4-21 正位置と逆位置
「だから、もしあたしの予想が正しければ、カインたち”大いなる神秘”の構成員は、大アルカナのカードに連なる22人になると思う。小アルカナについては分からないけど、いたとしてもその戦力はカインたちよりは劣ると思うわ」
「へぇ~、ヒナ姉ぇすっごい」
「俺は信じる価値のある情報だと思う。偶然で片付けるには要素が揃いすぎているし」
「私も同意ね。ちなみに、カードの意味とかについても分かったりするのかしら?」
エルザの言葉に陽和はゆっくりと頷く。
「軽くなら。例えば”月”なら、正位置だと嘘、欺瞞、不正直、恐怖とかね」
「まさにじゃねーか」
カインの言動そのままの意味だった。
俺がカインのにやけ顔を思い返しながらはき捨てるようにつぶやくと、陽和も賛同するように頷いた。
「そうね。ただ、向きによってはいい意味になったりもするのよ。”月”の逆位置なら幸福、かわいい嘘、直感、安心とか」
「「「「ないないないない」」」」
俺とエルザはもちろん、愛姫とアルまでそろって片手を振って否定する。
あいつのどこに幸福とか安心の要素があったってんだ。
「それにしても、仮定どおり22人だとすると......多いわね」
「そうだな」
エルザの思案気な言葉に俺も同意する。こちらに現状やつ等とまともに戦える戦力は七聖天のうちガロンを除いた6名しかいない。ということは、戦力的に俺たち転移組のうち約半数がそのレベルに到達しないと戦力てきには不利という計算になる。
ただ、陽和のおかげで先ほどまでとは比較にならないほど敵の勢力についての考察が進んでいる。
その情報がいかに有益なものかは計り知れないものだった。
「他にタロットカードとの関係から推測できることってあるのか?」
「うんうん、ボクも他にどんなカードがあるのか気になる」
「そうね......。はっきりしたことは言えないけど、私は魔王も含めて”大いなる神秘なんだと思うのよね」
「どういうこと? 陽和お姉ちゃん」
「えっと、さっき大アルカナには番号があるって話をしたわよね?」
陽和の確認に俺たちは次々に頷いて先を促した。
「で、その番号なんだけど、1からじゃなくて0から始まるの。私はそれが魔王のことを表してると思う。そして、その0の数字を持つ大アルカナの図柄は......”愚者”」
「”愚者”......」
「もちろんどんな能力かも分からないし、この考え自体が間違ってるかもしれない。ただ、1以下の数字を冠せられた”大いなる神秘”達とは同列に考えないほうがいいと思うわ。それと、ダンジョンでイエナが第2席でカインが第18席って言ってたけど、戦力的な序列が数字を表しているとは思えない。席次はあくまで大アルカナと紐づくものと考えたほうが納得しやすいわね」
陽和の推測はもっともだと俺には感じられた。
もし席次が単純に戦力・能力の差でつけられているのなら、第2席のイエナと第18席のカインの間にはかなりの戦力的な乖離が生まれるはずだ。10人に満たない組織ならまだ分かるが、20人を超える組織の中ではそのような位置づけを採用するとは考え肉い。
「アルの質問だけど、他の図柄だと例えば”星”とか”太陽”、あと”死神”とかもあるわね」
「し、死神......!?」
凄まじく不気味なワードにアルは思わず前のめりになっていた体をぐっと引いてしまう。
確かにそんな奴と正面きって戦うのはご免被りたいと俺でも思ってしまう。
そんな怯えた様子のアルを見て、陽和はなだめるように言葉を継いだ。
「ごめんごめん、怖がらせちゃったわね。確かに怖い名前だけど、”死神”も逆位置ではいい意味にとれるものだから、これだけが飛びぬけて危険ってわけではないと思うわ。もちろん警戒するにこしたことはないけどね」
陽和の言葉にアルはびくびくしながらも先ほどよりは少し安心した様子を見せた。
あぁいってはいるが、もし即死魔法のようなものを使われたりしたらたまったものではないので、留意しておく必要はあるだろう。
「さっき言ったとおり、”愚者”以外の席次のアルカナには戦力的な差はほとんどないと思う。
だけど、一枚だけ特に気になる、ていうか注意したほうがいいと思う奴がいるわ」
先ほどまでの話からすると一見矛盾しているように感じられる言葉に再度視線が陽和に集まった。
「それは、あなたのいった大アルカナの図柄の意味からきている懸念......ということかしら?」
エルザの問いかけに陽和は頷きを返す。
「うん。大アルカナの図柄は正位置と逆位置によって良い意味もしくは悪い意味をもつ。だけど、22枚の大アルカナの中で一枚だけ、正位置と逆位置のどちらも悪い意味しか持たない最悪のカードがあるの。それは......16番目の大アルカナの”塔”よ」
「「............」」
「唯一このカードだけはどちらの向きでも救いがない。”死神”、”悪魔”、”刑死者”、不吉な名前の図柄ももちろん警戒はいるだろうけど、どれが一番怖いかと聞かれれば、私はこの”塔”の席次を持った奴が一番危ないと思う」
ここまでの話はあくまで確定の情報のない、いくつかの要素を元にした推測だ。
だが、この場の誰もそれが根拠のない絵空事だと切り捨てることはできなかった。
全員の心の中に、22人の強大な敵の存在、そして、”塔”という例外的な存在が深く胸に刻み込まれたのだった。