2-20 新たな連携
愛姫を連れて3人の元へと帰還すると、早速先ほどの全員でのテレパスによる念話に説明を求められた。
「えっと、テレパスの発動の仕様というか、それを確かめてみたんだよ」
「テレパスの仕様?」
白石がよく分からないといった様子で首を傾げる。
「あぁ、テレパスを発動すると、頭のあたりから糸状の魔力が伸びて、つながった相手と念話ができるんだ」
「へぇ~、そういうこと」
「で、朝みんなに使ったときは、それぞれに魔力の糸を伸長させて繋いだ。つまり、3本の魔力の糸をそれぞれ個別に繋いだんだ。
だけどさっき使ったときは、一本の魔力の糸を伸長させて全員に繋いだんだよ。
上手くいくかは分からなかったけど、結果としては予想通り。全員が念話で意思疎通ができることが分かったってわけさ」
俺の説明を聞いて、エルザはそういうことねと納得顔を浮かべる。
「なるほどね。けど、こうして実際に使ってみると、テレパスってすごく便利な恩寵なのね」
「そうだな。地味だけど、混戦状態や個別行動しているときでもコミュニケーションが取れるっていうのはものすごく使い勝手がいい恩寵だと思う。手に入れてよかったよ」
加えて、転移魔法などで一瞬で離れた場所に移動しても効果が持続する。
これについてはそんなに期待していたわけではなかったけど、成功して本当によかったと思う。これで愛姫たちが緊急で離脱しても、しっかりと安否の確認をすることができる。
テレパスの有用性の確認が済んだところで、俺たちは旅を再開した。
エルザの情報によれば、盗賊たちにはだいぶ追い付いてはいるものの、まだ先を行かれている。出来るだけ早く、可能なら奴らより先にアルの故郷についておきたい。
そう考えると、無駄にできる時間は俺たちには全くないのだ。
ただ、俺たちに新たに加わったエルザとの連携をしっかりと高めて置くことも優先順位としてはかなり上だ。
ということで、俺たちは転移魔法でのショートカットを繰り返しながら、連携の訓練の相手になりそうな魔獣を探すことにした。
俺が転移魔法で移動し、”鷹の目”を発動して周囲を索敵し、手頃な数の魔獣が周囲にいないかを探るのだ。探してみて、丁度いい相手がみつからなければ再度転移という移動を繰り返す。
移動を開始して1時間が経過した頃、転移先で鷹の目を発動して周囲を探ると、俺たちの進路から見て北東にある林の裏に、魔獣を発見し、詳細を確認するためにズームする。
すると、ホブゴブリンが10体、ゴブリンが20体ほどの群れが確認できた。
強さ自体は大したことないが、数が多いので標的にはうってつけかと判断する。
みんなに報告しようと視線を切ろうとしたのだが、ふと1体のゴブリンに引っ掛かりを覚えて再度ズームする。
そのゴブリンは、ホブゴブリンよりもさらに一回り大きく、武器らしき棍棒も、ただの木を削った物ではなく、周りに石を埋め込んで殺傷能力を高めているようだ。
(ホブゴブリンのさらに上位種か?)
