1-26 決闘
「不二ォ!!」
白石の超ど級の爆弾が投下されてから数秒後、朝倉が怒髪天を衝くといった様子で俺の胸ぐらをつかんで詰め寄る。
「白石に何したんだ」
「何って、何もしてないんだが?」
「嘘つけ! じゃなきゃ......じゃなきゃ、白石があんなことする訳がないだろうがぁ!!」
「おいおい、どうしてあれが白石じゃないって前提なんだよ」
「ふざけんな!! いつもの白石があんな言動になるはずがない。それに......それに、お前みたいな腰抜け野郎に絆されたりするわけがないだろうが!!」
「それは俺じゃなくて白石に聞けよ! 俺だってあんなことされて驚いてるんだ」
「お前......ぬけぬけと......」
「いい加減に手を離せよ」
朝倉の手を振りほどき、しわになった部分を伸ばす。
朝倉はいまだに怒り冷めやらぬといった感じでこっちを射殺さんとばかりに睨んでいた。
睨み合うこと数秒。埒が明かないなと考えていると、
「俺と戦え!!」
「......はぃ?」
「聞こえなかったのか? 俺と戦えって言ったんだ! 訓練も放り出して勝手に旅に出ようっていうんだ。まさかずっと逃げ回るわけにもいかないだろう?
なら、俺と戦って、旅に出るだけの力があるって証明しろ!!」
「やだよ。別にお前と戦おうが戦うまいが旅に出るのは俺の中で決定事項なんだ。そんな疲れることに精を出す必要皆無だろ」
「なっ......。この......腰抜け野郎が!!」
「あら、ちょうどいいじゃない」
二人の会話に白石が割って入ってくる。
「白石、今はこいつと話をしているんだ。邪魔しないd」
「だから、朝倉君じゃ説得にならないからあたしが出てきたんでしょ」
「なっ」
「で、不二君、ここはあたしを賭けての男と男の真剣勝負、受けてくれない?」
「おい、誰のおかげでこんなに話がややこしくなったと思ってるんだ」
「それは悪かったわよ。でも、これってチャンスだと思うんだけど」
「チャンス?」
「えぇ。ここで、あんたが朝倉君に勝てば、あたしとあんたが旅に出るのを止められる理由はもうないでしょ?」
「......たしかに」
「それに......」
「それに?」
白石の視線の先に目をやると、そこにはブチ切れたうちのお姫様がお立ちになっていた。
なんか、背後に般若が浮かんでいるような気がする......。
「にいちゃん」
「は、はい」
「愛姫、あのお兄ちゃん嫌い」
「はい」
「言われっぱなしのにいちゃんも嫌い」
「はい」
「............ブチコロセェ!!!」
「イエス、マム!!!」
直立不動の姿勢で敬礼し、そのまま回れ右して朝倉の方へ向き直る。
「と、いう訳だ」
「あぁ?」
「さくっと終わらせよう」
「......思い上がるなよ......痛い目を見るのはお前だ!!」
訓練棟の室内練習場。
その中心で俺と朝倉が距離を取って相対する。
ほかの生徒は区切られた枠の外に立って、二人を見守っていた。
二人の間にエリィが進み出る。
「ルールを確認しますね? 相手を即死させる、および後遺症を与える魔法および攻撃は禁止です。
相手が意識を失う、もしくは降参した時点で決着とする。武器は刃を潰して殺傷力を抑えて物のみ可とさせていただきます。よろしいですか?」
「あぁ」
「それでいい」
「わかりました......では」
「あ、ちょっと待ってくれ、エリィ」
ルールの確認を終え、枠の外に出ようとしたエリィに俺は声をかける。
「? 何でしょう」
「この勝負で俺が勝てば、旅に出ることを認めてもらえるってことでいいんだよな?」
「はい。不二さんの転移魔法であれば、旅先からこちらに帰ってくるのは容易でしょうし、”剣聖”の恩寵を持つ朝倉さんに勝てるだけの戦闘力があれば、認めないわけにもいかないでしょう」
「わかった」
念のための確認を済ませ、エリィは今度こそ枠の外に出た。
「もう勝ったつもりでいるのか?」
「まぁ、うちのお姫様に勝たなきゃ殺されちゃうんでね」
「その前に俺が罰を与えてやる」
「そりゃ怖いな」
「白石の目を覚まさせてやらないといけないしな」
「......あいつも大変だったんだな」
「なんだと?」
「いや、こっちの話だ」
「もう無駄話はこれくらいでいいだろう。始めるぞ」
「無駄話を始めたのはお前からなんだが......まぁいいや」
会話が止まり、静寂が訪れる。
二人の準備が整ったことを確認すると、エリィが掲げた手を振り下ろす。
「始め!」
『ゲート』
「くっ」
開始と同時に、俺は朝倉の足元に転移魔法を発動した。
しかし、朝倉は後方へと飛び下がり、ゲートに飲み込まれるのを回避する。
「へぇ。うまく避けたな」
「お前の考えそうなことなんて、お見通しだ」
朝倉が視線を上にやる。すると、天井付近に、もう一つのゲートが開いていた。
「今度は俺から行くぞ!!」
朝倉が地面を蹴って俺へと真っ直ぐに突っ込んでくる。ただの突進だ、しかし......
