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2-27 久々の王女

「お帰りなさい。不二さん」

「あぁ。ただいま......エリィ」


 エリィは旅に出る前と変わらぬ穏やかな雰囲気で俺に語りかける。

 あまりに自然な雰囲気だったため、俺も思わずただいまなどと返してしまった。


「獣人の国、ガムド皇国に向かわれていたと思うのですが、どうなされたのですか?

 もう万事解決なさってこちらにお戻りになるとか?」

「いや、残念ながらまだ途中だな。とりあえず国境を越えることまでは無事にできたよ」

「まぁ、もう国境まで? さすがは不二さんですね」

「同じ転移魔法の使い手なんだから分かるだろ? ズルして途中をすっ飛ばして進んだんだよ」


「なるほど、そうでしたか。しかし、まだ用事がお済みでないのにこちらにお戻りになられたということは......」

「あぁ、ちょっとエリィに話したいことがあって戻ってきた。この後少し時間を貰えないかな。出来れば二人で話がしたい」

「まぁ」


 エリィは両手を頬にあてて照れるような素振りを見せる。


「別に浮ついた話は一切持ってきてないぞ。むしろ申し訳ないけど面倒事だ」

「まぁ」


 両手は頬に当てたまま、眉毛がハの字になって困りました、というかのような表情になる。


「人払いの件についてはかしこまりました。それではこのままここでお話しすることにいたしましょう

。他の皆様がお部屋にお戻りになってからで構いませんか?」

「あぁ。悪いな」

「いえいえ、お気になさらないでください」


 俺は開いた席に腰掛けてしばらくの間待つことにした。


 エリィと俺の会話を聞いていた他の連中は、突然の俺の訪問に興味を抱きながらも、これまであまり話しかけたこともないためにどうしたものかという感じだ。


 しかし、ガタンっと椅子を引く音がして、視線を向ければ朝倉が俺の方を一顧だにせずに広間をあとにした。よほど俺と同じ空間にいたくないらしいな。まぁ無理もないけど。


 朝倉が部屋を出たことがきっかけとなって、他の生徒たちも食事を終えた者から席をたち、各自の部屋へと戻り始めた。


 最後の一人が広間を出て、あとには俺とエリィ、給仕のメイドさんを残すのみとなる。


「では皆さん、私はしばし不二さんとお話しがありますので、食器を下げたらしばらく人払いをお願いしますね」

「かしこまりました」


 侍従長のベリエッタさんが恭しく一礼し、食器を抱えたメイドさんたちを連れて広間を出ていく。

 こうして、ようやく広間には俺とエリィのみが残された。


「さて、人払いも済みましたわ」

「助かるよ。いきなり帰ってきた上にぶしつけなお願いまで聞いてもらって悪いな」

「どうかお気になさらず。旅は順調だったのですか?」


 しばしの歓談という感じで、本題に入る前に軽いやりとりをお望みのようだ。


「そうだな。新しく一人、腕の立つ冒険者も仲間に加わったし、概ね順調に進んでるよ」

「それはよかったです。魔獣との戦闘で大けがなどをされていないかと心配しておりました」

「まぁ、危なくなったらすぐに逃げるようにしてたけど、幸いここまでそんな強敵には出会ってないな。

あいつらの訓練は上手くいってるのか?」


「はい。七聖天の方々と連日頑張ってらっしゃいますわ。オドルの森はもはや訓練にならなくなってまいりましたので、今は王都近くの小さなダンジョンに場所を移して訓練をしています」

「ダンジョン?」

「はい。どれだけ魔獣を倒そうとも、尽きることなく魔獣を生み出す不思議な空間です。

大抵は地下へと続く洞窟なのですが、幸いダンジョンが生まれてからすぐに発見されたこともあり、魔獣もそこまで強いものが生まれないので、訓練にうってつけなのです。

 もちろん、しっかりと管理されておりますので、ダンジョンの外に魔獣が出てくるようなこともありません」


 ダンジョン。

 ファンタジー世界でお馴染みの存在が、どうやらこの世界にもしっかりと存在していたらしい。

 まぁ、しっかりと管理することができれば、生活必需品である魔石を安定的に入手できる場所なのだろうし、攻略するより管理した方が旨味が大きい場合もあるのだろう。


「ちなみに、そのダンジョンって最奥にはボスがいるとかそういうやつか?」

「やはり不二さんもダンジョンについての知識がおありなのですね」

「まぁ、俺たちの世界のおとぎ話とかでお馴染みのものだしなぁ。その知識でしかないけど」

「不二さんのおっしゃる通り、ダンジョンの最奥には強力な魔獣が待ち構えています。そのボスである魔獣を倒し、ダンジョンの核を破壊ないしは持ち出すことによって、ダンジョンはただの洞窟へと姿を変えるのです」


