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星に願いを~ものぐさ勇者の異世界冒険譚~  作者: 葉月幸村
第一章 転生、そして旅立ち
19/153

1-18 急変 ☆

おはようございます。葉月です。

投稿5日目となりました。

昨日の夜間に、ハイファンタジー部門の第95位に拙作がランクインしていました。

これもひとえに、お読みいただいた皆様のおかげです。本当にありがとうございます。

それでは本日も拙作をお楽しみくださいませ。

 翌日。愛姫と連れだって朝食を食べに広間に入ると、一瞬その場の視線が俺に集まる。

 昨日の一件を考えれば当然か。などと思いながら、特に気にせずいつもの席に座り、それから程なくしてエリィが現れて朝食が始まる。


 朝倉や、前衛攻撃役の奴らがこちらに視線を向けているが、俺は一切気にせず普段どおりに振舞う。

気まずい空気が続くかと思われたが、どこからともなく会話が再開され、表向きはこれまでと変わらぬ朝のひと時が過ぎていった。


 その日は外の訓練場で、前回の反省を踏まえての連携訓練だ。

 俺のやることはこれまでと変わらないが、昨日の今日で言いがかりをつけられるのは鬱陶しいので、屋内の訓練施設の一室でいつもの練習を行った。

 外の空気を感じながら練習する方が俺的にはいいのだが、それでまたつっかかって来られるような燃費の悪いイベントは勘弁だ。


 その日は夕食でも朝倉達が絡んでくることはなく、平穏に終えることが出来た。



 次の日は、再度オドルの森での戦闘訓練。

 転移魔法で移動し、これまでと同じように後方支援組を除いた者は森へと入っていく。

 しばらくは静かな時間を過ごせると、晴れやかな気分でいつものごとく魔力を操作していると、エリィが近づいてきてとなりに腰掛ける。


「地面に座ったりしていいのか? 服が汚れるぞ?」

「お構いなく。これは訓練用の物ですので、汚れても問題ありません」

「そうか。で、どうしたんだ? 暇つぶしか?」

「そうですね。待っている間はどうしても手持無沙汰になってしまいますし」

「まぁそうだよな」


「それにしても、本当に魔力の操作がお上手ですね。ガロンさんが驚いてらっしゃいましたよ?」

「そういえば褒めてもらったっけな。まぁ、転移魔法を使う身としては、少しでも慣れて発動にかかる時間を短くしないといけないしな」

「そうですね。戦闘に加わることができない私たちには、出来ることは限られていますし......]


 そういって、エリィは少し悲しげな笑みを浮かべる。


「悪いな。気を遣わせて。こないだの一件を心配して来てくれたんだろ?」

「......えぇ。不二さんが片時も手を抜かずに研鑽を積んでいらっしゃるのは同じ転移魔法の使い手として、見ていればわかります。

 ですが......前衛の方々にはなかなかご理解いただけませんから......」

「エリィもそうなのか?」


「いえ、私は幸い、王女という立場なので、面と向かって批判されるようなことはありません。

 ですが、戦闘向きでない魔法を使う者を臆病者と揶揄する方は少なからずいらっしゃるというのを知っておりますので......」

「別に俺は気にしてないよ。言いたいやつには言わせておけばいい。こっちが聞き流してれば、いずれ言っても無駄って分かって何も言わなくなるさ」


「......お強いんですのね」

「ただ面倒くさいだけだよ。いちいち乗っかってたらキリがないだろ?」

「それはそうですが......。私、たまに思うんです。転移魔法ではなく、攻撃魔法の使える恩寵だったら、もっとみんなの役にたてるのに......と」

「............」


「転移魔法は、移動・輸送の面で非常に有用な魔法です。

 でも、いざ戦闘が始まれば出番はありません。

 命を懸けて戦う方々の後ろで見ていることしかできず、今回の不二さんがされたような仕打ちや言動にさらされる。

ならいっそ、普通に攻撃や支援魔法を使って戦闘に加われた方が、他の方々のお役にたてたのではないか......と」


「まぁ確かに、転移魔法は戦闘向きじゃないな」

「えぇ......残念ながら」

「でもさ、戦闘ができないわけじゃないと思うぞ?」

「え?」


 エリィが怪訝な表情でこちらを見つめる。


「転移魔法は移動に用いる魔法ですよ?」

「そうだな」

「戦闘なんてできないではありませんか?」

「ん~、そうでもないと思うんだけどなぁ」

「どういうことですか? 教えてくださいまs......」


「ガァァァアアアアアァ」


 突如、これまでに聞いたことのない魔獣の鳴き声が響き渡る。

 直後に、ガサガサっと茂みをかき分ける音が聞こえ、森の入口から東へ50mほど離れた木々の隙間から、何者かが飛び出してきた。


「あれは......白石か?」

「逃げて!! 強いゴブリンたちがそこまで来てる!!」


 白石がそう言うや否や、後を追うようにゴブリンが姿を現した。その数5体。

 しかし、これまでの訓練でみたゴブリンと体表の色が違う。

 それを見たエリィが驚きに目を見開く。


「ホブゴブリン!? なぜこの森に!?」

「上位種か」

「はい。この森にはいないはずなんですが......」


 そんな話をしているうちに、ホブゴブリンが白石に襲い掛かる。

 

