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星に願いを~ものぐさ勇者の異世界冒険譚~  作者: 葉月幸村
第一章 転生、そして旅立ち
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1-20 散策

 翌日、朝食をとっていると、エリィが立ち上がり口を開く。


「皆さん、今日は昨日お伝えした通り休日ですが、王都のなかであれば自由に行動してくださって結構です」

「え、城の外に出てもいいの?」

「はい。これからいくつか注意事項などをお伝えしますので、それに留意していただければ問題ありません。よろしいですか?」


 こちらとしても、ずっと城に籠りっぱなしってのには飽きてきてたし、願ってもない。

 ほかの者も同じようで、一も二もなく頷きが返される。


「では。まず王都を歩く際には、皆さんに以前お渡ししたギフトプレートを必ず携行してください。

 自分の身分を証明するので、城の出入りなどで必須となります。次に、こちらも身に着けていてください」


 そう言うと、エリィは一つの指輪をつまんでこちらに見せる。


「これは、貴族の証となる指輪です。

 皆さんは以前、お父様......国王陛下から爵位を賜っております。これは、その爵位を表すものですわ。

 皆さんには伯爵の爵位が送られています。この指輪を見せれば、なにかトラブルに巻き込まれそうになっても、警備隊などが迅速に動いてくれますので、身につけておいてくださいませ。

 これは、のちほどお付きの者から受け取ってください。」


 そういえば貴族の位を授けるとか王様が言ってたっけ。

 まぁトラブル避けになるなら身に着けとくに越したことはないな。などと思いながら、エリィの話に耳を傾ける。


「次に、貴族には領地からの徴税など様々な収入源がありますが、王家からも、位に応じて俸給が支払われます。

 皆さんは伯爵ですので、聖金貨1枚が月々の俸給です。

 これも、お付きの者に持たせますので、指輪と一緒にお受け取りください。

 あぁ、訓練で入手した魔石は皆さんでご自由に換金してくださって結構ですよ」


 おぉ、お金か! 確かに休日といっても無一文じゃであるけないしな。

 それに、戦闘に参加しない俺が持ってる魔石はこないだのホブゴブリンの分しか

ないし。


 エリィの説明によると、この世界の貨幣制度は

 銅貨、銀貨、金貨、白金貨、王金貨、聖金貨となっており、それぞれ10枚で1つ上の貨幣と同価値になるとのことだ。


 また、1食にかかる平均的な価格が銅貨3枚前後らしい。

 てことは、銅貨1枚200円ってところだろうか?

 つまり、聖金貨1枚ってのは......2000万円!?


 つまり貴族ってだけで年収2億4000万か......他に領地経営やらなんやらで収入があるらしいってことを考えると、とんでもないな貴族。


 他のやつらも降って湧いた臨時収入に目が点になっている。

 そりゃそうだ、そんな大金、今までお目にかかったことはないだろうし。


「聖金貨で買い物をすると混乱が生じますし、無用な騒動の原因にもなりかねませんので、お渡しするときは王金貨9枚と白金貨10枚にしてお渡ししますね」


 おぉ、細やかな心遣い痛み入るな。

 

「最後になりますが、市街地での魔法の使用、および武器を使っての戦闘行為は自重してください。

 特段の事情があれば認められますが、一般市民に被害が出てしまう可能性がありますので......。

 何か質問はおありですか?」


 こちらを見回し、特に声が上がらないのを確認すると、


「それでは、我が国の王都を存分に堪能し、日ごろの疲れを癒してくださいませ」


 エリィの言葉でお開きとなり、周りで一斉に今日の方針を話し合う声がそこかしこで上がる。


「なぁ、どこいく?」

「ねぇねぇ、甘いもの食べに行こうよ」

「遊技場みたいなのってねぇのかな」

「服屋さんとか見て回りたいよね」


 などと、相談が行われていた。

 

 愛姫と部屋に戻ろうとしていると、視界の端で、白石の元に朝倉がパーティメンバーとともに近づいていくのが目に入る。


「なぁ白石、俺たちと今日一緒に回らないか?」

「ありがとう。ただ、私ちょっとまだ昨日の疲れが残ってるみたいなんだぁ」

「そうか。どこか具合でも悪いのか?」


「あ、うぅん、そういう訳じゃないんだけど、少し部屋で休んでようと思って」

「そっか...... まぁ昨日は大変だったもんな。わかった。お大事にな」

「うん。折角誘ってくれたのにごめんね。みんなで楽しんできてね」


 おぉ~、完璧な受け答えだ。

 共有した出来事を理由に誘いを断りつつ、断られた相手へのさりげないフォロー。

 こりゃクラスのアイドルになるのもうなづける。

 

 そんな風に考えながら見ていると、ふいに白石と視線が合う。

 笑顔でこっちを見ているが、何見てんのよ、という心の声が聞こえたような気がするので、おとなしく部屋に帰ることにした。君子危うきに近寄らず、だ。


 部屋に戻ると、お付きのメイドさんから、先ほどエリィの言っていた指輪と、お金の入った小袋を受け取る。


 指輪をつけるってのがなんとなく憚られたので、手近にあった紐に通して首から提げることにした。


 愛姫は、こちらの世界のお金を珍しそうに眺めていたが、


「にいちゃん、これ1枚ちょうだい!」


 と、王金貨を手に持っておねだりしてくる。


「ダメダメ。どこの世界に、小学生の妹に200万の小遣い渡す兄貴がいるんだよ。ほら、返せ」

「え~、愛姫もお小遣いほしい! ならこっちの小さい方でいいけんさぁ」

「だから駄目だって。そっちでも1枚20万だぞ? 外で買い物した時にお釣りが出るだろうから、そしたら銀貨1枚やるよ。それで我慢しろ」

「う~、にいちゃんケチや!!」

「なんとでも言え! 教育上よくない金額を渡すわけにはいかんのでな!」

 

