2-2 新たなる恩寵
「俺がやる」
俺の言葉を聞いた白石が、ポカンとした表情でこちらを眺めてくる。
「俺がやるって......なにを?」
「戦闘だけど?」
「はぁ? 意味が分からないんだけど。さっき自分で戦えないっていってたじゃない。ちゃんと説明してよ」
「分かってるって、これから説明する。ただ、その前に、今からいうことは絶対に他言無用だ。それを白石とアルは約束してくれ」
俺の真剣な雰囲気を感じたのか、アルはもちろんのこと、白石も何も言わずに頷く。
「実は、俺の恩寵は転移魔法を使えるようになるってものじゃなくてな。簡単に言えば100の恩寵を使えるってものなんだ」
「............はい?」
こいつは一体何を言っている? とでも言いたげな表情で俺を見返してくる白石。
まぁ、そりゃそうか。
「信じられないかもしれないけど、事実だ。
実際、今俺が使っている転移魔法だって、その100の願いのうちの1つを使って手に入れたものだしな」
「ちょ、ちょっと待って。全く理解が追い付かないわ。
そもそも、どういう願いをしたらそんなとんでもな恩寵が発現したのよ」
「あぁ、それはな、あの時俺はどんな恩寵がいいかなかなか決められなくてさ。
破れかぶれで願いの数を100にしろって願ったら、その通りになったんだよ」
「そんな無茶苦茶な......」
「だけどこれが事実だからなぁ」
「呆れた......。よくあの咄嗟のタイミングでそんなこと思いついたわね」
白石は頭が痛いというように額に手をやる。
「まぁ、確かにな。ともあれ、これで戦闘向きの恩寵が手に入れば、今後の旅が楽になると思う。
やらない手はないと思うんだけど」
「そうね、それが本当ならまさにチートってやつでしょうし。頼もしいことこの上ないわね。
ちなみに、手に入れる恩寵に目星はつけてるの?」
「あぁ。魔力の操作には慣れてるし、魔法系の恩寵にするつもりだよ。
じゃあ早速やるか」
俺はそういって言葉を切り、目を閉じて体の内部に意識を集中する。
(久しぶりだな。聞こえてるなら返事してもらいたいんだけど)
(......ヒサシブリダナ。サビシカッ......マチワビタゾ)
(ん?なにかいったか?)
(ナンデモナイ。キニスルナ)
(そうか。分かってるとは思うんだけど、新しい願いがあるんだけど、いいか?)
(モチロンダ。ワレノネガイヲイッテミヨ)
(えっと、攻撃魔法と支援魔法系......えっと、アークロードとスペルマスターだっけ?
この2つの恩寵が欲しい。あ、あと”鷹の目”も欲しいな。イケるか?)
(ムロンダ。ワレハワレノネガイヲキキトドケヨウ)
(ちなみに、これって一度に願えば1つ分の願いってことになるのか?)
(イナ。ソレゾレ1ツノネガイトシテアツカウ)
(まぁ、そりゃそうか。じゃあ頼む)
(アイワカッタ)
恩寵の声が途切れると、途端に俺の周囲に魔法陣が現れる。
俺の”100の星屑”を知っている愛姫は興味津々、恩寵の発現を初めて見るらしいアルや、半信半疑だった白石は驚愕の表情を浮かべてこちらを見ていた。
これまでと同様に魔法陣が輝きを放ちながら回転を始める。
輝きが強くなるのに反比例するかのように次第に魔法陣は小さくなり、やがて、
バチイィィイィィィィィィン
と音を立てて弾けて消えた。
現象を見る限りでは成功しているらしいが、特にこれといった肉体的な異変は感じられないな。
そんなことを思っていると、アルが俺におずおずと話しかけてくる。
「イオリ兄ぃ、なんかすっごい光ってたけど、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だよ。多分上手くいったと思う」
「そっか。ならよかった」
にっこりとほほ笑んでくるアルに笑みを向けると、白石が次に続く。
「どんな恩寵を手に入れたの?」
「えっと、”アークロード”と”スペルマスター”、それに、”鷹の目”だな」
「一度に3つも!?」
俺の答えに驚いて目を見開いている。
まぁさっきから驚きの連続だよな。
「あぁ。これで攻撃も支援もできるから、戦闘力としてはかなり改善されるんじゃないかと思う」
