から処理しようと考えたのか、一塊になって襲い掛かってくる。


『ゲート』


 俺はそれをあざ笑うかのように姿をくらまし、その直後、魔獣たちの真横に転移して、次なる魔法を放つ。


『炎を纏え、敵を貫け 炎槍』


 30本ほどの煌々と輝く鋭い炎が生まれ、がら空きの脇腹へと叩き込まれる。

 5体の魔獣が頭を焼き貫かれて即座に霧散し、ほかにも火傷を負って動きが鈍くなる魔獣が多数生まれた。


(敵の侵入は防いだ。そっちの状況は?)


 俺がテレパスでこちらの情報を伝え、白石たちの戦況を確認する。


(こっちも奇襲は成功したけど、後ろ半分がこちらに残って対抗してるわ。

 今は数を頼りに攻められて膠着状態ってところかしら)


 エルザがみなの戦況をまとめて俺に伝達してくれる。

 割と上手くやれてるのか? そんな風に考えていると、事態が悪い方へと急速に傾いていく。


(!! 空からくるぞ!!)


 俺の鷹の目で上空に滞空していたスカイイーターたちが、魔獣たちの戦況が思わしくないと考えたのか、一斉に急降下を開始した。


 スカイイーターの攻撃方法は急降下しての体当たり。シンプルだが、威力は抜群だ。

 落下の勢いそのままにぶつかられれば、当然のごとく致命傷を貰う。


 これまでスカイイーターは魔獣を運ぶ役目に徹していたようで、攻撃することはなかったとベンは言っていたが、今日の襲撃に敵が本腰を入れているのならば、のちの運搬役として残しておくような選択はするまいと考えていた。


 俺は恐れていた予測が的中したことに歯噛みをしながら、上空にも警戒するようにテレパスで呼びかける。


 全員、地上の敵への攻撃の手を緩め、上空から襲い掛かってくるスカイイーターの大群の攻撃の回避に注力した。


 俺の方へもかなりの数が弾丸となって殺到するが、俺は転移魔法で再度移動して姿をくらます。

 攻撃対象を見失って急制動をかけたところに炎弾をぶつけて3羽のスカイイーターを処理した。

 とはいえ、この数が地上と空から攻めてくるのはさすがにキツい。


 上をかわしたと思ったら今度は地上から。地上の敵をさばいていると今度は上空から。

 このループに入ってしまうと、こちらの攻め手がなくてじり貧だ。

 

(そっちの状況は!?)

(まずいわ! 対処がおろそかになった方から責められてる! 攻撃に転じる余裕がないわ)


 エルザの声にも焦燥がにじんでいる。

 スカイイーターによる断続的な絨毯爆撃のような攻撃のせいで、受けに徹さねばならないようだ。

 魔獣の数を減らすことが出来ず、こちらは一人でもかければそこから加速度的に状況が悪化していく。


「グアァアァァァ」


 俺はゲートで時折位置を変えてスカイイーターの攻撃をかわしているが、さすがに他の全員を転移魔法で移動させながら戦うような芸当は無理だ。


 どうするか。とにかく地上と空、どちらかの攻撃を止めさせないと、いずれ盗賊団まで加勢に訪れればそこまでだ......。やるしかない。


 俺は鷹の目で素早く全員のいる地点を確認する。

 村の入口付近に俺、エルザと白石が敵の最後方、ベンたち自警団が敵の左右から突入している形か。

 全員の位置を把握すると、俺はテレパスで全員に語りかける。


(みんな! これから地上の敵を一気に片付ける! 1分だ! 1分だけ耐えてくれ!

 エルザ、白石! 俺は準備で無防備になるから、その間持ちこたえられるか?)

(なにかやるつもりね? いいわ! 私が守ってあげる。いくわよヒナ!)

(任せて!)


『ゲート』


 俺はエルザと白石の陣取る近くにゲートを展開して二人を呼びよせる。


(エルザと白石がいたあたりから地上の魔獣が逃げ出さないように、とにかくベンたちは防いでくれ!)

(((了解!!)))


 この瞬間、俺は魔法の準備に入るために戦闘に加われず、エルザと白石も俺を守るために戦線から離脱。魔獣を相手にするのは実質ベンたち5人だけだ。


 俺も、もう少し遠くに離れたいところだが、あまり離れると展開の難易度が余計に上がってしまうために、魔獣の近くに身をさらさなければならなかった。


「悪いな、危ない役を押し付けちゃって」

「気にしないでいいわ。こんなヒリつく戦い、最高じゃない」

「出た......。まぁ、強くなったところを見せるいい機会ってことにしとくわ。

 だから......頼んだわよ?」

「あぁ。じゃあ、防御は任せた」

「「了解!!」」


 二人の返事を聞き、俺は一気に集中力を高めて魔法の構築に取り掛かる。

 糸状の魔力を作りだし、もう一方の手で作り上げた長方形状に性質変化させた魔力をどんどんと連結させていく。


「ヒナ! 空の敵ティナに任せて! あなたは地上の敵を絶対にイオリに通さないで!」

「分かってるわ! ティナ! 空の戦いは任せたわよ!」

「クルアァ」


 エルザと白石は必死に上と下の敵からの攻撃から俺を守っている。

 彼方では、ベンたちも五感をフル活用してスカイイーターの攻撃をかわしながら、地上の敵の進行を食い止めていた。だが、それも限界に近い、一人は腕の骨が折れているのか片腕をダラリとたらし、もう一人、目の上を切ったのか、片目をつぶってやりづらそうに戦っている。


 急げ、急げ!!

 俺はどんどん板状の魔力を連結させていく。

 あと少し......


「イオリ! まだなの?」

「ぐっ、うぅぅぅぅぅ」


 エルザがこちらを振り返る、白石は一心不乱に二刀を振るっているが、もう持ちそうにない。

 

「できた!!」


 俺は即座にテレパスで全員に指示を飛ばす。


(これから俺が魔法を発動する。みんなは、全速力で離脱してくれ)

(分かった!!)


 全員からの返答を聞くや否や、俺は言霊を唱えて準備した魔法を発動させる。

 ベンたち自警団は即座に戦闘を中断し、脱兎のごとく魔獣の群れから離れる。


 逃げ出したと感じたのか、魔獣たちは脅すような叫び声をあげながら追撃に出ようとするが、俺の魔法がそれを阻む。


『ゲート』


 言霊を唱え、俺が作り上げた魔力が輝きながら展開されていく。

 横長の長方形をしたゲートが、地上の魔獣たちをぐるりと取り囲むように次々と展開され、最終的に完全に包囲される形となる。


 俺は白石とエルザとともに別のゲートでその包囲の外に移動し、次なる手を打つ。

 上空のスカイイーターも、突然の事態に警戒しているのか、いったん攻撃をやめて地上の様子をうかがっていた。


『プリズンゲート』


 地上の敵をぐるりと包囲する形で発動されるゲートは、飛行能力を持たぬ敵にとって脱出不能の牢獄となる。

 さあ、さっきの借りを返させてもらおうか。

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