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「分かった。エルザを信用して話す。

 アルは獣人の中でもとびきり珍しい金狼の獣人なんだ」

「......なるほどね」


 その一言ですべて納得したといった感じでエルザは首肯する。


「アルは2か月前に故郷で攫われた。それから途中で攫った連中から逃れて王都にいたときに俺たちと知り合ったんだ。

 ビルスの部下たちはおそらくアルが王都ではなくオラクル付近にいると踏んで張っていたんじゃないかな。その途中で、オーウェン達一行を見つけて、もののついでにと襲い掛かった。

 そして、残りの面子は部下が帰ってこないのを知るや追っ手を察知して、獣人の国でアルの故郷に再度向かう方針に切り替えた」

「そう考えると辻褄が合うわよね」


 俺の推測に白石が同意する。


「あぁ。ただ、気になる点が2つほどあるんだ。

 1つは行動のあまりの迅速さ。いくら味方が捕縛されたのを察知したといっても、それだけの大人数でスルムよりさらに先の都市のゴアを過ぎたあたりを移動してたってのは速度的に考えにくい。俺たちは転移魔法で相当の速度で移動してるはずだ。

 捕まえた連中から聞き出したアジトから逃げ出したとして、俺たちよりもさらに早い速度をださないとそんな場所には行けない。それこそ転移魔法の使い手でもいないと」


 俺の感じた疑問にエルザも黙り込んでしばし考えを巡らせる。


「そうね、ただ、連中の中に転移魔法の使い手がいるってことはないと思う」

「根拠があるのか?」

「えぇ、この国の人間は、恩寵が発現したときにギフトプレートにそれを記録するわ。それは王都に記録としても残される。転移魔法の使い手が犯罪者になっているのなら、確実に世間に知らされるはずよ。それがないということは、転移魔法の使い手の存在はないでしょうね」

「そうか......。だとすると一体どういうことだ?」


 再びの沈黙。すると、白石が何かを思いついたようで口を開く。


「影武者って可能性はないかしら?」

「影武者?」

「えぇ、エルザみたいな変身魔法みたいな恩寵持ちがいて、ビルスの姿を一味の誰かにさせておく。そうすれば本物が別の場所にいても不思議はないわ」

「......なるほどな。味方すらも欺いているって考えれば、不自然でもない......か?」

「そうね。たしかに、私の変身魔法は精霊魔法の派生だけど、人間の使う魔法というか恩寵に、姿形を偽る恩寵があるって話は聞くわね」


 白石の推測を聞いたエルザも影武者の線に同意とばかりに考えを述べる。


「とすると、俺たちが捕まえた連中はビルスの影武者とオラクル近くのアジトにいた。で、本物のビルスはゴア近くにアジトを構えていて、味方の異変を察知して移動したって訳か......。

 待てよ、だとすると、離れたアジト間での連絡手段がない限り、本物のビルスは異変を察知できないんじゃないか?」


 新たに湧いた疑問には、エルザが即座に返答を返す。


「それについては恩寵もしくは道具でなんとかなるはずよ。

 ”テレパス”って恩寵があって、離れた場所でも会話が可能になる能力なの。

 これを持っている人間がビルスの側にいれば、遠隔地でも異変を察知することは容易でしょうね」

「そうか......。ちなみに、テレパスっていうのは、会話する両方にテレパスの恩寵がないと使用できないいうわけじゃないのか?」

「いいえ、どちらか片方がテレパス持ちであれば遠隔地での会話が可能になったはずよ」

「なるほど。邪眼にテレパス、か。なかなか面倒な組み合わせしてるらしいな」

「えぇ、推測の域を出ないにしろ、今私たちが考えたことはあながち間違ってはいないと思うわ」


「分かった。じゃあ、二つ目の疑問だ。これはロイから聞いた話だし、現時点ではどうにも判断はつかないけど、奴らが操る魔獣のなかに、この辺りには出現しないはずの魔獣がいたらしいんだよな。

