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2-26 ブレストと帰還

 人間の国から獣人の国へといよいよ入り、俺たちはアルの故郷を目指して進んでいた。

 大河を渡ってからは、これまでの景色とあまり変化はない。


 基本的には広大な草原が広がり、ぽつぽつと林、森、丘などが点在していた。


 アルの故郷であるミサナ村にはおそらく明日には到着できるだろう。

 俺たちは日暮れまで移動を続け、転移魔法でオラクルへと戻った。


 宿屋に向かう前に、夕暮れの鐘に移動してロイたちに情報の共有を行うことにする。

 俺たちは通いなれた道を歩き、程なくして夕暮れの鐘に到着。中に入って従業員にロイもしくはオーウェンに面会したい旨を伝えると、いつもの応接間へと通された。


 待つこと30分ほど。貰っていた飲み物とお茶請けがアルと愛姫によって跡形もなく食べられたころに、ロイとオーウェンが応接間へとやってきた。


「お待たせしてしまい申し訳ありません。ちょうど商談が入っておりまして......」

「気にしないでくれ。こっちもアポもとらずに来たんだし」

「ありがとうございます。して、本日はどのようなご用でございますか?」

「情報の共有に。俺たちは今日国境を越えて、獣人の国に入ることができた。おそらく、明日の昼ごろにはアルの故郷に到着すると思う」


「それはそれは......。通常では考えられない速さですね。さすがは転移魔法の使い手ということでございましょう」


 そう言って、ロイは称賛と呆れが半々といった感じで返答する。


「まぁ、ゴアのあたりからは、戦闘もそこそこにひたすら転移魔法でショートカットを繰り返してたからなぁ。恐らくビルス達との距離もそんなに離れていないとは思うんだ。ただ、一つ気になることがあってさ」

「と申しますと?」

「これはエルザから聞いたんだけど、国境の玄関口はあの大橋に一元化されてるってことで間違いないんだよな?」


「はい。以前は渡河することが可能でしたが、現在では渡河での国境越えは禁止されております。

 もし違反が見つかれば、問答無用で船を沈める決まりになっておりますし、監視の恩寵持ちが多数配置されておりますので、その目をかいくぐるのは至難の業かと......なるほど。

 イオリ様の気になることが分かりました」


 ロイはそういうと、真剣に考え込む様子を見せる。


「話が早くて助かるよ。それだけの厳重な警備をしかれているのなら、ビルス達盗賊団がどうやって国境を越えてアルの故郷に襲撃をかけられたのかが見えてこなくてさ」

「おそらく、と申しますか、結論から申し上げれば、国境警備の任に就く者の中に、買収されたものがいると素直に考えるのが最も自然、かつ正鵠を得ているのではないかと思いますね」

「やっぱりそうか」


 ロイと俺の予想は一致していたらしい。というか、それ以外に浮かばなかったのだが、あまりにシンプルな予想だったために、自信を持てなかったのだが、ロイもいうなら間違いないだろう。


