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2-28 王女との交渉

「ありがとう、エリィ」

「どうかお気になさらないでください。先ほど申し上げた通り、この国に巣食う膿を取り除くためならばその程度のことは何の苦労でもありませんから」


 エリィは普段の微笑みを浮かべて俺に答える。

 俺の提案が聞き届けられたことで、広間には和やかな雰囲気を取り戻していた。


「それで、この道具はどのように使えばよいのですか?」

「おっとそうだった。ちょっと待ってくれ、『テレパス』」


 俺は言霊を唱えてテレパスを発動する。頭のあたりから伸びる魔力の糸を接続した。

 そう、魔込めの腕輪からではなく、俺から伸びる魔力で


(聞こえるか?)

(!! はい、聞こえます。へぇ、これはすごいですね。声を発さずとも会話ができるとは、とても便利です)

(あぁ、これで俺とエリィは離れていても話せるようになる)

(あら、なんだか照れてしまいますね)

(だからなんでいちいち話をそっちにもっていくんだよ)

(すみません、ついつい)

(それに、俺から繋がないといけないから、突然俺の声が聞こえることになると思う。俺も時間にはできる限り配慮するけど、エリィも驚かないように注意してほしい)

(そうは言われても、それはなかなか難しいかと......)

(まぁ、悲鳴を上げなければ怪しまれることはないだろうから。一応、事が解決するまではこのことはエリィの胸のうちにしまっておいてくれ)

(わかりました。私と不二さんだけのヒミツですね?)


 エリィはそういって俺にパチリとウインクを飛ばしてくる。

 俺は努めて意識しないようにしながら、はぁっとため息をつく。

 そんな俺を見て、


(もう、つれないですね)

(つれないって......それで俺がその気になってもどうしようもないだろうに)

(あら、そんなこと分からないではないですか)

(よく言うよ)


 一国のお姫様に恋をするなんて燃費の悪いことこの上ない選択を俺がとるわけないだろう。

 どんだけ厄介ごとに巻き込まれるかわかったもんじゃない。

 俺はテレパスでの会話をやめ、普通の会話に戻す。


「とにかく、これで俺からエリィに必要な時になったらテレパスを繋ぐから、そういうつもりでいてくれ

「分かりました。でも、念話で私と不二さんは会話できるとして、黒幕である人間の声は聞こえないのではないですか?」

「そこについても抜かりはないつもりだよ。録音機能のある道具を、俺が今専属契約を結んでる商会に手配してもらうから。それを見せて、もう一つ用意してる魔込めの腕輪を渡してテレパスでの会話に持ち込むつもりだ。

 俺も悪事に噛ませてもらう交渉をするフリをして、そいつらがボロを出したらその瞬間にエリィという証人の出来上がりって訳さ」

「不二さん、策士ですのね」

「普通にやっても否定されて終わりだろうしな。周到に用意しないと計画を完遂できない」

「そうですね。ただ、くれぐれも無茶はなさらないようにしてくださいね」

「あぁ、分かってる。悪いな、時間取らせて、それじゃあ俺はそろそろ戻るよ」

「......そうですか。お気をつけて」


 俺とエリィは立ち上がる。エリィは名残惜しそうな顔を浮かべて小さく俺に手を振ってくれた。

 俺も片手をあげてそれに返し、


『ゲート』


 転移魔法を発動させて、オラクルの宿屋へと帰還するのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 宿屋の部屋に戻ると、愛姫が俺の姿を見て駆け寄ってきた。


「にいちゃんおかえり」

「おう。待たせて悪かったな」

「全然大丈夫! やけどお腹すいた! 早く食べよ!」

「はいはい」


 どうやらうちのお姫様は夕食をご所望らしい。

 俺はテレパスを発動して他の3人に帰還を伝える。


(ただいま)

(おかえり)

(おかえり、イオリ兄ぃ!)

