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2-4 商業都市オラクル

 それから数日、俺たちは順調に旅を続けていた。


 ”アークロード”の恩寵は非常に強力で、これまでの訓練の成果もあって、魔獣との戦闘が全く危なげのないものとなっている。

 ただ、問題ないとはいっても、いつ強力な魔獣と遭遇するかわからないので、今のうちにと色々なことを試しながら戦闘をこなしていた。


 まず、俺の攻撃魔法のバリエーションを増やすこと。

 

 俺の攻撃魔法における属性は”火”だ。

 攻撃魔法における基本の球状の性質変化で作る火球は、現状では10個の同時作成が可能だった。

 数がその分コントロールが荒くなってしまうことが現状での欠点だ。


 まぁ、これについてはこれまで通り、性質変化の練習で向上させることが出来るだろう。


 他に、魔力を細くし、回転を加えることで貫通力を高めた”炎槍”。

 細く、そして長く伸ばした魔力で広範囲の敵に炎をぶつけることができる”炎の鞭”。

 

 これらで敵に致命傷、ないしは大火傷を負わせ、弱ったところをティナでとどめ。


 これが今、俺と白石が磨いている連携の骨子となっている。


 白石自身の戦闘力が低く、愛姫とアルという非戦闘員を抱えている点から、ティナには主攻ではなく助攻を担ってもらった。

 ティナは戦闘における役割を俺の討ち漏らしの駆除に搾ることで、俺以外の3人を前よりしっかりと守ることが出来るようになった。


 それに加えて、俺たちの旅でかなりの貢献をしているのが”鷹の目”だ。

 これのおかげで索敵が格段に楽になり、敵を早く見つけられることで、先制攻撃を受けることがなくなった。


 ”スペルマスター”による支援魔法については、現時点ではスピード、攻撃力、防御力などの向上のほかに、回復も使えることを確認済み。ただ、それらの効果が必要になるほど、強い敵が出てきているわけではないのだが。


 最後に、俺の最初の恩寵の転移魔法だが、初日は一時間に一回という制限を設けてのショートカットを行っていたが、よくよく考えて見れば、宿に戻る前に一気にショートカットすれば、その後の魔力の消費を気にする必要がないので、劇的に行軍速度が上がっている。


 初日に50kmだった1日の進行ペースは、1日200kmくらいになっていた。

 途中で小さな集落や村に食事などで立ち寄り、転移魔法で移動できるようにマッピングすることも忘れない。


 そんな風に常識外の速度で進み、俺たちは王都から出て最初の大都市に到着していた。

 商業都市”オラクル”。


 地図に書かれた説明文によると、商業に関する税率が低く、有力な商店の本拠地の大半がここに集中しているらしい。



「いわゆるタックスヘイブンみたいなもんか」

「? なんそれ?」


 説明を読んでポツリと独り言をつぶやくと、愛姫が聞いたことのない言葉だったらしく俺に質問する。


「あぁ、えっとな、俺たちの国にも税金があったのは当然わかるよな?」

「うん! 消費税でしょ!」


 えっへん! と物知り顔でドヤる愛姫に思わず笑いながら、


「あぁ、それもあるな、けど他に、商売して得た利益の一部を国に収めなきゃいけないんだよ」

「ふぇ、そうなんや」

「そう。で、このオラクルは、さまざまな都市で商売をして得た利益の全体から引かれる税金の割合が、他の都市よりも低いんだ。そうなると、どうなると思う?」


 俺からの問題にう~ん、とうなりながら考え込む愛姫。

 その隣では、会話が聞こえてきたアルも一緒に答えを考えている。


 まぁ、小学生に経済の問題は難しいか。

 少しヒントをやることにする。


「じゃあ、質問だ。100儲けた中から10持っていく都市と、5持っていく都市なら、二人はどっちで商売したい?」

「「5!!」」


 声を揃えてちびっ子二人が答える。


「だよな。ここはまさにそういうところだ。ここに商店の本店を構えれば、他の支店の利益も合わせた全体の利益から持っていかれる税金が減る。逆に言えば、商店には多くの利益が残るんだ。

 だから、この都市には全国の商店の本拠地が集まっているってわけさ。

 で、俺たちの元いた国では、そういった税金の低い国や地域のことを”タックスヘイブン”って呼んでるんだよ」


「へぇ~、にいちゃん物知りや!」

「うん、伊織兄ぃって強いし頭もいいんだね」


 そんなこんなで、知的?な会話を交わした後は、オラクルの地図を購入して一通り町を歩く。

 こうして転移魔法のためのマッピングを進めながら、俺たちはオラクルを散策していた。


 ここまでかなりの距離を移動してきたし、王都に拠点を構えなければいけないということもないので、

俺たちは宿をオラクルでとって、明日以降はここから旅を始めることにする。


 白石にお守りを任せて、俺が王都に戻って馬車を返却し、これまで泊まっていた宿を引き払った。


 戻って宿を探す。そこそこの高級宿だったが、大きな浴場が売りということで、女性陣に問答無用と押し切られてしまった。アルもすっかりお風呂の時間がお気に入りらしい。


 まぁ金に困ってるわけでもないので、抵抗することなく同意して無事に宿も決まった。


 ここで今日はゆっくり休むというのが俺の最も欲するところではあったが、この旅の目的であるアルの故郷に向かうにはまだまだ結構な距離がある。

 最速での行動が求められる以上、町で無駄な時間を過ごすわけにはいかないので、俺たちは馬車を新たに借りて、もう一度街道にでて道を進んだ。


 これまでの街道では、オドルの森とそう変わらない魔獣ばかりだったが、オラクルから先の街道では、

それらよりも強い魔獣が現れるようになった。


 具体的に言えば、コボルトやホブゴブリン、空を飛んで地上の獲物に襲い掛かるスカイイーターなどなど。

 スカイイーターは全長1.5mほどの鳥の姿をした魔獣だ。上空を滑空し、狙いを定めると一気に弾丸のように急降下して敵を貫くように攻撃する。鋭いくちばしは非常に危険だ。

 ただし、一度急降下を開始すると、ブレーキをかける以外に身動きがとれなくなるらしく、火球で簡単にこんがりと焼くことができた。


 こういう空を飛ぶ魔獣にはそもそも転移魔法でのポイ捨てが使えないので、”アークロード”の恩寵を手に入れておいて改めてよかったと思う。


 こうした新たな敵との戦闘もこなし、最後は転移魔法での連続ショートカットを経て、俺たちは日暮れとともに再度オラクルに戻って夜を過ごすのだった。

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