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4-19 新たな名前

「その質問の意図を聞かせてもらってもいいかい?」


 ガロンは俺に探るような眼差しを送ってくる。

 俺はうっかり余計なことを口走らないようにしながら言葉を紡ぎだした。


「旅に出る前の座学でも、魔王たちのことに軽くは触れられはしましたけど、ほとんどは喫緊で戦う可能性のある弱い魔物たちの情報などが中心でした。

 ただ、俺達の最終目標である魔王や、その配下たちの力がどれくらいのものなのかというのが俺は知りたいんです。どの程度の強さに至らないといけないのか、そこが見えないのはしんどいですからね。ゴールの知らされない持久走ほど辛いものはないですから」


 俺の返答を受け、しばらく咀嚼するように間をとったあと、ガロンはふぅっと肩の力を抜いて普段の飄々とした雰囲気に戻ったのだった。


「なるほどね。たしかにそのあたりについてはまだ君たちに触れていなかったね。

 そういった話を持ち出して不安を煽るようなことはしたくなかったんだが、確かにそろそろそのあたりにも踏み込むべきなのかも知れないな。

 ただ、残念ながらこちらもそこまで情報を握っている訳ではないんだよ。これまでの歴史上、魔王と正面きって対立するような事態に出くわしていないものでね」

「分かる範囲で構いません」

「そうか。まず、魔王については本当に未知数だ。

 その姿も、どんな能力を持っているかも不明。魔王がこの国や君たちの世界を滅ぼすべく動き出したというのは、この国の預言者がもたらした情報だからね」

「預言者?」


 俺が怪訝な反応を示すと、ガロンは説明を続ける。


「そういう珍しい恩寵を持つものがいるんだよ。限りなく現実になりうる未来視......とでもいうのかな。

 恩寵では珍しく血脈で受け継がれるものでね、ただ、今日のところは預言者についての詳しい説明は省略させてもらうよ。本筋から外れる上に長くなってしまうからね」

「分かりました」

「ありがとう。ともかく、魔王については謎としか言いようがない。ただ、その配下についてはある程度の情報がある」


 ガロンの言葉に俺は膝に置いた両手をグッと握りしめた。

 そして、ガロンは俺の頭に浮かんでいるワードを口にする。


「魔王の配下の最高戦力、まぁこの国でいえば僕達七聖天のような存在かな。その者たちは”大いなる神秘アルカナ”というらしい」

「”大いなる神秘アルカナ”......」


 カインとイエナの顔を思い浮かべながら、俺はカインの台詞を繰り返して先を促す。

 知らず知らずのうちに心臓の鼓動はドクドクと耳に届いているかのように早く、そして強くなっていた。


「実はガイアスが冒険者時代にアルカナのメンバーの一人とダンジョンで遭遇していてね。戦ったことがあるらしいんだ。名前は確か......ラプラスだったかな?」

「ラプラス......」


 その名前は俺の知らないものだった。

 俺達と同じようにダンジョンでガイアスが出会ったということは、アルカナはひょっとしたら各地のダンジョンとの繋がりが深いのかもしれない。そんなことを考えながら俺はガロンの話の続きを待った。


「ボスの部屋にいたらしくてね、強大なモンスターがいると思ったら背丈のそう変わらない人型が待っていて驚いたと言っていたよ」

「戦いになったんですか?」

「あぁ、それは激しい戦闘だったそうだよ。互いに近接型だったらしくて、丸一日戦い続けたらしい」

「丸一日......」


 アルカナ相手に一日中戦い抜いて生き残ってるってどんだけ化け物なんだよ......。

 俺がガイアスへの認識を新たにしながら続きに耳を傾ける。


「で、最終的にラプラスは戦いに満足してフラっと消えちゃったんだって。ガイアス曰く、『戦車の俺とここまで打ち合える人間がいるとは思わなかった、またいつかどこかでやろう』 そう言って消えていったそうだよ」

「戦車......ですか」


 俺はその言葉に引っ掛かりを覚えていた。

 月、女教皇、戦車、そしてアルカナ。

 それらが関係するものをどこかしらで聞いた覚えがあるのだが、どうにもそれらが結びついてくれない。そういうモヤモヤした感覚が胸をざわつかせていた。

 

