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星に願いを~ものぐさ勇者の異世界冒険譚~  作者: 葉月幸村
第一章 転生、そして旅立ち
23/153

1-22 差別

 しばらく歩き、通りを変えて歩く。

 獣人の少年は、自分の耳を隠すように、フードを深く被り、不安そうな表情で俯きながら俺の後ろについてくる。


 どこか適当な場所で話を聞きたいけど......

 少年の恰好では無用な視線を受けてしまうかもしれないと思い、まずは先ほど立ち寄った服屋に立ち寄り、丈の合いそうな服を見繕って店を出る。


「ほら」

「えっ?」

「その恰好じゃこのあたりだと人目につくからな。とりあえずこれでも着てくれ。

 小さくて入らなかったらまずいと思ったから、多少ぶかぶかかもしれないけど」

「でも......ボク、お金持ってない」

「気にすんな。そんな高い服じゃない。あげるよ」


「......いいの?」

「あぁ。気にしないでいいから、ほら、そこの物陰で着替えてきな」

「うん。分かった」


 俺から服を受け取り、両手で大事そうに抱えながら、タタタっと小走りで駆けていく。


(そういえば裸足だったな......)


 着替えてこちらに向かってくると、行動を再開し、靴屋にも寄ってサイズに合う靴を買ってやる。


 これでフードを被れば、獣人とは分からないだろうし、店にも普通に入れるだろう。

 そんなことを考えていると、


 グウゥゥゥゥ


 少年の腹の虫が強烈に鳴った。

 少年は、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら、お腹をおさえる。


「そんなに腹がすいてたのか。ちょうどどこかの食堂で話を聞こうと思ってたし、じゃあ行こうか」

「でも......」

「だから気にすんなって。こう見えてもお金は無駄に持ってるんだ。ほら、行こう」

「......うん」


 気にするなと手をヒラヒラと振り、3人で連れだって目についた食堂に入った。

 

 店内はいかにもファンタジー世界の食堂といった雰囲気で、冒険者やら市民たちで大いに賑わっていた。

 開いているテーブルを探した店内を見渡すが、どうやら満席らしく、無人のテーブルが見当たらない。

 困ったなぁと思っていると、見知った顔が目に入る。


「白石?」

「......!!」


 白石も俺に気づき、向こうも全くの想定外だったのか、目を丸くしている。

 まぁ、結構な偶然だしな。まぁ知り合いとはいえ、俺のこと気に食わないって言ってたし、弱みを知られてる相手と話したくもないだろう。

 そんなことを考えながら、店を変えるか、と出口に向かおうとすると、


「不二君、偶然ねぇ。こんなところで会うなんて」


 いつの間にやら背後まで近づいていた白石にガッと腕を捕まれる。


「あ、あぁ、偶然だな。じゃあ。満席みたいだから俺たちは別の店に行くよ」

「あら、別に気にしなくていいわよ。ちょうど私の席はあたし一人だけで余裕があるし、一緒に食べればいいじゃない」

「いやいや、お構いなく。せっかくの休日なんだし、一人でゆっくりしてくれ」

「どうしたの? さっきも私の顔を見たとたんに表情が曇ってたけど。

 そんなに私と一緒にいたくないの? 傷ついちゃうなぁ~」


 ギリギリ


 顔は笑顔なのに、掴まれた腕が万力に挟まれたかのように締め上げられる。

 だからどうしてその友好とは180度真逆の行為をしながらそんな笑顔ができるの?

 

 そんなやり取りをしていると、


 グウゥゥゥゥ


 っと、再び少年の腹の虫が鳴る。

 

