2-10 さらなる出会い
ロイとの会食を終え、専属契約については後日正式に書面を交わすということにし、俺たちはその日の活動を終えた。
翌日、俺たちは旅を再開し、次の都市を目指しての行軍を再開した。
途中転移魔法でのショートカットを挟みながら、魔獣との戦闘をこなす。
かなり戦闘に関しては慣れが出ていて、もうこの辺りに出てくる相手では得るものがなくなってきているなと俺は感じ始めていた。
ここからさらに国境へと近づくにつれて魔獣は強力になっていくものの、しばらくは転移魔法での移動に注力して、一気に次の都市に移動したほうがいいかと考えていた。
そんなことを考えながらも、油断は命取りになるので、”鷹の目”を発動し、周囲の敵を警戒する。
王都周辺は平坦な道がひたすらに続いていたために、”鷹の目”を使わずとも索敵はできていたが、そこを過ぎてからは、森や小高い丘、山などが周囲に広がり、一目に外的を発見することが困難な地形が増えているのだ。
やがて、鷹の目の視界ギリギリの窪地で、何やら交戦が繰り広げられているのを発見する。
敵は......このあたりでは見かけない魔獣のオークのようだ。
オークは体長3m程の大きさの魔獣で、性格は極めて粗暴。
また、非常に性欲が強く、人間の雌を攫って行為の対象とすることもあるため、魔獣の中でも忌み嫌われている。
この辺りではめったに出現することはないらしいのだが、そんなオークが10数体も確認できた。
鷹の目でズームして様子をさらに窺うと、どうやらオークを相手に一人で戦っている者がいるらしい。
オークは単体で黄色プレート、群れでは赤プレートの冒険者が互角とされている。
見る限り、今のところ問題なさそうに見えるものの、いかんせん多勢に無勢で攻めあぐねているといった様子だ。
俺はその状況を白石に伝える。
「白石、あそこの窪地で冒険者がオークに取り囲まれてる。
俺たちもまだオークは相手にしたことないし、行ってみないか?」
「それはいいけど......。オークってなんか戦いたくないのよねぇ」
「まぁたしかに、女は戦いたくはないよな。ただ、今後のためにもここは行ってみる方がいいと思うんだけど。もし危なそうなら転移魔法で襲われてる奴もろとも逃げればいいし」
「そうね。分かったわよ。行きましょう」
こうして話はまとまり、俺たちは窪地の際まで転移魔法で移動する。
戦闘に目を向けると、なんと単身でオークを相手にしているのは女の冒険者だった。
剣で切り結んでいるが、周囲を囲まれているので、どうしても防御に意識を割かざるを得ないといった感じだ。
「よし、俺が近くにいって助太刀が必要か確認してくる。何もいわずに参戦すると獲物の横取りって勘違いされかねないし。
断られたらすぐに戻るよ。『ゲート』」
そういって俺は戦闘の行われている場所に転移した。
”鷹の目”で見ていたとおり、女冒険者はオーク相手でもまったく遜色なく戦えている。
ただ、いかんせん多勢に無勢。囲まれて波状攻撃を立て続けにくらい、防御に注力せざるを得ないようだ。
「加勢はいるか?」
俺が声をかけると、女冒険者は始めて俺に気づいたように一瞬こちらへと視線を向ける。
「!? ありがとう。倒されはしないけど、数が多いから困ってたのよね。お願いできるかしら?」
「分かった」
戦闘参加の了解を得たことで、俺は心置きなく魔力を放出する。
とにかく、まずはあの包囲網を崩すか。
『ゲート』
包囲網の一角の地面にゲートを展開する。
まさに手に持つ棍棒を振り下ろそうとしたオークが1体姿をかき消し、その数秒後に上からまっ逆さまに落下した。
頭から転落したオークはゴギャっと嫌な音をたて、首の骨を粉々にした後霧散。
女冒険者はそんな俺の転移魔法を見てびっくり仰天といった表情を浮かべている。
「!?」
オークの体がでかいので、まとめて引きずり込もうとするとゲートの直径が大きくなりすぎて、女冒険者の邪魔になるな......。
