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星に願いを~ものぐさ勇者の異世界冒険譚~  作者: 葉月幸村
第一章 転生、そして旅立ち
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1-24 もう一つの決意

「任せろ」


 俺がそう言うと、アルは俺の体にしがみついて声を上げて泣いた。

 これまでの不安や悲しみを吐き出すかのように。

 しばらくそのままアルの頭を撫でてやり、落ち着いたのかアルがおずおずと俺から離れる。


「さて、今からすぐにって訳にはいかないから、アル、お前は今日ここに泊まれ。

 明日また会いに来るから、それまでなるべくこの宿屋から外には出るな。

 また厄介ごとに巻き込まれないとも限らないから」

「うん、分かった」

「よし。じゃあ、俺たちもいったん帰るか」

「うん♪」

「......えぇ」


 そう言って俺と愛姫、白石は立ち上がり、宿屋を後にする。

 

 城への帰り道、通りを歩きながら、白石が俺に問いかけてきた。


「任せろっていってたけど、どうするつもり?」

「ん? 旅に出てアルの故郷まで一緒に行くんだけど?」

「だから、どうやってよ。そんなこと、出来るわけないじゃない」

「どうして?」

「どうしてって......。そりゃあたしだって、アルの力になってあげたい。

 でも、あたし達は城で訓練して、戦いに備えなきゃいけないじゃない」

「確かに俺たちは元の世界に帰るために準備をしなきゃいけないけど、それは城にいなきゃ出来ないことか?」

「えっ?」

「どこで何をしていようが、自分で考えて来たるべき時のために備えをすればいいじゃないか。

 実際、俺は魔力操作の基本を教わっただけで、あとは試行錯誤で練習してきたんだし」

「それは......」

「それに、外の世界を見た方が、この世界のこともよく分かるだろうしな。実際、城にいただけじゃ、この国にはびこる獣人への差別にも気づかなかった」

「......」

「まぁそもそも、アルと旅に出るのは俺と愛姫なんだし、別に白石が気にすることじゃないさ」


 そう、これは俺の決めたことだ。

 別に、話を聞いたからって白石も巻き込むつもりなんて毛頭ない。

 面倒ごとなのに代わりはないし、首を突っ込んだ俺が責任を負うべきことだ。


 しかし、


「旅に出るって言ったって、エリィたちがすんなり許してくれるわけがないじゃない。

 それに......それに、あんたは今悪目立ちしてるんだから、旅に出るなんて言ったら、また絡まれるに決まってるじゃない」

「そうかもしれないな」


 俺はこともなげに返事を返す。

 すると、白石は俺の方をキッと睨む。


「だから......どうしてあんたはそんなに平然としてられるのよ!!

 怖くないの? 孤立することが。悪意の目にさらされることが」

「......」

「あんたがここ最近周囲の反感を買ってるのを間近で見てきたけど、あんたは全く動じない。気にした素振りも見せない。それがあたしは気に入らない!

 だって、そんなの見せられたら......あたしは......あたしが、バカみたいじゃない!!」

「......」

「あんたみたいになるのが怖くて、あたしはあんな性格のフリをして、ストレスを

抱え込んで......なのに......なのに......」


 白石の顔はいつしか苦悶で歪んでいた。

 

「あんたを見てると......どんどんみじめな気持ちになる......」


 この時、俺は理解した。

 俺と白石はまさに裏表だ。

 俺は他人のことなどどうでもいい。俺の思うように生きるのを信条にしてきた。

 だけど、白石は、他人の顔を伺い、そのなかでどうにか生きようと、適応しようと今まで必死にもがいてきたんだろう。

 俺にはそんな生き方は理解できない。そういったことを面倒だと切り捨てて今まで生きてきたから。


 だけど、だからこそ、そんな俺が切り捨てたものの中でもがいている白石の苦悩が、俺には分かる気がした。


 自分が必死にもがいているのに、それを気にも留めない人間が隣にいれば、これほど気に障る存在もいないだろう。

 でも、それは同時に憧れなのだ。

 

