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2-6 対人戦

 突然の背後からの攻撃に完全に虚を突かれた盗賊達は、無防備な背中に炎の鞭を叩き込まれた。


 「うわぁあああぁあぁあぁぁぁぁあああ」


 炎の鞭の横なぎを受け、7人ほどの盗賊が火傷を負い、地面を転げまわる。

 後ろのほうにいて事なきを得た盗賊達は、視界から忽然と消えた俺が別の場所から攻撃してきたことに色濃い動揺を浮かべていた。


「て、てめぇ、なにをしやがった!?」

「おいおい、そう聞かれて素直に教える馬鹿がいるとでも?」

「ち、おめぇら! いつまで寝転んでやがる! 立ちやがれ!!」


 この集団のリーダーらしい男が、火傷を負った連中に声を荒らげる。

 激痛に顔を歪めながらも立ち上がろうとするが、既に戦意を喪失している者もいた。


「へぇ、その火傷で立ち上がるなんて、根性すわってるんだな」


 炎の鞭は、今俺が使う攻撃魔法の中では一番殺傷能力が低い。

 この攻撃は、多数の敵に同時に損傷を与える意味で非常に使い勝手がいいのだ。

 なぎ払うだけで一定範囲の敵に炎を叩き込むことができる。


「お前ら、もう一度囲め!! 今度は逃がすんじゃねぇぞ」

「「お、おう」」


 先ほどと同様に俺を取り囲む盗賊たち。


「さっき通じなかった手を性懲りもなく使うとは......。頭もそんなによくないか」

「うるせぇ! いつまでも余裕恋照られると思うなよ! かかれぇ!!」

「うらあぁあ」

「......『ゲート』」


 先ほどの再現。俺は自分の足元にゲートを展開して盗賊の背後に転移し、今度は攻撃の威力を上げる。


『炎を纏い、貫け 炎槍』


 俺の周囲に30ほどの短い魔力が形成され、高速で回転しながら炎に包まれる。


 盗賊たちが俺を見つけたときには、俺の魔法は発動を終えた後。

 防御を取る暇もなく、盗賊たちに俺の炎槍が殺到した。


「がああぁぁああぁぁぁぁあ」

「熱い! 熱い! 助けてくれぇ!」

「いてぇ!くそ、足があぁあ!!」


 先ほどの炎の鞭とは違い、今度は炎のあたる面積こそ小さいものの、高速で回転して貫通性能を高めている。火傷とともに物理的な傷を負わせることができるのだ。


 一人の盗賊がドサッと地面に倒れこむ。

 ピクリとも動かない。

 見ると、脳天を貫かれ、即死したようだ。

 貫かれた部分は、焼け焦げており、血などは流れていない代わりに、嫌なにおいが鼻腔を刺激する。


 初めて人を殺した。

 その事実を認識した俺は、自分が思ったよりは動揺していないことに気づく。

 もちろんいい気持ちはしない。好んで経験したいとは思えないな。

 とはいえ、俺は愛姫と一緒に帰らなきゃいけない。そのために必要なことなら仕方がない......か。


「ロイド!! てめぇ......やりやがったな!!」


 盗賊の頭目が俺を視線で殺さんとばかりに睨み付ける。


「......こんな稼業に手を染めてるんだ。まさか自分は殺すがこっちは殺すななんていわないよな?」

「うるせぇ!! てめぇは絶対に殺す!!」

「やれるもんならな」

「くっ......」


 盗賊はこちらに近づかず、距離を取る。

 今の攻撃で、敵の戦力は半減した。立っている者も、体のあちこちに火傷や傷を負っている。


「!! 弓だ、射殺すぞ!!」


 リーダーの言葉にハッとした顔を浮かべ、盗賊達は背中に背負った短弓に矢を番える。

 

「てぇ!!」


 合図と同時に俺めがけて一斉に矢が殺到するが、またしても俺の姿は掻き消える。

 そして、がら空きの背後から先ほどと同様に炎槍が盗賊を遅い、いよいよ立っているのは残り4人。


「さて、これなら問題ないか......」

「......。何言ってやがる」

「なに、こっちの話だ。あっちの冒険者も持ちこたえてはいるけど限界が近いみたいだし、こっちもお前らで練習しないといけなくてな。俺一人で終わらせるとちょっと困るんだ」

