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2-19 テレパス

 新たにエルザが旅に加わることになり、夕食を終えた俺たちはオラクルの宿へと引き返す。


 宿屋に行く前に夕暮れの鐘を訪ね、エルザの顔合わせと、エルザから得た情報に基づく推測を聞かせた。


「......。なるほど、テレパス持ちですか。それは確かに十分にあり得ますね。むしろ、イオリ様のお話を聞くとそれ以外の可能性を考えにくいかと思います」

「そうかぁ」


 商人として情報を広く収集しているロイからのお墨付きを得たことで、より推測の確度が増したと感じる。


「それにしても”盗賊狩り”を仲間にしてしまうとは、イオリ様にはやはり興味が尽きませんな」


 そんなことを言いながら、ロイはからかうような笑顔を俺に向ける。


「どういう意味だよ」

「いえいえ、一見すると美女と幼子を侍らしているようにしか見えませんので」

「勘弁してくれよ。気苦労が絶えなくていっぱいいっぱいなんだから」

「あら、それは一体どういうことかしら?」


 笑顔の仮面を張り付けた白石がヌラリと隣に現れた。


「ベツニナンデモアリマセン」

「ふん」


 プイっとそっぽを向く白石、ため息をつく俺、そんな二人を楽しげに見つめるエルザとロイ。


「微笑ましいわねぇ~」

「全くですね」

「「どこがだ(よ)!!」」


 見事にシンクロして言い返す俺たちを依然ニヤニヤと見つめる二人。

 埒が明かないので俺はため息をついて会話を逸らす。


「まぁ、とりあえず俺たちから伝えたかったことは以上だ。

 ロイたちもこれを踏まえて情報収集にあたってもらえると助かるよ」

「かしこまりました。引き続き、情報収集にあたります。皆様も道中どうかお気をつけて」


 こうして俺たちは夕暮れの鐘をあとにし、宿屋で夜を明かす。


 横たわるベッドの隣にはすやすやと寝息を立てる愛姫。

 俺は愛姫が深い眠りに入っているのを確認し、目を閉じて体の奥底に声をかける。


(なぁ、聞こえるか? まだ起きてるなら返事してくれ)

(......ファ? ナンダワレカ。コンナジカンニイカガシタ?)

(悪いな。ちょっと欲しい恩寵があるんだけど)

(サヨウカ。シテ、イカナルチカラヲノゾム?)

(テレパスっていう恩寵だ。なんでも遠くにいる相手とも念話?ができるようになるらしいんだけど......できそうか?)

(ムロン。デハサッソクワレノネガイヲカナエルゾ?)

(あぁ、頼む)


 すると、これまでと同じように俺の下に魔法陣が生まれるのを感じ、しばらくするとパリィンと音を立てて弾け飛ぶような感覚を覚える。


(ワレノネガイハシカトカナエタゾ)

(あぁ、助かったよ。これからもよろしく頼むな)

(モチロンダ。デハワレモネムリニツクゾ)

(あぁ、おやすみ)


 ゆっくりと目を開き、会話を切った俺はおもわず独り言を呟く。


「あいつ、寝るのかよ」


 翌朝、愛姫と連れだって部屋をでて、一階の食堂へと朝食を摂りに向かう。

 すでに他の三人は着席しており、俺たちの到着を待っていたようだ。


 席に着く直前、俺は効果をイメージしながら小声で言霊を紡ぐ。


『テレパス』


 すると、俺の頭から魔力の糸が揺らめくのを感じ、俺はそれを伸ばして白石、アル、エルザに伸ばして接続する。


(おはよう)

「おはよう」

「おはようイオリ。いい朝ね」

「おはよう、イオリ兄ぃ!」


 あれ? 普通に返事が返ってきた。もっと驚くかと思ったんだけど......。

 どうやら俺が普通に喋っているものと思っているようだ。


(みんな、ちょっと俺の方を見てくれないか?)

