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星に願いを~ものぐさ勇者の異世界冒険譚~  作者: 葉月幸村
第一章 転生、そして旅立ち
20/153

1-19 可能性


 「ふぅ、うまくいった」


 そう言いながら、俺は白石の近くに歩いていく。

 すでにホブゴブリンたちは魔石を残して消滅し、危機は去った。

 俺はその魔石を拾い上げてポケットにしまってから、白石に声を掛ける。


「見たところ大きな傷とか怪我はないみたいだけど......大丈夫か?」

「う、うん......。あの、今のって.......不二君が?」

「あぁ。そうだよ。まぁ無事みたいでよかった」

「あ、ありがとう。でも......どうy」

「白石、大丈夫か?」


 会話の最中に、朝倉が血相を変えて飛び込んできた。


「朝倉君? う、うん、大丈夫だよ。不二君が助けてくれた」

「不二が!?」


 耳を疑うようなリアクションをしながらこっちに振り向いてくる。

 

「どういうことだ?」

「どうもこうも、転移魔法を使って倒したんだよ」

「だから、どうやって転移魔法で倒すんだよ! 戦闘では使えないんだろ」

「確かに俺の転移魔法は戦闘には向かないけど、全く戦えないってわけじゃない。

 もっとも、今のは転移魔法で20mほど上空に放り出して地面に叩き落としただけだけど」


 そう、ホブゴブリンが白石に襲い掛かる直前、俺は転移魔法を白石とホブゴブリンの間に発動させた。 ホブゴブリンはそのままゲートに突っ込み、はるか上空のもう一方のゲートから転落死したわけだ。


 ゲートで敵を空から叩き落す。

 これまでに転移魔法練習していく中で気づいた可能性のひとつだ。

 地上戦を主体とする敵であれば効果があるだろうと思って考えていたが、こうして実際に使ってみて、その思惑が間違っていなかったと分かって安堵する。


 もっとも、空を飛べたり、ある程度の防御力をもつ相手に効果はないという欠点を抱えてはいるが、物理的ダメージを与える分には有効な手段のようだ。


「なんで今まで使わなかったんだ?」

「ん? 使う機会がなかっただけだけど?」

「そうじゃない! 転移魔法にそんな使い方があるなら、はじめから遊撃として戦闘に参加すればいいじゃないか」

「だから、さっきも言ったけど、戦闘向きじゃないことに変わりはないんだ。

それを言うなら時魔法だって戦闘に参加しなきゃいけなくなると思うんだけど?」

「............」


 二人の間に険悪な空気が流れる。

 俺としてはピンチを救って感謝される流れならあるかとは思ってたが、まさかこうなるとは予想外だ。

 面倒くさいな......と思っていると、


「や、やめようよ。不二君のおかげで私は助かったんだし......」


 白石が朝倉をなだめるように間に入ってくれた。

 なんだ? この行為の裏にある白石の真意は?

 あぁ、あれか、庇って俺に貸しを作っておいて、後々俺に強気に出ようって腹だな。

 

 そんなことを考えていると、


「あぁ......分かったよ」


 そういって朝倉は自分のパーティのもとへ戻っていく。


「はぁ」


 面倒が回避されてため息をつく。真意はどうあれ、庇ってくれたことに違いはない。


「ありがとな。助かったよ」


 白石に礼を言うと、


「うぅん、気にしないで。助けてもらったのはあたしなんだし......。あの、助けてくれて、ありがとう」


 神妙な顔でぺこりと頭を下げる白石を見て、俺は怪訝な顔を浮かべる。


「? どうしたの?」

「いや、何が狙いだと思って......」

「? どういうこと?」

「お前の性格から考えて、ただお礼を言うだけなんてありえないだろ」


 ピキリ


 あっ、眉間にヒビが。

 地雷を踏み抜いたと悟ったが、時すでに遅し......

 白石の目から光が消えうせ、口元だけがにっこりと笑みを浮かべる。


「ふぅ~ん......。あたしのこと、そういう風に思ってたんだぁ」


 二人にしか聞こえない声で話しながら、一歩こちらへと踏み出す。


(コエーよ......)