(あら、戻ったのね)

(待たせて悪かったな。それじゃあ食堂で夕食にしよう)

((分かったわ))

(は~い)


 こうして一同は食堂に揃い、夕食が進んでいく。

 俺はエリィの協力を取り付けることに成功したこと、魔込めの腕輪でテレパスを使っている風に上手く誤解させることができたであろうことをみんなに報告した。


 そう、俺はエリィに魔込めの腕輪を渡しはしたが、腕輪にはなんの魔法も込められてはいない。

 

 いずれ分かることなのだろうが、俺の本来の恩寵については王族であるエリィにはまだ知られない方が面倒ごとが起きないだろうという俺の省エネ思考から、魔込めの腕輪にテレパスを保存したテイにしておいたのだ。


 通常、魔込めの腕輪は1度使用すれば再度魔法を込めないと使用できない。

 しかし、エリィと話した際に直接エリィとテレパスの魔力の糸を接続しておいたので、何度でも使用可能だ。


「それにしても、録音できる道具なんて夕暮れの鐘にあったかしら?」


 エルザが俺に疑問をぶつけてくる。


「いや、多分ないと思う」

「ちょっと、どうするの?」

「たぶん大丈夫だろ」

「どうしt......あぁ」


 エルザと、傍らで聞いていた白石は俺の言いたいことを察したのか、半目になって俺を見ている。

 まるで俺が悪事を働いているかのようだ。勘弁していただきたい。


「ほんと、とんでもない恩寵よね」

「全くだわ。いっておくけど、変なことに使ったら承知しないわよ?」

「変なことってなんだよ。俺が盗聴なんて真似する訳ないだろ? そんな陰気な趣味してないよ」


 白石の言いがかりを蹴散らし、その後は普段どおりの雰囲気で夕食は進んだ。


 その後は、エルザと白石はこれまで通り剣術の訓練にいそしみ、俺は傍らで性質変化の反復練習を行っていた。愛姫やアルとゲートくぐりで遊んであげたりしていたのだが、なにやらアルの様子がおかしい。


 ちょこんと地面に座ってエルザと白石の方を見つめているようだが、どこか心ここにあらずというか、落ち込んでいる感じがする。


 俺はアルの隣に腰掛けて話しかける。


「どうした?」

「!? イオリ兄ぃ」

「なにか考え事か?」

「うん。お母さんのこと考えてた。まさかこんなに早く帰れると思わなかったからすっごく嬉しいんだけど、もしお母さんや故郷の人たちになにかあったらって思うと......怖くて」


 見れば、アルは体育座りで両腕をきつく握りしめていた。

 盗賊団に自分や家族、顔見知りが狙われていると思えば、不安になるのも仕方がないというものか。


 俺はアルの頭にポンっと手を置いて優しく撫でてやる。

 フードの上からではあるが、アルは気持ちよさそうな表情を浮かべ、少し落ち着いたようだ。


「大丈夫だよ」


 俺はアルに語りかける。


「前に王都で言ったろ? 任せろって。

 盗賊団はきっちり壊滅させるし、その背後に黒幕がいるのならそいつらもまとめて一網打尽にしてやる。だから、大丈夫だ」

「イオリ兄ぃ」


 アルは体育座りをやめて立ち上がり、トコトコと歩いて俺のかいていた胡坐の上にチョコンと座る。

 俺に背中を預けながら上を向き、そのつぶらな瞳で俺の顔をまっすぐに見つめながら、 


「ありがとう。ボクをここまで連れてきてくれて。

 さっきまで不安だったけど......元気でた」

「そりゃよかった」


 俺はアルの頭にもう一度手を置いて撫でる。

 アルは俺にされるがまま身を預け、しばらくしたら気持ちよさそうに寝息を立て始めた。


「あら、ずいぶん気持ちよさそうに眠ってるわね」


 視線を上げれば、訓練を終えた白石とエルザが眠るアルを見て優しい笑みを浮かべて近づいてきた。


「あぁ、やっぱり故郷のことが心配で仕方なかったみたいだ。撫でてたら緊張がほどけたんだろうな」

「まだ小さな子供だもんね......」

「えぇ......可哀想に」


 二人もアルの傍らにしゃがみこんで頬や頭をそっとなでる。

 ぐっすり眠っているのか、アルは全く気付くことなく安らかな寝息をたてたままだ。


「絶対、助けよう」

「もちろんよ」

「えぇ」


 俺たちは顔を見合わせて決意を新たにうなずきを交わす。


 明日はいよいよアルの故郷に到着だ。俺たちは決着がすぐそこまできているのを感じながら、部屋へと戻るのだった。


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