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2-21 心の強さ

「ゲギャギャギャギャギャ」


 俺と白石とティナを取り囲んだゴブリンたちは、飛びかかるタイミングを計るかのようにこちらの様子を窺っている。


「白石、今回は俺は支援に徹しようと思うから、なるべくティナと掃討を心掛けてくれ」

「......分かった」


 真剣な表情で返す白石。

 これまで戦闘をティナに任せていたが、今回は白石自身も前に出てもらう。

 とはいっても、白石自身に魔獣を倒すための術が現状あるわけではない。

 ただ、とっさのときに戦闘がまったくこなせなければいずれパーティの弱点になりかねないので、回避に重心をおきつつ、ティナや俺との連携を高めるのが狙いだ。


『さらなる速さを スピード』


 支援魔法を白石にかけて回避するための敏捷性を底上げする。


「ありがとう。じゃあ、いくよ! ティナ!」

「クルアァァ」


 白石はティナの後ろへと近づき、ゴブリンたちと会敵する。

 ゴブリンは白石とティナを取り囲むように動き、機を窺うようだ。


「ティナ、包囲を崩すわよ!」

「クルアァ」


 白石が指示をだし、包囲の一角に向けてティナと駆けだす。

 進路にいるゴブリンが棍棒を構えてゆく手を阻もうとするが、


「ブレス!」

「クルアァ」


 ブレスが放たれ、炎を食らったゴブリンたちは完全に無力化した。

 その間を支援魔法で強化されたスピードを活かして易々と突破する。


「ギャギャギャギャギャギャ!!」


 包囲網の突破を許したゴブリン達は再度の包囲を試みるが、今度は俺もさらなるサポートに回る。

 転移魔法を白石の側に発動し、テレパスで白石に指示を飛ばす。


(白石、そのゲートで連中の背後を取れる! ティナで薙ぎ払え!)

(了解!)


 即座にティナとゲートに飛び込み、ゴブリン達の背後に置かれた出口から飛び出すと、ティナががら空きの背後に襲い掛かる。


 尻尾で薙ぎ払われ、前足で切り裂かれ、あっという間に3体のゴブリンが塵と化した。

 ゴブリンは瞬時に移動した白石とティナに面食らったようだが、怒りをその目に宿して手に持つ棍棒を白石めがけて投げつけた。


「!?」

(白石、回避!!)


 一瞬驚きで動きが硬直しかけるが、俺のテレパスで我に返り、棍棒を避ける。

 ヒヤリとしたが、今の攻撃で生き残りのゴブリンの半数が武器を失う。結果としては大きな戦力ダウン。形勢は一気にこちらの有利になる。


(武器を失った奴から優先的に処理だ)

(分かった!)

「ティナ、武器のないやつから狙って!」


 しかし、武器を失っていないゴブリンが武器を拾うまでの時間稼ぎのために立ちはだかる。

 やはり、ゴブリンリーダーの元で生きてきた分、役割や優先順位の判断能力が他の群れよりも優れているらしい。


 しかし、もう一つの戦況を見ていた俺は、ニヤリと笑みを浮かべて転移魔法を発動する。


「ギャギャギャギャギャギャギャ」


 棍棒を持つゴブリンが白石とティナ目掛けて殺到するが、


「あら、わたしも混ぜてもらえるかしら?」


 その背後から、ホブゴブリンを狩り終えたエルザが襲い掛かる。


「ヒナ、残りの丸腰の連中は任せたわ」

『ゲート』

「任せて!」


 エルザが指示を伝達すると同時に、白石のそばにゲートが開く。

 俺の意図を理解して即座にティナとともに飛び込み、武器を拾おうとするゴブリンたちを個別に撃破していく。


 エルザのほうは、残りのゴブリンをあっさりと掃討し、新メンバーを加えての初戦闘は無事に終了した。


 俺が後衛として支援に徹し、戦況を見ながらテレパスで指示を出す。今回は戦力を分散しての撃破という方針を取ったので、エルザが先に狩りつくしたとみるや、即座に転移魔法で残りの敵の掃討にあたる。