「練習......だと?」

「あぁ。『ゲート』」


 俺はちょうど一人分となりのスペースにゲートを展開する。

 すると、そこから白石とティナが現れてトッと着地する。


 突然現れた白石に目を見開いて驚く盗賊たち。


「な、いきなり現れやがった......」

「ガルムさん! あれ......ひょっとして......転移魔法?」

「そ、それに、あの小っこいのはまさか......まさか......ドラゴン!?」


 あのリーダー、ガルムって言うのか。

 ほかの子分どもが動揺を露にしてリーダーに視線を向ける。

 しかし、ガルムもあまりの出来事に茫然自失といった様子で、意味がわからないと立ちすくんでいる。


「あんた、容赦ないわね。てか、あたしの出番ないでしょ、これ」

「まぁそうなんだけどさ。俺が全部やったら、せっかくの白石の練習の機会を奪っちゃうだろ?」

「戦わないでいいなら戦いたくないんだけど?」

「おぉ! お前も効率主義に目覚めたか!!」


「違うわよ! 同じ人間相手に戦うなんて好き好んでしたくないってこと!!」

「おいおい、その練習のためにこいつらと戦おうってなったんじゃないか」

「分かってるわよ。で? あたしはどっちと戦うの? こっち? それともあっち?」

「そうだな。向こうもしんどそうだし、あっちにするか。冒険者を前衛として、一人ずつ無力化してくれ」

「了解。じゃあ......行ってくるわ」


 そういうと、白石は冒険者の援護に駆けていく。


「さて」


 俺はそういって盗賊に向き直る。


「ひぃ!!」


 下っ端連中が小さく悲鳴を上げて後ずさるが、逃がすつもりはない。


「さて、ここで選択だ。おとなしく投降すれば、これ以上傷をつけないと約束しよう。もし嫌なら、分かるよな」

「......」


 俺は周囲に視線をやる。その先には、俺の攻撃で死んだもの、激痛のあまり気絶したもの、重傷を負って身動きが取れないものたちが転がっている。

 

 盗賊たちも言葉の意味を理解したのか、顔を青ざめさせてリーダーのガルムを見ている。


「早く決めろ。待たされるのは嫌いなんだ」


 俺はそう言って周囲に魔力の球を生み出す。

 それを見て、ガルムは武器を捨てた。ほかの盗賊もそれに倣って武器を捨てる。

 はぁっとひとつ息を吐いて白石のほうを見ると、ティナが盗賊を尻尾でなぎ払って吹き飛ばし、地面に倒れて最後の一人が意識を失ったところだった。


「終わったか」


 こうして、俺たちの始めての対人戦は無事に終了した。

 白石がこちらにやってくる。


「お疲れ。白石も問題なかったみたいだな」

「えぇ......でも......ごめんなさい、殺せなかった」


 白石は浮かない顔でそう答える。

 覚悟を決めたはずだが、結果的には気絶させるにとどめた事を気にしているようだ。

 

「まぁいいさ。日本じゃそんな経験することないんだし。初めての対人戦で勝てて、そう反省できてるんなら御の字だろ」

「でも......」


 片方の腕でもう一方の腕をギュッと掴んで苦しげな表情を浮かべる。

 甘えや迷いが、あとで自分や周囲の人間を殺すことを理解しているからこそ、そういった表情を浮かべるのだ。

 それが分かっている人間をこれ以上責めるような真似、するわけにはいかないよな。


 俺は白石に近づいて、そっとその髪を撫でる。


「あっ」


 白石が小さく声を上げる。

 振り払われるかと思ったが、逆らうことなく俯くだけだ。

 さすがの白石も堪えたってことか。


「気にするな。今はこうして生き残れたことを喜ぼう。何も絶対に殺さなきゃいけないってわけじゃない。無理せず、適応していけばいいさ」

「うん......ありがと」


 少し表情が緩んだように見え、安心して手を離す。

 一瞬微妙な顔を浮かべたが、すぐにそれを隠して普段の表情になった。

 そんなやりとりを終えたところに、


「すまない。助太刀してもらえて本当に助かった。もしあんたらが来てくれなかったら、今頃俺たちは全滅してただろう」


 そういって、戦っていた冒険者が俺に声をかけて来た。

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