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2-5 盗賊

 オラクルを拠点にしてから数日。旅は順調に進んでいる。


 これまでよりも魔獣は強くなっていたものの、”アークロード”による攻撃魔法によって問題なく倒すことが出来ていた。

 

 最初はちぐはぐしていた白石との連携も高まってきている。

 はじめのうちは攻撃対象が被ったりしていたが、今は俺の攻撃のパターンを把握して、的確に魔獣を殲滅していた。


 そんな中、今はオラクルと次の大都市とのちょうど中間地点ぐらいか。

 アルの故郷は獣人の国との国境を越えてすぐにあるらしく、地図によると、それまであと4つの都市を経由するらしい。


 アルが王都に到達するまでにかかったのは約2か月。今のペースでいけば2週間ほどで目的地に到着できるだろう。オラクルへ帰還する前に一気に距離を稼いでいるが、途中の戦闘を減らせばさらなる速度のアップも可能になる。


 アルの村を襲ったという連中が、アルを待ち伏せするために引き返しているとして、このペースならばほぼ同時、ないしは追い越すことが可能だろう。


 そんなことを考えていると、アルが耳をピンとたてる。

 アルは俺たちよりも聴覚に優れていた。アルが異変を感じとり、俺が”鷹の目”を使うことで、索敵をより効果的に行えている。


「アル、なにか聞こえるのか?」

「うん、なんだか、武器がぶつかり合う音がするよ」

「武器? てことは武器を持った魔獣か? 『鷹の目』」


 鷹の目を発動し、周囲を俯瞰する。

 すると、俺たちから見て西に300mほどの小高い丘の先で、戦闘が繰り広げられているのが確認できた。


「盗賊だ。商人の馬車が襲われてる」

「えっ、盗賊?」

「あぁ、数は......30人ぐらいだな。」

「多いわね」

「そうだな。見てる感じ、商人たちは不利だな。護衛らしき奴らもいるが、完全に数が足りない」

「強さは?」

「......見た感じ、大したことなさそうだ。数を頼りに襲い掛かってるって感じだな。どうする? 素通りするか?」

「......」


 ここで素通りすれば、それはすなわち見殺しにするということだ。

 まぁ、死ぬかどうかはわからないが。

 それに俺たちは通りすがっただけだし、そうしたところで非難されるいわれは全くない。

 わざわざ危険に飛び込む必要などどこにもありはしないのだから。


 白石も、助けたいのは山々だが、俺と考えていることは同じようで迷っているような表情を浮かべている。


 本当は、こんな面倒なことに首を突っ込みたくはないのだが、今回に関しては思うところがあったので俺は口を開く。


「まぁ、わざわざ危ない橋を渡る必要はないんだけど、今回は助けようと思う」

「えっ?」


 まさか俺からそんな言葉が出ると思っていなかったのか、白石が俺の言葉に驚く。

 

「盗賊の力が大したことなさそうだし、助太刀すれば商人に恩が売れる。今後冒険するにしても、王都に戻るとしても、自分たちと直接繋りのある商人を持てるのは損にはならないはずだ。