 白石の踏み出す一歩に反射的に後ずさる。


「あたしのこと、悪魔かなにかとでも思ってるのかな?」

「いえ......。別に」

「ふぅ~ん、でも、あたしは何か打算でもないかぎりお礼を言ったりしないって思ってたんだよね?」

「いや、ほら、あんなことがあったら誰でも警戒しちゃうじゃないですか」

「......フン!」


 そういってジト目で睨んでくる。気まずい沈黙が立ち込めるが、


「あ、あたしだって......。助けてもらったら素直にお礼ぐらいいうわよ」


 依然としてこちらを睨んではいるものの、バツが悪そうに呟いた。


「そうか。悪かったな。下手に勘繰りすぎたよ」

「......もう良いわよ。でも、いいの? 朝倉君たち、多分いずれまたあんたに突っかかってくるわよ?」

「だろうな」

「今のうちに誤っとかないと、居場所がなくなるわよ?」

「心配してくれるのか。何が狙いd......」


 ピキピキっ。

 あ。これあかんやつや。


「何でもありません」

「......はぁ。人が折角心配してやってるのに。

 分かるでしょ? このままだとあんたへの反感はなくならない。

 あんたの転移魔法がどれだけみんなの助けになる魔法だとしても、こないだみたいに揉めたのに、さっきので転移魔法が戦いに使えることが分かってしまった......。

 大方、サボるために隠してたって思われてるんじゃない?

 下手に絡まれる前に早く謝るなり態度を変えなきゃ、本当に居場所がなくなるわよ?」


 反感を買い、孤立を経験したからこれから先の展開が手に取るように分かるのだろう。

 そうなる前に、事態を沈静化させるべき。白石はそう言いたいのだ。

 だけど、


「そうだな。まぁ、別にいいんじゃないか?」

「えっ?」

「嫌いたければ嫌えばいい。それはあいつらの自由だ。でも、俺が俺の好きなように動くのも、俺の自由だろ?」

「......だから! それじゃあんたの居場所がなくなるって」

「俺の居場所は誰かに作ってもらうもんじゃない。それに、嫌われたり、多少の嫌がらせ程度で曲がるような性格じゃないんでな」


 一瞬、白石はこいつは何を言っているんだ? とでもいうような表情を浮かべる。

 そして次には苦々しげな表情へと変わり、


「......なんでよ」

「ん? なにがだ?」

「なんでそんなに平然としてられるのよ......」

「なんでって言われても......。そういう性格だとしか」

「......心配して損した。あたし、やっぱりあんたのこと嫌いだわ」


 そういうと、踵を返して馬車のほうへと歩いていく。

 まもなく、ほかのパーティも森から帰還し、転移魔法で全員そろって城へと戻った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ピチョン


 水滴が水面ではじける音が浴室の中で木霊する。

 湯船のなかで全身の力を抜き、呼吸に合わせて小さく浮沈する体を感じながら、あたしは今日の出来事に思いを馳せる。


 転移魔法にあんな使い方があるだなんて、思ってもみなかった。

 あたしや他のみんなが訓練しているとき、木陰で魔力操作の練習をしているのはたまに見てて分かってたけど......。


 あの発動スピードは、よほど天才じゃない限り、普段の練習をさぼってでき得るものじゃない。

 実際、これまで組んで練習した他の魔法使いの子達よりも、段違いに速いのは間違いない。

 他の子なら、ホブゴブリンが棍棒を振り下ろすまでの一瞬で、魔法を発動させてあたしのところまで到達させることはできなかったと思うし。


 朝倉君や前衛の子達の反感は的外れだ。

 そもそも、転移魔法で瞬時に移動できるだけで、あたし達には相当のメリットのはずなのに......。

 その有用性に目を背け、戦闘に参加していないという点を攻撃する。


 たしかに、転移魔法という恩寵が発現したのは、彼の思惑と関係があるのは間違いないとは思う。

 けど、逃げるためならこんな世界に妹をわざわざ連れてくるとは考えにくい。

 それに、あぁして転移魔法でも戦える方法を考え出していたってことは、戦うことを想定していたってことのなによりの証拠だ。


 まぁ、あんな飄々(ひょうひょう)とした態度が癪に障るんだろうけど。

 

(それに......あたしが折角心配して忠告してあげたっていうのに......。)


「嫌いたければ嫌えばいい。それはあいつらの自由だ。でも、俺が俺の好きなように動くのも、俺の自由だろ?」


 なんて、平然とあいつは言い返してきた。

 どうしてそんな風にしてられるのよ。

 悪目立ちして、反感を買って、このままいけば間違いなくクラスの中でいづらくなる。


 あたしは、そんなことにならないように、今まで必死に過ごしてきたっていうのに......。

 そんなの......そんなの......


(まるであたしがバカみたいじゃない......)


 バシャバシャっと音を立てて顔を洗い、湯船から勢いよく立ち上がる。

 体からは疲れが取れたように感じられるが、あたしの頭のなかのモヤモヤとした感覚は、晴れてはくれなかった。


「やっぱりあいつ......ムカつく」

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