 これから店を変えるのも面倒だし......しょうがないか。


「あれ、その子は?」

「あぁ、ちょっと知り合ってな。腹が減ってるみたいだから、何か食べさせてやろうと思って。

 こいつも限界みたいだし、じゃあお言葉に甘えさせてもらってもいいか?」

「仕方ないわね~、この貸しはデカいわよ?」

「やっぱりそれが狙いかよ!」


 ともあれ、いつまでも突っ立っていても邪魔になるので、白石の座っていた窓側の席に4人で腰掛ける。


 店員さんに注文を頼み、料理を待っている間、


「そういえば、ここまで自己紹介がまだだったな。俺は伊織で、こっちが妹の愛姫だ。よろしくな」

「愛姫だよ。よろしくね」


 愛姫がにっこりと挨拶すると、少年は緊張がまだ解けない様子でペコリと頭を下げる。


「ちょっと、あたしの紹介は?」

「自分ですればいいじゃないか」

「なによ、誰のおかげで昼食がとれていると思ってんの?」

「恩着せがましいな......。え~っと、こっちにいる怖いお姉さんが、白石さんだ。

 普段は優しそうに見えるけど、その裏にはとんでもなく恐ろしい獣を飼っていだだだ!!」


 テーブルの下で思いっきりつま先に踵が振り下ろされ、そのままグリグリと捩じられ陰湿な痛みが俺を襲う。


「あら、大丈夫? 机の角にでも足をぶつけたの?」

「......お前、何しやがる」


 痛みでうめき声しか出せない......。

 責めるような視線を向けるが、白石は例の据わった目アンド薄らとした微笑でこちらを眺めている。

 おぉう、これはやばい奴だ。


「ほら、その子もびっくりしてるじゃない。......ちゃんとやって?」

「......こちらは白石さんです。可愛くて、優しくて、知り合いの中で大人気のお姉さんです」

「もう、はずかしぃなぁ、やめてよ~」


 バシっ


 と背中を叩く。はたくふりして掌の底で突き刺すように繰り出されたそれは、小さな音とは裏腹の威力を俺の背中へと送り込んできた。

 ......覚えてろよ!!


「ご紹介に預かりました、白石陽和です。陽和でいいよ。これからよろしくね」


 いつの間にやら猫被りモード全開の笑顔で挨拶する白石だが、少年は何やら危険な雰囲気を感じたらしく、コクコクと頷きながら、ガタっと椅子を引いて白石から距離をとる。

 白石がその反応に露骨にショックを受けているようで、溜飲が下がる思いだ。


「......何か?」

「別に、やっぱり子供にはウソはつけないなぁと思ってな」

「くっ、このぉ」

「別にこんなところでまで猫被んなくてもいいだろ。さっきから隠しきれずに漏れ出てるしな」

「なっ、あんたのせいでしょ!」

「とにかく、そろそろ話を先に進めさせてくれ。

 で、何はともあれ俺たちの自己紹介は済んだわけだが、次はお前の名前を教えてもらってもいいか?」


 視線を先ほどの少年に戻すと、少年は俺の方を見て、ホウッと小さく息を吐き出してから言葉を発する。


「ボクはアル。アルトリア......です。その、貴族様なのに、助けてくれて、どうもありがとうございました」

「そうか。アルっていうのか。まぁ、助けたことについてはどういたしまして、だけど、別に敬語なんて使わなくていいよ。

 貴族っていっても、肩書だけだし、さっきのデブみたいに、態度どうこうで怒ったりなんかしない」

「いいの?」

「あぁ。おっ、料理が来たぞ。腹が減ってるんだろ? さぁ、食べな」

 

 机の上にたくさんの料理が置かれる。

 アルは自分の前に置かれたスプーンを手に取り、手近にあったスープを口にする。


「......!! おいしい」

「そうか。よかったな。ほら、まだほかにもたくさんあるから、気にせずどんどん食べな」


 最初は遠慮がちだったが、一口ずつ食べ進めるうちに、だんだんと勢いが早くなり、いつの間にか、一心不乱に食事を口に運んでいた。


「......グスっ......グスっ」


 いつの間にか、アルの両目からは、大粒の涙が零れ落ちており、声を上げるのを必死にこらえるように、嗚咽が漏れ出さないように、次々と口へと食べ物を運ぶ。


 きっと、料理を口にした瞬間に、それまでに抱えた様々な感情が爆発したんだろう。

 そんなことを考えながら、一心不乱に、おいしそうに料理を食べているアルを無言で見守っていると、 

 隣の方からグウゥゥゥと小さな腹の虫が鳴る。

 音の出所に目を遣ると、愛姫がてへへ~っとお腹をさすりながらはにかんでいた。


「おいおい、あんまり食べすぎるなよ? 夕食で食べられなくなるぞ」

「無理そうやったらにいちゃんに助けてもらう~」

「まったく、じゃあ俺たちも少し食べるか」

「うん、あっ、にいちゃん!」

「ん? どうした?」


「さっきのにいちゃん、すっごいカッコよかったよ!!」

「......そうか。ありがとな」

「うん!!」


 満面の笑みを浮かべて俺に賛辞を送り、愛姫は料理にパクつく。

 そんな無邪気な妹につられるように、俺も軽く料理をつまみ始めた。


「ねぇ」

「ん?どうした?」


 軽食に手を伸ばしていると、白石が小声で俺に話しかけてくる。


「大丈夫なら、何があったのか教えてもらってもいい? あの子、訳ありなんでしょ?」

「訳ありっていうかなんというか、実はな......」


 アルが料理に夢中になっている間に、俺は白石に事の成り行きを説明する。

 白石も、デブ貴族には怒り心頭といった様子で、不機嫌そうに話を聞いていた。


「......で、ここでお前とばったり遭遇、事ここに至るってわけだ」

「なるほどね。やるじゃない!」


 パシっと背中を叩いてくる白石。先ほどの痛みに体がすくむが、今度は掌で軽くはたいただけで、何の痛みも感じない一撃だった。


「あんた普段あんな感じだし、揉め事になんて絶対近寄らないと思ってたけど。

こんな一面もあるのね。少し......見直しちゃったな」

「まぁ、お前の見立ては間違っちゃいないさ。

 だけど、愛姫にお願いされちまったからな。あそこで何もしなかったら、そのあと愛姫に大目玉をくらうとこだし、さすがにこんな子供がいたぶられるのを見て、何も感じないほど腐っちゃいないさ」