「くっ、ティナ! お願い」

「クルアァ」


 白石が召喚魔法で呼び出した子竜が足止めのために立ちはだかる。ブレスを横なぎに吐き出すと、ホブゴブリンたちはそれを避けるために後方に飛び下がる。

 しかし、長時間ブレスを吐き続けることはまだできないらしく、次第に勢いが衰えていく。

 すると、機を見て取ったホブゴブリンがティナを避けて術者である白石めがけ殺到した。

 

 ティナが再度ブレスを試みるが、1体がティナの前に立ちはだかってほかのホブゴブリンを先に行かせる。


(囮!? あいつら連携してるのか!?)


「白石、大丈夫か!?」

「陽和、大丈夫!?」


 ここにきてようやく、白石が加わっていたパーティが茂みから飛び出してくる。

 その中には朝倉の顔もあった。

 

 白石のもとへ援護に向かおうとするが、ゴブリンはすでに白石の目前まで迫っている。

 朝倉達とは距離がありすぎるし、森の入口付近の騎士の人たちもこっからじゃ間に合わない。


 白石も逃げ切れないと判断したのか、急所をかばうように防御姿勢をとる。

 そんな白石目掛けて、


「ガァァァアアアアアァ」


 という雄叫びとともに、ホブゴブリンの持つ棍棒が一斉に振り下ろされた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 今日もこれまでと同じ、オルドの森の戦闘訓練。


 遊撃のあたしは、今日は朝倉君がリーダーを務めるパーティに加わって訓練に参加した。


 ティナを呼び出し、前衛の人を援護するべく、いつものようにティナに指示を出す。


「ティナ、右のホーンウルフに火球を!」

「クルアァ」


 ティナの放つ火球が朝倉君の横から飛びかかろうとするホーンウルフに命中する。


「ギャウオォォン」


 断末魔の悲鳴を上げながらホーンウルフが塵と化すのを確認すると、次の標的を決めて次々とティナに指示を出していく。


 後衛の魔法使いの子たちと標的が被らないように気を配りつつ、冷静に立ち回ることが出来ていた。


 朝倉が最後のホーンウルフを真っ二つに切り裂いて、群れは全滅。

 しばらくは全員で周囲を警戒するが、追撃はなさそうだったので魔石の回収に移った。


「それにしても、白石の相棒は強いな。特にあのブレスは牽制にもってこいだ。さすがはドラゴンだね」

「あはは、ありがとう。でも、朝倉君もすごいね。どんな魔獣も一刀両断なんだもん」

「まぁ、このパーティの切り込み役だからな。これくらいできなきゃ。それに、他のみんなもうまく助けてくれるし」

「うんうん、息ぴったりって感じだよね。あたしも邪魔しないようにもっと頑張るね」


「全然邪魔じゃないよぉ。ティナのおかげで魔法の使用が最低限にできるし」

「そうだな。もう白石もこのパーティのメンバーも同然だよ」

「あはは、ありがとう。あっあんなところに魔石が......拾ってくるね」


 朝倉の視線に嫌な予感を感じてとっさに会話を切って距離を取る。

 どうやら彼はあたしに好意を持っているらしい、というのはしばらく前から感じていた。

 人当たりがよく、爽やかで顔もいい。

 だけど、そういうクラスで人気の男の子は、あたしにとっては危険人物でしかない。 


 これまでは上手くやり過ごしてきてたけど、この世界に飛ばされてきてから、前よりも距離を詰めようとしてきてる気がする。

 今もああ言ってあたしをパーティに組み入れようとしてきたし......困ったなぁ。


 はぁっとため息を付きながら、しゃがみこんで魔石を拾おうとすると、ガサっと

目の前の茂みがゆれ、ゴブリンが飛び出してきた。


「っ!! ゴブリンが!!」


 声を上げて敵襲を知らせ、同時にティナを呼び寄せる。

 壁役の背後まで下がるが、茂みから次々にゴブリンが飛び出してくる。


「くそ、数が多いな。白石、ティナのブレス頼む」

「分かった。ティナ! お願い」

「クルゥ!!」


 ティナがブレスを放って牽制し、そのうちに隊列を整える。

 しかし、茂みがさらに揺れたかと思うと、さらに複数のゴブリンが現れる。


「......っ! 何匹いるんだよ」

「たぶん、20体くらい!!」

「範囲魔法は?」

「ごめん、もう単発の魔法しか打てない」

「しょうがない。前衛で削れるだけ削るぞ」

「「おぉ」」


 朝倉達前衛が進み出て、ゴブリンが飛びかかってくるのを待つ。

 普通のゴブリンは、知恵がないので、何匹いようと単体で飛び込んでくるだけで、各個撃破で難なく倒すことが出来る。


 しかし、このゴブリン達は、なぜか一向に飛びかかってくる気配を見せなかった。

 違和感を感じながら睨み合っていると、再び茂みが揺れ、そこから新たにゴブリンが現れた。しかしそれらは......