 エルザ、ビルスたちが以前、このあたりとは別の地域で盗賊をやっていたって話は聞いてないか?」

「いえ、冒険者の頃からこの辺りで活動してたみたいだし、そういった話は聞かないわね」

「そうか......。まぁ、これについては現状そこまで問題って訳じゃないから考えるのはここまででいいかな。助かったよエルザ。おかげで色々情報が集まった」

「気にしないで。お安いご用よ」


 礼をいうと、笑顔で返答するエルザ。

 さすがは”盗賊狩り”の名を冠するだけのことはあるということか。

 これまで知りえなかった情報から一気に点と点がつながったような感覚を覚える。

 そうなことを一人で考えていると、エルザが再度口を開く。


「ねぇ、あなたたちはこれから獣人の国へ向かうのよね?」

「あぁ、そうだよ」

「で、その旅でおそらくビルス達と一戦交える可能性が高い」

「あぁ、奴らがゴアの先へ向かっているってことは、目的地が同じと考えるのが妥当だしな」

「じゃあ、折り入って相談があるのだけれど......」


 エルザが再び真剣な表情を俺たちに向ける。

 普段の柔らかな雰囲気とは一風変わった感じに、次の言葉が大方予想出来ながらも、こちらも姿勢を正してしまう。


「私もあなたたちの旅に同行させてはもらえないかしら?」

「一応、理由を聞かせてもらってもいいか?」

「えぇ、分かりきっているとは思うけど、この辺りの一番の賞金首であるビルスの捕縛に噛みたいってのが一番の理由よ。これまでも、何度かビルス達を捕まえようとしてたけど失敗続きだったし。あなた達の推測通りだとすれば、あたしの今後の旅の目的地も必然的に同じ場所になるだろうから、なら一緒に行かせてほしいと思ったの」

「エルザと行動を共にするとして、俺たちにメリットがあるか?」

「あら、精霊魔法の使い手で、近接も遠距離攻撃もなんでもござれの私が加われば、あなた達の旅の助けになると思うのだけど?」


 至極もっともだ。エルザが加われば、戦力の大幅アップに期待できる。エルザの精霊魔法での近接戦闘は、俺たちにこれまでなかった前衛としての役割を十二分に担え、より戦闘が楽になるだろう。


「これまでパーティの誘いは全て断ってきたって聞いたけど?」

「よく知ってたわね。えぇ。たしかにこれまでいろんなパーティからの誘いを断ってきたけど、それは私のエルフという正体を隠すためよ。

 でもあなたたちはそれを知っている。加えて信用できる人たちだと思ってるから、こうして同行を持ちかけているのだけど」


 まぁ、これまで誘いを断ってきた理由も予想通りだったし、信用できるといわれて悪い気もしないか。

 俺はそう考えて、最後の質問をぶつける。


「報酬はどうする? 成功した暁にはビルスの首にかけられた賞金がでるはずだ。分け方についてはどう考えてる?」

「そんなの、私とイオリとヒナの山分けでいいじゃない。変に割合いをごねて話をこじらせようだなんて考えていないわよ。......そうね」


 そこまで言うと、エルザは面白いことを思いついたと言わんばかりに笑顔を浮かべる。


「なにやら嫌な予感しかしないんだが?」

「そんなことないわ。3人で報酬を3割ずつ分けるとして、1割が残るでしょ?」

「まぁ、そう分けるとそうなるな」

「で、あたしは残りの1割はいらないわ。イオリとヒナで3割5分ずつ受け取って構わない。

 そのかわり......」

「......そのかわり?」

「成功の暁には、私と模擬戦をお願いできないかしら?」


 出たよ。やっぱりだよ。そうくると思ったよ!!


「どうしてもか......?」

「もちろん、このあいだみたいに有無を言わさず襲い掛かったりはしないわ。

 ただ、未知を前にして、黙って引き下がるのは私の信念が許さない。

 だから......どうかしら?」


 真剣な顔を俺に向け、頭を垂れるエルザ。

 その姿には、先日垣間見た戦闘狂のような獰猛な雰囲気は一切なく、高潔なエルフの姿を見たような気がした。


 もちろん本音を言えばやりたくない。だってめちゃくちゃ面倒くさいし。

 こっちが報酬を多めに払えば済むかもしれない。ただ、ここまで真剣に頼まれてしまっては、力を借りようとしている相手に悪いというものか。


 俺は残りの3人に視線を向ける。3人とも大変だね、とでも言いたげな苦笑いを浮かべている。まったく、あとで思いっきりサボらせてもらうからな!!


 すっ


 俺はエルザの前に手を差し出す。

 エルザもそれに気付いたのか、俺の手を一瞥し、次いで俺の顔を見つめる。


「報酬の件も了解した。これからよろしく、エルザ」


 俺の言葉を聞いて、エルザの表情が一気に華やぐ。その姿は、見る者すべてを飲み込んでしまうような美しさだ。

 そんなまぶしい笑顔を讃えながら、エルザは俺の手を優しく握る。


「こちらこそ」


 こうして俺たちの旅の仲間に、一人のエルフが加わった。


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