(速い!!)
ただ直進し、持っている木剣を横薙ぎに振りぬいただけだが、さすがは近接戦闘系で最強の恩寵をもらってるだけのことはあるってことか。
避けるだけで精一杯だ。
「おいおい、そんな鈍くさい動きで逃げられると思ってるのか、よ!!」
『ゲート』
「なっ!!」
先ほどと同じ突進からの斬撃。
しかし、俺は転移魔法で瞬時に朝倉の背後へ移動して斬撃を回避する。
「その程度か?」
「面白い......”飛斬”!!」
「!? 『ゲート』」
朝倉がその場で剣を振るっただけかと思ったら、衝撃波のようなものがこちら目掛けて飛んできた。 とっさに転移魔法で逃れたが、あれをそのまま食らうのはまずいな......
「どうした? そんなんじゃ、せっかくの旅行に行けないぞ?」
朝倉が斬撃をどんどん飛ばしてくる。転移魔法で避けても、そちらへ飛ばしてくるのでキリがない。どうする......
しばし考え、俺は転移での移動を中断し、その場に立ち尽くす。
「? どうした? 魔力切れか? ほら、避けないと、直撃だぞ?」
俺目掛けて、3発の斬撃が放たれる。俺は全神経を集中し、その攻撃をギリギリの
ところでかわしていく。
「ハッ、大口をたたいてた割には大したことないn......うわぁ」
ギャリギャリィン
こちらを挑発する朝倉の横から、突然先ほどの斬撃があろうことか朝倉本人を襲う。
すんでのところで木剣で弾き直撃を避けるが、理解不能の出来事に動揺している。
「お前、一体何したんだ」
「さぁ。質問されたからといって答える義務はないよな?」
「くっ......”飛斬”!!」
先ほどと同じように、飛んでくる斬撃を俺は躱す。
すると、これまた先ほどと同じようにあらぬ方向から朝倉の方に斬撃が飛んでいく
「......まさか......転移魔法で」
「お、もう気づいたか。出来ればこれで決めたかったんだけどな」
そう、俺は自分の背後にゲートを展開して斬撃を取り込み、朝倉の背後にもう一方のゲートを開いてそっくりそのままお返ししたのだ。
まさか、自分の攻撃に背後から襲われると思っていなかった朝倉は気が動転している。
「つまり、俺に飛び道具は効かないってことだ」
「......そうか」
「......!?」
スゥっと、朝倉から体の力が抜け、木剣を下段に構えてこちらを睥睨する。
(雰囲気が変わった?)
警戒を強めて朝倉の様子を油断なく窺う。
「確かにお前に飛び道具は通用しないらしい。なら、避けられない攻撃で終わらせるだけだ」
「......へぇ」
「気をつけろよ。まだ習得したばかりで力の加減ができないんでな」
そう言うと、朝倉は体を屈めて踏み込みの体勢をとる。
すると、朝倉の周囲の空気がピリピリと震えるような感じがし、魔力が研ぎ澄まされているような気配を察知した。
(大技が来る......!!)
防御の構えをとりつつ、先ほど背後に展開していたゲートをこちらに引き寄せようとするが、
「遅い!! ”瞬光”!!」
朝倉の姿がブレるように消え失せ、気づけば俺の目前に朝倉の姿が移動している。
まるで転移してきたかのようなスピードに思わず目を見開く。
そのとき、一瞬俺と朝倉の目が合い、朝倉は勝ちを確信してニヤリと笑みを浮かべた。
ドスっ!!!
鈍い音が訓練場に響き渡り、
「ぐぁっ」
っという短い悲鳴とともに体が吹っ飛ばされる。
脇腹に鋭い突きの一撃を食らい、苦悶の表情で地面に横たわっていたのは......
突きを放ったはずの朝倉だった。