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2-11 エルフ

昨日この話を投稿したはずだったのですが、何やら反映されておりませんでした......。

確認を怠ってしまい申し訳ありません。

というわけで、本日はもう1話投稿いたします。21時過ぎになるかと思います。

「あちゃあ、うっかりしてたわ」


 目の前の女冒険者はペチっと額を叩き、周囲に魔力を漂わせる。

 何事かと身構えたが、攻撃するような気配ではない。

 すると、魔力が女冒険者の周囲を取り囲み、淡い光を放ったかと思ったら、先ほどまで尖っていたはずの耳がみるみる普通の人間と変わらない形状へと変化した。


「変身魔法?」

「そう。あの姿だとどうしても目を引いちゃうからね。で、助けてもらっておいて悪いんだけど、私がエルフっていうことは秘密にしておいてもらえないかしら」

「それは構わないけど、エルフだと何かこまるのか?」

「そりゃあね。私たちはこの国の人達からしたら魔族に分類されるんだし、正体を知られたら私を捕えようとするんじゃないかしら」

「魔族!?」


 俺と白石は驚きの声を上げる。

 城での座学で魔族のことを聞いたときは、魔族とは日本でいう悪魔のようなイメージが一番しっくりくるものだった。魔獣が高い知性をもって文明を築いたのが魔族の国で、角やら鱗やら翼をはやしていると聞いた。

 

「そういえばあなたたち、私の本当の姿をみても襲い掛かってこないなんて、この国の人間じゃないの?」

「あぁ、俺たちの聞いてた魔族ってのとあまりにイメージが違うからさ。確かに打倒すべき敵って教わったけど、あんたを見る限り悪い奴には見えないしな」

「......ふ~ん」


 俺の返答に思案気な反応を返し、女冒険者は俺を眺めまわす。

 じろじろ見られるのはさすがに居心地が悪いと感じていると、


「まぁ、魔族っていってもあたしたちエルフって森の中から基本的に出てこないし、人間に敵対的な行動をとってるわけでもないからね。

 もちろん私もあなたたちに敵意はないわ。だから、どうか警戒しているなら解いてくれると嬉しいかな」


 たしかに敵意は感じられない。

 そんな相手にわざわざ襲いかかるほど好戦的ってわけでもないので、俺はゲートで愛姫とアルを呼び寄せて会話を続けた。


「分かった。じゃあこうして戦闘も切り抜けたんだし、改めて自己紹介といこう。

 俺は不二伊織、伊織でいい。で、こっちが俺の妹の愛姫で、こっちが獣人のアルトリア。白石は......そういやさっき済ませてたな」

「「はじめまして!」」

「よろしく」


 ちびっ子二人が元気よく挨拶し、白石も笑顔で言葉を継いだ。

 

「えぇ、よろしく。イオリにヒナにアキ、アルトリアね。うん、ばっちりよ。

 じゃあ次は私ね。私はエルフのエルザ・リーゼマインよ。エルザって呼んでね」


 そういってエルザは俺たちに手を伸ばし、順番に握手を交わしていく。

 自己紹介も終わり、和やかな雰囲気で会話が進んだ。


「へぇ、あなたたちが噂の異世界からの転生者なの。まさかこうして話す機会が来るなんて思ってもみなかったわ」


 俺たちはエルザに自分たちの身の上を話した。向こうもエルフということを知られている以上、俺たちのことを吹聴するような真似はしないだろうという判断からだ。

 エルザは俺たちのことを興味深そうに見つめながら、


「それにしても、異世界の転生者は強い力を持ってるって聞いてたけど、実際に目の当りにしたら納得だわ。ティナに驚いたのはもちろんだけど、イオリの戦い方なんて初めて見たわ。

