4-20 陽和の推察
ガロンとの会談の翌日。朝食を終えた俺はテレパスで仲間たちに連絡をとった。
内容は、一時間後に俺の部屋に集合。全員二つ返事で了承したのでそのまま愛姫と待つことしばし。やがて約束の時間にいつもの面子が集まった。
部屋にしつらえられたテーブルに全員が腰掛けたところで、エルザがこの召集の意図を尋ねる。
「それで、みんなを部屋に呼び出したのはどんな話があるからなのかしら?」
「話すことは二つ。一つは昨日のガロンさんとの話の内容を共有すること、もうひとつはダンジョンの核の使い道についての相談だな」
エルザたちも俺がガロンと会食したのは知っているし、今後の活動のうえでも話しておいたほうがいいだろう。
俺の言葉に全員が真剣な表情を向けてきたので、俺は昨日ガロンから得た情報を伝えていった。
「ラプラス......」
新たなアルカナの存在を伝えたとき、陽和がぼそりとその名を口にした。
その戦力が七聖天のリーダーであるガイアスと同格ないしはそれ以上ということもあり、改めて奴等の強大な力への認識を胸に刻み込んでいるように見える。それは陽和に限らず、他の全員も同じようだ。
「この国の最高戦力と少なくとも同格ってことは、あたしたちもそこまでいかないといけないってわけね」
「そうなる」
「あたしたちで.......できるのかな」
思わず本音が漏れたようだ。あまりにも立ちふさがる壁は高く、そして険しい。
勝てるのだろうかという不安を抱くのは無理からぬことだろう。見ればアルの表情も不安げだ。
ただ、そういう思考が益をもたらすことは往々にしてない。俺は陽和の顔を見つめながら言葉を継いだ。
「不安になるのは分かる。ただ、それを考えても仕方がない。
負けたら全員仲良く地獄を見るだけなんだ。今考えるべきはできるかできないかじゃない。どうやってその高みまで上り詰めるかだ」
「......そうね。ごめん」
「別に誤らなくていいさ。さっきも言ったけど、そういう気持ちになるのは仕方ないとも思うし」
申し訳なさそうな顔をする陽和をフォローすると、陽和は少しだけ笑みを浮かべてきた。
多少は効果があったかと胸をなでおろしていると、エルザがくすくすと笑い出した。
「どうかしたのか?」
「いえ、イオリも少しは成長したのね~と思って。これまでならあのまま次の話へ進んで、終わった後に私たちでヒナを慰めないといけなかったものだから。少し安心したわ。ほんの少しだけれど」
エルザの言葉にバツの悪い顔を返すことしかできない。褒められてはいるんだろうけど、どうにもけなす成分のほうが多めに含まれているように感じられる。まぁ俺が悪いんだから言い返しようもないんだけどさ。
てかあいつら俺の知らないところでそんなことしてたのか。陽和の方を見ると、こちらも照れと気まずさがないまぜになったような苦笑いを浮かべていた。
「すみませんでした。今後はもう少し気をつけようと思います」
「あら、嫌味のひとつでも返してくるかと思ったのに、ずいぶん大人しいじゃない」
「勝てない戦いは挑まない主義なんで」
そんな他愛のないやりとりもはさみつつガロンとの会談の内容は伝え終わった。
メイドさんに出してもらった飲み物とお菓子を食べてひと段落していたのだが、陽和が何やら考え込んでいる様子に感じられた。
「陽和、どうかしたのか?」
よほど真剣に考え込んでいたのか、俺に話しかけられると肩をびくっと跳ねさせて勢いよくこちらを向く。
「え、ごめん、何ていったの?」
「いや、考え込んでるみたいだったからどうかしたのかって」
「うん......。これまでもひょっとしたらって思ってたんだけど、ラプラスの話も聞いて、多分合ってると思う」
「なにが?」
「敵の戦力構成」
突然の陽和の言葉にその場の全員が固まる。
一瞬にして静まり返った雰囲気に、逆に陽和が面食らってしまったようでぶんぶんと両手を振りながら慌てだした。
「ま、待って、間違ってるかもしれないし!」
「いや、今は少しでも情報がほしいんだ。何か気づいたことがあるなら言ってくれ。正誤の判断は聞いてからで遅くない」
「イオリの言うとおりね。私も聞かせてほしいわ」
「ボクも」
「愛姫も!」
全員から促され、陽和はくるっと視線をめぐらせたあと、自分の考えを口にし始めた。
「気づいたっていうか、文字通りだったからひょっとしてとは思ってたんだけど、ラプラスのことを聞いて多分って感覚になったわ。多分魔王以下の幹部たちは、タロットカードに紐づいているんだと思う」
「.......そうか!」
その言葉を聴いたとき、俺がガロンからラプラスのことを聞いたときに抱いた感覚の理由が分かった気がした。
どこかで聞いたような覚えがあると思っていたが、タロットカードのことだったのだ。
俺が納得したような反応を示したことで、陽和は安心したようにほっと息を吐く。
しかし、他のみんなはきょとんという顔を浮かべていた。
愛姫はこちらの世界の住人だが、まだ小学生だし知らないのも仕方がない。
「タロットカードってなに?」
アルが陽和に問いかける。エルザも右に同じといった様子だ。二人の反応を見る限り、こちらの世界ではあまり知られているものではないらしい。
「えっと、タロットカードっていうのは、あたしたちの世界で占いとかに使われるカードのことよ。やり方はいろいろあるけど、裏向きにしたカードをめくって、そのカードの図柄や向きによってその人の運勢とかを占うの。
で、そのカードのことを”アルカナ”っていうのよ」
「それって......」
「もう少し説明するわね。タロットカードは全部で78枚で構成されてるんだけど、その中でも特に使われる22枚のカードのことを”大アルカナ”っていうの。そして、その図柄のなかには”月”、”女教皇”、そして”戦車”があるわ。ダンジョンの時点であれ? とは思ってたんだけど、ここまで揃うとさすがに偶然とは思えなくなったの。今思えば、図柄に振り分けられた番号とカインたちの席次も一致してるしね」
「詳しいんだな」
「女の子は大体占いが好きな生き物なのよ」
「さいで」
淀みない説明に感心してしまった。
ちなみに俺はお察しのとおり占いには全く興味がないし、欠片も信じたりしない。
朝のニュース番組の星座占いコーナーでch毎に結果が違う時点でおととい来やがれだし、おみくじとかお守りも買わない。
俺の地元には受験の神様が祀られた天満宮があるが、そこの権禰宜(宮司さんと思えばいい)の子供が受験に失敗したという噂を聞いた時点で神などいないと強く信じることができた。あくまで噂である。
俺がそんな益体のないことを考えているうちに、陽和は説明を再開するのだった。