「......シスコン」

「失礼な。俺は妹に恥ずかしくない兄でありたい、それだけだ。妹に変な感情を抱くようなことは一切ないぞ」

「そこまでただれた関係を想像してないわよ、バカ」


 そんなやりとりをしていると、アルがもっていたフォークを置き、ゴクゴクと水を飲む。

 机の上には結構な量があったはずだが、ほとんどの皿が空になっていて、思わず苦笑する。


「よくそんなに食べれるな。満足したか」

「うん。もうお腹いっぱい」


 食べているうちに緊張も多少はほぐれたのか、明るい表情で俺に返事をしてきた。


「そうか、よかった」

「えっと、助けてくれて、本当にありがとう」

「気にするな。アル、一応念のために聞いとくけど、あれはお前の首飾りで間違いないんだな?」


 首飾りのことに触れると、首に提げ直したペンダントを握りしめ、不安な表情に戻って答える。


「うん、これは...... ボクのお母さんからもらった、大事な、宝物だよ。本当だよ?」

「そうか。わかった。ならこれからはあんなことにならないように、しっかりと持っとくんだぞ?」

「う、うん......」

「ん? どうした?」

「えっと......その、どうしてボクを助けてくれたの?」

「どうしてって言われても......」

「だって、ボクは獣人だよ?」

「? 獣人だからどうしたんだ?」


 ぽかんとしてしまい、質問に質問で返してしまう。

 すると、アルもぽかんとした表情を浮かべ、言葉を続ける。


「えっと、この国の人間は、ボクたち獣人を見下してるから......」

「......差別......か」


 あのデブ貴族の言葉や、通りかかった住人達の反応から薄々感じてはいたけど、

やっぱりこの世界じゃ獣人は差別されてるのか。


「うん、だから、にいちゃんたちがなんど獣人のボクを助けてくれるのか......理由が分からないんだ」

「えっとな、俺たちは遠い世界からこの国に来たんだ。俺たちの故郷では、差別がない

......とは言えないけど、差別に否定的な考えの人がほとんどでさ。

 だから、俺たちも見た目が違うからってだけで嫌がらせをしたりしないよ」

「そ、そうなんだ。遠い国の.....」

「あぁ。だから俺たちのことは怖がらなくていいよ。助けたのだって、気まぐれみたいなもんだしな。で、これから家まで送ろうかと思ってるけど、どこに住んでるんだ?

 親御さんにも一応今日のことは説明した方がいいだろうし」


 すると、アルの表情が悲しみに包まれ、ギュッと拳を握りこみながら口を開く。


「お父さんとお母さんは......いないんだ。

 僕は、貧困街に一人で住んでるから、事情を説明しなきゃいけない人は......いないよ」

「なっ」

「......そうか」


 白石が驚きのあまり口を手で覆う。


「で、でもじゃあ......これまでどうやって生活してたの?」

「えっと......屋台が閉まる時に捨てられるはずの材料のクズをもらったりしてた」

「そうか...... ずっとこの王都で暮らしてるのか?」

「うぅん、ここに来たのは1週間くらい前かな」

「ん? 王都に引っ越してきたのか?」

「違うよ。ボクはここからずっと遠くの、獣人の国のとある村で暮らしてたんだ。

 お父さんは少し前に死んじゃって、お母さんと2人で住んでたんだけど......2ヶ月くらい前、誰かが村を襲ってきて......」

「......なんてひどい......」


 つらい記憶だろう。口の端をぎゅっと噛みながら、口をつむぐアル。

 白石も沈痛な面持ちでアルを見つめている。


「それでアルはどうしてここに?」

「襲われた後、僕はそいつらに攫われたんだけど、どこかの街の近くで魔獣に襲われたときに逃げ出して、逃げてる最中にこの王都に向かってる途中だった馬車に拾ってもらってここまで来たんだ」

「そうだったのか......」

「ボク......帰りたい。......お母さんに会いたいよ」


 下を向き、肩を震わせながら、アルの願いが零れ落ちた。

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