 憧れるから、そうありたいと願ってしまうから、そんな俺が気に障る。

 

 白石の願いが俺には分かるが、それは俺にはどうしようもないことなのだ。

 俺がどれだけ白石の気持ちを分かっても、それは白石には伝わらない。

 同じ苦しみを共有していない俺には、白石を救ってやることはできないのだ。


「白石......」

「......」


 あの時と同じように、白石は涙が流して俺を睨んでいる。

 でも、俺にはそんな白石の表情が、先ほどのアルの顔と重なって仕方がなかった。


「俺は......お前とは違う」

「......」

「他人にどう思われようがどうでもいいし、自分が思ったことを何よりも優先する」

「......」

「言えないことも、癒えないこともあると思うし、お前の気持ちが分かるとも言わない。ただ......」


 そう、ここで俺がすべきなのは共感でも、同情でも、理解でもない。

 そんなもの、何の役にも立たないし、意味もない。

 そうじゃなくて、今俺がするべきなのは、今まで通り、とことん自分の思うとおりに行動することだ。


「ただ......俺はいつものお前より、今のお前のほうがいいと思うぞ」

「......えっ?」


 言っている意味が分からない、という風に白石は目を丸くしている。

 これでいいのだ。俺に今言えることはこれだけだ。

 喜怒哀楽が激しくて、自信過剰で、暴力的。それが白石陽和なのだ。 

 それでいいじゃないか。


「もうじき夕食の時間だ。早く帰ろう」

「......」


 そう言って俺は愛姫の手を掴んで歩き出す。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 夕食まであと1時間ほど。


 部屋に帰って、あたしは今日の出来事を振り返る。

 

 朝倉君達の誘いを断って、しばらく部屋で過ごしてから、街に繰り出した。

 適当にブラブラして、目についた店に入って食事にしようとしていると、不二に出くわし、流れで獣人の子と知り合う。


 話を聞いて、なんとか助けてあげたいと思った。

 だけど、あたしたちにはやるべきことがあって、どうしようもないと諦めていた。

 なのに、あいつは簡単に「任せろ」って言った。


 本当に気に入らない。

 あたしが諦めたことを、やりたくても出来ないと思うことを平然とやろうとするあいつが......


 なのに、なのに、あいつの言った言葉が、あたしの心をあのとき楽にしてくれたように感じてしまった。


 今のあたしのほうがいい? そんなわけない。

 今まで普通にしてたら嫌われた。いじめられた。だからあたしは変わったんだ。

 変わったあたしはクラスの人気者で......アイドルで......。

 

 でも......あたしはそんなあたしが嫌い。

 だから、望んだ立ち位置のはずなのに、あたしのストレスはなくならなかった。

 

 他人がみているのは私であってあたしじゃない。

 私にとって望んだはずの環境は、あたしにとっては新たな苦痛でしかなかった。 

 だれもほんとのあたしを見てくれない。認めてくれない。


 なのに、あたしの秘密を知っているあいつは、今のあたしのほうがいいって......言ってくれた。


 トクン


 あの言葉が、染み渡るように体の中を巡っていく。

 あたしがどれだけ望んでもなれなかった、他人の意見に流されず、しっかりと自分の意思で行動できるあいつの言葉だから。

 そこに下手な気遣いや同情が存在しないと分かるから。


 嬉しい......


 両手を胸の前でギュッと握って目をつむる。


(......あたしも、出来るかな......?)


 自分のある姿を想像し、フッと思わず笑みがこぼれる。


(あいつ、ビックリするだろうな)


 そんなことを考えると、怖いとすくんでしまいそうになる心が楽になる気がした。


(散々あたしの気持ちを引っ掻き回してくれたんだし、これくらいの仕返しは当然よね)


 気持ちは決まった。


 さぁ、吠え面かかせてやろうじゃない!


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