1-27 決着、そして旅立ち
あたしを含めて、全員が呆然とその決着を見つめていた。
目の前に広がっているのは、理解の出来ない光景。
目にも留まらぬ、いや、本当に一瞬姿を見失って、気づいたらあいつの目の前に立って朝倉君は突きを放っていたし、あいつはそれを避けられなかったはずだ。
なのに、攻撃したはずの朝倉君が地面に倒れていて、攻撃を食らったはずのあいつが無傷で立っている。
本来あるべき光景と真逆の光景が広がっていた。
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「ぐぁっ」
朝倉が地面で苦悶の声を上げている。
俺はそれを眺めながら、決着がついたことを感じていた。
「......ぐっ......どうして」
あまりの痛みに呼吸が上手くできないのか、乱れた息で俺に問いかける朝倉。
俺は何も言わず、自分の胸を指さし、次いで朝倉が吹っ飛ばされた方向を指さした。
「?............!?」
朝倉が何かに気づいたのか、驚きのあまり目を見開く。
そこにあったのは、俺の胸の前と、朝倉が吹き飛ぶ直前にいた辺りにに浮かぶ、直径10㎝ほどの小さなゲートだった。
「......まさか」
「そういうことだ」
俺は朝倉の刺突を避けきれないと判断し、朝倉の突きの到達地点である俺の胸の前にゲートを展開し、朝倉の真横に同じ大きさの出口となるゲートを開いた。
つまり、朝倉の突きは俺に当たることなくゲートを通過し、そのまま自分の脇腹に直撃したというわけだ。
あれだけの威力の攻撃で、まだ意識がある方が驚きだが、さすがに立ち上がることはできないのか、悔しげな顔で俺を睨み付けてくるだけだ。
「で、決着はついたと思うんだけど、俺の勝ちってことでいいか?」
「......」
「まだ認めないのか? 強情な奴だな。なら意識を失うまでその木剣で頭をぶっ叩くけど? そんな醜態さらす前に、潔く負けを認めたらどうだ?」
そういって、俺は朝倉の手から木剣を奪い取り、高々と振り上げる。
あとは脳天に叩き落とすだけだ。
「......」
「そうか......じゃあな」
ビュン
っと、俺が木剣を振り下ろし、朝倉の意識を刈り取ろうとしたまさにその時。
「そこまで」
ビタっ
朝倉の頭にぶつかる直前に静止の声がかかる。
声の方へ振り向くと、エリィがこちらへ歩いて来ていた。
「この勝負、不二さんの勝利です。これ以上続ける意味はありません。よろしいですか?」
「あぁ」
「......」
俺は木剣をポイっと放り投げ、朝倉は負けが確定したことを悟って歯を食いしばる。
「不二さんはご自身の実力を示されました。約束通り、旅に出ることはお認めします。
ただし、白石さんも含め、不二さんも我々の貴重な戦力であることに変わりは
ありません。決して無理はせず、何かあればすぐに転移魔法でこの城に帰ってきて
くださいね」
「あぁ。悪いな。我が儘を聞いてもらって」
「いえ、私としては寂しくなりますが、餞別にいいものを見せていただけましたし」
「餞別?」
「えぇ、転移魔法の可能性......ですよ」
俺にだけ聞こえるように耳打ちし、エリィは俺の側から離れる。
たしかに、俺の見せた戦いは転移魔法の可能性を示すものだったのだろう。
自分が後方で見ていることしかできないことを気にかけていたエリィにとって、
この模擬戦での俺の戦いは、新鮮に見えたことだろう。
ともあれ、こうしてめでたく旅のお許しもでたということで、俺はほうっとため息をつく。
すると、
「にぃちゃ~~~ん!!」
ドスゥ
「ぐえっ」
愛姫が俺のどてっ腹にロケットダイブをかまし、俺は勢いを殺し切れずに尻もちを
つく。
「あいってててて、妹よ、怪我はないか?」
「ない!!」
「そうか。さすがにあの勢いは俺が怪我をするから今後はもう少し抑えてくれ」
「にいちゃん!!」
「んぁ?」
「カッコよかったよ!! 大好き!!」
そういって、愛姫は俺にむぎゅうっと抱きつく。
先ほどまでのブチ切れモードはいつの間にか収まったようで、今度は甘えた全開と言った感じだ。
そうしてじゃれてくる愛姫をなだめていると、
「あんた、むちゃくちゃするわね」
「なんだ、白石か」
「なんだとは何よ!! 失礼しちゃうわね。誰のおかげで旅の許可が出たと思ってるのよ」
「どう考えても俺だろ?」
「はぁ? あんたを戦うつもりにさせたあたしのお蔭でしょ? 勘違いしないでよね!!」
「うわぁ......」
「な、なによ」
「勘違いしないでよね......とか言われても......そもそも勘違いなんてしてないし」
ビキビキィ
あ、これヤバい。過去一でヤバい。
「へぇ~。あそこまであたしがしてあげたっていうのに......。あたしが、あたしが、どんな思いでキ、キ............ウガアァアアアァァアァァ」
怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にして、白石が完全に暴走モードに突入した。