「どうかしたかい?」

「いえ......。あのガイアスさんと丸一日戦い続けるなんて、やっぱり相手は相当の化け物なんだなって......」

「違いないね。まだ若くて今ほど熟達していない代わりに、当時のガイアスは技術を吹き飛ばすほどの勢いがあった。そんな彼と互角に渡り合う存在がいるという時点で、この戦いは相当に厳しいものになる。

 加えて、他のアルカナの目撃情報は極めて少ないんだ。信憑性に疑問がつくようなものも多くてね。確実なのはガイアスの実体験くらいかな。他は古来の文献に残っているかもしれないんだけど、それは王族しか閲覧できない禁書庫に蔵置されているからね。僕らでは知りようがない」


 そう言ってガロンはやれやれ、といった様子でため息をつきながら肩をすくめた。

 俺達にまだ明かせない情報もあるだろう。ただ、七聖天筆頭であるガイアスと少なくとも互角という指標が分かっただけでもこれまでの底の知れない状態よりは遥かにマシだ。


「ということは、ガロンさん達は俺達に、七聖天と同格の力をこの2年の間につけさせようとしている、ってことですか?」

「そのつもりだ。ただ、さすがにそこまでは時間が間に合うかは正直分からない。坐して死を待つくらいならと賭けに出て君たちをこの世界に招いたんだしね。

 ただ幸いにも、才能はみんなずば抜けている。それは君たちに宿った恩寵や、これまでの成長の速さが示しているよ。最強クラスの恩寵に膨大な魔力保有量、そして僕達による指導があれば、必ずアルカナを打破しうる戦力に成長してくれると感じてる」


 そういってガロンはにっこりと俺に笑みを向けた。

 その言葉を額面通りに受け取るほど俺は素直じゃない。恐らく七聖天と並ぶ戦力になれる者は限られるだろう。ただ、それに準じる能力を持つものが30名以上いると考えれば、絶望的ながらも不可能ではないと希望的観測を抱ける程度には信じることができた。


「他のアルカナについては先の預言者や隠密部隊を総動員して調査にあたっているから、今後何か進展があったら伝えてあげるね」

「ありがとうございます」

「さて、気づけばこんな時間だ。やれやれ、どうして楽しい時間というのはあっという間に過ぎてしまうのかな。そろそろお開きにしないと」


 ガロンは眉毛をへの字にして不満そうな顔だ。

 中性的な顔立ちと男性にしては低めの身長が相まって、とてもこの国の最高戦力の一翼を担う存在に見えずに思わず口の端が上がってしまうが、ガロンに目ざとく見つかってしまった。


「あっ、今僕のことバカにしたでしょ!」

「そんなことしませんよ。ただ、ガロンさんに骨抜きにされる女性はたくさんいそうだなと思っただけです」

「なんだかなぁ......。確かにファンみたいになってくれる女性はたくさんいるんだけど、そのほとんどが僕のことを可愛いって思ってるらしいんだよねぇ。

 男に生まれたんだからそこはかっこいいって言ってほしいよ」

「誰からも言い寄られないよりはマシですよ」

「おっ、それは持つものの余裕かな?」


 ガロンは反撃の糸口を見つけたとでも言うように目をギラリと光らせた。


「一緒に旅をしてるヒナくんとはどうなったのかね?」

「......別に」

「教えてくれなくたっていいじゃないか。まぁ、いざとなったら”鷹の目”があるんだけどね」

「”鷹の目”を下世話な覗きに使わないでくださいよ......」


 俺がガロンの追及にタジタジになっていると、控えていたコリナさんが助け舟を出してくれた。


「旦那様、そろそろ本当にお時間が......」

「そうだったぁ。命拾いしたね、この続きはまた今度にしよう」

「勘弁してくださいよ」


 そんな軽口を交わした後、お互いにお礼を述べて会食はお開きとなった。

 立ち去るガロンを見送っていると、歩いていたガロンが突然何かを思い出したように振り返った。


「そうだ、ダンジョンの核の使い道は決まったのかな?」

「いえ、まだですけど......」

「そうか、仲間とよく話し合うといい。ただ売り払うのではあまりにもったいないからね。

 強力な道具や武具、防具、他にも......」

「旦那様!」


 最終的にコリナさんに怒られていた。どうやら本気で次の予定が迫ってるらしい。

 ガロンさんはじゃあ、と慌てて言葉をきり、今度こそ振り返ることなく去っていくのだった。

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