「そう。びっくりだけどこれで大分光明が見えてきたわね。実際に使っているところを見ないと何とも
言えないけど」
「そうだな。ひょっとしたら何か欠陥があるかもしれないし、実際に使ってみるか」
「えっ?」
「ちょっと使ってみる......言霊は......まんまでいいか、『鷹の目』」
転移魔法を発動するときと同様に、その恩寵の効果をイメージしながら言霊を唱える。
すると、脳裏に自分たちを中心として、上から周囲を見ているような景色が浮かび上がってきた。
「よし、”鷹の目”は問題なく発動できた」
「どんな風に見えるの?」
白石がその効果が気になったのか質問する。
「えっと......俺たちがいる地点を中心に、半径500mってところかな?」
「そんなに広範囲を見渡せるのね。何かほかにできることはないの?」
「そうだな......可視可能なエリアを移動させるのは無理っぽいな。
恐らく、自分の直上が中心に設定されて、それを動かすことはできないんだと思う。
ほかには......お、少しズームできるらしい」
発動時にできることを探していると、視界が若干狭まる代わりにより拡大して見ることができた。
これはかなり使えるな。
なんてことを考えていると、自分たちから見て北東の木陰になにやら動く気配を感じる。
白石も”鷹の目”の有用性を察したらしく、
「すごいじゃない。だったら索敵がかなり楽になって奇襲の対策になるわね」
「おっしゃる通り、んで、今まさに奇襲をかけようとしてるやつらを見つけた」
「えっ?」
白石が驚いたように周囲を見渡す。が、ここから見ても木立が邪魔になって敵の姿を捉えることはできない。
「あそこの木立の裏に隠れてる。数は......3体、たぶんゴブリンだな。試運転にはちょうどいい」
そういって俺は立ち上がり、敵の隠れている方へ視線を向ける。
ほどなくして、気づかれたことを悟ったゴブリン達が飛び出してこちらへと向かってきた。
「グギャギャギャギャギャギャ!!」
叫び声をあげながらこちらへ駆け寄るゴブリンを見ながら、俺は瞬時に3つの魔力の球を生み出した。
目を閉じて体内を流れる魔力に意識を向ける。
(俺は無属性だったけど、攻撃魔法を使えるようになったってことは、別の属性も使えるようになってるはず......ん? 魔力が前より暖かくなったように感じる。ってことは......火か!!)
新たな属性を確認した俺は、先ほどと同様に効果を思い浮かべながら言霊を唱える。
『炎を纏え、火球』
途端に、俺の周囲を漂っていた魔力の球が明々と燃え上がる。
基本魔法が問題なく発動したことを確認し、俺はそれらの火球をゴブリン目掛けて放つ。
「グギャアアァァァァアアアァァ」
着弾と同時にゴブリン達は火だるまと化す。
肌を焼かれる激痛に悲鳴を上げ、次にはバシュウッっと音を立てて霧散した。
焼け焦げた地面に残された魔石を広いに行き、3人の元へと戻る。
愛姫アルが目を輝かせて飛びついてきた。
「にいちゃんすごかった!! 火の玉作れるようになったんやね!!」
「あぁ、どうやらあたらしく火の属性が手に入ってたらしい。無属性じゃ支援魔法や特殊な魔法しか発動できないからな」
「イオリ兄ぃってすごい人だったんだね」
「ん~、俺がっていうか俺の恩寵が、かな」
「でもそれをすぐ使いこなすなんて、やっぱりすごいよ」
「はは、ありがとな」
二人の頭を撫でてやると、白石も側にやってくる。
「ずっと性質変化の練習してただけのことはあるわね。
さっきのアレ、クラスの子たちのやつよりも早さも威力もすごかったわよ?」
「そりゃどうも。これで戦力面の問題はなんとかなりそうだな」
「......その言い方、あたしまで足手まといみたいに聞こえるんだけど?」
「そんなつもりはないさ。白石にもこれまで以上に気張ってもらわないとな」
「もう、少しは俺が守ってやる、とか気の利いたこと言えないわけ?」
「守られたいのか守られたくないのかどっちだよ!」
「う、うるさいわね! 揚げ足取ってるんじゃないわよ!」
「勝手に足を上げといて何言ってんだ......」
こうして4人でわちゃわちゃとしながら、午後の昼下がりは過ぎていったのだった。