かまっちゃいられねぇ。
「ゲート」
「なぁっ!?」
一瞬で反対側の出口まで転移し、愛姫を小脇に抱えて脱出を試みる。
ガチャガチャ
んなっ、鍵が閉まってる!? ガチャガチャと扉を開けようとするがビクともしない。
恐る恐る振り返ると、怒り狂う白石、改め黒石さんがこちらへユラユラと近づいてきていた。
「フフフフフフ」
「待て、白石、いったん落着け! 漏れてるぞ! 本性が隠せてないぞ!!」
「やかましゃあ!! ティナ! 消し炭にしてやりなさい!!」
「クルアァ」
「理不尽だぁ!!!」
「あははははは、にいちゃん楽しいね」
「楽しくねぇよ! あぁもう面倒くせぇ~!!」
「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」
こうして、白石が疲れて冷静になるまで、俺は愛姫を抱えて逃げ回る羽目になった。
横たわる朝倉と呆然としたクラスメイト達を完全に置き去りにして......。
次の日の朝、朝食を摂りに広間に行くと、朝倉は姿を見せなかった。
傷は回復魔法で癒えているはずだから、俺と顔を合わせたくなかったんだろう。
手早く朝食を済ませて身支度を整える。他の奴らは今日も森で訓練に行くが、今日
から俺は別行動だ。部屋を出ると、ムスッとした表情の白石が立っていた。
「おはよう」
「......おはよう」
まだ怒ってるみたいだな。
やれやれとため息をつき、気を取り直して歩き出す。
城の内部では魔法除けの結界が張られていて、転移魔法は使えないので、城門を
出てから転移魔法を発動して、アルの泊まる部屋へと移動する。
部屋に着くと、アルはベッドに腰掛けて窓の外を眺めていた。
「アル」
「!? うわぁ、イオリお兄ちゃんたち!? いつの間に!?」
突然の来訪にビックリ仰天していたが、一人で寂しかったのか、嬉しそうに俺に抱きついてきた。
「ははは、よしよし。待たせて悪かったな。これから旅の支度をするから、一緒に行くか?」
「うん!!」
弾ける笑顔でうなずき、愛姫と繋いでいないもう片方の手を握ってくる。
それから、この国の大小の地図、テント、愛姫達の防具など、様々な買い物をしていく。本来ならば食料も大量に買い込む必要があるが、そこは転移魔法で王都までひとっ飛びで買いに戻れるので問題なしだ。
それに、旅の途中で新しい恩寵を増やすつもりだしな。
そんなこんなで、思ったよりも短時間で旅の準備は終わり、今日はアルの泊まった宿屋に俺たちも泊まることにする。
一階の酒場で夕食を食べ、その足で風呂に入ろうと浴室へ向かうと、アルがトコトコと愛姫と連れだって歩いていく。
「? アル、こっちだぞ。そっちは女湯だ」
「? そうだよ?」
「? いや、だから......」
「? ん?」
「アル......ひょっとして......お前......」
「ボク、女の子だよ?」
「属性多すぎだろぉ~」
こうして、一つの疑問に終止符が打たれ、旅立ち前夜は更けていくのだった。
翌日、検査も無事に通過し、俺たち一行は城門の外に足を踏み出す。
空を見上げれば、抜けるような青空が視界いっぱいに広がり、心地よい春の風が頬を撫でながら通り過ぎていく。
「出発するぞ、準備はいいか?」
「「うん!!」」
愛姫とアル、ちびっ子2人組が元気よく返事を返す。
「帰りたくなったらいつでも言えよ? 転移魔法ですぐに城まで送ってやる」
「そっちこそ、いつでもあたしを頼りなさい。あたしとティナが守ってあげるわ?」
「......せいぜい嫌われないように頑張るんだな」
「......せいぜいあたしに惚れすぎないように注意することね」
「「............ふん」」
「......よろしくな」
「......こちらこそ」
これはとある物語のほんの始まり。
他人を拒絶し、我が道を行く少年と、
その傍らで、そんな兄に無限の信頼を寄せる妹と、
他人を欺き、自分に嘘をつき続けた少女と、
他人を想い、自分の心に蓋をしていた幼子。
彼らは自分の殻を突き破り、今まさに、新たな一歩を踏み出す。
さて、さしあたって、この序章をどう締めくくろうか。
奇を衒うのも悪くはないが、ここは先達に倣い、使い古された表現で締めくくるのが無難か。
それでは引き続き楽しもう。彼らの紡ぐ物語を。これからの物語が、良き結末を迎えることを願いながら
「よし、行こう!!」
新しい冒険の、始まりだ。
第一章 完
第一章はこれにて完結です。
ここまでお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました。
明日より第2章の投稿を開始いたします。
引き続きお読みいただけましたら幸いです。
ブックマークやここまでの評価、ご感想などいただけましたら大変励みになります。
もしよろしければお手数ですがよろしくお願いいたします。
それではこれからも、拙作をお楽しみくださいませ。
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