伝達事項としてしっかりと特徴を把握し、俺は鷹の目の発動を停止。
目を開いて他のみんなに声をかける。
「みんないいか? 北東の林に、ゴブリンの集団を見つけた。数は30数体。ホブ10、ゴブ20だ」
「まぁ、強くはないけど数が多いし、いいんじゃないかしら?」
エルザが同意を示し、それに白石も続く。
「オーケー。ただ、ひとつ気になることがあるんだ。
1体、ホブゴブリンよりもさらに一回り大きくて、武器もごついやつがいる。おそらく上位種なんだと思うんだけど、エルザは知ってるか?」
「あぁ、それは多分ゴブリンリーダーね。お察しの通り、ホブゴブリンの上位種よ。強さは黄色プレート相当ね。オークよりは弱いわ」
「なら恐るるに足りないってことか?」
「そうね、ただ、群れを統率しているなら、普通の群れよりは連携に優れているわ。戦うなら、真っ先に狙うべきでしょうね」
「分かった。ただ、今回は連携の確認って目的があるから、不意打ちせずに一旦正面に姿をさらそうと思うんだけど」
「いいんじゃない? 油断せずにやれば大きな痛手を被ることはないでしょうし」
「あたしもそれでいいわよ」
「よし、じゃあ今回はエルザが前衛、白石が中衛、俺が後衛でやろう」
「「了解」」
「じゃあ行こう、『ゲート』」
俺たちは転移魔法でゴブリンたちから50mほど離れた地点に転移する。
ゴブリン達はまだ気づいた様子を見せない。俺はそのうちにテレパスを全員に繋ぎ、念話での会話を可能にしておく。
(これで離れていても叫ばないで意思疎通ができる。なにかあったらすぐに言ってくれ)
(わかったわ)
(任せて)
エルザと白石も頷きを返す。
こちらの準備は整ったので、俺は火球を1つ生み出して群れの近くへと放つ。
火球の着弾によって俺たちの存在に気付いたゴブリン共は、騒ぎながら手に武器を持って立ち上がる。群れの最後方には先ほど俺が見つけたゴブリンリーダーがどっしりと構え、こちらの様子を窺っていた。
「さて、敵さんも気づいたことだし、ここからは正々堂々と背後から襲いかかろうか」
「なんか言ってることが矛盾してるように感じるんだけど?」
白石が若干呆れた様子で言葉を返す。
「そうはいっても、俺の転移魔法ありきの連携だ。ゴブリンリーダーをまず狩るにしても、それが一番効率がいいだろ?」
「はぁ。分かってるわよ」
「じゃあ、エルザ頼むな」
「任されたわ」
俺たちが話している間に、ゴブリンの群れは俺たちに向かって駆け出している。
衝突まであと5秒ってとこか。
『ゲート』
俺はゴブリンリーダーの背後に出口を設定してゲートを発動。
エルザは初めての経験なはずだが、躊躇なくそれに飛び込んだ。
「さて、今回は白石にも立ち回ってもらうから、頼むぞ」
「もちろん! 行くわよ! ティナ!」
「クルアァ!」
白石たちの気合も十分か。俺は愛姫とアルを視界の端にしっかりと捉えながら、支援魔法を施す。
『守りをさらに堅牢に ディフェンス』
俺が言霊を唱え、無属性の魔力を白石に向けて放つ。白石に当たると、白石の周囲を淡く輝かせる。
「!?」
突然のことに驚く白石だったが、俺の支援魔法と気づくと小さく笑みをこぼす。
「ありがと!」
「まだまだいくぞ!」
『矛をさらに強固に アタック』
『さらなる速さを スピード』
ティナに向けて2種の支援魔法を施すと、ティナの飛行速度が目に見えて早くなる。
それと同時にティナがゴブリンたちと接触し、尻尾で先頭のゴブリンを薙ぎ払った。
小さな見た目からは想像できないほどの威力で振るわれた尻尾の薙ぎ払いを受け、先頭のゴブリンが首の骨を折りながら後方へと吹き飛ぶ。
それをうけて、将棋倒しのように数体のゴブリンが巻き込まれて勢いが止まった。
「すごい、普段の威力が数段強化されてる」
「クルアァア」
白石はその威力に驚き、ティナは嬉しそうに叫び声をあげている。
ゴブリンはティナを警戒して突撃をやめ、こちらを囲むように動き始めた。
俺はその様子を伺いながら、視線をエルザの方へと向ける。
すると、ちょうどエルザがゴブリンリーダーの首を跳ね飛ばすところだった。
シルフの生み出した風にのって超速で移動し、すれ違いざまに一刀のもとに屠ってしまったらしい。
「ギャ?」
ゴブリンリーダーは何が起きたのかわからないと言いたげな声を上げ、その直後に分かたれた首と胴体が霧散する。
後詰めとしてゴブリンリーダーの近くに残っていたホブゴブリン達が、事態に気づいて動揺を露わにしながら叫び声を上げる。
(まぁ期待はしていなかったのだけれど、さすがに歯ごたえがなさすぎるわね......。)
(悠長なこと言ってないで、ホブゴブリンを片付けたらこっちに合流してくれ)
(わかったわ。はぁ、もっと骨のある相手はいないかしら)
そんな気の抜けた念話を俺に送りながらも、エルザの周囲にはシルフが生み出したらしき風が吹きすさび、手に持つ剣も風を纏ってキーンと鋭い音を上げている。
エルザがホブゴブリン目掛けて飛び込むのを見て俺は視線をゴブリン達へと戻した。