 俺自身も魔法を放つことができるので、まだまだパーティとしての余力も十分に残している。加えて、テレパスによって戦況の把握、指示だしがスムーズに行えてとても便利だ。

 エルザが加わったことで、より多くの敵を相手取っても問題なく戦える。なんといってもとにかく強いし。


「二人ともお疲れ」


 俺は二人に近寄ってねぎらいの言葉をかける。


「疲れるほどの相手でもなかったけどね」

「......お疲れ様」

「30体で、ホブゴブリンよりさらに上位種を相手にしても問題なく戦えた。これから連携を深めていけばさらに戦力は増強できるだろうな」

「そうね。イオリのテレパスや転移魔法のおかげですごく次の行動がとりやすいわ。実質ヒナと二人で戦闘をこなしたけど危なげはなかったし。これから先が楽しみね」

「............」


 エルザは晴れやかな顔で答えるが、白石は対照的に暗い表情を浮かべている。


「? ヒナ、どうかしたの?」

「また、危うく足を引っ張るところだった......」


 白石の言葉に、俺は先ほどの戦闘の一コマを思い起こす。

 ゴブリンの投擲攻撃に、一瞬白石の反応が遅れたときだ。


「あたしは......弱い」


 悔しさに顔を歪めながら、白石は言葉を捻り出すようにこぼす。


「別に弱いってことはないでしょう? あなたの操るティナがゴブリンの半数を打ち取ったんだし」


 エルザはそういってフォローするが、白石の言いたいことはそこではないのだろう。


「そうじゃないの。確かにティナは頼もしいし、支援魔法のおかげで敵の攻撃も回避はしやすくなった。だけど......このままだと、敵が強くなったとき、あたしは完全に足手まといになっちゃう......」

「ヒナ......」


 エルザはどう話しかけたらよいものかと言葉を探しているようだ。

 たしかに、このままではいずれ白石は戦闘に参加するのは困難になるときがくるというのは感じていた。この先ティナが強く成長したとして、白石自身の戦闘力が伸びないままでは、ティナ、もしくは俺とエルザのどちらかが白石をかばいながらの戦闘を余儀なくされてしまう。


 ティナの戦闘力というメリットと、白石をかばう必要性というデメリットを天秤にかけ、デメリットに比重が傾いたとき、それは白石の戦闘における必要性がなくなる瞬間だ。


 白石もそれを悟ったのだろう。ティナという頼もしい戦力を有しながら、他ならぬ使役者である自らが足かせとなってしまうかもしれない。それを感じたからこそこうして落ち込んでいるのだ。


 ひょっとすれば、俺の恩寵があれば白石の悩みを払拭することができるかもしれない。

 しかし、それで解決したとして、それは白石の悩みの根本の解決にはならない。俺が手を貸すとしても、それがなくとも困難に立ち向かえるだけの自力を有したうえでないと意味はないのだろう。


 愛姫とアルも、心配そうな顔で白石の様子を見ている。

 ここまで苦楽をともにした仲間が悩んでいるのだ。さすがの俺も、かける言葉を探していた。


「............」


 重苦しい空気が立ち込める。しかし、


「うん、決めた」


 白石はそう小声で呟くと、俯いていた顔を上げる。

 その表情は、先ほど浮かべていた悔しさや消沈とは打って変わり、強い決意を秘めているように見えた。


「エルザ。お願いがあるの」


 白石はエルザの方へ向き直り、言葉を繋ぐ。


「あたしに、剣技を教えて」


 しばしの沈黙が立ち込める。しかし、エルザが柔らかい笑みを浮かべて白石に語りかける。


「本気なのかしら?」

「もちろん、本気よ。足手まといなんてまっぴら! それに、この旅についてきたのは私のわがままみたいなものだし。そんなあたしが足を引っ張ってちゃ話にならないもの」


 白石はそういって、俺を一瞥する。


「それに、戦闘で借りばっかり作ってたら気分が悪いんだもの。あいつに、あたしがいないと困るって言わせて見せるわ!」


 そう言ってビシっと俺を指さして睨んでくる。しかし、その口元はどこか楽しげだ。


「イオリ、どうやら私はヒナを少し見くびってたみたい」

「奇遇だな。俺も同じことを考えてた」

「あんたたち、見てなさいよ......」


 一転して不満げな表情を浮かべる白石だが、先ほどまでの重苦しい雰囲気はどこにもなくなっていた。

 確かに見くびっていたんだろう。落ち込んで、自分の可能性に見切りをつけるのなら、今後の旅をどうしようか、いっそ傷が大きくなる前に王都に帰すことも選択肢の一つかもしれないなどと考えていたが、まったくの杞憂だったようだ。


「わたしの特訓は厳しいわよ?」

「むしろ望むところね」

「......いいわ。私の剣技、教えてあげる」


 白石は強くなる。よくわからないが、俺にはそんな予感がしていた。

 困難に直面した時に、下を向いて立ち止まるのではなく、上を向いてもがける心の強さ。

 あとあと思い返してみれば、俺の中で、白石の見方が変わったのはこの時かもしれない。

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