 それと、魔獣との戦闘は結構こなしてきたけど、俺たちに対人戦闘の経験はない。幸い敵は犯罪者。大義名分があるし、今後のために場数を踏むってのは悪い話じゃない」

「......なるほどね。たしかに、今後のためにもなるわね。

 わかったわ。やりましょう」


「よし、じゃあ次に作戦だが、基本的にはこれまで魔獣を相手にしたことと変わらない形でいこう。俺が前に出る。で、白石はアルと愛姫を守ってくれ。

 敵は人間だ。当然そっちを狙う可能性が高いから、念のためにこれまでよりも敵との距離を開けたい......そうだな、馬車はあの丘の上で待機だ」


 俺は丘の方を指さして指示を飛ばす。


「了解よ。で、あらかた敵が片付いたら、ティナと参戦ってわけね」

「あぁ。一応安全マージンはこれまでよりも取ったつもりだ。大丈夫そうか?」

「うん、問題ないと思う」

「じゃあ、転移魔法であの丘の上まで移動する。覚悟を決めろよ」

「......うん。分かってる」


 ぐっと表情を引き締め、白石は答える。

 そう、これは対人戦。必要とあらば、殺さねばならない。


 これまでも魔獣をたくさん殺してきたが、今回の相手は人間だ。

 ためらったり手心を加えればこちらが死ぬのだ。

 だが、魔獣相手なら問題なく戦えるようになっていても、同じ人間相手での戦闘は俺たちにとって初めての経験。

 尻込みしたとしても仕方ない。


「まぁ、もし危なくなりそうなら、すぐに転移魔法で逃げるから安心しろ」

「大丈夫、こんなところで尻込みしてたら、魔族相手に立ち向かうなんてできるはずないもの」

「......そうだな。ただ、無理はしないでくれよ。なにかあったらすぐに俺を呼んでくれ。即座に離脱する」

「わかった」

「よし。いこう......『ゲート』」


 ゲートを開き、丘の上へと転移する。

 丘の麓では、盗賊と商人の護衛たちが依然激しく戦闘を繰り広げている。

 

 見たところ、やはり盗賊たちの強さは大したことなさそうだ。

 だが、それ以上に気になったのは、戦っている護衛た地の様子だった。


 盗賊に比べて明らかに疲労の色が濃く、動きが鈍重に見える。


(......どうしてここまで疲労に差があるんだ?)


 疑問に感じたがすぐにそれを振り払い、後ろを振り返って白石に声をかける。


「じゃあ行ってくる。こっちは頼んだ」

「えぇ、任せて」

「クルアァ」


 真剣な面持ちで返事を返す白石とティナ。

 傍らでは、アルと愛姫が


「にいちゃん、気を付けてね」

「無理しないでね」


 と不安げに声をかけてくる。


「あぁ、ヤバそうならすぐ戻ってくるから心配するな。じゃあ行ってくる......『ゲート』」


 

 丘の麓に転移する。

 俺にとっても初めての対人戦。ふぅっと一つ深呼吸し、覚悟を決める。


「よし」


 小さく気合を入れて、魔力を練り、10個の球を作り出す。


『炎を纏え、火球』


 生み出した火球を、盗賊目掛けて投げ飛ばす。

 まだコントロールに難があるため、7発は地面を焼き焦がすに終わるが、3発は盗賊に命中し、食らった奴らが火だるまになりながら転げまわる。


「ぎゃああああああああ」

「熱い、熱いいいぃぃぃあああっぁぁぁ」

「おい、助けてくれえぇぇえ」


 突然の攻撃に盗賊と冒険者が呆気にとられて火球が飛んできた方に視線を向ける。

 それらの視線を一身に集めながら、俺は冒険者らに向かって叫ぶ。


「助太刀する。あんたたちはこいつらを逃がさないようにしてくれ」

「......あ、あぁ。わかった」


 いきなりのことに戸惑いながらも、自分たちの敵ではないということを認識して、俺の指示に従う。


「やってくれたなてめぇ! この人数相手にいい度胸じゃねぇか。お前ら! 囲んで殺せ」

「「おぉ」」


 盗賊どもは俺を包囲して一斉に攻撃しようとする。

 冒険者も戦おうとするが、動きが鈍いうえに戦力は5人。盗賊も当然そちらに人数を割いているため分断されてしまう。


 まぁ、多少でも数が減ったから良しとしよう。


「お前、魔法使いが前衛もなしに単独で乗り込むなんて、バカじゃねぇのか?」


 盗賊の一人が勝ち誇ったかのように言葉を投げかける。

 実際、魔法使いは後衛で、言霊の詠唱中は無防備となる。

 そんな魔法使いが単独で前線に出ているのだから、頭が悪いと感じるのも無理からぬだろう。


 だけど、それは、普通の魔法使いだったらの話だ。


「分かれよ。そんな魔法使いが単独で乗り込んできたんだ。てことは、お前ら相手なら守ってもらう必要なんてないって俺が判断したってことだ」

「......バカが。かかれぇ」


 相図と同時に、一斉に盗賊どもが飛びかかってくる。

 囲まれているため、逃げ場はない。

 距離をつめ、武器を振りかぶった盗賊どもが勝ちを確認してニタリと笑う。


「死ねやぁ!!」


 一斉に武器が振り下ろされる。しかし、次の瞬間、俺の姿は盗賊たちの中心から掻き消える。


「「!?!?」」


 突然俺が姿を消したことで、盗賊どもの攻撃は空振りとなる。

 今自分たちの目の前で何が起こったのか理解できず、盗賊たちの動きが硬直する。

 そんな動きを止めた盗賊の背後から、


『炎を纏い、薙ぎ払え 炎の鞭』

 

 俺の魔法がお見舞いされた。

ここまでご覧いただきまして誠にありがとうございます。

本日は夜9時ごろに再度投稿する予定です。

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