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2-3 反省会

 その日の夜、俺たちは王都へと戻り、宿屋に併設された食堂兼酒場で夕食を摂っていた。


 旅に出ていたのにどうして宿屋にいるかというと、もちろん俺の転移魔法だ。

 夕日が沈む前に転移魔法で王都へと戻ったのだ。

 その日進んだ地点までは転移魔法で戻ることが出来るのも確認済み。


 転移魔法では、一度いったことのある魔法であれば自由に行き来できる。

 以前、転移魔法で行ったことのない場所にいけるかどうか試したのだが、視界で捉えられる範囲を超えると急に靄がかかったようになり、それより先に魔力の糸を伸ばせなくなってしまった。

愛姫をこちらの世界に連れてきた際には、恩寵の声のサポートと、もともといた世界だったということで奇跡的にうまくいったのだということを改めて認識した。


 ただ、使ってみて視界の見える範囲であれば転移魔法でショートカットが可能であることが分かった。

 これを使って今日もかなり距離を稼ぐことができた。

 もちろん、移動にばかりかまけて、敵と遭遇した時に魔力切れでは洒落にならないので、一時間に一回という制約を設けている。


 魔力的にはかなり余裕をもっているが、どんなことがあるかわからない以上、無理をするわけにはいかないという判断だ。


 そういう訳で、野営による見張りの労力、夜間に活動を活発化させる魔獣の存在を鑑み、俺たちは日暮れとともに王都に戻ったという訳だ。


 借りた馬車を返して翌日も借りる手続きをすませ、今日狩った魔獣の魔石を換金する。

 新たな恩寵を発現させた俺は、それ以降の戦闘で”鷹の目”、”アークロード”の能力を使い、魔獣を瞬殺することができ、旅を始めた当初の懸念は払拭されたといっていいだろう。


「じゃあ、旅の初日を無事乗り切れたことを祝って、ささやかに乾杯と行こうか」

「「「かんぱーい」」」


 俺の音頭に他の3人が元気よく手に持ったグラスを掲げて、晩餐が始まり、今に至るというわけだ。


「このお肉おいしいね。お城のもおいしかったけど」

「あら、ほんとね。なんかガッツリ系って感じでおいしい」

「ボク、こっちのスープも好きだな」


 口々に感想を述べながら楽しそうに料理を口に運んでいる。

 

「はじめはどうなることかと思ったけど、一気に行動に余裕ができたわよね」

「そうそう、あっという間ににいちゃんが見つけるから、近づくころには倒されとった!」

「そうだな。”鷹の目”のおかげで魔獣の存在をすぐに発見できるから、奇襲に常に気を張る必要がなくなった分、後半は精神的にかなり楽だったな」


 そう、俺が今日発現させた恩寵の中で、特に使い勝手がよかったのが”鷹の目”だ。

 俯瞰で眺めることができることで、遮蔽物のある場所でも、敵を容易に見つけることができ、敵が体勢を整える前に魔法で遠隔攻撃をしかけて倒すことができた。


「それにしても、あんたの魔法の発動スピードはさすがね。どんだけ練習したのよ」


 白石が称賛半分、悔しさ半分といった感じでこちらを見ている。

 

「まぁ、暇さえあれば性質変化の練習はしてたしな。それに、部屋にいても愛姫と遊びながら魔法使ってたし」

「ゲートくぐりまたやりたいなぁ」

「ゲートくぐり?」


 アルが初めて聞くワードに首をかしげる。


「あぁ、俺の転移魔法でやる遊びだよ。ゲートをいくつか開いて、飛び込んだ先で無限ループするんだ。愛姫がすっかりハマっちまってさ」

「だってあんなの遊園地でもできんもん! 真下に落ちたと思ったら次は飛び上がってたり! それにゲートをくぐっとる間はずっと浮いとるから空飛んどるみたいな感じがするっちゃね」

「へぇ~」


 アルが愛姫の感想を聞いてケモミミをピョコピョコさせている。

 今日話していて分かったことだが、アルの耳は感情に倣って動くらしく、楽しければ今みたいにピョコピョコし、落ち込んだりするとヘナっと垂れる。

 そこらへんは元の世界の犬とかと似ているらしい。


「今度アルもやってみるか?」

「いいの?」


 パアっと目を輝かせてこっちに身を乗り出す。

 耳はさっきに増してピョコピョコしている。


「あぁ、俺の練習にもなるしな」

「やったぁ。ありがとうイオリ兄ぃ!」

「いいってことよ。さて、それじゃあ今日の反省会に戻るけど......」


 そう言って俺は開いた皿を脇にどけてスペースをつくり、そこに地図を広げる。

 進んでいる途中で分かれ道や目印となる場所で印をつけながら進んだため、おおよその今日の到達地点はわかるようになっていた。


「今日俺たちが進んだのはこのあたりだ。王都から大体......50㎞ぐらいか。

 途中何度か戦闘になったことも考えると、かなりのペースで進めてるな」

「そうね。途中で転移魔法でショートカットできるのがかなり大きいわね。もう少し増やせればかなり楽なんでしょうけど」

「まぁな。もうしばらく様子をみて、魔力に余裕がありそうならもっと増やす方向で行こう」

「わかったわ」


 これで行軍についての確認は終わりだ。

 今日は様子見の色合いが強かったし、まだまだ日中の移動距離を増やすことも可能だろう。


「次に、戦闘についての確認だ。新しい恩寵のおかげでかなり戦闘は楽になった。

 ただ、油断するわけにはいかないから、明日以降も、魔獣を見つけたら極力戦闘していこうと思う。

 転移魔法を使えば避けることは簡単だけど、それだと俺と白石の連携や技術が育たない。

 余裕のある相手でそれらを高めたいから、多少面倒ではあるけど、しばらくはこうするほうがいいだろう。どうだ?」


 俺はそういって白石に視線を向ける。

 白石も俺の意見に異論はないようで、


「分かったわ。確かに、今楽をして、そのツケが後に回ってきたら嫌だもんね。

 私としても、戦闘の経験をつめるんだから文句はないわ」

「よし、じゃあ明日の方針も決まったな。

 あ、すいません、デザートを4つ」


 俺は店員さんに声をかけてデザートを注文する。

 ほどなく冷たいアイスのようなものが出てきた。

 どうやら、果物の果汁を氷結魔法で作られているらしい。


 すくって食べるとひんやりとした食感と、甘酸っぱい香りが口のなかに広がる。

 俺からのささやかなご褒美に愛姫とアルは満面の笑みでパクつき、なにかと突っかかってくる白石も、デザートを前にしてはただの女子高生なんだなと感じさせられるのだった。


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