「ただ、そうなると、たかだか盗賊団に国境警備なんて重要な役目につく人間を買収する力なんてないと思うんだよなぁ」

「確かに。さすがにビルス達にそれだけの力があるとは思えませんね。ということは、買収したのは別の勢力......ということになりますが」

「なにやら話は盗賊団を掃討するって話じゃ収まらなくなってきそうだよなぁ」

「そうですね。背後に結構な大物が絡んでいるような気がしてなりません」

「......だよなぁ」


 そう、これまではビルス達を倒せば一件落着かと思っていたのだが、国境を越えたところで俺にはこの件が一介の盗賊団だけで実行可能なことには到底思えなかったのだ。


 ロイたちとのブレストによって、俺のなかで浮かんでいた疑念、推論がだんだんと一つにつながっていく感覚を覚える。


 盗賊団だけでも、邪眼にテレパス持ちがいるという厄介な想定がされていたのに、ここにきてその背後には大きな後ろ盾のような存在がちらつき始めていた。


「おそらく、ビルス達を上手く捕まえられたとして、それで終わってしまってはトカゲのしっぽ切りで終わる気がするんだよな」

「そうですね。そうなると、ビルスは何としても生け捕りにして、背後にいる存在をあぶりださないと問題の根本の解決にはなりえないかと」

「うん。やっぱりそうだよなぁ。とはいえ、黒幕がそう簡単に尻尾を見せるとは思えないし......。何か証拠をこちらでつかめればいいんだけど......」

「ですね......。こういう時に探知能力の恩寵持ちがいればかなり有用なのですが......」

「探知能力?」


「はい。鑑定魔法に似ている能力なのですが、魔力の残滓をたどったりすることができる力です。

 おそらく黒幕も何らかの接触手段をビルス達との間に持っているはずです。それをたどることができれば......と考えたのですが、そういったユニークな恩寵というのはなかなか発現しないので、すぐに手配することが難しいのですよ」

「なるほど......ありがとう。いい話を聞けたよ」


 俺はロイから耳よりな情報を得て、今後の行動の方針が頭の中で組みあがるのを感じていた。

 ロイは急に上機嫌になった様子の俺を見て不思議そうな面持ちを浮かべる。


「そ、そうですか。お役に立てたようでよかったです」

「ロイの意見を聞けただけでも十分有難かったけど、最後のはすごいヒントになったよ」

「......また面白いことをなさるおつもりですな?」


 ロイとオーウェンは顔を見合わせて面白そうにニヤリと笑みを浮かべる。

 俺もそんな二人に笑みを返し、


「上手くいくかは分からないけど、間違いなく今後の助けになると思うよ」

「そうですか。重畳でございます。とはいえ、これからイオリ様方が行動されるのは、この国ではなく異国でございます。くれぐれもお気を付けください」

「ありがとう。まぁ、この国だって俺や白石にとっては異国だし、そんなに変わらないさ」

「それもそうでしたな」


 はははっと笑い声が応接間に広がり、俺たちは立ち上がる、応接間を出て店舗スペースに出たところで、俺はふと思いついたことがあり、ロイに再度話しかけた。


「あのさ、こないだもらった魔込めの腕輪なんだけど、まだ在庫って残ってるかな?」

「? 少々お待ちください......はい、まだございますよ」

「よかった。じゃあ2つ買わせてもらいたいんだけど」

「ありがとうございます」


 俺は代金を支払って魔込めの腕輪を受け取る。

 突然の買い物に、白石が俺に質問してきた。


「何に使うの?」

「ちょっとな。ひょっとしたら今後役に立つかもしれないんだよ」

「誰に持たせるの?」

「この中にはいないぞ。渡す相手は王都にいる」

「王都に?」

「そう。まぁ詳しいことはあとで説明するよ。とりあえず宿に戻ろう」


 俺はそういって一旦会話を切り、夕食を摂りに宿屋へと戻るのだった。



 宿屋に到着し、いったん部屋で小休止をとってから夕食を摂ることにした。

 各自の部屋に向かう前に、俺は先ほど購入した魔込めの腕輪の使い道を説明している。


「じゃあ行ってくるな」

「うん、いってらっしゃい」


 愛姫にそういって、俺は転移魔法で久々の王城へと舞い戻るのだった。


 城門でそれまで訓練の行き帰りでいつもやっていた身分照会を手早く済ませ、俺は王城に足を踏み入れる。まだそこまで日が経っているわけではないが、それなりの懐かしさを覚えながら食堂の広間へと向かって歩いていく。


 広間の扉を開けると、ちょうど食事も終わろうとしていたようだ。

 

 突然開いた扉に視線が集まり、俺の姿を見たクラスメイトは一様に驚きをその顔に浮かべている。

 俺はそれらの視線をスルーしながら広間に入り、目当ての人物の存在を認めて歩を進めた。


 最奥にて優雅に食事をとっていた人物は、俺を見て一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに普段の穏やかな笑みを取り戻して俺に語りかける。


「お帰りなさい。不二さん」

「あぁ。ただいま......エリィ」


 そう。俺の目当ての人物、それは、ミルロード王国第一王女、エリシア・ミルロードである。

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