「ねぇ、なんか他のゴブリンと比べて大きくないか? 皮膚の色も違うし......」

「あぁ......まさか、上位種ってやつじゃ」


 前衛でそんな会話が交わされていると、


「ゲギャギャギャギャ」


 と後から現れたゴブリンがわめき声を上げる。

 すると、約20体のゴブリン達が二手に分かれ、片方が前衛に、もう片方が後衛に

向かって一斉に飛びかかってきた。


「なっ!!」


 朝倉君達が驚愕の声を上げる。これまで相手にしてきたゴブリン達とは明らかに違う、統率された動きに一瞬反応が遅れてしまい、後衛への突破を許してしまう。


「しまった...... みんな、すぐ援護に行くから持ちこたえてくれ」

「了解、『風よ、刃となって敵を切り裂け 風刃』」


 攻撃魔法が放たれ、3体のゴブリンが一瞬で消し飛ぶ。前衛もすでに動揺は収まったらしく、残りは5体。これならじきに合流できる。そう考えて後衛の援護に回ろうとしたその時、


「ゴアァァアァァ」


 ゴブリンの上位種があたし目掛けて駆け出してきた。


「くっ、ティナ!!」

「グルアァ」


 とっさにティナの火球で1体を倒したが、他の5体がさらに距離をつめてくる。

 即座に前衛と後衛に目をやるが、彼らも目の前の敵に阻まれていて、援護は期待できない。


(逃げるしかない)


 ティナという強力な存在はいるけど、あたし自身に戦闘力はほとんどない。

 とにかく、森の外まで走って、騎士の人に救援を頼もう。


 そう判断して一気に森の入口目掛けて駆け出した。

 逃げながら、ティナに逐一指示して足止めを図るが、散開されてしまって対象を絞れない。


(......厄介ね......きゃあ)


 背後ばかりに注意を向けたせいで、いつの間にか横を取られかけていた。

 とっさに反対側に飛び込むが、そのせいで森の入口へと通じる道を塞がれてしまう。


(道を塞がれた......でも、こっちに進めば森から出られる。)


 入口への道に沿って、茂みの中を疾走する。

 それを見たゴブリンたちは再び散開して追撃を開始した。


「はっ、はっ、はっ......ティナ、ブレス」

「クルアァァ」


 ティナのブレスで背後を焼いて少しでも自分との距離を開ける。

 ゴブリンが恨めしげにわめき声をあげながら、迂回してくれた分、距離の差を広げることが出来た。


「はっはっは......見えた!!」


 森の境界線が目に入り、一気に茂みを突き破る。

 周囲に視線を配ると、自分が森の入口から東に50mほど離されてしまったことを悟る。


 物音に気付いたのか、不二がこちらを見ているのが目に入り、


「逃げて!! ゴブリンたちがそこまで来てる!!」


 戦闘できない者たちを遠ざけつつ、騎士の人たちに危機を知らせなきゃ。


(お願い、早く、早く来て)


 しかし、距離が開きすぎており、騎士たちと合流する前にゴブリン達が背後に迫っていた。


「くっ、ティナ! お願い」

「クルアァ」


 ティナがブレスを吐いて牽制するけど、勢いが弱まるのを見計らってこちらへと

向かってくる。しかも、そのうち1体がティナを邪魔してほかのゴブリンを通して

しまった。


「白石、大丈夫か!?」

「陽和、大丈夫!?」


 朝倉君たちが飛び出してきたけど......間に合わない......とにかく致命傷を避けなきゃ。


 頭と胸を腕で守るようにして体制を低くする。

 たとえ腕が折れても回復魔法で治療は可能だから、今はとにかく生き残らなきゃ!!


「ガァァァアアアアアァ」

「っ!!......」


 痛みに耐えるべく、歯を食いしばって固く目をつむる。

 ............あれ? 痛くない? ていうか攻撃してこない?


 いつまでたっても来ない痛みにうっすらとゴブリンのいた方へと視線を向ける......。

 しかし、そこにはさっきまでいたはずのゴブリンが一匹も存在しなかった


「えっ!?」


 状況を理解できずに固まっていると、


 グシャグシャっ


 っと、何か重いものが落ちてきた音が右の方から聞こえてくる。

 反射的に視線を向けると、そこには、全身の骨が折れて身動きのできないゴブリンたちが横たわっており、次の瞬間、それらのゴブリンが一瞬にして霧となって消滅した。


 (誰が助けてくれたの?)


 朝倉君たちの方をみるけど、あたしと一緒で驚いた表情をしている。

 騎士の人たちも同じだ。

 理解不能の状況に立ち尽くしていると、


「ふぅ、うまくいった」


 どこか気の抜けた声で、不二君がこちらにむかって近づいてきていた。


挿絵(By みてみん)


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