効率が悪いと判断し、俺はゲートでのポイ捨て戦法から、純粋な魔法戦闘へと梶を切る。
『炎を纏え、火球』
性質変化と同時に言霊を唱えて瞬時に5個の火球を生み出す。
10個までは作ることができるが、コントロール重視で数を抑えた格好だ。
俺は狙いを定めて、先ほど放り投げたオークの近くにいたオークたちめがけて火球を放つ。
「ゴアアアァッァァァアアアァ」
瞬く間にオークたちが炎に包まれ消滅する。
見れば包囲網に完全に穴が開き、女冒険者はそこをやすやすと突破した。
「あなた、面白い戦い方するわね」
「そりゃどうも。ただ、悠長に会話してる余裕はなさそうだな」
「! そうね」
「「「ガアアァアアァァァアア」」」
オークが再びこちらを取り囲もうと接近してくる。
ここまでの感想としては、パワーもスピードも、これまで相手取ってきた魔獣どもより圧倒的だが、攻撃が単調なのに変化はないので与し易いという印象だ。
『鷹の目』
俺は接近してくるオークたちに注意を向けつつ、周囲に他の魔獣がいないかを確認する。
幸い、敵影は見当たらないので、一気に片をつけるべく、俺は馬車のほうにゲートを発動する。
直後、白石がティナとともに現れた。
「!? あなたは?」
「えっと、そこの男と一緒に旅をしている陽和っていいます。加勢に呼ばれた......ってことでいいのかしら?」
「あぁ、周りに他に敵も見当たらないし、一気に片付けよう」
「オーケー。じゃあ、やりましょうか」
簡単な自己紹介と確認を済ませ、再び戦闘へと戻る。
「散らばろう。一人あたりの負担を減らして個別撃破に切り替えるぞ。『ゲート』」
目の前に2つのゲートを展開し、即座に俺と白石はそれらに飛び込む。
すると、俺、白石、女冒険者の3人でオークを取り囲む形になった。
一瞬で包囲された形となったオークたちは、事態が飲み込めないのか急停止して動きを止めている。
「白石!」
「任せて!! ティナ、ブレス」
「クルアァ!」
瞬時に俺の意図を理解した白石がティナに命じてブレスをぶち込む。
俺も畳み掛けるように言霊を紡いだ。
『炎を纏い、なぎ払え 炎の鞭』
ティナのブレスと同時に俺の魔法も着弾し、オークはなす術なく炎に包まれる。
先程までで10体ほどになっていたオークたちは、次々と消滅し、残りは3体。
趨勢は決したと判断し、とどめを刺そうと考えていると、女冒険者が残りのオークへと飛び込んでいく。
そう、文字通りに飛び込んでいた。
タンっと軽くしか地面を蹴っていないはずなのに、すさまじいスピードで接近し、手にする剣で出会いがしらに1体のオークの首を刎ねる。
着地と同時に方向転換し、地面を滑るように移動して、すれ違いざまに残りのオークの足の腱を断ち切る。立ち続けることができずに倒れこんだオークの頭にスッと剣を突き刺し、オークはたちどころに掻き消え、戦闘が終了した。
やはり、攻勢に転じることができればものの数ではないというのは間違いなかったようだ。
俺たちは先程までオークが固まっていた地点に近づいて合流する。
「助かったわ。数が多くてさすがにどうしようかって困ってたところだったから。どうもありがとう」
笑顔を浮かべてこちらに声をかけてくる女冒険者。
戦闘から解放されてようやくしっかりとその姿を眺めると、とんでもない美人だ。
スレンダーな体つきに、巨乳というほどではないが、しっかりと膨らんだ胸、サラサラでつややかな蒼色の髪、透き通るような瞳。雰囲気を見るに、俺や白石より少し年上か? といった印象だ。
しかし、ひときわ目を引くのは、俺たちと決定的に異なっている部分......耳だ。
やや俺たちよりも大きめで、先端が軽くとがっている。
それはまるで、異世界ファンタジーのゲームや物語でおなじみの存在そのもので......。
「エルフ......?」