 あんなトリッキーで予測不能な動きをされたら、このあたりの魔獣はなす術なしでしょうね」

「このあたりでよく戦ってるのか?」

「えぇ、このあたりは魔獣は手頃な強さだし、オラクルに近いから盗賊が多いのよ」

「普段は盗賊を相手にしてるのか?」

「えぇ、私は盗賊を捕まえて、引き渡したときにもらえるお金で生活してるからね」


 どういうことだ? 魔獣が手頃な強さなら、わざわざ盗賊を狙わなくてもいいだろうに。

 俺に浮かんだ疑問を察したのか、


「当然魔獣も狩ってるわよ? ただ、私は魔石を換金する訳にはいかないから、ギルドの討伐依頼をこなしてもほかの冒険者に比べて実入りが小さいのよ」

「......どういうこと?」


 俺と同様の疑問を抱いた白石が質問する。


「まぁ、私をエルフと知っているんだし、教えてもいいかな。あっ、私の正体と一緒で、このことも秘密ね?」


 大人びた笑顔を浮かべながらウィンクを飛ばしてくるエルザ。

 エルフ特有のものなのか、エルザが特別美形なのか、その姿はとても堂に入っており、反射的にドキッとした感覚を抱いてしまう。


 とっさに目をそらしたが、そんな俺を白石がジト目で見ていた。

 ......なんだよ。

 面倒な展開になる前にエルザに会話の手番を回すことにしよう。


「分かった。もちろんエルザのことを口外するつもりはないから、続けてくれ」

「ありがとう。あのね、私が使う魔法、”精霊魔法”の契約の代償として、魔石を提供しないといけないのよ。それで、魔石を手に入れても換金するわけにはいかないの」

「精霊魔法?」


 聞き覚えのない言葉に思わず聞き返してしまう。


「あ、知らなかったかしら。まぁ簡単にいうとね、私たちエルフは精霊と契約することによって、体内の魔力だけでなく、精霊の魔力を借りて魔法を行使することができるのよ。

 ただ、精霊から魔力を借りるには、何かしらの対価が必要になるのよ。体内の魔力で済むことも多いけど、戦闘で連続で借りるようなことになると、それじゃ対価としては足りなくて、魔石が対価として用いられるって訳。

 だから、生きていくためにお金を稼ごうと思ったら、魔獣の討伐よりも護衛とか盗賊を標的に動いた方が効率的って訳」

「なるほどな。じゃあさっきのオークと戦ってたのも魔石の補給のためってわけか」

「そう。ただ、最初は5体くらいだったんだけど、あっちの林のほうから仲間がきて、埒があかないから逃げようかと思ってたら、あなた達が助太刀してくれたってわけ」


「そういうことか。じゃあさっき戦いの最後にやってた、とんでもない速度の移動も精霊魔法の一つなのか?」

「そうよ。あれは風の精霊の力をかりて、一時的に爆発的な機動力を得るって訳。別に攻撃手段ってわけでもないから精霊から借りる力もすごく少なくて済むし、燃費がよくて戦闘向きな魔法ね」

「便利なもんだな。でも、風の精霊ってことは、ほかにも精霊がいるのか?」

「もちろん。4大精霊ってのは知ってるかしら」

「えっと、火、風、水、土か?」


 俺は自分の知っているファンタジー世界の知識をもとに回答する。


「正解。火のサラマンダー、風のシルフ、水のウンディーネ、土のノーム。これが4大精霊よ。エルフはみんな最低このうちの1つの精霊と契約を結んでるの。適正さえあれば複数の精霊との契約も可能よ。当然対価も増えるけどね」

「エルザは?」

「みんなと契約してるわ」


 出たよ。とんでもない天才らしい。

 俺は思わず苦笑を浮かべながら、


「そりゃ森を飛び出したくもなるのか」

「分かってるじゃない。せっかくこの世界に生を受けたんだもの。森の中で死ぬまでひっそりと暮らすなんて私には耐えられなかった。

 だから、こうして人間のふりをして、世界を旅しているって訳」


 エルフは物静かなイメージがあったけど、どうやらエルザはその有り余る才能もあって好奇心、探究心が強いようだ。


 おそらく、エルフの故郷を旅立つときに、すんなりと出てこれたわけではないだろう。

 加えて冒険を始めても、エルフであるということを隠さなければいけない以上、人間の世界で生きることはかなりの苦労を要するはずだ。

 エルザも相当の覚悟を決めて、旅を続けているんだろうな。


 そんなことを考えていると、


「ねぇ、エルザお姉ちゃん、その精霊って見られないの?」


 愛姫が興味津々といった様子でエルザに話しかける。


「仮初の姿なら見せられるわよ?」

「見たい!!」


 期待に目を輝かせながら身を乗り出す愛姫。

 傍らに目をやると、アルの耳もしきりにピョコっている。

 そんなちびっ子二人組にやさしい笑みを浮かべたエルザは、


「いいんだけど、精霊の姿を顕現させるにはそれなりに魔力が必要なのよね。対価が必要になってくるから......」


 そこまでいうと、エルザは俺にチラリと視線を向ける。

 意図を察した俺はやれやれと首を振り、


「分かった。さっきのオークの魔石は全部エルザにあげるよ。

 俺も精霊の姿ってのには興味あるし」

「さすがイオリ。話が早いわ。じゃあご対面と行きましょうか」


 俺にパチッとウィンクを飛ばしたあと、エルザは静かに目を閉じる。

 すると、雰囲気が一変し、静かに集中を高めているように感じられた。

 集中が極限までに高まったかと思うと、エルザの前に置かれた先ほど倒したオークの魔石が忽然と消え失せる。


 対価を支払ったことでエルザの周囲になにやら感じたことのない気配を覚えたと感じた瞬間、エルザが言霊らしき言葉を紡ぐ。


『みんな、いらっしゃい』 

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