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2-7 複数持ち

「気にしないでください。困ったときはお互い様ですから」


 俺はそう言って、話しかけてきた冒険者に答える。


 年は20代半ばぐらいか?

 短く刈りそろえられた銀髪に、蒼い瞳。がっちりとした肉体で、背中に大剣をかついでいる。

 見たところ前衛戦闘系だろう。

 そんな風に観察していると、冒険者が言葉を続ける。


「そういえば、まだ名乗りもしてなかったな。俺はキール。そこのやつらと一緒にパーティを組んでる。”銀翼”って名前でな」

「不二伊織といいます。伊織と呼んでください。こっちは白石陽和」

「はじめまして、キールさん。あたしも陽和でいいですよ」


 あ、完全な猫被りモード発動してる。


「あぁ、イオリにヒナだな。助けてもらって本当に助かったよ。あと、敬語なんてよしてくれ。命の恩人にそんな畏まられちゃたまらない。俺たちは自由な冒険者稼業。細かい礼儀なんて気にしない」

「そうですか。じゃあキール、改めてよろしく」

「おう、それで、こいつらのことなんだが......」


 そういって、キールは盗賊どもに目を向ける。

 逃げる気も起きないのか、その場にへたり込んでいる。まぁ、逃げても俺の転移魔法で一瞬で追いつくからその判断は正しいが。


「そうだな。悪いんだけど、俺たちはこの世界の常識に疎くてさ。こういう盗賊とか罪人ってどう扱うものなんだ?」

「ん?新米か?」

「そんなもんだ」

「新米でその強さって......。まぁいい、深くは聞かないさ」

「悪いな」

「いいっていいって。で、話を戻すと、盗賊は動けるやつは都市に連衡すれば奴隷として買い取ってくれる。死んだやつらや動けないのは......魔物の餌だな」

「そうか。金になるなら文句はないな」

「ただ......」


 そういってキールは口をつぐむ。


「どうした? 何か問題が?」

「あぁ、本当ならこいつらをしょっぴいて行きたいところだが、ここはオラクルと次の都市の中間地点だ。

 どっちの都市に連行しようにも時間がかかる。その間、こいつらを生かすための食料を与えたり、監視しなきゃいけないのを考えると......生き残りを連れて行くのは難しいだろうな」

「なるほどな。けどそれは問題ないと思うぞ?」

「? どういうことだ?」

「あぁ、俺は転移魔法を使えるから、オラクルならすぐに移動できるんだ」

「なっ、それでさっきいきなり現れたってわけか」

「そういうこと」

「なるほどな......。転移魔法の使い手を見るのは初めてだが、とんでもなく便利な魔法だな」

「どうも。じゃあ動けるやつらを縛り上げるの手伝ってもらえるか?」

「あぁ、もちろんだ」


 そういって、キールたちは生き残りの連中を縛り上げていく。

 俺は、まだ死んでいない盗賊を見て周り、回復魔法をかけて回る。

 金になるならここで死なすのももったいないしな。


 すると、それを見ていたキールたちが再び驚きに目を見開く。


「な......おい! それ、回復魔法か!?」

「あぁ、そうだけど?」

「イオリお前、転移魔法の恩寵持ちじゃなかったのか? ......そういや、さっき火属性の攻撃魔法も打ってたような?」

「......」


(......しまった。うっかりしてたな)