 ムッス~っとした顔でこっちを見ているが、それを俺はどこ吹く風とスルーする。

 ここで妹可愛さになんでも許していては、我が儘放題で成長してしまう。愛のムチだ、と強く自分に言い聞かせながら、愛姫との根競べを続ける。

 ......根競べだと埒が明かないな。こうなったらしょうがない、搦め手を使うか。


「せっかくこうしてお金ももらえたんだし、一緒に街に出て買い物行かないか?」

「お買い物?」


 まだ顔はむくれたままだが、頬がピクッと反応したのを俺は見逃さない。

 朝食で周りの会話を聞いて、いいなぁ~って顔をしてたのは知っているのだよ。


「そうだな。馬車で訓練に向かう時にチラッと見たんだけど、屋台とかがたくさんあって、色んな食べ物が売ってたな~」

「屋台......食べ物」


 目がキラキラと輝きだす。食いついたな。さぁ一気に引き上げる。


「日本じゃ見慣れない服とかもたくさん売ってるだろうから買ってあげようかと思ってたんだけど、我が儘を言う子はお留守番しててもらおうかな~」

「ごめんなさいでした。連れて行ってください」


 ベッドの上で三つ指立てて即座に土下座する妹。

 あまりの切り替えの早さに吹き出しそうになるのをこらえながら、


「買い物ついて来たい?」

「行きたいです!!」

「もう金貨ほしいとか言わない?」

「言いません!!」


「よし! ならば同行を認めよう!」

「サンキュー、サー!!!」

「うむ、それでは準備に移る。ただちに着替えてきたまえ!」

「アイアイサー!!!」


 ばびゅーん


 すっ飛んで、メイドさんに外出用の服を出してもらって着替える調子のいい妹を見て、思わず笑みをこぼしながら、俺も外出の準備を進めた。



 それからしばらく、

 

「にいちゃん! 次はあっちの屋台行ってみよ! すっごいいい匂いする!」

「はいはい。わかったから走るな~」


 俺と愛姫は王都の通りを歩きながら、屋台めぐりに興じている。

 

 メイドさんに俺も余所行きの服を頼んだら、見るからに貴族!って感じの服を渡され、何か普段着のようなものはないかと相談したら、訓練で使っている黒衣を薦められた。


 冒険者が多数生活するこの世界では、装備で外出することに違和感がないらしいので、その言葉に従った形だ。


 あと、道に迷うことがないように、王都の地図を貰って、こうして屋台の多く立地するエリアにやってきたという訳だ。


 左右の屋台から鉄板の上で食材が焼かれる音、客引きの威勢のいい掛け声が飛び交い、通りはとても賑わっている。


 愛姫はそんな風景に目を輝かせ、俺の手をグイグイと引っ張りながら気になった屋台に突撃を繰り返していた。

 

 両手にどっちゃりと戦利品を持ち、通りのはずれに置かれたベンチに腰かけて頬張る。

 

「お~いしいぃ~♪」

「ほんとだな。日本じゃ食べたことない肉だけど、柔らかいし、この甘辛いタレがぴったりだ」


 屋台で買った串焼きに舌鼓を打ちながら、この後の動きを相談する。

 愛姫の希望でまず服を見に行くことにし、数件の店を回って気に入った服を買う。

 俺も途中立ち寄った店で、普段着用のローブを数枚と、下に着る服をいくつか購入した。


 そのあとは道具屋や武器屋を見て回る。

 様々な効果のあるポーションや、見たことのない道具が売られていて、愛姫と一緒になって目移りしながら物色した。


 特に、杖が気になり見ていると、騎士団使用と宣伝文句の入った、俺のモノと全く同じ杖があった。

 金額に目をやると、金貨5枚。

 この杖100万もすんのかよ。懐にしまっている杖に手をやりながらびっくりしてしまう。


 さすがは王国直属の騎士団だな。それだけの品を支給されるってことは、よっぽどのエリート集団なんだろう。


 そんな風にいろんな店を見て回っていると、いつの間にやら結構な時間が過ぎていた。

 まだ夕方にはなっていないが、あと一時間くらいで陽が傾き始めそうだ。


 そんなことを考えながら、愛姫と手をつないで歩く。

 結構な服を買っていたが、持ち歩くのは面倒なので、服屋でトイレを借りてそこから転移魔法で城の前まで移動し、俺たちの部屋に置いてきてもらうように門番に頼んでおいた。

 こういうとき、転移魔法ってつくづく便利だな。


 まだ夕食までには余裕があるので、残った時間をどうしようかと考えながら歩いていると、


「返してよ。それはボクのだ!!」


 と、子供らしき叫び声が、俺たちの歩く通りの先の方から聞こえてきた。

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