「まさにファンタジーってやつだな。ちなみに、あいつらが挑んでるダンジョンのボスってどんな魔獣なんだ?」

「コカトリス、ですね」

「コカトリス......ていうと、鶏とドラゴンと蛇が混ざったような魔獣だっけ? たしか石化の能力を持ってたような」

「本当によくご存じなんですのね。おっしゃる通りです。コカトリスは石化魔法と毒をまき散らす厄介な魔獣です。いかに規模の小さいダンジョンといえど、ボスであるコカトリスの強さは黒プレートに相当します」


 俺は過去に恩寵をプレートに転写させた際の記憶を振り返る。

 確か、プレートの色は下から白→青→緑→黄→赤→紫→黒→銅→銀→金って順番だったよな。

 そう考えると、


「黒っていうと、冒険者のランクとして上から4番目......。それってソロで挑んだ場合でか?」

「いえ、パーティ単位の場合です。単独ならば銅プレートは必要でしょう」

「そりゃあ、とんでもないな」

「だからこそのボスですね」


 ボスとなる魔獣の強さは、俺の予想を上回る戦力を有しているらしい。

 

「さすがに規格外の恩寵持ちが集まってても、経験が乏しい今の段階ではまだ厳しいんだろうな」

「そうですね。今の段階では、皆さんは平均して黄色プレートというのがガイアスさんのご意見ですね。とはいえ、訓練開始から1ヶ月たらずで黄色プレート相当というだけでも、十分に規格外ですよ」


 エリィは喜んだものやら呆れたものやらというような困り笑いを浮かべていた。


「まぁ、そっちも概ね順調みたいで何よりだ。それじゃあ......」

「はい、本題に入りましょうか」


 エリィは居住まいを正して俺に真剣な表情を向ける。

 普段の穏やかな雰囲気とは打って変わり、それは優雅で気品があり、それでいて威厳を感じさせる、まさしく王族の風格というにふさわしいものだった。


 俺はビルス達盗賊団のこと、それを追う中で見えてきた黒幕らしき存在の可能性をエリィに話した。


「なるほど。たしかに事態は一盗賊団を捕縛して万事解決とはいきそうにありませんね」


 俺の話を聞いたエリィは、俺とロイがたどり着いた推論に賛同の意を示す。

 俺はエリィの反応を見て安堵しながら、話を続ける。


「そこで、俺たちはビルス達を生け捕りにして、黒幕の正体まで暴き出せればと思ってるんだ」

「そうですね。そこまでできれば最善かと思います」

「そこで、エリィに力を借りたい」

「といいますと?」


 エリィが俺に続きを促す。俺はそれを聞いて、ローブのポケットから魔込めの腕輪を取り出した。

 

「これは?」

「これはテレパスの魔法が込められてる魔道具だ。俺が黒幕の正体にたどり着けたとして、俺がいくら証言しても、そいつに証拠がないって否定されたらなかなか覆すのは難しい。

 そこでこれだ。これを使って俺と黒幕の会話をエリィにも聞けるようにする。そうすれば、王族というこの国の最高権力を持つ一族が証人になってくれるんじゃないかって考えたって訳」

「なるほど。言い逃れのしようがありませんね」

「だろ? どうだろう。これをお願いしに戻ってきたんだ」


 俺はエリィの返答を待つ。しかし、俺の断られるのではないかという心配とは裏腹に、エリィは即座に同意を示してくれた。


「軍を動かしてくれとか、そういう規模のお話であればすぐにお返事することはできませんでしたが、この程度のことであれば一向に構いませんよ。それでこの国の膿を取り除けるのであれば、この国の王族として、喜んでお手伝いさせていただきますわ」


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