 複数の恩寵持ちであることが発覚してしまった。

 この話が広まると面倒になりそうだから、王都じゃ隠してたんだが......。


「お前さん、ひょっとして複数持ち(マルチプル)なのか!?」

複数持ち(マルチプル)!?」


 聞き覚えのない言葉にキョトンとしてしまう。


「知らないのか? 複数持ち(マルチプル)ってのは、文字通り複数の恩寵を発現した奴のことだ。

 本当に極稀にそんな奴が生まれてくるって聞いたけど、まさか本物に出くわすとは......。

 お前、ほんとに何者なんだよ......」


 キールは驚愕を顔中に浮かべ、その後ハッとしたように謝罪する。


「わ、悪い、恩寵について詳しく聞くのはマナー違反だった。びっくりしちまってつい、な」

「あ、あぁ、気にしないでくれ。ただ、出来ればこのことは口外しないようにしてもらいたい。

 面倒ごとに巻き込まれるのは嫌いでさ」

「そりゃそうだな。複数持ち(マルチプル)なんて知れたら国中で騒ぎになるだろうし......。

 命を助けてもらったんだ。命の恩人に仇で返すような真似はしない。冒険者の誇りにかけて誓おう」

「ありがとう」


 なんとか外部に広まらずに済みそうだ、と胸をなでおろす。


「で、回復魔法をかけて動けるようになった奴らも縛ってもらってもいいか?」

「おう、任せてくれ」


 こうして歩ける盗賊は10数人になる。


「これからオラクルに帰るか?」

「いや、急ぐ旅の途中でな。もう少し先に進んで、日暮れ前に帰るつもりだ」

「そうか......ちょっと待っててくれないか。俺たちの雇い主に戦闘の結果も合わせて報告したいんだ。この盗賊たちの扱いについても」

「あぁ、構わないよ」

「すまない、ちょっと待っててくれ」


 そう言うと、キールはパーティを引き連れて商人の馬車のほうへと向かっていく。


 俺はそれを見送ってから、愛姫とアルの乗る馬車を転移魔法で連れてくる。


「にいちゃん!」

「ヒナ姉ぇ!」


 愛姫とアルがそれぞれ俺と白石に飛びつく。二人とも心配してくれていたのだろう。


 4人で無事を喜んでいると、ガラガラと馬車がこちらへとやってくる。

 キールたちも一緒だ。


 俺たちの傍で停止すると、ガチャリと馬車の扉が開く。


 中からは、30代ほどの栗色の髪をした男が現れた。

 細身で身長は170cmほど。俺より少し低いか。


 つづいてその男の後ろに3人の男女が降りてきた。


 3人が降り立ったのを見て、最初に降りた男が口を開く。


「この度は我々をお助けいただき、本当にありがとうございました。

 私、オラクルに拠点を置く商会”夕暮れの鐘”にて副会頭を務めております、オーウェンと申します。 後ろの者は私の部下です」


 そう言うと、後ろに控えた3人が俺たちに深々とお辞儀する。


「気にしないでください。さっきキールたちにも言いましたけど、困ったときはお互い様です」

「そのようなお言葉をいただき、尚感謝に堪えません。重ねて、厚くお礼を申し上げます」

「ちなみに、ここで襲われた経緯を聞いてもいいですか? キール達の様子を見ると、本来であればあいつらに遅れをとるような強さには見えませんし」

「分かりました。ご説明させていただきます。あと、どうか敬語はおやめください。恩人に畏まられては我々に立つ瀬がありませんので」


 キールと同じようなことをいうオーウェン。

 そんな人柄に好感を感じながら、俺は会話を再会した。


「分かった。じゃあ普通に話させてもらうよ。で、これまでの経緯なんだけど」

「はい。我々は1週間前、オラクルを出発いたしました。オラクルの2つ先の都市にて大事な商談があったため、副会頭の私が直接出向くことになったのです。

 護衛も本当は20人を雇い、万全の体制で移動を開始したのですが......」


 そういって悔しげに顔をゆがめるオーウェン。

 俺が見たところ、残っている冒険者はキール一行の5人だけ。20人の護衛を雇っていたのなら、圧倒的に数が足りない。


「先ほど倒していただいた盗賊ですが、このあたりで有名な盗賊団のようでして、その規模は100人を超えるらしいのです。

 そんな奴らが我々を標的に定めたのですが、一気に襲い掛かるのではなく、夜襲を繰り返すというやり方で攻め立ててきたのです。


 30人規模で夜襲をかけ、深追いせずに撤退。時間がたったらまた夜襲の繰り返し。

 そんなことを連日やられると、どうしても疲労が取れず、護衛たちも一人また一人と死んでしまったのです......。」

「なるほどな。当然日中には魔獣との戦闘にもなるだろうし。キールたちの動きが悪かったのはそのせいか」

「はい......」

「大体分かったよ。そんな手を使うなんて、盗賊の頭はそれなりにキレるやつみたいだな」

「はい。このあたりでは有数の賞金首です」

「そうか」

「はい。そして、先ほどの攻撃でいよいよここまでかと思っていたところを、皆様にお救いいただいたというわけでございます」


 キールがそういって再度俺たちに頭を下げる。


「で、俺たちはもうしばらく進むけど、オーウェンたちはどうするんだ?」

「はい、キール達に伺っております。転移魔法を使われるとか......」

「あぁ」

「それを見込んで、恥を偲んでお願いいたします。どうか同行させていただけませんでしょうか?

 盗賊の引渡し代金は全額差し上げますし、護衛料もお支払いいたします」

「......どうする?」


 俺は振り返って白石たちに確認する。 

 俺としては別にいいかと思うが、一存で決めるよりは納得して進んだほうがいいだろうと判断してだ。

 しかし、3人も異存はないとうなずく。


「分かった。その依頼、引き受けさせてもらうよ」

「ありがとうございます」


 深々と頭を下げるオーウェンは、顔を上げると、


「もしよろしければ、オラクルに戻ってからご案内させていただきたいところがあるのですが......」

「ん?どこに?」

「ぜひ、イオリ様を我が商会、”夕暮れの鐘”の会頭にご紹介させていただきたいのです。

 会頭は義理を重んじる方です。イオリ様方のことをお話すれば、会いたがるのが目に浮かぶようでして......」

「う~ん、じゃあ、晩飯をおごってくれるなら」

「必ずや」

「よし、なら決まりだ。じゃあもう少し俺たちの旅に付き合ってくれ。日暮れ前には戻るから」

「はい」


 こうして、俺たちはオーウェンたちの馬車を加えて旅を再開するのだった。

最新話までお読みいただきましてありがとうございます。

明日も更新しますので、引き続きお付き合いくださいませ。


続けて読んでもいいかと思っていただけましたら、ぜひブックマーク登録をよろしくお願いいたします。

また、拙作の文章やストーリーについての評価も下部からできますので、今後の参考のためにも率直なご意見をいただけましたら幸いです。

ご指摘やご感想なども大変ありがたいので、どうぞよろしくお願いいたします。

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