「? 一体どうしたっていうのよ」


 白石が怪訝な顔でこちらへと顔を向ける。他の二人も同様だ。

 全員がしっかりと俺の方を向いているのを確認し、俺は口を閉じたままテレパスで語りかける。


(さて、朝食をはじめようか)

「「「!?!?」」」」


 ようやく気付いたらしい。全員の驚く顔が見れて満足だ。

 思い描いた顔をしっかりと見ることができ満足気な俺をみて、真っ先にアルが声を上げる。


「い、イオリ兄ぃ、口閉じたまま喋ってる......?」

(そうそう、エルザに聞いたから俺もテレパスを使えるようにしてみたんだ)

「ちょ、ちょっと待ってイオリ、使えるようにしたって......どういうこと?」

(あぁ、そういえばエルザにはまだ言ってなかったっけ? 俺の恩寵は簡単に言うと、100個の願いを叶えてくれるってものなんだ。だから、昨日の夜にそのうちの1つを使ってテレパスを使えるようにしたんだ)

「............」


 突然のトンデモなカミングアウトにエルザは開いた口が塞がらないといった様子で口をあんぐりと開けている。一方で白石は、


「......もう驚かないわよ」

(そりゃ残念だ)


 おふざけもここまでだなと判断し、3人に接続した魔力の糸を外す。


「驚かせて悪かったな。テレパスがちゃんと発動できたか確認しておきたかったんだ」

「ビックリしたよイオリ兄ぃ~」

「ほんとよ。複数持ちってだけでも珍しいのに、どれだけ振り切れた恩寵持ってるのよあなたは」


 アルとエルザが口々に驚きを露わに返事を返す。

 すでに俺の恩寵の内容を知っている白石は、驚いたというよりは手玉に取られたのがお気に召さなかったようだ。


「ともかく、これで離れていても大声を上げずにやり取りができるようになった。

 俺が意図的に接続を切らない限りは念話ができるみたいだし、移動中はテレパスでも意思疎通ができるようにしておこうと思う」

「たしかにそうしておけばより安心ね」

「あぁ、不測の事態は未然に防ぐのが最善だしな」


 こうして新たな恩寵として”テレパス”を手に入れ、俺たちは旅の支度をしてスルムの城門をくぐり旅を再開する。


 城門を出てしばらくして、俺はもう一つの検証のために一旦小休止。


「どうしたの?」


 白石が早めの休憩に違和感を覚えたのか俺に尋ねる。


「あぁ、転移魔法とかで瞬間的に距離が出来た場合にテレパスの接続がどうなるのか確認しておこうと思ってな」

「あ、それもそうね」

「じゃあ、ためしに3人のうち誰かにオラクルの宿屋に転移してもらいたいんだけど」

「はいは~い! 愛姫がやりたい!」

「じゃあ一番に手を挙げた愛姫にお願いしよう。ちょっと待ってな、『テレパス』」


 俺はテレパスを発動した瞬間、ふと思いついたので、俺は一筋の魔力の糸を長めに伸長させて、一筆書きの要領で全員を繋ぐ。


(それじゃあ愛姫、これから魔込めの腕輪を使ってオラクルの宿屋まで転移してくれ)

(うん、わかった~)

(あら? イオリだけじゃなくてアキの声まで聞こえてくる?)

(あれ? エルザ姉ぇまでテレパス使えてる?)

(ちょっと、アルも口動かしてないじゃない。あんたまたおかしなことしたでしょ)

(まぁ、後でまとめて説明するよ。じゃあ愛姫、たのむな)

(イエッサ~)


『ゲート~』


 愛姫がキーワードを唱えると、魔込めの腕輪からゲートが発動する。

 愛姫は勢いよくその中へと飛び込んでゲートとともに姿を消した。

 すると、俺の伸ばしていた魔力の糸がグイっとすさまじい勢いで引き伸ばされる感覚を覚える。言うなれば、釣り糸がリールから勢いよく引き出されるような感覚に近いだろうか。


 その感覚が収まってから俺は再びテレパスで愛姫に語りかける。


(愛姫、聞こえるか? 聞こえるなら返事してくれ)

(にいちゃん! すごい! 聞こえるよ!!)


 遥か彼方のオラクルにいるはずの愛姫の声が聞こえ、俺は検証が上手くいったことを確認できてほっと胸を撫で下ろす。


(よかった。じゃあこれから迎えにいくから待っててくれ)

(は~い)

(じゃあちょっと愛姫を迎えに行ってくる)

(((いってらっしゃ~い)))


『ゲート』


 3人にテレパスで送り出され、俺は宿屋に転移し、愛姫を伴って元いた場所に再び戻る。


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